運転手
ある日、中学生の男の子の家庭教師の仕事を終え二階の子供部屋から階段を降りたところで男の子の父親から呼び止められる。
「亮太君、ちょっと時間はあるかい?」
両親の運転手だった人だ。
今日の家庭教師はこれで最後だ。
3人とまぐわう時間が減るがその他に断る理由もないので、彼の招きでリビングの席に座る。
「すまなかった。私一人助かってしまって。そして謝るのが遅くなってしまって。」
そっと一息つく。
「君の両親は俺の学友であり恩人でもあるんだ。君の両親は大学の同級生でね。君の父さんは優秀だったから同級生だっていっても雲泥の差だったがね。
私は就職活動に失敗してね、なかなか就職先が決まらなかったんだ。時は就職氷河期だ。大学の名前だけでは雇ってもらえない。就職浪人しても決まらない。ある時ね、彼が声をかけてくれたんだ。当時、彼は先代より会社を継いで会社を大きくしいてね、人手が足りないから来ないかってね。
でもね、新しいビジネスに次々とチャレンジする会社に私はついていけなくて居場所が無くてね。次々と部署をたらいまわしにされてたんだ。もちろん頑張って勉強したさ。でもね無理だったんだ。
彼、いや社長と呼ぼう。社長は、どの部署からもはじき出された私を秘書課に配属して専属の運転手にした。私はがんばったよ。毎日社長のスケジュールを確認してね、時間のある時に車の整備や点検を学んでね。毎朝朝一番に出社して、一通りの点検をして、車をピカピカに磨くんだ。
あの日も一通り点検してから社長達を迎えに行ったんだ…それまでは何ともなかったんだ。急にブレーキが効かなくなって…
でも、言い訳になるけど、よりによってブレーキの整備不良だなんてありえないんだ…」
一気に話し終えると悔しそうに拳を握った。
あの時の刑事はブレーキの整備不良だと言っていた。
さすがにそれなりの調査をした上でのことだろう。が、何かひっかかる。
「話してくださってありがとうございます。おじさんが悪いわけではないです。気にしないでください。
ちなみに、うちに迎えに来た時はすぐ出発しましたか?」
「いや、たしかあの時は、奥様が準備ができてないとかで、駐車場に停めた車で待とうとしたのですが、家政婦の方が時間がかかりそうとのことで家の中で待つように言われて。
そうは言ってもいち運転手がお宅に上がり込むのもどうかと思ってたんだが、あの家政婦さん美人だろ、つい玄関まで入り込んでしまって、玄関で家政婦の方が出してくださったお茶を飲んでお待ちしたんだ。
たぶん、30分くらいだったんじゃないかな。」
家政婦と呼んでいるのは美恵さんのことだろう。
無条件で白にするわけにはいかないが、美恵さんが車に細工したというのはありえない。
美恵さんはビデオ録画の予約もまともにできない機械音痴だ。それもコンビニバイトでレジを操作できてるのが不思議なくらいの機械音痴だ。
それにそもそも動機がない。それまでより条件のいい家政婦の仕事がそうそう見つかるとは思えない。
ふと、我が家の防犯カメラは父のゴルフ友達の警備会社の機械だったことを思い出した。
家の防犯カメラなら何か映ってるのではないだろうか。
ここ、文字が詰まってしまって読みにくいですよね。
でも一気に語ってる雰囲気が欲しかったのでここだけ許してください。