第九話
飛鳥邸に到着した亜条摩鬼人と劉鬼。バイクから降りて拳銃を構えた。
見張り番であろうチンピラふたりを静かに、そして確実に息の根を止めて、邸内に進行した。異変に気づいた元飛鳥会の構成員たちが現れる。
「さあて、どうやって行きますか、親父」
「我が息子よ、蹴散らす以外になにがある」
「そうっすね。んじゃ、やりますか!」
先手は劉鬼だ。愛用の拳銃を操り、襲ってくる構成員を撃つ。さらに、敵から得物を奪って自らの物にする。その得物を振るい、ときに引き金を引いて、次々と敵を倒していく。
しかし、構成員のほうも負けていない。数では圧倒的に有利。ありとあらゆる方法で摩鬼人と劉鬼を始末せんとする。
劉鬼はまるで劣勢の状況を楽しむかの如く、にやりと笑う。
「久しぶりの鉄火場、たまんねえな」
興奮に身を委ね、暴れる青年。そのなかで、幻視を通して構成員たちを見る。
「なんだ、おめえら、そんなに血が付いていないな。人殺し、あんまりしたことない連中ばっかりかよ」
彼の特徴は、目にある。見えないものが見えてしまう幻視を持つ。これは一種のトラウマからそうなってしまったのだ。劉鬼の幻視は血。濃淡もはっきりわかる。濃ければ濃いほどその人物は、人殺しに慣れた人間である。逆に、血が見えないものは人を一度も殺していない。そう劉鬼は判断している。
元飛鳥会の構成員たちは、血がうっすら付着していたり、一滴も付いていなかったりする者ばかりだった。
形勢はどんどん傾く。摩鬼人、劉鬼は先へ進んだ。
軋む廊下を行くと、突如襖が開いた。隠れていた敵が行く手を阻む。
「めんどくさ」
「そう言うな。次は俺がやる」
摩鬼人は拳銃を持つ相手に対し、素手で挑んだ。
それを挑発だと思い込んだ敵が舌打ちをする。苛立ちをぶつけるように、引き金を引く。だが、銃弾は空を切った。
「なに。どこへ行きやがった!?」
眼前にいるのは欠伸をする劉鬼だけだ。摩鬼人のすがたがない。
と、相手が驚いている隙に鳩尾へ膝を叩き込む。
「親父のそれ、ニンジャっぽい」
「昔、だれかにも同じようなことを言われたような気がするぞ」
「だれがどう見たってそうだって」
廊下の突き当りまで来た。先がふたつに別れている。右か、左か。
「どっち行きますか? 二手になってもいいですけど」
「……左。扉があるほうだ。扉の奥は書斎になっていた部屋だ」
「書斎? なんでまた、そんなところに」
「仕掛けがあるんだよ」
背後から来た構成員ひとりを撃つ。
「どうしてそんな場所があるってわかるんだ? 親父」
右から来る敵を撃つ。
「さてな。なぜかあたまが憶えているだけだ」
「ふうん」
ふたりは左に曲がる。そして、書斎であった一室の前にて息を潜めた。
予備の弾数を確かめて、アイコンタクトで頷き合ったのち、扉を開放する。
部屋には、だれもいなかった。しんとしている。
「どこに居やがる」
「おそらくは、あそこだな」
摩鬼人が本の並ばない本棚を指さした。
劉鬼は首を傾げる。棚に触れてみるが、埃しかない。かび臭く、鼻をつまんだ。
「うえ……カビ生えてねえか、これ」
一方、摩鬼人はぽつんとある机を調べていた。椅子も書くものも置いていない。引き出しのなかもからっぽである。机には、灯らないスタンドライトがあるのみ。
スタンドライトも埃を被っている。けれど、引き紐の部分だけ人が触れた跡がある。その紐を下に引っ張る。そして、今度は力を込めて手前に引く。かちん、と小さな音がした。
「それが仕掛け扉の鍵か」
「そうだ。我が息子よ、銃を構えろ、なかに入るぞ」
棚が動く。現れたのは灰色の壁。真ん中あたりにふたつの凹みを発見する。
凹みに手をかけ、ふたりがかりで開ける。
そして現れたのは、階下へ続く階段であった。
×
あのふたりを殺す。青月にその気はない。そも、なぜ御堂は、亜条摩鬼人殺しにこだわるのか。大道寺左門のシマを荒らして、自分たちが出向くよう仕組んだ。わざわざ裏世界のビッグネームたる鬼を呼んだわけとは、一体?
