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第二章 二十六




 美神光葉に〈ゼノン〉を顕現するまでの魔力を流し込まれたことにより、体内で拒絶反応が起こした。四日程前にシルベットの血液を流し込まれ、半亜人化していたこともあり、魔力耐性は出来ていたものの、魔力だけを与えたことによって、一時的に意識を失ってしまった翼は、誰かが呼ぶ声に目を覚ました。


《おきてください、つばさくん》


 女性の声だった。大人で魅力的な声質なのだが、どこか舌足らずで幼い女の子を思わせる言葉遣いの声に、翼は瞼を開いた。


 白いロングワンピースを纏った美しい女性がいた。まず目に入ったのは、絹のように細く白い長髪だ。髪は、翼の頬をくすぐり、柔らかく撫でる。美しい清らか顔立ちからは純粋な微笑みが溢れていた。安堵したかのような色を湛えた瞳で翼を見下ろしている。


「ん? ……………君は?」


《わたし? わたしはアリエルだよ。“このせかいせん”では、はじめましてだねつばさくん》


「え? ……ん? ど、どういうこと……?」


 翼は戸惑った。まるでどこかの世界では会ったことがあるようなアリエルと名乗った女性の言葉に首を傾げる。覚醒したばかりの頭が働かせて思い出しても、彼女と会った記憶はない。


《いいまちがいじゃないからね……まえに、会ったことがあるもん!》


 眉間に皺を刻み込み、頬を膨らませた。不機嫌な顔に歪めたアリエルと名乗った女性に戸惑っていると、声をかけられた。それは、翼に向けてではなく、アリエルにかけられたものである。


『アリエル。あちらの世界線の出来事はツバサは知らない。いや、知り得ないことだ。それを言ったところで、言い間違いだと捉えたかとしても仕方ない。ツバサ一人を責めるのは小門違いだ』


 中低域が特徴的なバリトンボイスの声が頭の中ではなく、聴覚を通して聴こえた。これまで、夢の中や頭の中に響いていた声がして、思わず声がした方を振り向く。


 そこには──大剣が浮かんでいた。台があり、テレビがあり、ソファーがある。使い慣れた家具群が置かれたフローリングから五十ミリメートルほどのところで漂っている龍を模したかのような大きな大剣。鍔には龍の頭部があり、眼球はルビーのように真っ赤に染まっている。その眼球を翼たちに向けている。爬虫類顔でわからづらいにも関わらず、翼は苦笑いを浮かべていると瞬時に理解した。


 それを含めた上で戸惑っていると、少し起き上がった翼へと剣は視線を向けると、優しげな微笑みを湛える。


『五年ぶりだな、相棒』


 剣の口から吐いた言語は日本語だった。完璧で流暢な日本語を紡ぐのは、低めで渋いダンディな声音である。夢の中や頭の中で出てきた大男が発したものであり、声の持ち主である剣の形状は、五年前の夏の記憶で見た龍のキーホルダーと同じ形状をしている。


「……も、もしかして……、だけど…………あの時の?」


『ああ。あの時の小さな剣は間違いなく、オレだ。いろいろと巻き込んでしまい、申し訳ない』


 ギシギシと金属音を響かせて、鍔の装飾である龍の頭を下に向けて、〈ゼノン〉は謝罪する。謝罪して、申し訳なさそうに口を開く。


『これ以上、ツバサを巻き込みたくないのは山々だが、どっかの誰かさんがどうしても巻き込みたいようなんだ。オレがこれ以上、巻き込まれないように離れたとしても、状況は変わらないところか、悪化してしまう…………』


 〈ゼノン〉は目を付せて、少しだけ表情に迷いの色が浮かんだのを清神翼は感じ取った。その迷いの意味を待つ。その答えは、ほんの少しの間を空けて出された。


『それを奪回するには戦うしかない。戦うしか大切な者を護れないところまで来てしまった』


「えっ……!?」


『勿論、ツバサは人間界で生まれた人間だ。しかも反戦国家である日本で育っている。戦いや武力では何も生まないことを教えられている。そのとおりだろう。オレもそう思う。オレは戦争は嫌いだ。生剣であり武器であるオレは、戦争を嫌いだということについて色々と言いたいことはあるだろうし、ツバサに戦争をやらせようとしているこの状況についても、理解に苦しむところだろう。それほどまでに、オレたちを追いつめようとしている状況であることだけはわかってもらいたい』


