第二章 五十五
「はあ……」
イザナミがオオウスを黄泉国に連れていったのを見送った後、ヤマトタケルは大きくため息を吐いた。
思いがけない兄の襲来には正直に驚いた。ルイン・ラルゴルス・リユニオンがヤマトタケル対策としてオオウスを蘇せたのは確実だろ。現に、ヤマトタケルはオオウスの登場に動揺してしまった。もし少女たちが現れなかったら正気を戻る前に喰われていたかもしれない。それに白銀の少女により、真っ二つにして動きを封じていなければ、イザナミノミコトが降臨しても逃げられていた可能性は高い。これらは名もわからない少女の功績といえる。そこまで考えてからヤマトタケルは気づく。
「さて、不肖の兄が迷惑をかけてごめんね。ところで、君たち何者だい? 名を聞くのを忘れていたよ」
肩を竦めてヤマトタケルは少女たちに問うた。
「それもそうだったな」
「そうですね。名乗っても宜しいのですが……相手に名乗らせる前に自分が名乗るのが礼儀じゃなくって?」
神であるヤマトタケルに対して臆することなく言った黄金の少女。種族からしてハトラレ・アローラといった亜人界の住人であることは間違いない。亜人界は神界と関わりを持っていることが多く、神についての知識は人間界よりもあると思うのだが、イザナミについて二人の会話から察するに白銀の少女は半分は人間の血が流れているようで、神──特に日本神話の神については詳しいようで、黄金の少女は神について詳しくはないようだ。
ヤマトタケルは、先ほど助けられたこともあって威厳を見せつけて教えることはせず、優しく注意を促すことにする。
「それもそうだったよ……ごめん。でも君、結構物怖じしないね。一応、こう見えて神なんだけど、言葉には気をつけた方がいいと思うよ。ほら、寛大なオレだったから良かったけど、他の神だったら赦されないから」
「そうですの……神ですの。だったら、礼儀正しく先に名乗り上げるのが筋ではなくて? 先に相手に名乗らすだなんて神がすることではありませんわ」
「……そうだけど」
「それに神を恐れて意見も言えないだなんて、お互いのためにもなりませんわよ」
優しく注意を促したにも拘わらず、黄金の少女の態度は変わらない。むしろ、神と知って険を帯びたように表情が変わり、言葉尻にも刺が出てきた。
これは一体どういうことか、ヤマトタケルは混乱していると、肩にポンと手が置かれた。振り返ると、白銀の少女であった。彼女は、同志を見つけたように嬉しそうに口を開く。
「わかるぞ。金ピカの態度にイラッとしたのだろう。私もいつもそうなのだからな」
「そうなのか……彼女の態度はいつものことなのか」
「ああ、そうだ。平常運転だ。私も常にムカついている」
白銀の少女の言葉に、不快感をこれでもかというくらいに滲ませた顔で黄金の少女は声を出す。
「それはあなたがわたくしの言うことやることに文句を付けてくるからでしょ……」
「その言葉、そっくりそのままに返してやる」
睨み合う二人。彼女たちのやり取りから察して、お互いに不仲らしい。だけどヤマトタケルの目に映る彼女の印象は違った。
──お互い貶し合っているようで、よく見ている。
恐らく最初の頃は衝突も多かったことだろう。諍いを起こしながら、次第にお互いを知っていくことで、いざという時に合わせられるような仲間になる可能性は高い。
性格は相反しているようで、根本的なところでは似た者同士だ。それは恐らく“負けず嫌い”という部分だ。馴れ合いでは、決して得られない好敵手──ライバル。お互いに高め合うことで彼女たちは成長していく可能性はある。
──いいコンビだ。
彼女たちが育てば、これから苦難も乗り越えられるだろう。ヤマトタケルは彼女たちの成長を期待しながらも、黄金の少女が神と知ってからの険の帯びたのは何なのか気になった。
──神に対して嫌悪感を抱いているようだが、何があったのだろうか。
