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第二章 三十




 蒼蓮はシルベットとエクレールと戦闘中のルイン・ラルゴルス・リユニオン観察しながら口を開く。


「わざわざ問題児のシルベットとエクレールを煽って、ルインは何がしたいんだ。完全に遊びにかかっているとしか見えん……」


「恐らくは、彼女たちをからかって楽しんでいるのだろう。ああ見えて、神界では劣等神としているからな。いい憂さ晴らしとでも言いたいんだろう。実にいい性格をしているよホント……」


 煌焔はうんざりした面持ちでルイン・ラルゴルス・リユニオンを見据える。


 巣立ちの式典で問題を起こしたシルベットとエクレールは、あれから何度か諍いを起こしている報告を受けていた聖獣たちは、常に諍いが絶えないわりには、ちゃんとお互いの攻撃を理解して戦っているように感じた。しかも、怒っている割りには、抜群のコンビネーションでルイン・ラルゴルス・リユニオンに攻撃を仕掛けていた。


「とてもじゃないが、しょっちゅう言い争いを起こしている二人とは思えないな……地弦。念のために聞くけど、あいつらの仲は深まってたりする?」


 煌焔は、今日彼女たちに接触した地弦に問おた。


「まだカレーしか作らせてませんし、その間にも諍いは起こっていました。さっきも……」


 それでも仲が深まっていたと私は思いたいですね、と地弦は手短に答えると希望を口にした。


 地弦の言葉を聞く限りでは、そこまでの進展はなかったが、それに繋がる結果はあったということが窺える。


「一時的でも協力して戦うことは良い進展だがな……相手が悪すぎる」


 白夜は心配げな視線を彼女たちに向ける。


「相手は神だ。亜人ではない。いくら我々と同じく神に等しき力を有している上級種族でも協力して勝てる相手ではない」


「ルインの明らかにこちらを見下している態度から恐らくは、単なる暇潰しに相手をしているに違いないだろ。ルインに対抗できるのはこの中だと、我々くらいだ。金龍も銀龍も能力的には高いが、シルベットとエクレールらの経験が不足しているからな。それよりも神という圧倒的な力を前にして、一向に引き下がらないとはな……。あいつら、神を相手にしても負けを認めない生粋の負けず嫌いか」


 蒼蓮は彼女たちを観察して言うと、白夜が頷く。


「そうかもしれんな。何せシルウィーンとゲレイザーの娘だからな。血は争えん。それでも神と対峙するには早すぎる。ルインは、ああやって怒らせて不祥事を起こさせる気だろう。それによって、世界線戦の布石である神界の介入をさせたいんだろうな……」


 白夜は煩わしそうに言った。


 神界とは、ある誓約を交わしている。“ある神が顕れ、何らかの不祥事を起こしたとしても、対処は神界が行うものとし、あらゆる世界線の介入は赦されない”というものである。これにより現在、空間内にいる生物の中で、唯一神に対抗できる力を保有する聖獣たちが静観しているしかない理由である。〈念話〉で近くの憲兵たちに伝言を伝え、神界に使者を向かわせているのだが、世界線戦というものが神々に動揺を与えているのか。まだ連絡がない。


「問題児がルイン・ラルゴルス・リユニオンに傷つけて、誓約違反だと神々を怒らせることだけは避けなければならない……」


「そうですね……。最悪な場合は、並行宇宙で神を信仰している世界線をも敵に回さないといけませんから、そうなる前に止めるべきでしょう」


「神を信仰している世界線は多いからな。【異種共存連合ヴィレー】が世界線の半分近くまで交流に成功している中で、足枷にはなりたくない。止めるべきだ……」


 地弦と煌焔が首肯する。


 【異種共存連合ヴィレー】は現在、並行宇宙にある世界線の半分近くと交流がある。幾千万の内、神界の神を信仰しているのが八十九パーセントであり、残り十パーセントは半々、一パーセントは不透明と結果が出ている。それは決して低くない数字といえる。あらゆる世界線の優占種も信仰している神を不容易に手を降せばどうなるか。もしくは、手を降したことを知らればどうなるのか。【異種共存連合ヴィレー】が築き上げてきた瓦解させるには充分といえるだろう。


 加えて、神界からは誓約違反だ何だのと責め立てられ、神に対して仇なす世界線として失敗リストに入れられて、世界破滅だなんてなったら、目もあてられない。


 神界側からルイン・ラルゴルス・リユニオンを脅威と見なし、特例として討伐許可が降りた場合は、手を降しても何の問題もないのだが……。


 シルベットがルシアスとリリスを撃ち破った時に見せた〈重力〉の術式を行使した下降攻撃を、エクレールが魔力弾を撃っている時に仕掛ける。天羽々斬を振るい、それがルイン・ラルゴルス・リユニオンの躯を掠めた時、聖獣たちは焦った。