青月はじっと御堂をねめつける。
「なんだよ、なにか言いたそうな顔だな」
「俺って、マインドコントロールでもされちゃうわけ?」
「……」
御堂は険しい色をする。かまわず、さらに続けた。
「違うよね、きみはそんなことをするつもりで俺を監禁したんじゃない。もっとほかにわけがあるんだろう? 元飛鳥会の再興も大道寺左門への復讐も、本当の目的を達成するための布石だったりしない? ねえ、どうなのかな、御堂ハルキ」
「……そうだ。よくわかったな。でも、遅い。遅すぎる」
頬を拳銃のグリップで殴られる。口から血が垂れた。
「俺はな、レイ。あの日々を、ここでの地獄を忘れたいんだよ。だはそれは、『ミハル』という俺を捨てなくちゃできない。そのために、そのためにお前を監禁してやった。すべて忘れちまったお前はまだ思い出していないようだが、少しあたまを捻ればわかるだろ? どういう状況なのか、なぜこんなことになったのかを」
青月は口角をあげた。考えなくてもわかる。こびりついた記憶とは、そう簡単に剥がれる代物ではない。
「ここは貴賓室。居るのは俺ときみ。外には飛鳥会の構成員だった連中、それと亜条摩鬼人……あのときと違うのは、大道寺左門がいない点だけかな」
鈍痛があたまを襲う。またしても殴られた。
「正解だ。そう、俺はあの日を再現したんだよ。しなくちゃいけなかったからな」
「舞台でもはじめる気? シェイクスピアが驚くような脚本で頼むよ」
「黙れ、この売春婦が! まだ無駄口を叩く余裕があるようだな、お前。……まあいい。お前とおしゃべりできるのもこれが最後になる。まあいいさ」
御堂の最後のほう、やや語気が弱まったように感じた青月。
「……まさかだとは思うけれど、きみはあの日を再現して、今度は自分が檻の外へ出る、っていうシナリオにしようとしていないかい」
ぱち、ぱち、ぱち。短い拍手。
「お前がどうやって『レイカ』を捨てたのかは知らない。それと同じように、お前も、俺がここからどうやって出たのか、知らないだろう。なあ、錠前ってよ、案外手でも壊せるものだったぜ。爪が剥がれるまでがんばれば、皮膚が破けるぐらい叩けば、楽に壊せるよ」
御堂はけたけた、けらけらと笑い声をあげる。そして、拳を青月の顔の横に叩きつけた。
「俺はそうしてここを出た。だあれもいないここを抜け出して、お前を探した。探し回ったんだ。約束だったお前を迎えに行くことを、果たすために。だが、……ああ、話すだけでイライラしてくるぜ。とにかく、俺は『ミハル』を捨てる。過去との因縁を断ち切る。そのために、この一件を起こしたんだよ」
青月は、同じだ、と心中で呟く。同じだ、彼もまた――過去との因縁を、『レイカ』を殺して、断ち切ろうとしている。そうすることで、商品だと知る同志はいなくなる。ここでの毎日を思い起こすきっかけがなくなる。
そう、あの日のすべてが消えるのだ。そうして晴れて、人間として生きられる。
『ミハル』は今から、人間になろうとしている。
「そうなんだ。知らなかったよ。もしも摩鬼人殺しを成功させたら、お祝いさせてよ。『ミハル』を捨てられた祝杯でもあげようか」
「はっはっはっは。いいな、それ。でもな、もう遅すぎる。もう、俺たちは友達なんかじゃないんだ。敵になっちまった」
「……御堂、その様子だと、きみは」
「みなまで言うなよ。それぐらいわかっている。――なあ、レイ」
「なんだい」
「お前ってよ、あの亜条摩鬼人が好きなのか?」
「好きじゃないよ。愛している。俺が人間になってはじめて、好きなったものだよ」
「へえ。とんでもねえな」
「そのとんでもないやつに、きみは銃口を突きつけた」
「あいつを殺さねえと、俺は自由にはなれない。恨むか? 俺を」
「恨まないよ、むしろ好きだ」
御堂は驚愕した。
青月はずいっと彼に顔を近づける。