神の能力として過去を見ることは出来るのだが、彼女たちには少し神力があるのか、薄ぼんやりとしか視ることしか出来ない。
亜人が聖獣以外に神力を持っているのも珍しい。彼女たちは一体何者なのか。ヤマトタケルは彼女たちに興味を持った。
「こっちも名を明かさなかったのも悪いんだから仕方ない。このご時世、簡単に先に名を知らせるわけにもいかない理由があるんだ」
「どういう意味ですの?」
「真名は相手を押さえ付けるに有効な手でもあるんだ。真名を知ることによって呪詛にかけやすくなるんだよ。周囲にはまだ【創世敬団】がいる。躯は動けなくとも、意識があるのもいる。敵に知られば、呪詛をかけてくる恐れがあるからね。呪詛をいくらかけようと神は祓うことは容易いし、呪い返しをして相手に跳ね返すことも出来るんだけど、そんなことで無駄に殺してしまうのは、勿体ない。いちいち対抗するのも疲れるし、穢れる。もし君たちの真名を名乗ったとしても、しばらく呪詛がかけられないように強力な呪い返しを施すつもりさ」
「だとしても、不公平ですわね……。わたくしたちの名を先に知って、あなたがわたくしたちに呪詛をかける恐れを示唆しないわけではありませんわよ」
「確かに。オレも君の信仰心の無さを見て、呪詛をかけてくるんじゃないのかと考えないわけじゃないさ」
「そういう可能性はありませんわ。わたくしが神に信仰心は一切抱いていないのは認めますが、呪詛を神に向けるほど愚か者ではありませんわ。いろいろとありまして、嫌悪感は抱いてますけど……文句がある場合は直接お伝え致しますわ」
「それを信用しろと?」
「出来なければ、お互い仮名を名乗れば、宜しいですわ。疑心が解けましたら、改めて名乗るのが一番良い考えと思いますわ」
「そうだね。じゃあ、なんて名乗ろうか?」
「では、わたくしは──」
ヤマトタケルと黄金の少女は、お互いの疑いがはれるまで仮名を名乗ることにした。
◇
「納得がいかぬ……」
際奥にある遺跡となっている廃屋に向かっていた道中、白銀の少女は不満を漏らす。
「何ですのよ、おシル子?」
「その仮名が納得いかないのだエクレア」
「その言葉、そっくりそのままお返し致しますわ……」
ふん、と二人の少女は首を振った。これは参った、と二人に挟まれたヤマトタケルは苦笑いを浮かべる。
しばらく仮名を名乗ることにした三人は、ヤマトタケルは早々オウスという幼い頃に使っていた名を仮名として名乗ったのだが、少女は納得がいく仮名が浮かばなかった、仕方ないからお互い仮名を付け合うことにしたのだが……それが不味かった。
白銀の少女は、黄金の少女をエクレアと付け、黄金の少女が白銀の少女をおシル子と付けたがお互いに気に入らず、諍いを起こしてしまった。このまま、悪化されては敵に隙を与えかねない。
ヤマトタケル──オウスは、話題を名前から逸らすために、黄金の少女──エクレアが神を嫌っている理由を訊くことにした。
「エクレア」
「何ですの?」
刺すような目でオウスを睨むエクレア(仮称)。その仮名を呼ぶなといった静かな怒りを瞳に滲ませた目に、オウスは怯まずに言葉を続ける。
「そういえば、君は神に対して嫌悪感を抱いているようだけど、何かをあったのかい?」
「そうですね。いろいろとありますが、強いて言うなら生き物は皆平等だと仰っておきながら、信じる者は救われる、信じない者は救われないといった言葉に矛盾を感じておりますのよ。平等ならば、信じる信じないといった条件付きではなく、平等に救ってもらわないと不公平ですわ。全てに平等に救いたいのならば、全ての者を救いなさい。じゃなければ神は必要はありません。わたくしは神に頼らず、いない者ととなえる無神論者ですわ」
「そういうことか……オレは、救いたくば神を信じろだなんて一回も言ったことはないんだけどな……」
ヤマトタケルはどこの神だろうかと考え、恐らくツクヨミ系統だろうなと予測した。
