第二章 二十九
ルイン・ラルゴルス・リユニオンが人間界で世界線戦を開戦した、という噂は瞬く間に広がった。それは全世界線に開戦宣言をしたルイン・ラルゴルス・リユニオンによって命じられたものたちの手によって広がったものである。
彼はハトラレ・アローラ──南方大陸ボルコナの首都カグツチにある拘置場から脱獄させたロタン改めレヴァイアサンに開戦を宣言のことを伝えるようにあらかじめに命じた。それによって、彼女を含めたアガレスら【創世敬団】のグラ陣営総勢三千が開戦宣言した同時刻に総動員で全世界線に散らばり、世界線の開戦を触れ回った。そうした彼女等の行動により、世界線戦の開戦宣言は瞬く間に全世界線に広がり、神界へと届く。
ルイン・ラルゴルス・リユニオンが人間界で世界線戦を開戦した、という報告は最高位の神たちが招集した会議場を大きく揺るがした。
「ルインが人間界で世界線戦を開戦を宣言しただと!?」
神界の最高位の一人であるクニノトコタチはルイン・ラルゴルス・リユニオンの開戦宣言の報告を受け、腰を抜かさんばかりに驚いた。
「神という存在でありながら、争い事を催すとは、なんと呆れたことだろうか。増え続ける世界線に神手不足だというのに……」
全能たるゼウスが頭を抱える。
ルイン・ラルゴルス・リユニオンは創造と破壊の神である。神とは、並行宇宙の中で新たな世界線を創造し、生命の種子を撒く。撒いた種子から生まれた生命を神界の監視の下で育ませ、データを収集を行う。何らかの不手際が起きた場合は破壊して、また新たに作り変える。様々な世界線のデータを収集・研究を行うことが神の役割だ。神とは謂わば、生命の科学者なのだ。
そんなルイン・ラルゴルス・リユニオンが人間界で世界線戦を行うと宣言したという報告が、会議場の雰囲気を一変させるには充分といえる。
「人間界はルインの管轄外ではないのかっ! 他の神が管轄する世界線まで巻き込むような戦争などあってはならぬ!」
「ええ。詳細だと、ルイン・ラルゴルス・リユニオンは人間界でハトラレ・アローラの龍人が行使した〈錬成異空間〉内で世界線戦の開戦宣言をしたということです。クニノトコタチ様の言う通り、人間界もハトラレ・アローラも彼の管轄外ですね」
最高位の神々を前にして、淡々とした面持ちで報告者の女は硬い口調で言った。
神は絶対的ともいう権力と生命の源たる種子をもっており、数々の世界線で生命を育んできた神という存在は並行宇宙にある数々の世界線の頂点にして親である。全ての生命は、並行宇宙を作り上げた神の遺伝子を持っているといっても過言ではない。
並行宇宙に存在する幾千万とある世界線を一神が管理するには多く、それにより全体を管轄し、一定の基準で観察・研究をし続けることは全知全能の神であっても見通せないところもある。加えて、世界線の安定をするには望ましい状態を維持するためには、全体に渡って管理頻度をある一定の基準で保たなければならない。それは一神に出来る範囲を越えてしまう恐れがあるため、複数の神と役割と担当と分担して世界線を維持している。大体、一神におよそ千ほど、といった計算であるが、それでも増え続ける世界線を管理するには神手不足だ。
「担当以外の世界線に無断で入り込み、何かを行うこと事態、研究の妨げとなるため禁忌としている。それは管理者以外の神が手出しをすれば、世界が不安定になりやすいからだ。それによって、世界滅亡となりかねない。せっかくの研究がパーだ」
「それを破ってまで不法潜入しただけではなく、勝手に世界線戦というものを開戦したとはな。これは、明らかな研究の妨害だろう」
神々は口々と禁忌を犯したルイン・ラルゴルス・リユニオンに対して批難の声を漏らす。
「それに彼には、いくつかの余罪がある。例えば、生命の種子を持ち出して育てて、無理矢理に戦わせたり、管轄外であるハトラレ・アローラで気に行った種子との子を産ませたりと問題ばかり起こす。神という地位を剥奪させた方がいいのではなかろうか」
