残された者-Alive-
怯えていた彼女はビクリとしたが、こちらが普通の(謎の存在が融合?しているのを普通といっていいかわからないが)人間であることがわかると、安堵したような表情になった。
「…その…ありがとうございました…」
無防備に飛び出して、例の助けがなければ死んでいたかもしれない自分が「助けた」とは言えそうもないが、彼女は知りもしないから俺が恩人だということになるのだろう。
だから、できるだけにこやかに答えた。
「いいんだよ…。それより、君はどこからきて、なぜ襲われていたか。教えてもらえないかな。」
彼女は怪訝さが混じったような悲しい顔をした。当然だろう。別世界なんて、俺もこんなことになるまで存在すら知らなかったのだから。
「不思議かもしれないけど、一旦、詮索しないでもらえると嬉しいかな。」
「…申し訳ありません。えっと…私は、リグレイム王国騎士団、調査部隊マンド班のフランと申します。今回は、森の調査が始まってから初めて濃湧魔領域に侵入することになったのです。侵入後、程なくして濃いマナの影響を受け強力になった植物型の怪物が現れ、マンド班の…私の仲間のほとんどが殺されました。私と班長はなんとか逃げ出したんですが…今度は人型のに…見つかって…班長が…」
彼女は一つ、深めの呼吸をした。
「班長が…私を逃がしてくれて…あとは…もう、お知りになっている通り…」
「私、何の役にも…たてなかった。…」
彼女は、しゃべっている途中からずっと涙を流していた。
「教えてくれてありがとう。君の仇は、俺が討った。君はずっと後悔して、背負い、引きずっていくかもしれない。それでいい。でも、いつか前を向けたときに、班長さんみたく誰かを救えるようになってほしい。…と、俺は思うな。」
「…ありがとうございます。なにか少しだけ、のどにつっかえた塊が削れていくような、そんな気がします。『救われる』ってこういう感じなんですかね。」
「あ、そういえば!あなた様は『森』どころかこの国の事もお知りにならないご様子でしたね。お礼と言ってはなんですが、ご案内、致ししましょうか?」
「ありがたいな。是非お願いするよ。」
一旦会話が終わると、頭のなかに例の存在の声が聞こえてきた。
(ふぅん。なかなか熱血というか。嫌いじゃないよそういうの。)
「!聞いてたんですか…」
「…?どうかされましたか?」
「あ、いや、なんでもないよ。こっちの話だから…」
(聞いてたもなにも、先程の戦闘前は中途半端だったから口を借りたが君と私はもう一心同体なんだ。だから会話も「考えるだけ」でできる。)
(なる…ほど…?)
(ところで私を謎の存在よばわりしたのは頂けないな。うん。ユトと呼んでくれたまえ。)