「君に何があったかは知らないけど……オレとしては救いを求めるのならば、何とか救おうと助力しょうとしているし、少なくとも知っている神は殆どがそうだ。ただ、例外もいるのも確かだということも認めよう。全ての神は超常的な能力の持ち主であれど、完璧な存在になるにはいろいろな道筋があるんだ」
「どういう意味ですの?」
「神界の神は、そうではないのだが、信じることで存在を維持する神がいるということさ。それは、神界で生まれた神ではないのが殆どだ」
「神界で生まれた神じゃない……どういうことか説明してもらいませんか?」
「ああ。それは、神界で生まれた神じゃない。世界線で生まれた神だ。さらに詳しく言うのならば、想像力によって生まれた神だ」
「想像力によって生まれた神……?」
「そう、想像力の神だ。それらは神界で生まれた神と違って、多数の者たちの想像によって象られていることが多い。信じられることによって生まれ、奉ることによって存在を強固としている。全ての信じられる者がいなくなる、もしくは忘れ去られることによって消えてしまう神だが、神格化している分強力だ。よく小さな村に奉っているのがそれにあたることが多い。時には、原形が既成の神という場合もあるから、全てというわけではないが」
「だとしますと、そういう方々たちはどうして神を想像力なんてものを使って神を造り出そうとしますの?」
「そうだね。いろいろとあるだろうけど、もっともな理由としては自分たちを護ってくれる存在を求めた結果といえる。神界の神を見て、それを崇めたまではいいが、時が経つに連れて尾ひれがついてしまうのだろう。それを自分たちに都合が良いように付け加え悪用してしまう者が現れ、全く別な存在へと作り替えてしまうのが宗教の中で一番多い。大多数が信じなければ消滅してしまう呆気ない神だが、原形が神界の神だったりするから混存としてしまうから質が悪い。さらに、信仰するための宗教を開き、下手に神格化して力を付け、存在は強固となるから、容易に消えることは難しい。そうなれば宗教がなくなっても信仰する者が別な神として崇めれば、消滅することはないから難しいところだよ」
ヤマトタケルは肩を竦める。
「神格化しているが、信者の願いを叶えることはない。創設者の言うことは聞かないし、亡くなれば、制御を失った何かだ。さらに神力によって暴走してしまえば、無差別に神罰を与えてしまう恐れもある。それはもう神でなく悪魔だね。そうとも知らずに崇めてしまっては身を滅ぼすだけさ」
「なんと面倒な……」
「面倒なんだよ。自分の欲を満たすために生まれた神だからね。意思もないし、決められた通りにしか動かない。そこに少しでも欲がなく、信者たちの願いを叶えるように設定されればいいんだけど……それはあやふやで想像力が固まっていない。欲に溺れた者が都合よく創られた神だからね。創設者が生みの親だから、そう変えてもらうしか他ない。でも信者たちで悪さをすれば、あっという間に穢れてしまうのが落ち。オレみたいに意識がある神ならば穢れなんて祓えるけど、まともに穢れが貯まっていく。そして、信者諸とも崩壊する。穢れても宗教は解散しないし、信者も自分たちが信じてきたものしか受け入れられない。そう宗教内で制御されているからね。普通の判断が出来るようになるまではかなりの時間がかかってしまうね」
「幹部たちが自らの欲に溺れてしまい、堕落しているのが見ても変わりませんの?」
「きっかけにはなるだろうけど……難しいね。そうやって簡単に終わらないのが怖いところだね。例え神が消えていなくなったとしても宗教はなくならない。相手が懲りなければ、同じこと繰り返すだけ。悪気はないから余計に質が悪い」
「情けないくらいの悪循環ですわね……」
「そうだね。それは相手がわかってくれるまで、神罰を与えた方がいいけど、相手がわかってくれなきゃ永遠に繰り返しちゃうし、こっちもそればかり気にしているわけにはいかない。他のことが疎かになってしまうからね。ほんと、参ったよ……」
