09 夜の密会
結局、私はチェリーさんの仕事が終わるまで影の中で待ってた。
外から夕焼けが見えた。
「じゃあ私そろそろ帰りますね」
「ああ、おつかれさん!」
「お疲れ様っ」
店主さんと奥さんがチェリーさんを見送った。
私も後を追いかける為、チェリーさんの影の中に入った。
しばらく歩くと、チェリーさんは小さな家の前で止まった。
ここに住んでるのかな?
鍵を開けて中に入ろうとしたからやっぱりここがチェリーさんの家らしい。
ランプに火をつけ家の中を明るくするチェリーさん。
休む間もなく、料理の支度を始めた。
自炊もちゃんとしてるんだなぁ。
コンコン・・。
小さなノック音が聞こえた。
チェリーさんは料理の途中だったのに慌てて扉の方へ向かう。
鏡で髪を整え、スカートの皺を直して、そっと扉を開けた。
・・・・あ。
「チェリー・・」
「早く、入って」
カウンターにいた男の人だ。
男の人は家に入ると、チェリーさんは人目を気にしながら扉を閉めた。
「誰にも、見られなかった?」
「ああ・・・」
「アラン・・・」
「チェリー・・・」
ひえええ・・・!
二人ともいきなりお互い抱きしめ合っちゃった・・!
もしかして、と思ったけどやっぱり・・・!
「良い匂いだな」
「ええ、貴方の好きなものばかり作ったの。・・今日で最後だから」
「・・・・チェリー・・やはり、結婚するのか」
「・・・・・・・・・・・・ええ」
悲しそうなチェリーさん。
アランさんという男の人も悲しい目をしている。
「脅してきたあいつのいう事を聞く必要ない!酒屋のご夫婦は良い人達だ。話せば分かってくれる」
脅し?!どういう事・・・?
「とても話せないわ・・!父は本当は病気じゃなく、借りたお金をそのまま持って逃げたなんて・・!!」
ええええ!?
本当はチェリーさんのお父さんは病気のふりをして、人の良い店主さんに沢山のお金を借りて、チェリーさんを置いて出ていった。
残されたチェリーさんは店主さん夫妻に申し訳なくて、父は遠い病院で治療していたけど亡くなったという事にして、借りたお金と父の罪滅ぼしの為に働いているんだって。
何て父親だ!!!
でもその事が店主さん夫妻の息子にバレて、この事をバラされたくなかったら自分と結婚しろと脅してきたというのにも腹が立つ!
「あんなに優しい店主さんと奥さんだもの・・。真実を知ったらとても悲しむわ・・。私が彼と結婚する事で、お二人はとても喜んでいる・・黙っていれば済む事なのよ・・」
更に息子(名前はサキニー)はこうも言ったらしい。
─もしどうしても嫌だというなら、借金とは別に俺に200万ベルン払え。
そしたら結婚の話はなかった事にしてやるし、黙っててやる─
チェリーさんの残りの借金額は80万ベルン。
合計280万ベルン。
どこまで卑怯なんだ息子!!!
とても店主夫妻の子供とは思えない発言!
「ごめんなさいアラン・・ごめんなさい・・」
「君の所為じゃない・・・くそ・・俺がもっと稼ぎの良いハンターなら・・」
悲しみながらまた抱きしめ合う二人。
アランさんはハンターとしての生計がうまく行ってないよう。
お互い愛し合っているのに、チェリーさんは違う人と結婚しなくちゃいけないなんて・・。
・・・・・・・・・・・よし!
私はチェリーさんの影からこっそり抜け出した。
移動石を握って、一旦カムイノクニへ戻る。
「・・・・ツキト様は・・いませんね・・・」
ツキト様のお部屋。
私も一緒に使わせてもらっている。
つまり、同室。
まあ従魔だから同室なのはおかしくない・・はず。
ツキト様はこの時間は夕食の時間だから、部屋にいない筈だけど一応中を確認。
・・・よし、いない。
私はツキト様から貰った私専用の鏡台の引き出しを開け、木箱を出す。
「・・・ツキト様、申し訳ありません」
私はツキト様に心から謝罪をして、木箱を開け、中に入っていたものを握り、再び村へと戻った。