旅路
次に勇者が目を覚ました時はリードの背だった。
リードの着ていた上着や、蔦、その辺の木の枝で作られた簡易な背負子に縛り付けられた状態だった。
「ど、どこに連れていく。ま、魔王城からは離れているようだが?」
「騎竜が使えればすぐなんだが、騎竜を使うとバレてしまうからしばらく我慢してくれ。近くの人族の村まで連れて行ってやる。」
魔族から見つからないように街道から離れた獣道を進み、さらに強い魔獣が出るエリアを避けつつ進む。
魔獣が現れたら勇者を一旦降ろし、刃のかけた剣で戦いまた背負って進む。
「ホーンラビット程度ならいい晩飯だ。」
川を見つけては水浴びし汗を流す。当然手足の動かない勇者の体もリードが洗い流す。
鍛え抜かれたはずの勇者の柔肌にも当然触れるわけだが、あくまで紳士的にそして事務的に処理する。
「恥ずかしがられるとこちらまで照れくさくなる。」
「お、おう。すまぬ。」
野営では朝近くまでリードが寝ずの番をする。
明け方になって、火を絶やさないようにまきを十分にくべた後、勇者になにかあれば大声で起こすように伝えリードは少しだけ眠る。
何度目かの野営の際、勇者はリードに聞いた。
「なぜ私を助けた?」
「なぜだろうな?あえて言えば鍛錬のためだ。鍛錬すれば新しいスキルが身に付くかもしれない。」
リードは次期魔王選出の話を語り、己に戦闘スキルが無いこと、戦闘スキルを持つ弟はろくでもない奴であることを語った。
「スキルは生まれ持ってのものだ。既に持っているスキルのレベルが上がることはあるが、鍛錬で新しいスキルが身に付くという話は聞いた事がないな。」
リードが気を落としながらつぶやく「そうか」
「気を落とすな。私は勇者のスキルを持っている。それなのになぜ魔王に負けたと思う?」
「わからん。俺が駆けつけたときはお前が逃げた後だった。」
「HPやMPといった基本ステータスの差だよ。いくら優秀なスキルを持っていても基本ステータスの圧倒的な差までは覆せない。
私の基本ステータスはまだまだ魔王と戦うには足りなかったということだ。それで大事な仲間を失った。ふっ。」
勇者が自虐的に笑う。
「魔族の年齢は私には見た目では解らないが、お前はまだ成人してないのだろ?基本ステータスは幼児期に大幅に伸び、成人するとほとんど伸びなくなる。お前もまだ成人していないのであれば、まだまだ伸びる可能性はある。」
「しかし…」
「私が効率の良い鍛え方を教えてやる。それよりも王子が城から居なくなって大騒ぎにならないのか?」
「父上は放任主義だし、その他の魔族の者たちも俺が少し居なくなった程度では誰も心配しないさ。
そもそも魔族と人族では時間の感覚も違うしな。」
一瞬、アリッサのことが頭をよぎるが、彼女にしてもたいして気にしない程度の期間で戻ることができるだろう。
アリッサ「リードったら鍛錬に行ってくるって言って帰ってこないわね。どっかでホーンラビットにでも襲われて野垂れ死んでるじゃないかしら?」