「……そ、それはつまり────」


「要は、戦争は嫌いでやりたくないし、させたくないんだけど……いろいろとあって追いつめられようとしているから不甲斐無いが、ここはオレと戦わないか、ということですね……」


 清神翼の言葉を〈ゼノン〉の横にいた美神光葉は遮って、言おうとしたことを先に口にした。それに〈ゼノン〉は躯ごと振り返り睨みつける。


『誰のせいだ誰の……』


「私は、アリエルさんから頼まれただけですし、私のせいじゃありません。そもそも、私は〈ゼノン〉を見つけても見つからなくとも【創世敬団ジェネシス】に隠れて、ラスノマスが狙っていた人間の少年少女たちを保護していたことを忘れなく」


 〈ゼノン〉に睨まれて肩を竦める美神光葉。そんな彼女にすかさず〈ゼノン〉は返す。


『オレの記憶違いじゃなければ、ツバサが襲われた時に助けに来なかったようだがな……』


「……そうね。それは申し訳なかったと思います」


『言い方が軽いな』


「仕方ないでしょう。疑い深いラスノマスから少しでも不審に思われないように細心の注意を払って、人間の子供たちを保護するのは難儀なことなのよ」


『その割りには、バレたな。多重スパイのくせに』


「翼さんの時には、これまでの捕縛してきたはずの人間たちを匿うにあたり、ラスノマスから少しばかり怪しまれていましたからね。下手に動けなか────ッ!?」


 美神光葉は何かに気づき、〈ゼノン〉に向けての言葉を止めてある方向へ振り向いた。〈ゼノン〉やアリエルも同じ方向に視線を向ける。翼も彼女らに倣って、その方角──庭先に面したベランダへと視線を向けた。


「…………ッ」


 清神翼は眉根を寄せて、息を詰まらせた。


 そこにいたのは、細身ながらも引き締まった体躯をした男性である。夏にも拘わらず、肩からハーフサイズのマントを引っかけて、ダークスーツに着ている。美男子と言って差し支えないが端正な顔立ちは、欧米人のようだが、目つきが鋭く、相手を怯ませる人相だ。


 特徴的な真珠色の短髪が目を引く彼は音もなく忽然と顕れて、清神家に上がり込んでいる。一体どのようにして、家の中に上がり込んだのか。清神翼たちは幽霊のように忽然と出現した男性に注視する。


「くだらない話で諍いを起こし、時間を浪費するではないよ…………。せっかく、面白い余興を用意したというのに、盛り下がるじゃないか」


 男性が口にしたのは、〈ゼノン〉と変わらない流暢な日本語だ。紡がれた声音は気怠げでありながらも、少しばかりか苛立ちを含んでいる。


『そいつぁ悪いことしたなぁ……だが、こちらとしては勝手に人ン家に土足で上がり込んでいるオマエと比較したら可愛いもんだろ』


 苛立つ男性に対して挑発する〈ゼノン〉。そんな彼に対して男性は、威圧感がある鋭い視線で一瞥した。


「この世界の、この国での習慣を私に押しつけても意味はない。むしろ、あらゆる世界線のルールなど私には無意味だと教えておこう。それよりも私が家に上がり込んだことを誇ればいい」


