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第二章 六十八




 巨大すぎる何かが森の中からもぞもぞと蠢動しながら迫り出してくる。それは周囲にある森を飲み込み、山や谷を越えてもなお、大きくなっていく。周辺を飲み込んでいくそれは躯が動く度に風は巻き起こされて、辺りに暴風が渦巻いている。これでは、接近することは難しい。シルベットは大きくなるそれが何なのかを確かめるためにも様子を窺うことにした。


「あれは……何だ?」


「あれは、ブラスフェミーだ」


 先に正体に気づいたスサノオがシルベットの疑問に答える。


「ブラスフェミーとは、冒涜という意味だ。ルイン・ラルゴルス・リユニオンは創造と破滅の二面性を持つ神だ。故に、世界を破壊に導く場合、姿をそれに相応しい姿へと変える。破壊神として世界に対して、これまでの常識や固定観念だけではなく、神聖なもの、清純なものさえも穢し、壊していき、世界を構築させていくという彼なりの意思表示だ。つまり、ルイン・ラルゴルス・リユニオンは神界に対して宣戦布告を現したということだ。それは全神に対しての冒涜だ」


「冒涜、ですか……。わざわざ、そんなことをせずとも、宣戦布告なら既にしてますわよ……。そんな何度も戦争を散らかすだなんて、意地でも戦いたいようですわよ銀ピカ」


 ジト目をシルベットに向けるエクレール。シルベットはエクレールの視線に気づいたが、不愉快げに眉間に皺を寄せながら、スサノオがブラスフェミーと呼んだ巨大生物に向けたまま、目を合わせない。


「まどろっこしいな……。まあ巨大化した分、的は大きいし、攻撃も当たりやすいだろうな」


 シルベットは剣を構えて攻撃体勢を取る。それを制止したのはヤマトタケルだ。


「早まるな。巨大化した分は的が当たりやすいのは確かだが、破壊神となったルイン・ラルゴルス・リユニオンは、攻撃も防御も上がっている。神力を少しだけ帯びた貴様では敵わない」


「では、どうするんだ?」


「恐らく彼奴のことだ。突破口をわざわざ開けているに違いない」


「容赦はありますのね……」


「ああ。ルインの目的を考えれば、特定の相手が通れるほどの隙間は空いているだろうな」


「ですわよ、銀ピカ」


 またしても、ジト目をシルベットに向けるエクレール。それにシルベットは更に不愉快げに眉間に皺を寄せる。


「さっきから何だ貴様は……。いちいち私の方に視線を向けおって」


「別に。あなたは、アレに気に入れられて、勝手にヤラセの英雄になられた被害者ですから、さぞかし大変ですわね、と思っただけですわ」


「英雄に選ばれたかったのか貴様は……」


「いえ。富、名声、力は自分の力で手にした方がいいのですわよ。あらかじめ英雄になると仕組まれて、茶番劇のように戦って得たものなど、すぐに壊れてしまう紛い物ですわ。そんなものわたくしは欲しくはありません。ホンモノが欲しいですわ」


「貴様の言うところはごもっともだが、貴様が口にすると釈然としない。むしろ、腹が立つな……」


「あら、そう。なら、もっと言って差し上げますわよ」


 不快指数を上げていくのが表情を見ても明らかなシルベットに、遠慮なくエクレールは言う。


「ですから、ニセモノはホンモノになるように努力なさい」


「では、貴様は選ばれなかったことを後悔させるように努力しろ」


「そのつもりですわよ」


 エクレールは風を煽われた髪を手で払って毅然と言って微笑んだ。彼女は、ルイン・ラルゴルス・リユニオンの鼻をあかすために戦う意志を示す。


 シルベットと同じくらいに負けず嫌いのエクレールは、似ているようで対比する性質を持つ。お互いに相手を知って戦えば、心強いものはないだろう。スサノオとヤマトタケルが彼女たちに思うことは一つだ。