「俺はね、亜条摩鬼人が好きなんだ。彼の声、身体、存在、皮膚、肉、骨、四肢、みんな大好きなんだよ。だから、彼を殺した得物も人も、嫌いにはならない。憎悪なんて向けない。きみのことも、恨んだりしないから安心して。ああ、でも、嫉妬はするかもね、俺はけっこう嫉妬深くてしつこい性格だから」
「……あいつは死にたがりだと聞いた。いずれだれかに殺させる。死ぬんだぞ」
「そう、亜条摩鬼人はいずれいなくなる。でも、それでも愛している。骨になろうが肉が腐ろうが愛している。あいつを殺した得物も人さえも、愛してやるとも。どうやって摩鬼人を殺したのか語ってほしいねえ、くくく」
「狂っていやがるな、お前」
「人間、狂ってなんぼだよ。狂おしいほど熱中できるものがあってこそ、生きていると実感できる。そう彼から教えてもらった」
「お前は今、亜条摩鬼人を愛することで、人間のお前が生きていると実感しているわけか。嫉妬しちまいそうだ」
「俺は、俺が死なないかぎり亜条摩鬼人という存在は生き続けられるから、あいつをずっと愛すると決めた。あいつをとりまくなにもかもを愛して、亜条摩鬼人という男を追いかけていくよ。亜条摩鬼人こそが、俺の生きている証なんだから」
靴音が耳に入った。どんどん近づいてくる。
ひとり? いや、ふたり。摩鬼人と劉鬼が来たようだ。
「おやおや、長話はもう終わりにしなきゃいけないようだ」
「そのようだねえ。来るとは思わなかったけど」
「お前とはやく会って、ダチになりたかったぜ、レイ」
「残念だけど、もうそれは叶わない。言っただろう、きみの探す『俺』はもういないんだ」
「……ほんと、遅すぎたな」
×
貴賓室とは名ばかり。豪華絢爛な飾りや家具はいっさいない。壁と床は灰色。広い一室を照らすには足りない明かりが寂しく角に置かれていた。窓はなく、室内は薄暗い。出入り口は今立っている後ろの一か所だけだろう。
非常にやりにくい。標的を見失えば不利になる。角の明かりを奪われてはいけない。
劉鬼は心中にてため息をつく。武器になりそうなものは見当たらない。愛用の拳銃だけで標的を始末しなくては。
否、そんなことより、亜条摩鬼人がどう動くのかが、気になって仕方なかった。この人の行動は読みにくい。だが、みすみす青月を見殺しにはしないはずである。
対峙する標的は、両手の自由を奪われた青月を盾にこちらと向き合っている。
「はじめまして、亜条摩鬼人さん」
「……」
ニセモノの親父は無表情。無言で拳銃を構えた。
青月はこちらと標的を交互に見る。ふたりとも、どうする気なのか。
「我が息子よ、お前はそこに立っていろ。標的が逃げないよう道を塞げ」
「了解。親父はどうすんの。このまま、青月さんを殺すのかよ」
「さてな」
劉鬼はやれやれ、と肩を竦めた。指示通り、一か所だけの出入り口を封じた。
摩鬼人は二歩、前に進み出る。
「待て。それ以上近づくな。銃をこっちに投げろ」
御堂は青月の肩越しに銃口を向けながら言った。
「……」
御堂と摩鬼人の間を、一丁の拳銃が滑っていった。かつん、と青月のつま先に当たった。
「レイ、その銃で摩鬼人を撃て。後ろのガキはあとだ」
青月の片手が解放された。彼が銃を拾うことにためらっていると、御堂が強引に掴ませた。
御堂と青月、摩鬼人の間は、互いの銃弾を当てるには充分の射程距離である。
みなが、銃を構えている。息を吐くことさえ許されないほどの緊迫感が場を支配した。
「……」
御堂は青月に、青月は摩鬼人に、劉鬼は御堂に、銃口を向けている。丸腰である摩鬼人は依然、無表情だった。
だれがはじめに引き金を引くのか。
だれがはじめに撃たれるのか。
銃弾が放たれたその後はどういった状況になるのか。
それらを知るためには、彼らのうちのひとりがひとりを殺めなければわからない。
その一瞬の時は、唐突に訪れた――。
「なにっ!?」
御堂、青月、劉鬼の三人は驚く。
銃声。銃声がした。どこで? だれが撃った?
