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9.愛する華

婚約の一件から2ヶ月が経過した。

ハリス殿下とは1ヶ月に2回、お茶会をしている。

1回目は殿下と。

2回目はリリアンヌを紹介し三人で。

3回目は殿下の幼馴染みだという、ルーカス様をご紹介いただき三人で。

4回目はわたくし、リリアンヌ、殿下、ルーカス様の四人、これまで計4回行った。

婚約を受け入れたと誤解されないよう、お茶会は全て領地のフローレン家か、王都にある別邸べっていの侯爵家にて行われた。

イザベラは国内情勢は一旦据え置き、まずハリス殿下という人間に向き合うことにしたのだ。


(とても博識で、社交界の流行や嗜好品あたりも知ってらしたわね。距離感も絶妙で好感が持てたわ)

まだ年齢は15だが、女性が憧れる理想の男性像そのものだろう。

同じ年頃の女の子なら、あっと言う前に恋に落ちる。

「本当の姿なら、素敵な王子様なのに…」

イザベラはテラスから外を眺めて、ぽつりと呟いた。

(今回は、少し攻めてみましょう)

今日は王都の侯爵家で、殿下と5回目のお茶会をする予定だ。

途中でルーカス様もいらっしゃる。

「お嬢様、殿下がいらっしゃいました!」

「いま行くわ」

イザベラは前を見据えてハリスの元へ向かった。



「殿下、もしわたくしと結婚されたら、私をどうされたいですか?」

「…結婚生活、ということでしょうか?」

「生活…とは異なりますね。私をどう扱いたいか、という意味です」

「扱う、なんて…結婚できたなら、妻として貴女を大切に」

「殿下、どうぞ遠慮なさらず」

にっこり、と私が笑顔を向けると殿下がピシリと固まった。

少しの沈黙の後、ハリスが口を開く。

「敵わないのは、剣だけにしたかったのですが…」

「申し訳ございません。その、いつも遠慮なさっているように感じましたので、素の殿下とお話できたらと思いまして…」

「…わかりました。今後、イザベラ様につくろうのはやめますね」

殿下の空気が変わり、開放されたような笑顔になる。

(良かった。これで心置きなく話せるわ)

「貴女をどうしたいか、でしたね。ぜひ四六時中そばにいて、堪能したいです」

「まあ!情熱的ですね。それだけで宜しいのですか?」

「…可能なら閉じ込めておきたいのですが、イザベラ様は檻がいくつあっても足りなさそうなので、我慢します」

「殿下の私は檻を破壊しているのですね。可能性があるため否定できませんわ…お恥ずかしい」

イザベラが照れて少し赤くなる。

会話の内容はさておき、色っぽかった。

「イザベラ様は王妃になりたいですか?」

「いいえ全く。殿下は国王を目指しておりますか?」

「国王の地位には興味ないですね。イザベラ様と婚約するために必要なら手にします」

「え、待ってどうなってんの?」

合流したルーカスが現れた。

状況が理解できず、普通に引いている。

「ルーカス様、ようこそいらっしゃいました。こちらの席にどうぞ」

「あ、はい、どうも…」

先程まで帰ってしまおうかと思っていたが、こんな美女に勧められたら男として断れまい。

「ルーカス、イザベラ様に正直になることにした」

「急展開だな。早々にお前の仮面が割れるとは…」

「こちらの方がお話しやすいかと思いまして」

うふふ、とイザベラがかろやかに笑う。

ハリスが自分の欲望をイザベラに語るところから聞いていたが、王子様の仮面を外した彼に動揺はしていないようだ。


(まだ表層だからか?なら…)

「あーイザベラ様はハリスの噂って、何か聞いたことありますか?」

「噂ですか?」

ハリスから氷点下の視線がルーカスに飛んでくるが、スルーである。

「死神だとか悪魔とか…」

「そちらでしたら耳したことがございますね」

「どう思いましたか?」

ハリスは口を挟まず、じっとイザベラを見ている。

「可愛らしいたとえだと思いましたわ」

「な、何故?」

彼女はティーカップに手をのばした。

「そのような例えをされた方は、まだ生きておられるのでしょう。実際に身をもって感じた方は既に口が利けず、適した表現がなされなかった、と…」

ティーカップを口元に持ってきて、殿下に顔を向けると目が合った。

イザベラは思わず言葉が途切れてしまう。

(殿下の瞳孔が開いてらっしゃるわ…!)

ハリスはイザベラを凝視していた。

目の瞳孔を開かせて。

獲物を狩る直前のように、イザベラしか見ていない。


見つめ合うこと3秒。

ハリスが、花がほころぶように笑った。

目を細めて、それはそれは嬉しそうに。

そして こちらが溶けるのではないかと思うほど、熱い視線をイザベラに向けている。

(あらー…殿下の後ろに薔薇が見えるわー…)

もちろん、薔薇は幻である。

自身の妄想で見えているのか、見せられているのかは わからないが、薔薇の色は緋色だった。

緋色の薔薇の花言葉は[灼熱の恋]。

「イザベラ様」

「はい」

殿下が口を開いた。

「やはり貴女を閉じ込めておきたくなったのですが、構いませんか」

熱い視線と嬉しそうな顔は変わらず、甘い声を追加の上、問われてしまった。

わたくしはティーカップに口をつけ、元の位置に戻してから答える。


「殿下、先ほど仰ったように私は檻を破壊する可能性があるため、檻が勿体ないです。そして女性は閉じ込めてとどめるより、自身の持てる全てで幸せにした方が、より美しく、より可愛いらしい尊相そんそうを見続けられますわ。そちらをご覧にならないことも勿体ないと思います」


ハリスとルーカスの目が丸くなった。


「また、閉じ込めておきたい気持ちもわかりますが、女性をより輝かせるために敢えて披露することも重要です。己が全身全霊で輝かせたなら、隣で堂々と自慢し、誰にも奪わせなければ良いと思いますわ」


人の愛し方はそれぞれある。

閉じ込める愛もあるだろう、完全に否定はしない。

だがイザベラにとって、女性は例えるなら[華]に近かった。

愛情をもって接すれば瑞々(みずみず)しく輝き大輪を咲かせる場合もある、雑に扱えばしおれて枯れることもある。

そしてより美しく、可憐に咲かせ続ければ新しい一面を魅せてくれるかもしれない。

過去、その命尽きるまで、色褪せても輝いたまま生涯を終えた女性は沢山いただろう。

逆に枯れ果て朽ちた花のように、または燃え盛るように散った女性もいただろう。

そのどれもが尊いとイザベラは想う。


どうでしょうか?と殿下の薔薇に負けないよう、あざやかにイザベラは微笑んだ。

話の対象は自身であることも理解しているが、そんなことより

(女性を慈しむ方法の一つとして、知ってくだされば嬉しいわ)

彼女たちは年齢など関係なく、どんな時も素晴らしく咲き誇る可能性を秘めているのだと伝えたい。

そして女性の数だけ、それはあるとイザベラは信じている。


わたくしは、またティーカップを取ってゆっくりと飲み始めた。



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