 ──力を合わせろ。張り合いはいいが、つまらない諍いへと発展させるなよ。


「────ッッッ!!」


 巨体を震わせて冒涜は咆哮する。


 発される轟音はもはや騒音の域に留まらず、一種の破壊行為に近い。大気が鳴動し、周囲を吹き飛ばす。神でさえも本能的に恐怖を感じてしまう、暴悪的な雄叫びだ。


 岩盤のようにささくれ立った肌には無数の窪みがあり、窪みは呼吸するかのかのように開閉を繰り返し、漆黒の物体が無数に渡り飛び出す。


 身を黒い衣で隠し、鎌のような形状を武器を携えている。フードが少しばかりはためき、中身が見えたその姿は骸骨である。様相は死神のそれである。空洞である目を忙がしく動かし、シルベットたちを見ると、死神の姿形をしたそれは一気に向かってくる。


 フードの奥の口からは、荒くい息を吐き出して向かってくるそれは、獲物を見つけた猛獣に酷似している。それらがシルベットたちに一斉に襲いかかる。そんな死神たちの前に立ち塞がるようにして屹立したのは、エクレールだ。


「雑魚は雑魚らしく、散りなさい。時間の無駄ですわ」


 エクレールは三尖刀を空に掲げて、電撃を先端に集中して溜め込み、一気に向かってくる死神たちに放射した。


 前衛がそれで黒焦げになって落下。


 中衛が墜落する仲間を吹き飛ばして攻めてくる。


「フン。目眩ましか。そんなものはオレの敵じゃない」


 ヤマトタケルは刀剣を降り下ろす。それだけで大気が鳴動して、複数の空気の刃が生み出され、凄まじい勢いをもって、死神を一刀両断もしくは一刀粉砕していった。


 かなりの数の死神が墜ちていったが、冒涜からの躯からは無限に死神が出てくる。


「これでは埒があかないな……──ん?」


 スサノオは、眉間に皺を寄せながら苦々と冒涜を観察し、気付いた。


 冒涜の成長が全長五十メートルのところで止まり、光沢のある漆黒の巨体に幾つもの細長い何かが生えてきた。それは首だ。首の先には龍のような頭部もある。ヒドラや八岐大蛇のような多頭種と似た姿形となった彼は、複数の目をスサノオたちに向ける。


 ニヤリと嘲笑うかのようにナイフのような鋭い牙を剥き出しにして微笑む。向かってくる死神を薙ぎ倒してもなお、多頭龍に焦りの色はない。むしろ、そのくらいは当然だろうと言わんばかりの挑発が垣間見えた。


「何だあの顔、ムカつくのだが……」


 シルベットは不機嫌そうに多頭龍に指を指し示しながら、スサノオとヤマトタケルにやってもいいかと言わんばかりに一瞥した。


 それに二柱は首を横に振る。


「相手はわざわざ挑発してきている。こちらを罠に嵌める気であることは明らかだ」


「じゃあ、どうするんだ?」


「そうだな」


 スサノオは前に進み出て、多頭龍の前に屹立する。


「吾は、多頭龍退治には手練れている。あの時は、酒で酔い潰れた隙をついて八岐大蛇に勝っただけだが、心配するな」


「それを耳にして心配をしない理由になりまして……」


 天羽々斬を納刀状態で構えるスサノオにエクレールはジト目を向けて呆れ果てる。そんなことをお構い無しにスサノオは神力を前集中で足に向けさせた。躯を前に、さらに前へと倒して、空中で超前傾姿勢を取り出す。


「まあ見ていろ」


 それだけを答えて、スサノオは宙を蹴った。


 一気に敵に向かって突進しながら抜刀し、片手横一文字斬りで一つの首を斬り落とす。


 それだけでスサノオの攻撃は終わらない。刀を首伝いに降りていきながら、絡めるようにして隈なく斬りつけながら、根本を斬り倒す。さらに胴体に刃を突き立てながら、隣の首へと向かい、今度は首伝いに登りながら絡めるように隈なく斬りつけていく。


