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野盗戦

とりあえず色気のない野盗と男主人公戦はまだ続きます。

 真っ暗の森に眩く白い光が満ちる。


「ぐ、ぐあああああ!」

「なんだあああああっ?」


 網膜を焼かれ、うろたえる賊たち。それをジョナンが傍観しているわけもない。マントを翻し、背中から武器を取り出した。


「そっ、〈素〉使いだ!」


 そう叫んだ、ほんの少し物知りな野盗の脳天を一打する。


〈素〉使いの青年が振りかぶったものは、折り畳み式の鉄の棒だ。


「が?」


 暗器で一打されてそいつが昏倒するのを見届けてやる義理は毛頭ない。すぐ隣にいた髭面とふとっちょを蹴りと棒の一撃で沈黙させる。


「このおおおっ」


 目が見えないまま破れかぶれで棍棒を振り回してきた長身の男は、先程倒した髭面に躓いてよろけた。そこを、後頭部一撃。一旦距離を取り、息を吐く。倒れた野盗に野盗がぶつかって転んでもがいているので、その隙を突かれることはない。


「でやっ」


 もう一度棒を振るう。この折り畳み式棒は一見何の変哲もない、身長の半分ほどの長さの取っ手がついたただの鉄製の棒だが、頭部や鳩尾、あるいは喉を強く突けば確実に人間を行動不能にできる。


 相手は食後間もない、準備万端の時である。「自分たちが今から不意打ちする」という、最も油断した人間の心理にジョナンの襲撃は深く噛み付いていた。


「げ!」


 殴られてかがみ込み、嘔吐物を草の上に撒き散らす野盗。ジョナンは容赦なくその背を足蹴にした。


 フードつきのマントは視界を悪くし、動きの妨げになりそうにも思えるが、彼はそれで闇雲な攻撃を受け流し、見事に隙を作って棒術で攻める。


 またたく間に倒れ伏した野盗の山ができた。ジョナンは倒した相手を数えてはいなかったが、優位に立っている事は分かる。


 しかし――


「のやらあああああっ」


 倒れた連中を跨いで、新手が襲いかかってきた。視力をかなり取り戻しているらしい。


(拙い!)


 焦る。

 彼の唯一の勝算は、野盗たちが闇夜にいきなり目くらましの光を食らったところを、反撃の隙を与えず倒してしまうことだった。


「くっ」


 鎖が足元に迫る。ざうっ!と音を立て、草まみれの地面にやすやすと突き立った。まともに食らえば致命傷だ。


(光が弱かった……! やはり夜は……)


 誤算を分析する間もなく、今度は突進してくる野盗に突き飛ばされそうになる。


「っ!」


 声さえ出せず、フットワークで避ける。ずるりと滑りかけ、思わず手をつく。そこに徒手空拳の攻撃が来た。

 刹那の差で拳をやり過ごす。が、


「――――?」


 不意に足首を掴まれた。先程気を失わせたと思った野盗だ。地面に無様に這い蹲りながらもしっかと青年の動きを封じている。

 にやり、と嫌味な顔が蒼白になりながらも、下半分を歪ませているのが見えた。


「ちっ」


 左手に持った棒で足元の野盗の首を打つ。その隙に向かってきていたほうの野盗が距離を詰めてきていた。


「死ねやっ!」


(やなこった!)


 地面で体を支える右手に力を込める。溜めに時間がかかる白い光を使う余裕はない。


(間に合え!)


 農作業で鍛えたのか、太い腕で殴りかかってくる野盗。その拳が眼前まで迫った瞬間――。


 ビン!


 青年の右手の周りが緑色に輝くと、雑草の数本が凄まじい速度で伸び、敵の腕を突く。


「うあっ?」


 目算を誤ったと判断していたときから溜めていた緑の〈素〉の力だ。草を急成長させるくらいなら、先程の目くらましなどとは違い、短時間の集中で発動することが出来る。


「おらっ!」


 一瞬で体勢を立て直したジョナンは素手の野盗に頭突きをかます。どんな強者でも、ココは弱いのだ。


「$%&*¥~~~!」


 声にならない悲鳴が上がるが、気にしてやらない。


(そもそもてめえが男じゃなく……)

「こんにゃろっ!」

「ちっ!」


 脳裏をかすめた無いもの強請りな妄想を振り払い、鎖(目を凝らしてよく見ると先に刃がついていた)を振るってくる野盗を蹴倒す。刃が頬を掠めた。鮮血が数滴薄闇に舞う。構いはしない。


 棒を振る。


 気絶で済ませるわけにはいかなくなった。襲い来る大男の鳩尾を素早く二度、三度棒の柄で突き、さらに押す。


 ガッ!