「おいおい……神相手にあそこまで攻めて来たぞ」


「やはりシルベットには親譲りの戦闘能力に天性の才能を持つに違いない」


「蒼蓮と白夜、感心している場合かっ!」


 煌焔に言われて二人は気づく。


 これまで経験不足だからといってシルベットとエクレールがルイン・ラルゴルス・リユニオンに戦っているところを見逃してきたが、攻撃を擦ったことにより、彼に傷を付ける恐れが出てきた。


 まだ神界側からルイン・ラルゴルス・リユニオンを脅威と見なしたという報告もない以上は、もしものことを考えて、彼女たちを止めなければならない。


「では、俺が行こう」


「妾も行こう」


「じゃあ、私は残ります。ルシアスとリリスは捕縛していますが、隙を見て逃げ出す可能性もありますから」


「では、己も残ろう」


 水波女蒼蓮と煌焔がシルベットたちを止めに行き、地弦と白夜がルシアスとリリスの見張りとして残ることが決まった。


「では、行ってくるぞ」


 煌焔と水波女蒼蓮は上空に舞い上がる。


 赤と青に輝き、意思を持った流星のように高速で一気にシルベットたちがいる空域に向かう。


 シルベットとエクレールは攻めることを止めて、ルイン・ラルゴルス・リユニオンに何やら言っている。まだ距離があって聞き取れないが、挑発していることが窺えた。挑発して、相手をわざわざ怒らせて、隙を突く作戦だろうか。悪くない作戦だ。だが、それは相手が神ではなかったらの場合によるだろう。神が彼女の挑発で、そう簡単に隙を見せるとは思えない。蒼天と煌焔はそう判断したのだが、シルベットが何かを言ったことをきっかけに、明らかに彼の顔が変わる。


「何だか雲行きが怪しくなってきたんだが……」


「おいおい、神々からの連絡が来る前に、本格的に戦争を始めようとかならないよな煌焔……」


「蒼蓮……そういうのは、冗談でも言わないで。縁起でもない。現実的になったらどうするんだ……」


「でも、あの様子じゃ……あ」


 蒼蓮が彼女らに視線を向けたその時、ルイン・ラルゴルス・リユニオンに頭上に魔方陣を展開させ、大剣と引き替えに巨大な槍を召喚させた。


 怒りを露にしてそれを手に取り構えているのを見て、煌焔は蒼蓮に責めるような視線を向ける。


「だから、言わんこっちゃない……」




      ◇




 スティーツ・トレス、厳島葵といった第八百一部隊の面々、如月朱嶺、ファイヤードレイクも【謀反者討伐隊トレトール・シャス】が刺すような視線を向けて警戒した。


 ルイン・ラルゴルス・リユニオンは、明らかにシルベットとエクレールを見下していた。それは彼女だけではない。聖獣や【謀反者討伐隊トレトール・シャス】、あらゆる生物たちも。シルベットとエクレールは真っ向でやりあっても、それは変わらない。


 神を相手に攻撃を擦め、武器を召喚させるまでには追いつめたことは上出来といえた。それでも、相手の余裕は崩れる気配はない。それよりも依然と神界側からの連絡がない以上は、ルイン・ラルゴルス・リユニオンに必要以上に攻めない方がいいだろう。


 世界線戦という大それたことを行おうとしているルイン・ラルゴルス・リユニオンはいずれ、神界からによって、並行宇宙に脅威を齎す敵と認識される。それまでは、早々に決着を付けずに逃亡をはからせないように〈錬成異空間〉内に留めて置いた方がいい。


 ファイヤードレイクはその旨を伝えようと〈念話〉を送る。


『シルベット。エクレール。早々に決着を付けようとするな。時が来るまで、ルイン・ラルゴルス・リユニオンを此処に留めておくことを考えておくんだ』


 ドレイクの〈念話〉に二人からの応答はない。それどころか、送った〈念話〉が弾き返されてきた。再度、送るが結果は同じだ。二人が拒否した様子は見受けられない。


 ──どういうことだ……?