 そうやって次々と斬り落としていき、頭部直上からの大上段の構えからの連撃。


 頭部と長い首は粉微塵に斬り落とされる。


 さらにスサノオは跳躍前進しながらの袈裟、左袈裟の連続攻撃をしながら、次々と複数ある首を薙ぎ倒していく。


 【冒涜ブラスフェミー】はさっきまでの挑発めいた微笑みは嘘のように、次々と首を薙ぎ倒していくスサノオに焦りと恐怖の色を顔に張り付けさせる。


 これ以上、斬り倒されまいと口から雷撃、炎、破壊光線を吐き出し、応戦するがスサノオは攻撃は緩まない。それどころかさらに攻撃は激しくなっていく。


 空中でスサノオは攻撃の受け流し、敵自身への攻撃を交互連続して行う。その戦いぶりにエクレールは気づく。


「あのスサノオという方、荒々しい戦いですのに神力を刀身ではなく、足に集中させてますわね」


「どういうことだ……?」


「わたくしたちは、大体刀身とか武器を握る手と腕に力を込めますわ。銀ピカだって、術式を行使していない時の肉弾戦では殆どはそうですわよ」


「そうなのか? 殆ど戦っている時は無意識だからわからんな……」


「……銀ピカはもう少しはご自分の戦い方を客観的に見た方がいいですわよ。それで少しは脳筋のような戦いを少しは変えてくださいまし……」


「貴様こそ私のことをとやかく言う前に、客観的に己を見つめ直せ」


「わたくしはいつも見つめ直していますわよ」


「見つめ直してないだろ」


「見つめ直してますわよ」


「見つめ直しているのなら、そんな全身を黄金一色といった服の組み合わせなどにしない」


「わたくしのファッションセンスにケチはつけないでくださいまし!」


「だったら、私の戦い方にケチを付けるな!」


「ファッションセンスと戦い方は違いますわよ!」


 シルベットとエクレールは目をナイフのように鋭く尖らせて睨み合う。ヤマトタケルは呆れ気味で頭を抱えた。


 彼女たちは、彼女たちは神界に訪れる前に、イブキとキフーを【創世敬団ジェネシス】の捕虜として引き渡すべく一旦、人間界に立ち寄った際も何度も諍いを起こし、その度に仲裁を受けていた。一度は収まるがが、すぐに再発してしまう。これで組ませれて戦えば、右に出る者がいないくらいの手練れとして成長する可能性が高いのだから、わからないものである。


 ヤマトタケルは、彼女たちには極力諍いを起こしてもらいたくない。諍いによって修復不可能まで関係の悪化しては本末転倒だ。世界線戦でルイン・ラルゴルス・リユニオンに勝利するには無益な言い争いをさせるわけにはいない。


「二人とも……こんな時につまらない諍いはするな。今は、この戦いに集中するんだ。ファッションや戦い方は終わってからでもいいはずだ」


「…………………………、わかった」


「…………………………、わかりましたわ」


 かなりの間を開けて考えてから、二人はそっぽを向いた。


 ──彼女たちはかなりの負けず嫌いだということが、短い時間ながらも一緒にいて充分にわかっている。


 ──あてられた任務や使命に対しての心意気と考え方は違う彼女たちだが、世界線戦を起こそうとするルイン・ラルゴルス・リユニオンやルシアスたち【創世敬団ジェネシス】を止める、または倒すといった気持ちは同じだ。


 ──彼女たちが同調するものがある限りは、決定的な不仲、断絶はないだろうけど……。


 ヤマトタケルは彼女たちに一瞥する。


「と言うことですわ。くれぐれも無茶な戦い方はしないでくださいまし」


「何が“と言うことですわ”なのだ……。貴様こそ、その戦場に不釣り合いな派手でキンピカな服装を改めたらどうなんだ……まったく」


「あなたこそ、また折れた天羽々斬で戦うつもりですの? いい加減にそんなボロい複製品を納めるか捨てるかして、いい加減にゼノンかホンモノをスサノオから借りたら良くて」


「父の形見を平気で取り替えるほど私は非情ではないぞ。それにこっちの方が昔っから握っているから手の馴染みが良いのだ。使いづらい武器よりも使い慣れているものの方が私的に良いのだ。下手な心配するな」