知識に貪欲な最高神オーディンが他の神々に提案する。
「ルインは、神として全ての生命を携わっているという自覚はないのだろうな。わざわざ負の感情を与えて、状態を悪くさせている。彼が管轄した世界線で取ったデータを見る限り、悪循環が三千年も続いているという。管轄していた世界線が軒並みに滅亡していることを考えると黙って見過ごすことはできない」
「彼の“絶望”に対しての好奇心だけは認めよう。だが、管轄外の世界線を巻き込まれては困る。自分の探究心によって管轄外である無事な世界線を滅亡されてはかなわんからな」
「全ての世界線を巻き込んでの戦争とは大きく出たもんだな。少しどうなるか見たいものだが、私の担当する世界線まで被害が及ぶのは御免蒙る」
「ルインには、重要人物として育てた生命に過度な試練を与えて、無理強いさせたりするからな。英雄として選ばれた生物は大変な目に合うだろうね。そうなれば世界線はきっかけを作れなくなってしまう」
神々は口々に意見を述べる。
「では、ルイン・ラルゴルス・リユニオンを神の座から失脚致しましょうか?」
報告者の女は神々に物怖じもなく淡々と問いかけた。
「それだけでは足りぬな。彼は世界線戦とやらをやりたがっているようだからな。やらせとけばいい。ただ──我々もその世界線戦に参加し、数々の世界線にいる優占種を援護する。そして、我々の神力をもってお灸をすえてやる」
背中に大剣を背負った神が意気揚々と立ち上がった。そのまま、前へと進み出る。
「ん? スサノオか。世界線戦に参戦しては、奴の思うツボではないのか。お灸をすえるには、やはり神という権限を剥奪させて優占種以下に堕とした方がいいのではないのか」
スサノオと呼ばれた男性はノシノシと皆の前で立ち止まると、ゆっくりと会議場を見渡しながら口を開く。
「それでは不十分だ。凝らしめるには、してしまった重さを知らなければ、反省はしないだろう」
「妾は、争い事を嫌いじゃ。そんな暴虐残虐不潔な戦争などに参加はしたくない」
会議場の前席にいた腰まで届く艶やかな黒髪を結い上げた女性が厭そうな声を発した。切れ長の綺麗な目をさらに細めてスサノオを見据える。
「姉上か。人間界──特に日本に関しては我々の管理下だ。特に姉上が最高位だ。姉上が管轄する国を戦場にされて憎たらしくは思わんのか?」
スサノオに姉上と呼ばれた女性──アマテラスに問おた。
スサノオの問いに、アマテラスは深いため息を吐く。
「……憎たらしいよりも妾は憐れだと思うぞ。最近の倭は、少しばかり弛んでおる。努力をするといった過程を得ず、如何に努力する過程をせずに効率よく得るといった思考で、本来は努力をして得るはずだったものが抜けておる。そんな人の世界に、価値はない」
「価値はない……姉上は、倭──日本が神によって戦場になってもいいのか?」
「そうは言っておらん。先に言ったはずじゃ。争い事は嫌いじゃと。争い事は争い事しか生まぬ。争い事で科学が発展するが、それによって便利になったことにより失われるものは多い。それに気づかない、気づいたとしてもこれまでの生活を捨てることなど出来んじゃろ」
「つまり姉上は何が言いたい?」
愚痴るアマテラスにその真意をスサノオが問う。
「楽をすると、壊れるということじゃ。本来、生物としての働きを失うと、腑抜けたものになる。気づいた時にはもう遅い。努力をせずに得たものが、楽して得たものが、意味がなくなった場合、恐らく立ち直れないじゃろうな。今大戦を起こせば、確実に多くの人は立ち直れず、精神を負う。つまり争い事を起こすなということじゃな」
「つまり大戦は起こすな。楽を覚えた人は時期に滅ぶということか?」
「口のききように悪意が感じるな……。それでは妾が人を見捨てたようではないか」
「違うのか?」
