勇者の帰還
翌日より、勇者の指示で、魔獣と出くわしても勇者を背負いながら戦い、なんならわざとHPを消費し、さらにMPをHPに変換し、休憩なしで限界まで獣道を進み、MPをHPに変換しては戦い、勇者が良いと言うまでHPを消費した。
夜になるとMPの消費と称して残りのMPで勇者に魅了をかけMPを消費した。
HP・MPともに限界まで使うことによって効率よく伸びるとのことだ。
とは言え、HPが尽きれば死ぬ。弱いとはいえ魔獣の襲撃も心配だ。MPも少なくなれば気持ち悪くなって戦えなくなってしまう。尽きれば昏睡だ。
勇者は勇者のスキルでその限界を見極め、リードに適切な指示をだしていた。
2人は山を超え谷を超え他の魔族に見つかりそうな街道や強い魔物がでるエリアを極力避けつつ進んだため日数はかかってしまったが、なんとか森を抜けた。
「急に森が開けて草原になったな。」
「あぁ、この辺りはもう人族の領域だ。人族は森の木を切り過ぎるからその森は大きくなられず、そのあとははげ山になるか、砂漠になるか、良くて草原になるんだ。」
「そう聞くと人も業が深いな。」
人族の領域までくればこれといった魔獣も出なかった。
人族の村の近くの小さな森までたどり着き、最後の野営でリードは聞いた。
「そう言えば、お前の名前を聞いてなかった」
「私の名前を聞いてどうする?まぁいい、お前は命の恩人だ。私はセシリアだ。」
「ありがとう、セシリア。お前のおかげで少しは強くなれた気がする。」
「そうか。次期魔王が決まる日にはまだまだ日がある。毎日鍛錬を積めばもっと強くなる。
勇者である私が、次期魔王になろうとするお前を鍛えたのも変な話だがな…私は勇者失格だ…」
二人の間に沈黙が流れる。
「最後に…こんな手も足も動かない醜い女でよければ抱いてくれないか?」
ステータスを確認し1回分のMPが残っていることを確認すると、リードは優しくセシリアに接吻する。
「おまえの口づけはなにかいいな。初めての口づけだが優しい味がする。」
水浴びの際に見慣れたはずの勇者の裸体に、リードは止まらなった。
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そして翌朝、
「お前のおかげで人族の領域まで帰ってこれた。
これまでのコネや名声を使って聖女のもとまでたどり着ければ、腕と足の骨は元通りにくっつく。
また元のように戦うことは無理だろうがな。」
リードは、寂しそうにつぶやくセシリアを村へと続く街道の脇におろした。
遠く商人の馬車らしきものが見えたためリードは「じゃあな」とセシリアに簡単に別れを告げた。
そして離れたところからセシリアが商人に助けられるのを見届け、リードは魔王城へ帰っていた。
セシリアさん、無事に聖女のもとにたどり着けるといいですね。