「……そうですか。なら、もう何も言いませんが……真っ二つになった刀身を魔力で補い続けるには、それこそ魔力消費が大きいということだけは教えておきますわ。もし魔力消費が少なくなったら、無理せずにゼノンを使いなさい。これは念のための忠告ですわよ」


「わかった」


 シルベットとエクレールはまた諍いを起こしかけたが、誰の仲裁もなく終わらせた。これにヤマトタケルは彼女たちも成長しているのだな、と父親が自分の子供を身るかのようにしみじみとさせた。


「何を泣いているのだ……?」


「いきなり目に涙を浮かべて……」


 シルベットは心配そうに頭を傾げて言い、エクレールは少し気持ち悪いと言わんばかりに怪訝な表情を浮かべる。


「少し目にゴミが入っただけだ」


「そうか。取ってやろうか」


 シルベットはヤマトタケルの目を覗き込んでくる。自然と距離は近くなり、視界に彼女の美しい顔が間近になった。それにヤマトタケルは不覚にも鼓動が跳ね上がる。上気したように熱上がっていく。


 自分には見初めた相手がいるんだと、ヤマトタケルは沸き上がる感情を頭を振って邪心を払う。


「……い、いや、大丈夫だ。もう取れた……」


「そうか。なら、良かった」


 シルベットは安心したように微笑んだ。その横にいたエクレールがジト目をヤマトタケルに向ける。


「神が目にゴミが入ったくらいで涙を浮かべないでくださいまし……」


 ヤマトタケルはエクレールの言葉にムカついた。シルベットは言葉遣いと礼儀は実に誉められた分類ではないが、率直で素直に心配してくれていることが充分に伝わってくる声音と行動がある。大丈夫だと言った時の安堵した顔はどれだけ相手を心配したのかが窺える。


 対して、エクレールの場合は、“何を泣いていますの気持ち悪い……”や“ゴミが目が入ったくらいで涙を浮かべなんて……”といった相手に対して礼儀も言葉遣いも声音も卑下するものだ。あれでは、なにがしらの恨みや怒りを買っても仕方ない。またシルベットと諍いしてもおかしくはないだろう。そうならないようにも神罰でも与えて反省を促すかどうかを考えたが、今そんなことをすれば、今後の世界線戦で影響が来してしまう可能性は高い。ヤマトタケルはエクレールに対して、“後で”罰を与えることにして今は広い心で赦すことにした。


 その間にもスサノオは【冒涜ブラスフェミー】に斬撃を与えている。既に半分もの頭部と首を薙ぎ倒して、もう半分は損傷は激しいものの、辛うじて動いている。生き残ったものはスサノオに対して、憎悪と焦りを浮かべながら、口から雷撃、火炎、光線を吐き出して反撃をしている。負傷を負ってもなお牙を剥く【冒涜ブラスフェミー】のあまりのしぶとさに呆れ果てる。