 ドレイクは隣にいた如月朱嶺に声をかける。


「二人に〈念話〉を送ったのだが……受取者不可で戻ってくるのだが」


「着信拒否みたいなものですか?」


「わからない。現在は任務中だ。シルベットはともかく、エクレールが任務中に上官を着信拒否するとは思えない」


「そうですね。私も一回、送りますね」


 如月朱嶺は試しにシルベットとエクレールに〈念話〉を送ったが、ドレイクが言った通りに彼らの応答はなく、代わりに送った〈念話〉が弾き返されてきた。再度、送りながら二人の様子を窺うと彼女らに拒否した様子は見受けられない。


「シルベットはともかく、エクレールまでも〈念話〉を拒否するとは思えませんし、彼女たちに拒否した様子はありません」


「だとすると、どこかで魔力を弾き返されている恐れがあるな……」


 ドレイクは考える。魔力が色として視認できる能力である〈魔彩〉があれば、〈念話〉を送る時に発生する魔力の流れを見ることが出来るだろうが、彼は武道派で魔術に関して、さっぱりである。


「如月朱嶺は、〈魔彩〉──もしくは、それと同じ効果を持つ術式を使えるか?」


「〈魔彩〉は使えませんが、魔力や霊力は視ることは出来ます」


「では、吾輩がシルベットとエクレールに〈念話〉を送る。その時の魔力の流れを見ていてくれまいか」


「わかりました」


 如月朱嶺は、自分の視覚に霊力を集中させると、上空を見上げた。そして、原因に気付く。


「ドレイクさん、原因がもうわかりました……」


「何か視れたのか?」


「はい」


「それは何だ?」


「それは……魔力とも霊力とも違う何か強力なものがシルベットたちの周囲を囲んでいます」


 如月朱嶺が見たのは、霊力で強化した視覚で透すことで見えた光り輝く幕であった。幕は、巨大でオーロラのようにシルベットたちから二百メートル付近で取り囲むように垂れ下がり、下方も取り囲んでいる。形状から、テントにも似ているそれは、風に揺れるように動いていた。


「魔力とも霊力とも違う強力な力か……吾輩が彼女らに送った〈念話〉がそれで弾き返されたということか」


「そうなるかもしれません。強力なもので出来ている幕のようなものは、形状がテントのようです」


「うむ。如月朱嶺は霊力によって〈念話〉を送ったのか?」


「はい。私は、霊力で〈念話〉を送りました」


「吾輩は魔力だ。だとすると、魔力や霊力での〈念話〉も通さないとなると……かなり強力な力といえる。恐らくそれは神力かもしれん」


「神力……ですか。あの神と一部の亜人しか使えないという」


「ああ」


「神力と言いますと、ルイン・ラルゴルス・リユニオンですか?」


「恐らくはそうだろう。聖獣たちも神力を使えるが、シルベットたちを取り囲む意味がわからない。それに……」


 ドレイクは見据える先で、煌焔と水波女蒼蓮がシルベットたちから二百メートル離れた付近で火花を散らして弾かれていた。


 神力に拒まれたことに、一瞬何が起こったのかわからなかった様子の彼等は、目を凝らして見据える。恐らく如月朱嶺と同じように視覚に力を集中させて見ているのだろう。原因に気付いた彼等は憤怒の表情を浮かべると、煌焔と水波女蒼蓮は地上にいたドレイクにも聞こえる大声を上げる。


「あんのクソ神があっ!!」


 怒声を上げた聖獣二人は、見えない障壁に向かって、神力を行使する。水と炎の乱舞が、神力で出来た幕を取り囲む。それによって、見えなかった【謀反者討伐隊トレトール・シャス】の面々もシルベットたちの周りに何かあるのかようやく気づく。


「神力は、神界に生まれた者が主に使える力だ。ハトラレ・アローラでは、聖獣と一部の上級種族も使える者もいるが、そう簡単に扱えるものではない。事実、この空間内にいる者では、聖獣たちとルイン・ラルゴルス・リユニオンくらいだ。煌焔様たちが拒まれたことや聖獣たちの様子を窺う限りでは、あの神域は聖獣たちによって作られたものではない」


「だとしますと、あの神域を作り出したのはルイン・ラルゴルス・リユニオンの可能性は高いということですね」


「そういうことだな」


「そうですか。では、ルイン・ラルゴルス・リユニオンはシルベットを何故神域に閉じ込めたのでしょうか……」


「恐らく────」


 ドレイクが口を開いたと同時に、ルイン・ラルゴルス・リユニオンが構築した神域内に激しい明滅が起こった。




      ◇




 シルベットが天羽々斬を構えて、前方にいる憤怒の表情を浮かべる神に目を向ける。


「大層な槍を召喚したな……」


「ああ。これは私が持っている中で取っておきの逸品。これを召喚しょうと思ったくらいに私は怒っている。神に対しての言葉遣いがなっていないシルベットとエクレールには躾が必要みたいだからな」