「なっ……まさか」
血の飛沫をあげたのは、御堂だ。
では、劉鬼の銃弾がそうしたのか? 否。
では、御堂自らが? 否。では、青月が? それもまた否。
引き金を引いたのは、丸腰である摩鬼人だ。
「お、親父……」
丸腰の彼に拳銃はない。ゆえに、引き金を引くことすらできないはずだ。けれど、彼は間違いなく撃った。青月の持つ拳銃にて、御堂の肩を。
「い、いつの間に……ぐっ」
劉鬼はようやく状況が呑みこめた。
摩鬼人は気配を消した。静寂と一体化した。そして青月へ迫り、彼の銃を持つほうの手を御堂のほうへ曲げ、そのまま銃弾を放ったのだ。
青月の手から愛用の拳銃を回収し、倒れた御堂に向ける。
もう一度引き金を引こうとしたそのとき、間に青月が割って入った。
「待って、摩鬼人」
「なんだ、庇うのか」
「違う。けじめ、つけさせてくれないかな」
「……好きにしろ」
摩鬼人は標的から離れた。
青月は御堂へ馬乗りになる。
「レイ、俺を殺すのか」
「そうだよ。俺も、いい加減過去との因縁を断ち切りたいんだ。そのために、きみを殺す。きみが昔を再現してくれたこの場でね」
「じゃあ、俺は、ここからは出られねえわけか。はは、結局、『ミハル』のままか」
細く長い針が、青月の着る服の袖口から出てきた。
「なんだ、やっぱり仕込んでいやがったな」
「大丈夫、毒はない。純粋な針だよ」
「それで、どうするんだよ」
「頸動脈に一本、刺すだけさ」
「……そりゃ、楽に逝けそうだ」
ぷつり。針は皮膚を破り、頸動脈を突く。血飛沫が床に飛び散った。
「さようなら、『ミハル』。もう会うことはないね」
「レイ……名前を、今の、なま、え、は」
「俺の名前は、青月黎。青い月と、黎明の黎だよ」
「アオツキレイ――いい、なまえ、だな」
『ミハル』こと御堂ハルキの瞳から光が消えた。
青月は立ち上がり、しばらく彼を正視する。そして、振り向かずに去った。
「ふう、終わったか」
仕事、終了。無事、標的を処分。あとは大道寺左門へ報告するのみ。
肩の力を抜き、階段のほうへ足を運びかけ、劉鬼は後ろを見た。ぴくりともしない肉塊に歩み寄り、屈む。ずいぶんと穏やかな笑みを浮かべていた。
「ふうん。あんたも笑うのか。死に際ってのは、みんな笑うもんなのかねえ」
なら、あの人もまた、笑むのだろうか。いつも無色を張りつけたあの顔が、三途の川を渡るときには微笑んでいるというのか。さっきも、撃たれるかもしれない状況のなか表情ひとつ変えなかった。けれど、色島千や御堂ハルキのように、最期は穏やかな色をするのだろうか? 想像できない。そもそも、あの人がこと切れるときがくるとは思えない。たとえあの人に死が訪れても、こんな穏やかな色を見せない。はずだ。いつものように、無色でわかりにくい表情をするだろう。――そうであってほしいと望むのは、俺のエゴか?