『随分と上から目線だなおい……』


 横柄な態度で〈ゼノン〉に問う男性に彼は嫌悪感を露にする。


「当たり前だろ。上なんだから。それよりも、さっさと戦場に赴いて、戦ったらどうだ〈ゼノン〉?」


 悪びれる様子を一切なくしてから〈ゼノン〉に問う男性。そんな男性の横柄な態度に、〈ゼノン〉はこれ以上何を言っても態度の改善はないことを見切りを早々とつける。


『ああそうかよ…………。じゃあ、そんなお偉いさんに質問だ……』


「なんだ腐敗した鈍刀よ」


『…………』


 男性の言葉に〈ゼノン〉は込み上げてきた怒りを奥歯を噛みしめて堪える。


 何とか怒りを抑え込んでから質問した。


『……ンじゃ、質問だ。オマエは何者なんだ?』


「何者か……。それはその、アリエルが知っている。彼女からまだ訊いていなかったのか? ちゃんと、訊いているぞ鈍刀。“ルイン・ラルゴルス・リユニオン”と…………」


『ほう。オマエがルイン・ラルゴルス・リユニオンか……。前見た時とは姿が変わっているようだが……』


「私には固定する姿形はない。いつでも好きなように姿を変えられるのだ。忘れたのか、〈ゼノン〉──ゼノン・パトリオティス。貴様らのような低俗な生物のように一生同じ姿形をしていると思うのか」


『ああ。そうだったな……』


 〈ゼノン〉は奥歯を噛みしめる。


 躯が剣のために、手で握りしめて我慢が出来ないため、奥歯をガチガチと金属音を響かせて沸き上がる怒りを抑え込む。もし自分の躯が剣ではなく人型のままだったら、ルイン・ラルゴルス・リユニオンと名乗った男性を突発的に殴り飛ばしていたかもしれない。そのくらいの憤怒だ。


 何とか落ち着かせながら、ルイン・ラルゴルス・リユニオンの言葉に耳を傾ける。


「そうだ。私には幾つかの名はあるが、あらゆる世界線に存在する国々でもっとも多く呼ばれているのは、“ルイン・ラルゴルス・リユニオン”である」


『神界にいる連中は、一人に対して、複数の名を持っているだなんて多いからな。珍しくはないな。オマエもその口か?』


「ああ。複数にある名でもっとも呼ばれているのが“ルイン・ラルゴルス・リユニオン”である。人間界では………………」


 ふうむ、と顎に手を当ててルイン・ラルゴルス・リユニオンは考え込んだ。


「この人間界では、国によって様々な名を与えられて統一性はなかったな。神話では、私のしたことが他の神がやっていたこともあった。だから、これだというものはない。ここは一つ、私だと誇示するために名を告げよう」


『いちいち変えられたり、増やされても困るんだがな……』


 〈ゼノン〉の迷惑そうな声音で言うが、ルイン・ラルゴルス・リユニオンという男性は勝手に名前を考えはじめる。時間にして、三分の間を黙考してから口を開く。


「ルイン・ラルゴルス・リユニオンでは長く、低脳な人間らには難しいのだろう。ルインという名だけでも覚えてもらおうか清神翼」


「えっ、あ……はい」


 針のように鋭く細い目を向けられて不意に名前を呼ばれて、翼は戸惑いながらも返事をした。


 返事したことを確認すると、ニヤリと口を三日月のように歪めて微笑む。


「君は、この状況を打破する鍵だ。〈ゼノン〉と共に力を合わせて世界を救い、私を楽しませてくれ」


『ツバサ! そいつには耳を貸すなっ』


 アリエルが〈ゼノン〉を持って、すかさず翼とルイン・ラルゴルス・リユニオンの間に割って入る。二人に睨まれてもなお、ルイン・ラルゴルス・リユニオンは翼から離れようとはしない。それどころか、一歩近づいてくる。見透かしたかのような目で微笑む彼に、いつの間にか翼は視線を外せなくなっていた。


「大切な者を護るために力を得て、私の胸を踊らせる闇を討つような冒険譚が見たいのだよ」


「え……」


 清神翼は、ルイン・ラルゴルス・リユニオンの言っていることが理解できず、声を漏らした。美神光葉もルイン・ラルゴルス・リユニオンが口にした言葉の意図を理解できずに首を傾げた。何らかの事情を知る〈ゼノン〉やアリエルだけは、大仰に身振り手振りを加えながら、大根役者よろしく演説するルイン・ラルゴルス・リユニオンを敵意を剥き出しに睨みつける。