 余裕のある言い方は変わらないが、ルイン・ラルゴルス・リユニオンが召喚された得物は、普通のものでないことくらいは分かった。凶悪なまでの神聖的力と、あともう一つ、禍々しいまでの力が帯びている。明らかに先ほど大剣とはも二味も違う。


「その大槍には神聖さ以外にも、禍々しい何かがあるな……」


「気づいたか。流石は、侍と女戦士を両親に持つ子だ。素直に褒めておくよ」


「で? その大槍はどういった得物なんだ……」


「フフフ。これは並行宇宙の中でもっとも頑丈な素材で出来ていてね。別段、力を入れていないにも拘わらず、なんでも斬れてしまうひと振りだ。多分、“天羽々斬”だって例外じゃない。私にも神としてのプライドはある。それを傷つけられては黙っているわけには行かない。だが、女性を斬ることは後味悪い、できれば降参して謝罪を求めよう」


「……そう言われて降参して、謝罪すると思うか? 今でも余裕を見せていたにも拘わらず、神モドキと言われてから明らかに不機嫌になったな。何か神モドキに厭な思い出としか……」


 その瞬間、シルベットの傍らを微風が通り過ぎ、右手に軽い衝撃が伝わった。


「銀龍の仔龍よ、口の聞き方には気をつけたまえ」


 ルイン・ラルゴルス・リユニオンの声は、後ろから聞こえた。


「っ!!」


 その瞬間、シルベットが右手で構えていた天羽々斬が半ばから折れていた。いや、斬り飛ばされていた。


 虚空に天羽々斬の斬り飛ばされた刀身が回転しながら堕ちていく。ホタルのように明滅して、次第に光りは弱まっていった。刀身の切断面は鏡のように光っていて、ルイン・ラルゴルス・リユニオンに斬り飛ばされたのだと気づくまで、シルベットは動くことすらできなかった。


「銀ピカっ!!」


 それはエクレールも同様だったらしく、後ろからルイン・ラルゴルス・リユニオンの声がして振り返ると同時に視界の端に映ったシルベットの様子がおかしいと感じて、何気なく彼女が向いている視線を追って、握っていた天羽々斬が斬り飛ばされているのことに気づいたのは、シルベットからやや遅れてのことだった。


「私は別に命を獲ろうとはしていない。私への非礼を詫びて、素直に私が期待する通りに動いてくればいい。それだけでシルベットだけではなくエクレールも英雄となれるのだから」


「……はりな」


 シルベットは小さく呟く。それは、ルイン・ラルゴルス・リユニオンの耳には届かず、彼は聞き返す。


「何を言っているのか。さっきの失言を詫びるのかね。だったら早く────」


「違うわ惚け茄子ッ!」


 反省して謝罪しなさいというルイン・ラルゴルス・リユニオンの言葉をシルベットは声を荒げて遮る。


「貴様は神なのであろう。神ならば、私の剣がどんなに大切なことを知っているだろ」


「知っているさ。水無月龍臣の形見のようなものだろう。だからなんだ」


「ほう。知っていたのか……ならば、私が如何に大切にしていることを知っておきながら、斬り飛ばしたということだな」


「ああ。神だからなそんなのわかるぞ」


「そうか。わかった上でか……。だとすると、私が斬り飛ばされて、どんな感情を抱くかも、わかっているのだろう神とやら」


「ああ。だから何だ?」


「それが解らぬから神モドキなのだッ!」


 シルベットは烈火の如く勢いをもって、ルイン・ラルゴルス・リユニオンに肉薄。半分となった天羽々斬を振るった。


 ルイン・ラルゴルス・リユニオンの咄嗟に、大槍を構えて防ぐ。


 ガキン、と音を立てて、受け止められた。


 だが、シルベットは諦めてはいない。半分となった天羽々斬を器用に使いこなして、連撃。激しい攻防戦が繰り広げられる。ルイン・ラルゴルス・リユニオンが少しでも隙を見せた時を見計らい、天羽々斬の敵討ちとして一太刀でも与えようと、虎視眈々と狙う。


 リーチが低くなった分だけ、小回りが利くようになったのか、通常のサイズの天羽々斬を持つよりも格段と速度が上がっている。


「シルベットは、負けず嫌いだね。神である私に恐れず向かってくるとは、無謀以外の何者でもない。今は無駄な争いをせずに、世界線戦に備えるべきだ。せっかく負けず嫌いの君に世界線戦という舞台を用意したのだからね」