「ああ、なってもまだ向かってくるとは敵ながら天晴れだな」


「誉めてどうしますのよ。見たところ、生き残った首は少し傷付いたところが治ってきてますわ。つまり治癒力はあるということですわ」


「だが、スサノオに斬り落とされた首は治癒されずに塵となっている。つまり、首は斬り落とした方がいいということだな」


 エクレールとシルベットは【冒涜ブラスフェミー】の状態を観察して言った。


「ああ。見たところは斬り落とされた首は治癒も再生はされない。だが、生き残った首に失った分だけの力が増している」


「つまり、最後に生き残った首にこれまで斬り落とされた首の力が備わることになるな……」


「それまで力を消耗させるために死神を大量に投入。何でしょうか……腐ったものに群がる蠅みたいに付き纏う光景は何とも言えませんわね」


「相変わらず悪意がある言い方をするな金ピカは……」


「見た光景をそのまま言葉に表したんですわよ。どこに間違いがありまして?」


「確かに大群であちらこちらと黒い点が飛び回る光景は虫のように見えるが、だったら言い方というのがあるだろう……」


「では、言い換えますわよ。何に例えばよろしいですの?」


「そうだな。ミツバチ一匹に大群で総攻撃をする大人気ないスズメバチとか……」


「ミツバチもスズメバチ一匹に対して大群に倒しますわよ……」


「それもそうだが、スズメバチは凶暴で近づいた者を毒針を刺し殺すのだからな。それに普段はミツバチの巣を狙ったりしていて脅かせているのだから敵役に相応しいだろ。ミツバチを捕食して肉団子にして巣にいる幼虫や蛹・蓄えている蜂蜜を奪ったりして、女王蜂や幼虫たちのエサにするんだぞ。対して、ミツバチはミツバチは滅多なことでは人を刺さん。ミツバチの針の先には釣り針のような返しがついていてな、一度刺すと抜けにくい仕組みになっているが針を抜こうとすると同時に、毒腺や筋肉と一緒に内蔵まで引っ張られて出てしまう構造になっているために、一度刺すと死んでしまうんだ。だから巣が襲われたり、自分自身が攻撃されない限り、滅多に刺すことはまずあり得ない。生死がかかっているからな。それに、硬い外骨格を持つオオスズメバチにはミツバチの針は通用せん。代わりに、 約四百匹ものミツバチが一斉に取り囲み、胸の筋肉を震わせて発熱し、スズメバチを蒸し殺すだけだから、群がる理由があるのだ」


「なんで、そんなに蜂について詳しいですの……」


「父から教えてもらったのだ。父はよく庭に畑を作って農作物を育てていたからな。その時に教えてもらったのだ。ミツバチは農作物に大きく貢献していることも訊いたぞ。農作物の多くは、ミツバチによる受粉があってこそ収穫できるものが多いのだ。だからミツバチが大量死して受粉がなくなってしまうと深刻な食糧難につながる。スズメバチは害虫を取ってくれていいが温厚なミツバチよりも危険は高いことも」


「そうですの……。わたくし、農作物を育てた経験はありませんからわかりませんでしたわね」


「やってみるといいぞ。農作物の有り難さがわかる」


「土いじりは服が汚れますわ」


「わがまま言うな。貴様も誰かが手と服を汚しているのを食べている身なんだぞ。少しは有り難さをわかれ」


「だったら大食いはしないでくださいまし……」


「有り難さをわかった上で食べている。もし誰かが食べ物に困っていたら分け与えるぞ」


「そうですの……」


 エクレールはシルベットに疑惑の目を向ける。


「なんだその目は? 疑っているのか?」


「ええ。乞食が目の前に現れた時のあなたがどう行動するか楽しみですわね……」


 エクレールの皮肉でひとまずの口論は終息した。


 こんな時に……、とヤマトタケルは一旦は肩を落としたが、彼女たちで諍いを収束させたことは成長と見ていいだろう。もう少し早く完結できないかと彼女たちの言葉遣いが悪いのが今後の課題だ。お互いに癪に障っている言葉を改めて、もしそれでも諍いが起こった際に物事の簡潔に終わらせることが出来たのなら、戦いに支障がないと考えた。それでも非常時に何度も口論されてはたまったものではない。その度に仲裁に入らないといけないことにため息が出てしまう。


「暢気に虫──ミツバチとスズメバチについて話している場合ではない。そろそろ首が一つになる。スサノオだけでも支障はないがルイン・ラルゴルス・リユニオンのことだから、何か仕掛けてくるかもしれない。いつでも対応できるように周囲に警戒を怠るな」


「わかっている」


「わかっていますわ」


 シルベットとエクレールは口を揃えて言うと、周囲に警戒の目を向ける。


「ん?」


 シルベットがかなり離れた山間に何かを感じて注視する。


 目に術式を行使して細めたシルベットの視界に捉えたのは──


「なんだあの光は……?」


 通常の視力ならば見過ごしてしまうほど遠い距離に光が浮かんでいた。それらは少しずつと近づいていき、全容がわかってくる。


 それは、黄金に光る人の形をしたものだった。




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