「違う。妾は国譲りした身なのじゃ。管理は殆ど行ってはいないのに、妾の一言でどうこう出来ぬ。大体、人が意味を気づかなければ意味がない。幸い、全ての人が気づいてはいないから何とか瓦解せずにいる。これからの撒き直しもあるかもしれないという幻想を妾は抱いているのじゃ。妾の幻想を大戦なんぞに壊されては困る」
「つまり人を見放したわけではなく、人に少しでも希望がある以上は大戦は赦さないということか?」
「大体はそうじゃな。ただ、ルインの世界線戦を止める効率的な代打案はない。思いつくまでは、何も言えぬのじゃ。ただ、争い事を起こさない方向性で話を進めてほしいという意思を込めて妾は参加せぬ」
「そうか。単なる意思表示か……」
そういうことじゃ、とスサノオの言葉にアマテラスは頷いた。
姉弟が話が終わったところで、報告者の女は、毅然として言い放つ。
「アマテラス様、残念ですが……既に、戦争は始めてしまったようです」
会議場は、一瞬で水を打ったように静まった。
「……ど、どういうことじゃ…………」
一瞬の間をおいて、アマテラスは思わず立ち上がる。そのまま席を離れ、報告者の女へと、スタスタと歩いていき、問い詰める。
「争い事が始まっている? 妾はそんなこと聞いておらんぞっ!」
「いいえ。言いましたよ、最初に。開戦宣言したと……」
胸ぐらを掴んで振るアマテラスに報告者の女は、冷淡に伝える。
「それは開戦宣言といったから開戦ではないじゃろうてっ!」
「開戦宣言は開戦宣言に過ぎませんが、開戦宣言した後の今は開戦したと考えてよろしいでしょう」
「誰か止めんのかっ! そんな争い事、止めんのかっ!」
「申し訳ありませんが、神に逆らう優占種がいますか?」
「おるじゃろ! 現在の倭には、無宗教なんて当たり前じゃろ!」
「世界線の存在も、異世界の事情もわからない人間界では、神と耳にしても、止めようとは考えず、面白がってスマホやら何やら撮ってSNSに載せるだけです」
「……何を言っている? ちゃんと、妾にわかる言葉で申せ……」
報告者の女が言った言葉に、アマテラスが首を傾げる。
滅多に現世に降りていないために、現代日本語がまだ会得していないようだ。報告者の女は、深いため息を吐いてからアマテラスに言葉の意味を伝えたが、理解するまで三十分もの時間を浪費した。
◇
金と銀の少女たちは爆発的な踏み出しによって、飛翔。加速する。
ルシアスとリリスを討った時行使した〈重力〉を操る術式だ。火球が堕ちていくような加速で神とくどく名乗るルイン・ラルゴルス・リユニオンに肉迫。それぞれの武器を振るう。
ルイン・ラルゴルス・リユニオンは手を翳して、縦幅が長く雫型の〈結界〉が展開する。
カキンッ!
金属のような硬いものがぶつかる音が周囲に響いて、シルベットとエクレールの斬撃は拒まれた。
「ぬ──」
「く──」
亜人とは違う神聖性を帯びた〈結界〉は、シルベットとエクレールは拒まれて悔しげに顔を歪めた。
「ふふふ、それだけか憐れで愚か者の仔龍……」
「まだだ!」
シルベットは唐竹割り、袈裟懸けからの斬り下ろし、次いでゴルフスイングのような一太刀と斬撃を続けざまに繰り出す。
神が行使するとあってシルベットの〈重力〉を要した連撃を受けてもなお、〈結界〉はびくともしない。
「……なんて、頑丈なんだ……」
「銀ピカ!」
不意に声をかけられて振り返ると、エクレールが両の掌を前に突き出して、黄金の光が輝く弾丸を構築していた。
エクレールは、シルベットの戦いの様子を窺いながら、物理的な攻撃は効果はないと判断し、魔術での攻撃に移っていた。両の掌を前に突き出して、魔力を掌の中心に溜め込む。掌に黄金の輝く魔方陣が顕れ、急速的に複数の魔力弾が構築されて、放たれる。
「避けてくださいまし!」
「うむ」
シルベットが頷いて、ルイン・ラルゴルス・リユニオンから距離を取る。それと同時に、エクレールは黄金の弾丸を放つ。連弾で。