「どの世界線も戦争ばかりを起こしている。しかも、余興として見る価値も無い、実にくだらないものだ。もう少し、手を加えた戦争を考えてほしい。そこで、だ──戦争というものを神聖なもの”として、欲深き低俗な生き物が容易に実行できないようにしたいのだよ」


『とどのつまり、要は神が介入できない戦争は醜くって愚かだから、神──自分が介入した戦争を起こしたいということだな』


「フフフ……」


 〈ゼノン〉の言葉にルイン・ラルゴルス・リユニオンは微笑みで返す。


「ゼノンの言う通りだよ。我々が介入すれば、余興として見飽きることはない。つまらなくなったら、面白いように作り変えればいいんだから」


『それでどんだけの生物が死ぬと思っているんだこの殺戮神がぁ!』


 ゲームのルールを説明する気安さで残酷なことを口にしたルイン・ラルゴルス・リユニオンを〈ゼノン〉は殺戮神と罵る。


『神が本格的に介入したら、脆弱な生物は死滅するんだぞ。しかも一つの世界だけではなく、全ての世界線を巻き込んで。そんな無慈悲が赦されるとは思っているのかぁ!』


「少なくとも、他の神は赦さないだろうね。神の殆どが放任主義者だ。どの世界線に対しても一定の距離を保ちつつ、時に教示している。お互いに本格的な介入しないことにより、自立性を養わせようとしているのが神界の役割であるが、私はそれを壊してやろうと考えているのだよ」


『そんな暴挙を見過ごすとでも……』


「全力で阻止するだろうね。だからこそ、此処は一役買ってもらいたいのだよ清神翼」


「…………」


 ルイン・ラルゴルス・リユニオンは清神翼を微笑みを浮かべてかなりの高い位置から見下ろす。名指しされたが答えずに恐る恐ると下から見上げる翼。ルイン・ラルゴルス・リユニオンの欲しいオモチャを目の前にしているかのような微笑みは、不気味であり不快。向けられて気持ちのいいものではない。


 名前を呼んだのに返事をしてくれない清神翼をルイン・ラルゴルス・リユニオンはとても残念そうに首を横に振る。


「返事をしてくれないとはつれないじゃないか……、こちらは“君の願い”を叶えようともしているのだから、少しは感謝してもらいたいというのに」


「え……そんなことを願った覚えはないんだけど…………」


 ルイン・ラルゴルス・リユニオンが口にした“君の願い”という言葉に驚いた。清神翼は現在覚えている限り、神が介入する世界線戦を願った記憶はない。


「少なくとも初詣で神社に行った際も家内安全、学業成就、無病息災、病気平癒、身体健康、交通安全、心願成就、諸災消除といったありふれた願い事しかしていないですし。年始めに世界線戦を懇願するといった縁起の悪いことをしませんが」


 平穏無事に過ごせたことに対して感謝してからですし、誰かの間違いではないですか、と清神翼は付け加えた。その前に最近、世界線の存在を知ったので当然である。


 それにルイン・ラルゴルス・リユニオンは頷く。


「ああ。初詣の時に君が願うことは実にありふれた感謝と願い事ばかりだった────だが、君は願っていたのだよ」


「え」


 見覚えのない清神翼に、ルイン・ラルゴルス・リユニオンは人指し、中指、薬指を立てて言う。


「現世では少なくとも三回は、“冒険がしたい”、“英雄になりたい”、“誰かを助けるためだけの力が欲しい”と願っているのだよ」


「三回……」


 三回、と聞いて清神翼は心当たりを探す。ざっと思い出したのは、かなり幼い頃に願った記憶はあるが、それは世界線戦を起こす切っ掛けになるとは到底思えないし、アニメや特撮などでヒーローやヒロインに憧れる子供ならば誰しも願うものだ。清神翼だけが当事者になれるとは到底思えない。


