喪失-Tear-
(ユト…それが、君の名前?)
(そうだ。そう呼んでくれたまえ。)
(わかったよ。)
「あの…申し訳ないのですが、私を…守っていただけないでしょうか。できるなら、班長や仲間も連れて帰りたいのです。」
彼女は必死な顔でこちらをみる。
(さあ、そんな女性を見てどうするんだい?勇者様。)
「もちろん。」
(ユト、力貸してくれよ)
(当然だ。それが私の役目だからな。)
ユトの言う「勇者」という言葉に実感はわかないが、たぶん、これがこの世界ですべきことなのだろう。
*
必死で逃げていたのだろうから仕方無いが彼女の案内はとても頼りになるとは言えなかった。
しばらく適当に歩いていたが、いつからかユトが案内を始めた。まるで道を知っているようだった。
そして、またしばらく歩いた後にそれは見つかった。
いくつかの、人間の物と思われるパーツ。
それが本来ついているべきである体は、どこにも見当たらなかった。そして、怪物もまた、既に姿はなかった。
彼女は駆け出し、膝をおとして、そのバラバラにされた体を胸に抱き、泣いていた。
どれだけそうしていただろう。
やっと泣き止んだ彼女が、まだ涙のあとを残しながらこちらを見た。
「すみません。わかってたけど、見ちゃうと…」
「…悼むのは、当然だよ…」
私でさえ、いくらその時いなかったとはいえ救えなかった命への喪失感はすさまじい。
なら、彼女のそれは、より深く傷を残す事になるだろう…