「……俺も、お前みてえに苦しまずにいきたいぜ。あばよ、御堂ハルキ」
劉鬼も、貴賓室だったところから去る。
寂しく置かれた明かりが、肉塊の横顔を照らす。
×
飛鳥邸を見た。ふたつの白い影が目に入った。両手を繋いで、手を振っている。
「どうしたんすか、青月さん。帰りますよ」
「ああ、うん」
改めて邸へ視線を戻す。影はなかった。
とても幼かったように思えた。まるで――
「ま、いっか」
廃屋に背を向け、住み家へ帰還する。
もうここへは来ない。過去の自分は、ここへ置いていく。
さようなら、御堂ハルキ。
さようなら、レイカ。
×
翌朝。青月は目覚めた。辺りを見渡して、住み家の自室だと確かめる。ベッドから起き上がろうとして、痛みに美顔を歪めた。手当ては昨日のうちに済ませたけれど、傷口はやや深く、かなり出血もした。薬が効かない体質ゆえ、鎮痛剤は働かない。時間の経過で治していくしかないのである。青月自身もそれについてはよくわかっている。
痛みを耐えながら着替えて、一階に下りた。まだふたりは起きていないようだ。
「あれは……」
イーゼルの上に乗ったままのキャンバス。近くまで歩み寄った。
まかふしぎな絵だ。背景は灰色。顔のない人らしき者の両手に、首がある。首から下は存在せず、両手の指間から血が零れ落ちている。のっぺらぼうとその手は真っ白だ。
さらにふしぎなことに、右手のほうは下を見ており、左手のほうは上を見ている。下を見るほうは顔が青ざめており、血の気がない。だが、穏やかに微笑んでいる。反して、上を見るほうは生気が感じられた。真剣な眼差しで天を仰いでいる。
「なるほど……囚人か。いろいろと彷彿しちゃう絵だね、これは」
絵をじっと眺めているうちに、一連の日々があたまに蘇った。けれど、以前のような幻覚症状はない。驚き、青月は己の身に、おそるおそる触れた。
消えている。おぞましい感覚が消えた。
今、感じているのは、間違いなく、自分自身の手だけだ。幻ではない。
「ああ――よかった」
その場に膝をつく。全身を両手で抱きしめた。喜びが溢れて、震えた。
やっと、人間として生きていける。堂々と胸を張れる。もう過去に怯える必要はなくなった。克服したのだから、商品である己をようやく、もとのところへ戻せたのだから。
「――俺は青月黎。人間の青月黎だ。もう商品である俺はどこにもいない。ここにいるのはまさしく、人間として存在する青月黎なんだ!」
声をあげた。まるで産声のように。
二度目の生まれ。そのニンゲンの名を彼は言った。
愛する男より授かった名を、己自身の名として再び口にした。
彼の新たなる誕生を祝うかの如く、朝日が地平線より世界を照らす。
×
「ミハル」
「レイ、俺を迎えに来てくれたのか」
「行こう」
「ああ、行こう」
俺はレイの小さい手を握った。
俺たちはそうして、貴賓室から飛び出した。
見たことのないような世界が広がっている。
明るく眩しい太陽と、大きくて白い雲と、どこまでも続く青い空。
胸が高鳴る。うんと息を吸って、世界の空気を味わう。
「さあて、まずはどこを目指す? 相棒」
「海にしよう。このお空と同じ色をしている海が見たい」
「ようし、出発だ!」
廃屋は廃屋のまま。
唯一の明かりがふたつの影を照らした。
そしてふっと、光はなくなった。