「苦労が絶えないようで……」
「ところで、君はいろいろあったとあるけど何かあったのかい?」
「ありましたわ。だから神はいない者として、わたくしはわたくしを信じることにしましたのよ」
「それならいい。どこに想像力の神がいるかわからないからね。もし神を信じたい時は、自分の神を信じた方がいい」
「どういうことですの?」
「そうだね。君みたいに自分を信じて、自分を神格化することの方が生きている間は、それなりに自信がついて、良い方向に進めるよ」
「そんな上手くいきます……?」
「自信は大事だよ。自分を認めることによって、進むべき道がわかるんだから。そうやって自分を愛さなきゃ、他人を愛せない。同時に、自分を神格化すればいい縁を繋ぐことができる可能性が広がるんだよ。──でも君の場合は、自分に自信の付けすぎが目立つけどね」
「一言、余計ですわね……」
エクレア(仮称)は半目でヤマトタケルを見据える。
「良い話を聞けましたから良しとしておきましょう」
「そうしてもらうとありがたい。何かあったら神のせいにしないでくれたら尚ありがたい」
「そうどうでしょうね……」
底意地の悪い微笑みを浮かべるエクレア(仮称)。ヤマトタケルはそんな彼女を見て、大体のことがわかった。
彼女という人物は、神を信じず自分を信じる女性である。それゆえに、自尊心が高くなってしまっただけなのだと。
「貴様ら、私をのけ者にするとはいい度胸だな……」
ここまで話さず、二人の会話を見ていたおシル子(仮称)が不愉快な顔を色濃くして言った。
「何ですの? まさか、羨ましいんですの?」
「別に羨ましいなどない……。無駄話をしてうつつを抜かすとはいい神経をしているなと思っているだけだ」
「そうですわね……」
「そうだね。話はここまでにしょうか……」
ヤマトタケルはそう言って、ここまで温和だった表情をキリッとした。目だけを周囲に向けと、〈念話〉で彼女たちに伝える。
『囲まれているね』
『ああ、数は少ないがな』
『一人辺りの力は大したことはありませんけど……油断はなさらずにしてくださいまし。特に銀ピカ──いえ、おシル子(仮称)。ふふふ……』
明らかに馬鹿にしたかのような含み笑いを〈念話〉でわざと送るエクレア(仮称)。それに気分が害したように不機嫌さを顔に貼り付かせるおシル子(仮称)。一気に険悪な雰囲気が漂う。
『貴様、わざとだな』
『ええ』
『あっさり認めたとはいい度胸だな……』
『神を自称する者の目の前ですし、わたくしは神ですので嘘は付けませんわ』
『自称じゃなく、本物なんだけども……』
ヤマトタケルの〈念話〉は無視される。
『ほう。高かった自尊心に自分を神と自称して神格化しょうとするとは見下げた根性しているな……』
『何度でも言っても宜しいですわよ、わたくしは美しい女神ですから』
『自分を美しい女神と自画自賛とは……痛い貴様に神格化は劇薬だな。痛々しいを通り越して、苛立たしい……。金ピカ──エクレア。つまり金のう○こが……』
『今なんとおっしゃいまして……』
エクレア(仮称)が不快感を最大限に、おシル子(仮称)を睨みつける。
「わたくしを汚物呼ばわりしましたわね……」
「したぞ。金のう○こ、もしくは雷のう○こ」
「女性がう、う、う、う、う○こだなんて口にするだなんて……仕付けなってませんわね」
〈念話〉ではなく、口で喧嘩を始める少女たち。これでは、〈念話〉で密かに連絡を取り合っていたことがまるわかりになってしまった。
「おい、喧嘩は止せ」
「喧しいぞっ!」
「喧しいですわっ!」
ヤマトタケルが仲裁に入るものの、少女たちに一喝される。そんな隙を見て、複数が動き出すのを感じた。
「おシル子、エクレア、敵が動いたぞ!」
ヤマトタケルが言った直後、森や建物から複数の人影が一斉に飛び出してきた。