 そんな疑問をルイン・ラルゴルス・リユニオンはほくそ笑んで答える。


「君が願ったものは、幼子が当然のように願うありふれた願いだ。それ事態は、他の人間たちとは大差はない。理由は他にある。私にはあらゆる世界線の過去、現在、未来を視ることができる。その能力を〈予視〉と呼ぼう。三千年前から未来を〈予視〉し、適任者を探していた。その中で、君が奇数な人生を歩むことを視たのだ」


「奇数な人生?」


「奇数な人生とは、偶然にも異世界人である少女──シルベットと出会う光景が見えたのだ。君とシルベットは私が手を加えるよりも前に決められた邂逅なのだよ。ただ当初は、もう少しマイルドな邂逅であったことだけは教えておこう。私がもう少しスパイスを利かせ、面白くさせたいだけだが」


『そいつぁどういうことだぁ?』


「そのままの意味だ。清神翼の魂は、約三回生まれ変わっている。そのほとんどが味気ない人生であった。他の人間たちと比べれば刺激があるものには違いないがね。私にとっては、もう少し刺激がある方が面白いんじゃないかと感じるような人生だった。そんな彼の魂は生まれ変わる度に、刺激がある人生を願っていたのもあり、願いを叶えることにしたのさ」


『ほう。つまり神という権限を使ってツバサの人生を狂わせたのか』


 いい性格してんなおい……と、〈ゼノン〉はルイン・ラルゴルス・リユニオンを軽蔑するような目で見据えた。そんな視線をルイン・ラルゴルス・リユニオンはハエでも払うかのように手をヒラヒラと振る。


「言葉が悪いね…………。願い通りに私はしただけだ。世界を助けるためだけの力を授け、世界の境界を渡る冒険をできるようにさせて、英雄にさせようとしているのだからね。憎まれることはしてないと思うがね」


『オマエは願いを叶えたいだけじゃねぇよ。ただ単に、願いを叶えるという名目で狂わせて楽しみたいだけだっ!』


「そうとも言うね。認めるよ。私は刺激を求めて、世界線戦を始めようとしている。それには犠牲が付き物だ。犠牲者たる世界線戦の中心人物を探すにあたり、二つの世界の住人たち──清神翼とシルベットの邂逅に着目した。彼等なら世界線戦に巻き込まれても、翻弄されずに愛を育み、世界を救うといった私好みの物語を見せてくれるだろうとね。そのための下準備もさせたのだからな」


 ルイン・ラルゴルス・リユニオンは嗤う。


「清神翼は、魔力がない人間にも拘わらず、怖れずに大切な者を護ろうと一生懸命になれる男性だ。そこにシルベットは惚れることになる」


「えっ」


『あ゛ぁ』


「…………」


 ルイン・ラルゴルス・リユニオンの言葉に翼は驚きの声を漏らし、〈ゼノン〉は威嚇するかのように声を上げた。美神光葉とアリエルは訝しげに顔を向ける。


「最初に言っとくけど、私が決めたわけではないから、それに関してはノータッチさ。ただ私から見ても、性格には難があるが、シルベットは君の恋の相手にぴったりだと思うよ。彼女は、ちゃんと誰かが教えてあげれば素直に聞き入れる。エクレールとは諍いを起こすが、心の中ではお互いに認め合おうとしている段階だ。二人は言葉遣いはどうであれ、思いやる心があるのだよ。彼女は、大切な者が出来れば、その人のために生命を賭けてまで戦うことができる。世界のために戦い、生命を捨てる覚悟で世界線戦を戦い抜くことができるだろう。あれでも周囲に敏感で、直観力は高く、防衛反応とかが強いからね。それでいて、恋愛になるとお淑やかで奥ゆかしさだったりするギャップもある。不馴れな恋愛に暴走してしまうこともあるといった一面がある人間界──日本でいうところの女武士と大和撫子をない交ぜにしたような性格だ。翼もいずれ彼女がどこか放っておけなくなるだろう。これは運命付けられているからね。仕方ない」


