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EP01 ◆ 火星のコンビニ #04

「そういうわけじゃない。俺はさっき表側を見ていないからさ。自分でも見ておきたいんだ」

 これは出まかせではなく本心だ。コンビニの商品を実際見たことがあるのはアマネのみなので、現在流通していないような商品は、ムクロたちには理解できない可能性もある。

 もちろんそれだけではなく、懐かしい商品がないか探してみたいというアマネの個人的な思いもあった。


「じゃあオレは火の番をしていますね」

 カバネにまでそう言われてしまうとムクロは断る口実を見付けられず、無言のまま店内に入った。


 アマネはゴーグルを額の辺りに装着してサーチライトを点ける。ライトは着脱可能だが、ゴーグルごと装着した方が両手が使えるからだ。

「酒も残ってないし、長期保存可能な缶詰やパウチも見当たらんか。この辺は雑貨の棚だったんだな。脱脂綿が(ふた)箱、ごみ袋と軍手と紙皿と――って、おい、あれは」


 棚が崩れて瓦礫と一緒になっている辺りに、アマネはビニールに包まれた何かを発見した。

 手に取って確認するアマネの表情がほころぶ。

「ほら見てみろよ、珍しいものがあったぞ。これは湯を入れて戻して食べる(ヌードル)だ。あぁ、こっちには袋麺もある……これは鍋が必要だが、あらかじめ味が付けてあるから調理は簡単だ。いや懐かしいなぁ」


 近寄って確認したムクロが(いぶか)しげな声を出す。

「保存期限は数年前に切れていますが大丈夫でしょうか?」

「ひょっとしたら多少油焼けしてるかも知れないが、食えないことはないだろう。何しろインスタント麺の保存期限が五年以上も延びたのは、油の酸化を極限まで抑制する技術が――それはまぁいいか。しかし前に寄った所ではこういった保存食まで駆逐されていたが、ここではそうじゃなかったんだな」


「この付近には人がいないのでしょうか」

「いや、そんなことはない。この先十キロ余りの地点に小さな集落があることはわかっているから」

 話しながらも、アマネの手はインスタント麺を掘り起こすのに(いとま)がない。ムクロもいまいち納得できていない表情のまま、アマネを手伝い始めた。


 (ふち)がひしゃげたカップ麺が出て来た。一時期()()ったクリーム系のラーメンという商品だった。

「お、これ一度食べたことがあるよ。仲間内では賛否両論だったなぁ――まぁそんな感じで、多分味の好みが合わないことがわかっていたのか、でなけりゃそこまで食料に困っていなかったかのどちらかじゃないかな」

「アマネはこれが好きなんですか?」

 ラーメン自体を食べたことがないムクロには、味の想像がまったくできない。


「毎日食べるようなもんじゃないがね。俺らの仕事は体力勝負だから、インスタント麺だけじゃすぐに腹が減る。むしろこれは夜食とか間食(おやつ)的な食べ物だったな」

「そうなんですか……」

「結構あるなぁ。残念だがこれはかさばるものだから全部は持って行けなさそうだ。いくつか味見してみて、状態のいいものを持って行くことにしよう」

 アマネは嬉しそうな笑みをムクロに向けた。


 * * *


「ごめんなさい。僕はこれ、ちょっと……」

 クリーム系のラーメンを作り試食したムクロは、口に手を当ててもごもごと弁解した。どうにかして飲み込もうとしていたが、喉が拒絶しているようだ。

「そうか? 俺は結構好きなんだけどなぁ。じゃあカバネはどうだい?」

 火に掛けた小鍋を確認していたアマネは、ムクロの表情がさえないためインスタントラーメンの器を受け取った。


「オレはこの(から)いのが気に入りましたよ。なんていうんでしょうね、この香辛料……それは残っていた数も少ないですし、懐かしいでしょうからアマネが食べたらいいんじゃないですか?」

 カバネは縦型のカップ麺をすする。ムクロはその音がするたびに顔をしかめるが、そういった食べ方をするものだと理解しているため文句は言わなかった。


「わかった。じゃあ残りは俺がもらおう――あぁムクロ、代わりにこっちはどうかな。世界で最初に作られたと言われるインスタント麺だ。もっとも、残念ながら少し油焼けしているようだが」

 アマネは小鍋を火から下ろして問い掛ける。多少の油焼けなら香辛料を多めに入れてしまえばそれほど気にならないという彼は、味音痴ではないが味の守備範囲が常人より遥かに広い。そのせいで料理下手でもある。


「遠慮しておきます。どうやら僕はこういった味は苦手みたいです」

 ようやく口の中のものを飲み下したムクロは涙目になっていた。そして口直しとばかりにコーヒーを一気飲みする。

 保存期間切れのレーションを食べても、アマネがうっかり焦がしてしまった肉を食べた時でも文句ひとつ言ったことのないムクロが拒絶するということは、よほど舌に合わないのだろう。


「そうか。残念だ」とうなずくアマネは本当に残念そうだったが、その後ものすごい勢いでインスタント麺ふたつ分を平らげ始めた。

「先ほど、これはメインの食事とはならないとおっしゃってましたが……」

「まぁ堅いこと言うなって――そうそう、ムクロのマントな。なかなか面白い掘り出し物だったようだ」


 急に話題を変えたアマネに向けて、ムクロは一瞬冷たい視線を送った。だがとりあえず先を促す。

「どんな風にですか?」

「光学迷彩という話だったが、それは結局作動しなかったろう? でも本当はそうじゃないらしい。これは俺らの目には見えるが、機械の目を誤魔化す――つまり、ステルス機能のあるマントだったようだ」

 そう言って腕時計のモニタを二人に見せる。


「さっき倉庫の中から、表側をスキャンしたんだが――ほら、データはカバネの分だけなんだ。『Survivor(生きている):1 person(人間はひとり)』という表示が出ているだろ? マントで覆われているムクロは感知されていない」

 アマネは楽しくてしょうがないという表情でモニタをスクロールした。

「でもムクロはフードを取っていたから、()()()()()だけは存在していることになってるらしいんだ」


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