「ぐっ?」


 瞬間、脳天に激しい衝撃が走った。


「手間取らせやがって」


 いつの間に回りこまれたのか、背後で巨漢がジョナンを棍棒で殴り倒していた。


 視界に星をちらつかせながら、なんとか昏倒だけは免れるジョナン。だが、その視界にまだ無傷の野盗が四、五人襲い掛かっている姿が入って――。


(やべ……)


 危機感が胸を支配する。頭は……痛いというより、……アツイ。


(こいつら、思ったより戦い慣れてやがった。こんなことなら、こんなことなら……)


 力の入らない足に、危機感が絶望に変わる。


「~~~~~!」

「――――っ!」


 野盗たちの勝ち誇った罵声も、うまく聞き取れない。ただ、死神の鎌が自分めがけて降りてくるのが分かる。


(こんなことなら……、女を連れてくるんだった……)


 そんな思考が過ぎった。

 情けない願望だった。あまりに情けなくて……。


(くそ、死ねるかよ! まだ……話も始まってないこんなところで!)

 

 そして、思い出された弱々しい笑顔が心に弾丸の如く撃ち込まれ、生存本能が弾けた。


(ジョナンはなぜかそのとき、無意識に口の端を上げていた)


 脳内文学が始まる。彼が冷静になった証拠だ。


(可笑しかった。可嘲しいのだ。嘲っているのは自分だ。こんなことでは死なせてもらえない、ジョナン自身だ。それを理解したとき、ジョナンの体が気絶寸前とは思えぬ動きを見せた)


「なっ?」


 野盗たちの動きが一瞬固まった。戦意も意識も失いかけているはずの相手が突如弾けるように顔を上げたことに対する動揺か。


 そして、ジョナンは地に手をついた。


「いっ」


 自分でも何を言おうとしたか分からないまま、地面を転がり、野盗の攻撃を避ける。脳内での文章ほど鮮やかではなかったにしろ、直撃は免れた。振り下ろされたシミターは、浅く彼の肩を切り裂いただけだ。


(必死にかわしながら、ジョナンの思考力は回復しつつあった)


 そんなふうに、自分を小説の主人公にすると、本当に回復する気がしてくる。そうだ。死ねない。あの笑顔と、自分のために――。


(時間を稼ぐんだ!)


「くそっ! くそっ!」


 思いがけず攻撃をかわされた怒りで、独りムキになって斬りかかってくるシミターの男。他の者は置いてけぼりだ。それくらいに疾く、青年は草の上を転がって移動していた。


「ちいっ」


 起き上がる余裕はない。少しでも止まればあの三日月のような刃物の餌食だ。


「――――っ!」


 声を出すことすらままならないまま、青年は再び右手から〈素〉の光を放つ。特に何色をイメージして集中したわけでもなかったため、でたらめに赤、青、緑の光がシミターの男の顔前で明滅した。

 赤い熱も、緑の生命力もない。青い風も起こらない。創生力なし。未熟な〈素〉使いが失敗して放ってしまう、ただの光だ。が、意表をつくことだけはできた。


「うっ?」


 短い悲鳴を発する男の後ろから、追いかけてきていた別の野盗の驚きの声も混ざる。


(よしっ!)


 つくった好機を逃さず、青年は体を起こそうとした。残りの野盗は五人ほど。うまくすれば、勝てる。


 しかし、気絶したと思っていた野盗が数人、起き上がりかけていた。再び〈素〉を使おうと右手に力を込めるも、投げナイフが飛んできて集中を乱される。


「なめたマネしやがって」


 追い詰められた襲撃者を、嬲り殺しにせんと取り囲んでくる野盗たち。


(どうする?)


 そこへ、


「おい、まだ終わってないみたいだぞ!」

「ディペンズの人が危ない! 早く加勢するんだ」


 松明を持った集団が野盗のアジト、洞穴の周りへ森の中から雪崩れ込んできた。数は、ざっと十。みな、軽装ながら武装している。武器は短剣やら石槍やらハンマーやら。そんな連中が森の奥から現れ、突撃をかけたのだ。


やっと話が動くところまでかけました。


ちなみにジョナンの武器はワンピースのナミが使っている棒をイメージしてもらえば分かりやすいと思います。

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