「知るかッ! 他に言うことさえもわからない貴様などの言うことなんて知っちゃこっちゃない」


 シルベットはルイン・ラルゴルス・リユニオンと斬り結びながら、怒鳴り声を上げる。


「私はこれまでの失言を詫びたり撤回などはしない。貴様もしないからな」


「そうか。しかし、それはシルベットも一緒だ。私の神としての誇りを傷付けた。それを詫びもせず撤回もしない。だから私も剣を斬り飛ばされた謝罪はしない。これでおあいこだ」


「最初に、世界線戦やら何やらやってきたのは、そっちではないか。そっちの方こそ先に謝れば済む話だ」


「私には悪気はない。それに神の行うことだ。それが正しい行いであり、間違ってなどないのだから謝る必要はない」


「神、神、神と会った時から五月蠅い奴だな貴様は……」


「神だからな」


「神だからなんだというのだっ。神というのは、人が持っているものを気軽に壊せるのか」


 シルベットは、気力を振り絞って天羽々斬に魔力を注ぎ直す。斬られた刀身が徐々に補修されていき、形状を取り戻した。


「そんな容易く破壊できる無神経な貴様に私は負けない……頭を垂られて謝らせるために、とことん懲らしめてやる!」


「……なんか、煩わしいなことになってきたな。こうも負けず嫌いだと、従わせるには大変そうだ」


 斬り飛ばされた天羽々斬の刀身を魔力で補い、瞳に覇気を滾らせるシルベットと、心底嫌そうに顔を歪めるルイン・ラルゴルス・リユニオン。対照的な二人は、それぞれの武器を構えて、如何にして相手を倒すか感覚を研ぎ澄ませる。ルイン・ラルゴルス・リユニオンのあの速度と威力と切れ味に少しでも引っかかれば、恐らく亜人といえど命はあるまい。


 先ほど、刀身を斬り飛ばされたのだ。速度に乗っている一太刀は斬り結んではならない。先ほどルイン・ラルゴルス・リユニオンとの連撃をしたが斬り飛ばされることはなかった。だが、無傷ではない。現在、天羽々斬は先ほどの連撃で刃こぼれを起こしていた。天羽々斬は魔力で何とか補っているが、どうなるかはわからない。魔力で補った刀身までも斬り飛ばされては、修復が不可能な程に破壊されてしまうだろう。そういった剣の状態からも仕留めるのならば、一撃しかない。だが、あの速度をどう捉えればいいのか……。


「武器が御所望かな銀龍の娘よ」


 その瞬間、彼女の上空から、高速で顕れた者がいた。


「あ、あれは……」


「なんですの?」


 ルイン・ラルゴルス・リユニオンの神域を打ち砕き、堂々たる姿で顕れたのは、筋骨隆々の武人である。


 背中に天羽々斬と同型の剣を携えて顕れた男性は、こちらを見上げるシルベットとエクレールを一瞥すると、懐かしむような顔を浮かべた。


「実に久しぶりだ。シルベットとエクレールよ。吾が来たからには安心せよ」


「誰だ貴様は?」


「誰ですのあなたは?」


 会った覚えがないシルベットとエクレールは、当然ながら突如として顕れた男性に警戒心を露にして問おた。


「そうか。直接会ったのはあまりないからな。当然の反応といえる」


 ガハハハと勇ましく笑うと男性は、彼女らに背中を向けると背中に携えていた刀剣を手に取り、抜いた。そして、刀剣の剣先をルイン・ラルゴルス・リユニオンに向けて構える。


「安心しろ。吾は貴様らの味方だ」


「スサノオ……」


「吾を知っていたかルイン・ラルゴルス・リユニオン」


「ああ。有名人だからな」


「そうかそうか。それは有り難い」


 ハハハハ、と豪快に笑うスサノオと呼ばれた男性は、刀剣に神力を込める。


「これから世界線戦とやらを始めようとして、並行宇宙を乱す貴様のの鼻っぱしを完膚なきまでにへし折って粉々にして、吠え面と泣き面をかかせる。それで、神界に連行だ。この意味はわかるな?」


 スサノオが問うと、すぐ思い立ったようにルイン・ラルゴルス・リユニオンは笑う。


「ああ。わかっているさ。そのために私は世界線戦とやらを開戦したのだから」


「ほう。吾をこの場までに降ろさせたのはわざとか」


「ああ」


「その辺りも問い質したいところだがな…………」


 スサノオの上空を見上げた。シルベットとエクレールも思わず見上げると、〈錬成異空間〉内の上空に三千もの色鮮やかな魔方陣が出現し、亜人たちが召喚された。


「どうやら息子の部下が援軍として到着したようだ」


 ロタン──レヴァイアサンを筆頭にした【創世敬団ジェネシス】グラ陣営が援軍として、シルベットたちを取り囲んでいた。





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