次々と、黄金の弾丸は吸い込まれるようにルイン・ラルゴルス・リユニオンに注がれる。
一気に五十、百、二百と放たれても華美で静謐と重厚を感じさせる縦幅が長く雫型の〈結界〉には傷一つも付けられていない。それは、魔力弾が千、二千を越えてもびくりともさせること出来なかった。
それでもなお、魔力弾を放つエクレールにルイン・ラルゴルス・リユニオンがうんざりした面持ちで彼女の顔を見ると、笑っていた。それを見て、彼の心中に一抹の感情が募る。神界に生まれ、神として育ってきた彼にとって初めて抱くそれは──
恐怖、であった。
ルイン・ラルゴルス・リユニオンは、その一抹の恐怖が教える方へ──頭上へと顔を向けた時に、恐怖を知る。
「喰らえッ!」
がら空きだったルイン・ラルゴルス・リユニオンの頭上に向けてシルベットが天羽々斬を振りかざして、今にも振り下ろそうとしていたからだ。
「く──」
ルイン・ラルゴルス・リユニオンは咄嗟に、左へと躯を倒して避ける。
シルベットの斬撃は、ルイン・ラルゴルス・リユニオンには惜しくも届かず、スーツに擦っただけで、ダメージを与えることは出来なかった。エクレールの弾丸も同様である。
「あと少しか」
悔しがるシルベットはすかさず、攻撃に移る。ルイン・ラルゴルス・リユニオンに再び、肉薄して、斬撃を振るう。
ルイン・ラルゴルス・リユニオンは、ある術式を行使する準備を整えながら、掌からひと振りの剣を取り出す。
剣全体の形状は、刀身の方に傾斜した鍔と、その両幅についた飾りが特徴的な広い刃渡りは三、四メートルもある大剣である。人間界では、十五世紀から十七頃にかけて、スコットランドの高地人の戦士“ハイランダー”らが使っていたクレイモアに形状が似ている。
クレイモアと形状に似た大剣を召喚して、シルベットの斬撃を受け止めると、一太刀、二太刀、三太刀と矢継ぎ早に大剣を振るった後に、そのまま鍔迫り合いと持ち込む。
「私に大剣を召喚させるとは、恐れ入ったよ。やはり私が世界線戦の英雄として選んだだけのことはある」
「少し追いつめられてもまだ余裕さを保とうとするとはな。私としても恐れ入ったとしか言えないな……」
「いやいや……こちらこそ楽しませてもらっている。愉快だ愉快。実に、愉快だ。神である私に刃を向けること時点でも恐れ入ったというのに……。まさか一瞬でも追いつめられるとはな」
「そうか。それはよかったなッ!」
シルベットは神らしくない言葉と微笑みを向けるルイン・ラルゴルス・リユニオンを押し返す。
警戒しながらシルベットは一旦、距離を取る。エクレールもそれに続く。
そんな彼女たちを一瞥して、ルイン・ラルゴルス・リユニオンは彼女たちを様子を窺いながら、愉快げに嗤う。
「ハハハハハハ…………無策に向かってきても哀れなだけだ。神に何の策も立てずに向かってきて、敵うわけないこと知っただろう。時間を与える。もう少し策を練ってくれてもいいぞ。私を愉しませるためにな」
「どういう意味だ?」
「このまま戦っていても、同じ策は通じるわけがない。少しは追いつめたのだ。神として、ちゃんと時間を与えてやるから、しっかり策を練ることをおすすめしょう」
「……ほう。神という存在はこうも憎たらしいものだったとは知らなかった……」
「ええ。かなり上から見てますのね」
「上だからな。当然だ」
悪びれる様子を一切ないどころか、当然だと言わんばかりにルイン・ラルゴルス・リユニオンは嗤った。
生来の性格なのか、それとも神故の余裕なのか、シルベットとエクレールがどんな言葉を向けても、少し機嫌が損ねたとしてもからかうような物言いは変わらない。
ルイン・ラルゴルス・リユニオンが策を練る時間を与えたのはむしろ好都合といえる。それを易々と受け取っては、敵に塩を渡されたようで釈然としない。シルベットとエクレールは彼に警戒しながらも、目で合図する。
[どうしますの?]
