STAGE1
「はぁ・・・熱い・・・」
白髪の女は呟いた。
彼女は自宅へと帰るべく荒れた細道を歩いていた。
東京都葵区無能力者生活区域1号、文字通り無の応力者が住む町である。
生活区域と名前付けられているが、建物は総じて古びているし、瓦礫も平気でそこら中に散乱している
スラム街、と呼んだほうがしっくりくる惨状だ。
今の世情は能力の有無で待遇にかなりの差がついている。給料。保険。生活区域。店での扱い。
上げていけばキリがないほどに。多くの人がこの格差に嘆き、自分に能力がないことを呪っていた。
「よぉ。おねーさん」
誰かが近くで誰かを呼んだ。
(今時ネーチャンって・・・死語だと思ってた)
そんなことを思いながら家に向かって歩いていると
「おっと。無視はよくねーんじゃないかな?」
男が女に出て道を塞いできた。
その男は気崩した制服にアクセサリーを目一杯装備している、いわゆる"チャラい"学生だった。
「あ、私に言ってたんですね。」
女は自分に向けられた言葉だと全く気が付いていなかった。
「そうそう。おねーさん可愛いね。よかったら俺たちと遊ばない?いい店知ってんだよ俺。」
俺たちと言われて回りを見てみれば、声をかけてきた男と同じような恰好の男が群がっていた。
(うわー・・・めんどくさいのに絡まれちゃったなぁ・・・)
「いえ。私はやることがあるので遠慮します。それでは」
女子はできるだけ穏便に(当社比)断りを入れ歩き出そうとした。
「だっせぇ!フラれてやんの」
誰かはわからないが声をかけた男を煽っている。
「うっせぇ!おねーさんちょっと待ってよ。俺いい店知ってるっていってんの。せっかく声かけたんだから付き合ってよ。」
引き止められてしまった。どうやら馬鹿にされて何としても連れて行こうとしているのだろう。
2900年代となった今でもガラの悪いいわゆる不良といわれる人間は存在していた。
「いえ、だから私はやることが・・・」
「うるせぇ!いいから来いっつってんだよ!無能力者の分際で俺様に逆らってんじゃねぇよ!」
どうやらこの男は能力者らしい。能力の有無で待遇が変わるのと同じように、能力者は無能力者を馬鹿にし、蔑んでいる。
なのでこのような言葉は割と普通に聞かれる暴言である。
(いや本当にめんどくさい人に絡まれた。どうしよっかなぁ・・・)
「おい!聞いてんのか!さっさと来い!痛い目見たくはねぇだろ?」
ニヤけながら女の腕を掴んで言った。こういった声をかけてくる人間は大体可愛らしい女性の身体が目当てだろう。
このような行為をしているのだから、能力も大したことがないのだろう。下の者にしか大きな顔ができない小心者だ。
「はぁ・・・あなた恥ずかしくはないんですか?下だと思った人に威張り散らして。機嫌が悪くなったらすぐ手が出る。
男として・・・いや、人として直したほうがいいと思いますよ?見ていて恥ずかしいですし。」
女は思ったことをストレートに言ってしまうタイプの人間のようだ。
「・・・OK。あんたは痛い目をあわなきゃわからないみたいだな。あーあ。おとなしくしていれば
気持ちよくしてあげようと思ったのに。」
顔を真っ赤にしながら男が女に迫っていく。ストレートに言われすぎてご立腹だ。
「さーて。お仕置きの時間だ」
男の右手が大きくなり、鉄のような銀色になる。
「俺の能力は体を硬質化させることができんのよ。これで殴られたら怪我じゃすまねぇぞ?
土下座して謝るなら今のうちだぜ?」
腕を見せながら、男は言う。おそらく、これまでこのやり方で黙らせてきたのだろう。
男の能力をみて女は恐怖し、土下座を・・・
「あー。そんな顔で見られても土下座はしませんし、付いても行きませんよ?アニメの小物みたいで
見てみて恥ずかしいです。私だったら飛び降りちゃいますね。」
しなかった。またしても煽るように男にむけて言葉を放った。無表情で放たれる棘のある言葉に
男は一瞬呆然としたが、すぐに立ち直り目を血走らせながら女に向けて走っていく。
「黙れや!女の分際で!もう連れていくのはやめだ!ここでぐちゃぐちゃにしてやる!」
激高し、変化させた右腕を振り上げ、女突進する。男と女だ。力の差ははっきりとしている。
男の腕が振り下ろされ、女に直撃・・・