彼らはこちらに武器を向けている。諍いを起こしている隙をついて一網打尽にする気なのだろう。神であるヤマトタケルを相手にするなら、絶好のチャンスと判断してもおかしくはないがそれは浅はかというものだ。こんなことでヤマトタケルを倒すことはできない。それどころか、少女たちには……。
「人が話している最中に……」
「襲撃してくるだなんて……」
「礼儀を弁えろ」
「礼儀を弁えなさいっ!」
少女たちは四方八方と飛びかかってきた敵を、おシル子(仮称)とエクレア(仮称)はそれぞれの武器で薙ぎ払う。
〈神力〉と〈魔力〉を帯びた一閃はひと振りで相手を吹き飛ばす。〈神力〉はなく、〈魔力〉がない彼等では太刀打ちなど出来ない。ただ、嵐に巻き込まれた木の葉のように吹き飛ばされていくだけだ。ついでに〈風の刃〉によって、防具や武器、躯を斬り刻まれる。
そして、建物の壁や地面、森の茂みに叩きつけられた彼等は出血はそれほどではなかった。
「手加減してやったぞ」
「もしわたくしを倒したかったら、あなたたちの隊長を呼んでくださいまし。あなた方では相手になりませんわ」
「なんだと……っ!」
怒気を孕んだ目で敵は彼女たちを見据える。
「わかりませんの。これだから無知は困りますわ。あなた方では勝負になりませんのよ。こちらとしては弱い者苛めをしているようで、気分が悪いのでそちらの隊長を呼んでくださいましといってますのよ。そちらがあなた方のためになりますから」
「それが厭なら、とことん付き合ってやるぞ。その場合は戦意を喪失させるまで痛めつけるだけだからな。覚悟しろよ」
明らかな少女たちの挑発だ。ヤマトタケルは何となくだが、彼女たちの思考が読めた。
──恐らく彼女たちは、諍いの決着を敵を倒した数で決めようとしているのではなかろうか。しかも痛めつけるだけで殺さないという条件付きで。
それは当たっていた。彼女たちは瞬時に示し合わせた。勿論、その彼女たちの勝手な考えから逃れられるように、隊長を連れてきて、戦わない好機を与えて。
──でも、あれでは……。
挑発された彼等としてプライドがある。男性として負けられないプライドが。敵としても相手の思い通りになりたくないという思考が働く。よって、彼女たちが残した逃げ道は使わない。
敵は大多数が立ち上がる。武器も防具もボロボロながらも。その中でいかにも隊員各らしい灰色の毛並みをした狼人族が進み出る。
「俺が隊長だ。言われた通りに出てきたが、隊員全てが引くことはない。慈悲でも与えたつもりだが、俺らは女子供、そして神に手加減などしない。敵である貴様らを全力を尽くして倒す。それがルイン・ラルゴルス・リユニオン様とルシアス様のためだ」
「ほう、そうか。投降は、決してしないと思ったから引き下がように言ったが無駄だったようだ」
「そちらがその気なら仕方ありませんわ。どこからでかかってくださいまし!」
少女たちは武器を構える。敵らも陣形を取り、戦闘に備えた。明らかな戦力差だ。ヤマトタケルは憐れむような目で敵を見据える。
──挑発に乗らずに引き下がれば、少なくとも……。
風が吹き、どこぞで瓦礫が落ちる音が響いた。それが合図であり、彼等が耳にした決着が付いた音だった。
彼女たちは目にも止まらない速さで振るった一閃。それが全ての敵に傷を与えた。恐らく敵からすれば、何が起こったかわからないまま、傷を付けられ、地面に倒してしまっただろう。それほど、あっという間に終わった戦いだった。何より賞賛したいのは、宣言通りに命を取らない程度の一閃であったが、気絶するには十分な攻撃だったことだろう。
「約束通りに命は取らんかったぞ。次は迎え撃つために力を付けて来い。意地でもルイン・ラルゴルス・リユニオンとルシアスを崇めるのならばな。あいつらは、崇めても助けてはくれないぞ」
おシル子(仮称)の言葉は彼等に届いたのかどうかはわからない。それでも彼女たちが彼等に与えられた傷が彼等を変えるきっかけになることを願うばかりだ。




