表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/40

EP03 ◆ きみの面影 #08

 荷物はどれもがピンクやスカイブルーなどカラフルなショップバッグだった。量の割に軽いのは、中身が衣料品や細々した雑貨だからである。

 ムクロも時々ファンシーなものを気に入るが、女の子として育てられたイチゴならばなおのこと、キラキラしたりフワフワしているものを好むだろう。

 カバネもその心理は理解できるが、彼自身は雑貨にまったく興味を惹かれない。

 それらの店は過剰包装が常だとカバネは考えている。包装を解いてまとめれば、中身は三分の一以下になったりするのだ。


 * *


 宿で夕食を摂り、部屋でくつろいでいる時に、ムクロはカフェで逢った男の話をアマネたちにした。

「人違いでシェリー? そう言われたのか」

「そうです。あの……名前から調べられますか?」

「何を――まさか、ここにいると?」

 それまで雑談として聞いていたアマネだったが、ムクロの言いたいことを理解して目を見開く。


「かも知れません。今のところ『似ている』という言葉だけですけど」

 ムクロはどこか思い詰めたような表情だった。アマネはあえて軽くこたえる。

「さあなぁ……名前は自由だから、そこから調べることは難しいだろうな」

 バスルームからは水音が聞こえている。イチゴがひとりで湯を使っていた。

 ムクロは少し声をひそめた。

「では――逆に、本人の()()チップから、身元の確認は?」


 アマネは(うな)る。

 数年前からムクロが気に掛けていたことは理解していたが、任務とは関係ないことだ。むしろ妨げになる危険もあった。

 今までは可能性の話だけだった。それがにわかに現実味を帯びて来たのは、彼らにとっては大きな問題だ。


「……できないことはないかも知れないが、俺はその権限を持ってない。できたとしてもプライバシーに関わるだろう」


 ムクロはあからさまに落胆の表情になる。

「そうですか……」

「でもどうやってここに? 日本から出ることがまず難しいという話だったが」

「それを知りたいのです。でも他人の空似の可能性もありますから」

「しかし危険じゃないか? それに……万が一逢えたとしても、向こうは憶えてない」

 アマネは殊更、最後の言葉を強調した。


 ムクロは、もちろんわかっているというようにゆっくりうなずいた。

「ええ、だから遠目で確認するだけでもいいんですけどね――ところでアマネ、僕とイチゴって似てますか?」

「話が唐突だなぁ」とアマネは笑い、顎に手を当ててムクロをじっと見つめた。

「似てるといえば似てるだろうが、似てないといえば似てないんじゃないか。俺は欧米風の顔立ちを見分けるのは苦手だから……」


「ということは、似てると思ったことがあるんです?」

「まぁ……なくはないが、しかしお前は銀髪で――」

 困惑しつつこたえたアマネの言葉を、ムクロは遮る。

「ええ、髪の色についてはいいんです。実は今日、僕とイチゴの顔立ちが似ていると言われましたので」

「誰に?」

「ジェラート売りのおじさんです」


「そりゃああれだ、リップサービスってやつだよ」とアマネは笑う。

 その程度なら商売人でなくても言うだろう。子どもを見て父親似だとか母親似だとか、兄弟らしき様子を見て仲がよさげだとか。

「そうでしょうか……」

 今までも容姿については散々言われていたというのに、ムクロの様子はいつもと違った。アマネは腕組みをして首を傾げる。


「どうしたんだよ。今更自分のルーツ探しに目覚めたとでも?」

 それは、話をひとまとめに軽口で流そうという思惑もあった。

「そういうのではないですよ。ただ……」

「ただ?」

「僕も、イチゴと似ているような気がすると思ったことがあったので」

「ふぅん……」


 アマネにはもはや理解不能の領域である。

 思春期の娘と向き合う父親の心境だ、と――もっとも、本当に父親になったことはないので想像でしかないが――肩をすくめることしかできなかった。

 ムクロはアマネを見て少し困ったような表情になり、カバネに向き直った。

「カバネはどう思います?」

「さあね。オレは似ていると思ったことはないなぁ」


 カバネは興味なさそうな様子で言うと、私服のジーンズを履き始めた。食事を終えると真っ先にシャワーを浴びて、今まで半裸のまま髪を乾かしていたのだ。

「あのな……イチゴは、十歳であの顔立ちだ。だから()()()()()()。わかるか?」

 どこか小()()にするような口調で呟くと、肩に掛けていたタオルをベッドの上に放り出す。


「カバネ、そんな言い方しなくても」と、アマネが口を挟むが、ムクロは首を横に振った。カバネの言いたいことは誰よりもムクロが理解している。

「いえ、大丈夫です。そうですね……忘れていました――ところでカバネ、こんな時間にどこかへ行くんです?」

「夜間だけ出ている屋台があるって話だからさ、ちょっと食べ歩き。班長に許可はもらってるぜ」

 ニヤリと笑うと、カバネは部屋を出て行った。

 ムクロは後ろ姿を見送ってから、ふぅ、と小さくため息をつく。


「なぁムクロ。忘れてるんじゃなく、考えたくないんだろう――そろそろ限界なんじゃないのか?」

 沈黙に耐えかねたようにアマネが問う。ムクロは顔を上げ、寂しげに微笑んだ。

「わかりません……でも最近、急に色んなことがあり過ぎたので、確かに疲れているのかも知れませんね」

 それでも辞めたいとか休みたいとは決して言わない。アマネもその理由を理解しているが、無理はさせたくなかった。


「やはり一度、メンテを受けた方がいいだろうな。イチゴを送り届けたら、今度こそテトナへ向かおう。予定が立ったら俺からパオに連絡を入れておく」

「僕はまだ大丈夫ですよ」


「いや、もちろん俺やカバネもメンテの時期が近いってのもあるし、ほら、俺は(デバ)(イス)の確認をして欲しいと考えてるし、ムクロのマントの件も――でも何より最近はずっと、ムクロが一番負担が大きいポジションだからなぁ。そこは申し訳なく思ってる」

「大丈夫ですってば。それに僕は、この任務を生き甲斐にしているんです」

 ムクロはもう一度微笑んで見せたが、アマネの表情は曇ったままだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

cont_access.php?citi_cont_id=730211823&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