『お前は、二人の恋を世界線戦の材料にさせたいんだろうが…………』


「いい要素であることは認めよう。シルベットの天性の戦闘能力はかなりのものだ。まだまだ伸びるだろう。それは清神翼も同じだ」


「えっ俺も……」


「ああ。勿論、そのままではシルベットと同等の戦闘能力には届かない。それには〈ゼノン〉の手助けが必要だ。先日の戦いによりシルベットの血液により魔力を受け付ける体勢はある程度付けただろう。それにより、多少の魔力でも取り込めるようになった。使いこなせるようになるまではまだもう少し修行が必要だろうがね。戦うことにより、戦闘スキルはシルベット程ではないが上がりやすく、少しずつ大量の魔力を得ることにも繋がる。そうして二人はお互いに足りないものを補いながら成長していく。そして──決戦までに数々の試練を乗り越え、苦楽を共にしていく内に愛も芽生えていき、最終決戦で決着を付ける。お決まりでありふれた英雄譚だが、私が一つ手を加えれば、面白くなると思わないか?」


『オレには、普通に面白い話を手を加え過ぎて、駄作になる未来にしか見えないがな……。第一に何もしなかったら、英雄でなくっても、五年前から普通に付き合っていたんだよ。余計なことをしやがってぇ…………』


「それは玉藻前や水無月龍臣にでも言ってくれ。彼等は清神翼とシルベットをどうしても世界線戦に参加させたくなかったようでね。清神翼の高い正義感を玉藻前に抑えられてしまい、今ではシルベットが恋に落ちるにはまだ足りない腑抜けになってしまっているのだから」


『それは二人の恋愛を自分が楽しむだけに世界線戦というはた迷惑なことをするのを阻止するためだろうがっ』


「仕方ないと諦めてくれ。二人はこの世界線戦で恋に落ちる。私好みの物語を見せてくれるだろう。恋に落ちることは既に定められたことであって、その修正だ。神が決めたことは止めることは出来ない。諦めろゼノン・パトリオティス」


『く──』


 ガチャガチャと金属音を響かせて悔しげに奥歯を噛みしめる生剣──ゼノン・パトリオティス。


 勝ち誇ったかのように微笑むルイン・ラルゴルス・リユニオンに、清神翼は手を上げる。


「質問いいですか?」


「何だね。世界線戦を拒否する提案する以外は受け付けよう」


「わかりました」


 清神翼は頷くと質問をルイン・ラルゴルス・リユニオンにした。


「シルベットと俺が恋に落ちることは既定路線だったとわかりました。それは決めたのは他にいるようなことを言ってようですが、誰ですか?」


「いい質問だね。それは、各界の恋愛と縁結びを司る神じゃないか。詳しいことは知らないが近いうちに大きな変革が起こるからと異世界の男女をくっつけているようだよ」


『とどのつまり、近いうちに何らかの異変があって、全てはかなり前から仕組まれていたということか……』


 〈ゼノン〉は悔しげに歯を噛みしめる。


「少しの誤算もあったけど、清神翼は適格者だ。玉藻前に術をかけられていて、腑抜けではあるが君ほどの適格者はいない」


「図々しいと思いますが、もう一つ質問いいですか?」


「いいよ。答えることで君の気が済むならね」


「気が済むかどうかはわかりませんが、一体俺とシルベットの何を買って、その……世界線戦の中心人物にしょうと考えたんですか?」


「それは、二人の相性だね」


「相性?」


「そう相性さ。いろいろとあって、相性がいいとは感じないと思うが、君たちの相性は抜群にいいんだ。あの恋愛と縁結びを司る神から認められるくらいにね。異種間交流で繋ぐには一番さ。腐った奴等が跋扈している世の中で、影響を差ほど受けずに珍しくも純粋な魂だと思うよ」


「いろいろと買っていて有り難いけど、俺は自分のことを純粋だと思わないですけど…………」


「謙遜でいいね。──では、これから私はシルベットの前で開戦を宣言しなければならないんでね。また会おう英雄くん」


 不穏なことを口にしてルイン・ラルゴルス・リユニオンは光となって、跡形もなく消えた。




「これは…………もう、戻れないところまで来ているみたいですねゴーシュ…………」







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