[真っ向から攻めてもあの〈結界〉に阻まれるだけだな]
[そうですわね。相手は少しアレですけれど神ですから、容易に塞がれてしまうと考えてよろしいですわ]
シルベットとエクレールは武器を構えながら、ルイン・ラルゴルス・リユニオンは注視する。
「そういえば……だが、貴様は神として、何かしたんだ?」
シルベットは、ふと思い当たったかのように問うた。
その質問の意図を神であるという余裕からかルイン・ラルゴルス・リユニオンは考えることなく、答える。
「私──主に神全ての仕事だが、並行宇宙の中で新たな世界線を創造して、生命の種子を撒く。撒いた種子から生まれた生命を観察と研究をしてデータを収集を行い、次の世界線に役立たせるのが基本的な仕事内容だ」
「ほう。なるほど。で、創造と破壊の神と名乗っていたが、壊すのは、貴様だけの仕事か?」
「私だけではないが、私は創造から何らかの異常や不手際が起きた場合は世界を破壊して、また新たに作り変えるところまで行っているよ」
「ほう。だからか」
ルイン・ラルゴルス・リユニオンの言葉を聞いて、シルベットは呟く。その言葉に彼は首を傾げる。
「なんだい? 今さら神の偉大さに気づいて、反逆した愚かさをし────」
「────どうりで、ルイン・ラルゴルス・リユニオンという神の名を聞いた覚えがないわけだな。周囲の神が当然のようにこなしている仕事をしているだけだからか、何の神話も残してはいない。だから神話のようなものが欲しかった。それは私らのためではない。世界線戦を起こした神として全ての世界線に名を残したいだけではないのか」
シルベットは、ルイン・ラルゴルス・リユニオンの言葉を遮るように続ける。
「さっきから貴様はまるで、神という身分ばかりを振りかざしているように感じる。それだけではない。生物の命を軽んじているように感じたのも、自分が創った生物でさえ失敗作だったら平気で殺せるからか」
「あり得ますわね。あと、周囲の神が偉大過ぎて何も残せなかったのもあり得ますわ」
エクレールがシルベットの話に珍しくも同意する。
「そうだな。もしくは崇められることを何一つもしていないくせに、手っ取り早く名を残し崇めさせたいというのもあり得るかもしれん」
「銀ピカにして、いい線いっていると思いますわ。それならば、世界線戦を行うことは自分の名を残したいがためになりますから。神という存在という権力を振りかざして、生命を玩具にしているのも、神界では立場が下だから、少しでも立場が弱いわたくしたちに八つ当たりしているだけに過ぎませんわね」
「つまり、神の脛を少しだけかじっただけの小物だな。平気で世界線戦なんてもの開戦できるのあるな。私は神がどんな偉大だか知らないが、神という権力ということだけを振りかざして自分の育てた生物に愛着さえも湧かず、傲っているだけの貴様など、神の名を語らせるわけにはいかないな。貴様は神モドキで充分だ」
「ほう……」
シルベットとエクレールの挑発に、ルイン・ラルゴルス・リユニオンから余裕だった微笑みが消えた。
「せっかく英雄の一人に選んで、ここまでお膳たてしたのに……自らか棒に振るつもりかい?」
「そんなものを願ったことはない」
「憧れていたではないかな」
「知るか!」
「そうかい。じゃあ、私も言わせて頂こうか」
「何をだ神モドキ」
「シルベットは少し口に気をつけるべきだ。次、神モドキって言ったら────」
「要件は、手短に話せ神モドキ」
「銀龍ごときが……」
神モドキという言葉に対して注意するのを遮り、また神モドキと呼んだシルベットにルイン・ラルゴルス・リユニオンの表情がますます険悪なものに変わった。
「銀龍──いや、半龍半人の半人前が神である私を愚弄したな……」
「愚弄したつもりはない。ただ、神に似て非なるものであると感じたままに口にしただけだ」
「エクレールもだ」
「それがどうかしてまして」
「これからシルベットとエクレールに神罰を与えてやる……」
「何をムキになってますの……」
「そうだ。別に当てたわけではあるまいし、何故怒る? まさか図星だったのか……」
シルベットとエクレールはニヤリと微笑んだ。してやったりとした彼女の表情に、ルイン・ラルゴルス・リユニオンは呆れ果てる。
「私を挑発し怒らせたからといって、隙を与えていると思ったら大間違いだ。はぁ……大事な逸材を傷つけるのは惜しいが、少しは格差を教えてやろう」
ルイン・ラルゴルス・リユニオンは両の掌を広げて、上空に向けると、魔方陣に似た紋章が現れた。
荘厳に輝く魔方陣から、ひと振りの槍が召喚される。
大剣を魔方陣の中に入れて、代わりに静謐と重厚を感じさせる血のように深紅の巨大な槍を手に取って構えた。
「神の権限に置いて、貴様らをお仕置きしてやるっ」




