021 ツキト様のお忍び
「兄上~兄上~?」
城の中をホシトがぱたぱた走り回る。
本日のホシトの髪型はポニーテールだ。
愛しの兄上♡に剣の稽古を付けてもらう為、ツキトの姿を探している。
平和なカムイノクニだけど、武術の鍛錬は怠ってはいけないというのが昔からの教えだ。
いつ何時、何が起こるか分からない。
傷つける為でなく、大事なものを守る為に強くなれ。
先祖代々の教えだ。
ツキト達の世代まで、その教えは大事に守られている。
特にツキトの母はカムイノクニで一番の腕を持っており、ツキトも相当鍛えているがまだ母には敵わない。
それでもツキトに勝てるものは母親以外で誰もいなかった。
「ランマルっ兄上いた?」
しゅっとどこからか姿を現わしたランマル。
「・・・・・・・・・・・・・従魔と、街に・・・」
それを聞いて、ホシトの目が吊り上がる。
「・・・またあの黒ウサギと二人きりで・・・・兄上ー!!どうして僕を誘ってくれないんですかああああ!?」
「ほほ~!これが新作のパンケーキか!」
生クリーム、フルーツたっぷり。
分厚いパンケーキが5段重ね。
ツキト様はそれを豪快に一口。
「~~~~~ん~~~!!!美味なり!!!」
「お口に召されたようで何よりです」
「あと10人前追加だ!!」
「喜んで」
ここは街で評判のパンケーキ屋さん。
ツキト様は新作のパンケーキを求めてお忍びでこのお店に来た。
変装はしているけれど、街の人達はみーんなツキト様だと気づいている。
でも皆、あえて何も言わず知らないふり。
ツキト様は時々、街に来てはお菓子を食べたり街の様子を見て回る。
それで困っている人がいたらすぐに救いの手を差し伸べる。
大きな荷物に困ってる人がいたら変わりに運んであげたり、経営が苦しそうだったら相談に乗って色々手配をしてあげたり。
そんな優しいツキト様だから、街の人皆に愛されてる。
だから誰もお忍びのツキト様に気づかないふりをしている。
「ユイ、お前も食べているか?」
「はい。とても美味しいですね」
「うむ!やはり食べに来て正解だった!」
お城にパンケーキを運んでもらうとか、直接お城で作ってもらう方法もあるけどツキト様はそうしない。
曰く「こういうものは、こちらが自ら出向いて食べるからこそ美味!」と。
本当は大盛況でお店は常に忙しいから、自分の我儘でお城に来させたくないのが理由。
それをお店の人達も知ってるから、今せっせと笑顔でパンケーキを焼いている。
本当にツキト様は優しい方だ。




