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EP03 ◆ きみの面影 #06

「あぁ? あー……あの人ね。レオって呼ばれてるらしいけど、昼はよくここで食ってるかな」

 若いウェイターの説明は幾分ぞんざいな口調だった。

「でも昼間っから酒を飲むような奴だしさ、あんたみたいな子は関わっちゃいけないよ」

「そうですか……ありがとうございます」と、ムクロは笑顔で礼を述べた。



 噴水のある広場へ出ると、ポップコーンやチュロス、ジェラートなどのワゴンがいくつも出ていた。

 甘いものだけではなく、ホットドッグやラップサンド、フィッシュ&チップスやチャイニーズフードの屋台など様々あるらしい。


「ほんとにお祭りみたぁい」とイチゴは目を輝かせる。

 二人はあちこちを冷やかしながら、お目当てのジェラートのワゴンへ向かった。

「さっきの話ですけど、僕はからかってませんよ? ――おじさん、ジェラートふたつください。ダブルチョコレートと、ストロベリーチーズケーキ」

 少し頭の薄くなった店主はコインを受け取ると、にこにこと機嫌よさそうな顔でうなずく。


「はいよ。美人さんにはおまけしようかね。あんたたち姉妹かい? 金髪に銀髪、緑の目。素敵な取り合わせだな。お袋さんはさぞかし美人だろう?」

「姉妹……に、見えますか?」

 ムクロはワッフルコーンを二つ受け取りながら、目をしばたたかせる。

「ほい、おまけ」と、小さなカップでチョコミントのジェラートを手渡しながら、店主はまた笑った。


「ああ、顔立ちがよく似てるよ。ほら、この辺は昔、美人が多い地域だったからねえ。特に隣の――あぁ、はい、いらっしゃい。ミルクティーマーブル?」


 店主が話しているのはベリーヌのことだろう。ムクロは咄嗟に、周囲に視線を走らせる。しかし、彼らの会話を気にしている様子の者はいなかった。

 店主も新しい客に向かって愛想を振り撒いている。

「似てるかなぁ?」

「似てないと思いますけどね。はい、ストロベリーチーズケーキです。その辺に座って食べましょう」

 イチゴは大きなワッフルコーンを手にして、目を輝かせた。


 * *


 型通りの報告を終えたアマネとカバネは、日本食レストランで昼食を()った。

 食べることが好きなカバネは目をキラキラさせている。不機嫌は跡形もなくなっていた。


 カツカレーとSK07Ar(四国・九州自治区) HAK()ATA()風ラーメンを頼んだカバネは、アマネが頼んだ鶏肉の卵とじ丼――いわゆる親子丼と、TH03Ar(東北自治区) INA()NIWA()風つけうどん温泉卵添えを見て「卵ばっかりですね」と笑う。

「お前のメニューも、豚肉ばかりだぞ?」とアマネもやり返す。

「ちなみに、ここのカツやチャーシューに使用されているのは日本で育てられている豚だ。その辺じゃなかなか食えない」


「へぇ……本物の豚肉を出す店にはあまり来ないからなぁ。まがい物じゃないラーメンも何年振りだろう……しかもここ、一般の店で食べるより安価じゃないですか。楽しみです」

「安価ったって、()(せい)で本物の肉を食べさせる店を基準にすりゃぁ安いんだろうが、クローン肉や合成肉を出す店と比較したら庶民的な価格とは言えないんじゃないかな」


 ラプツァーは比較的食に恵まれた地域である。だが、牛や豚から直接切り分けた『本物の肉』は、地元の畜産品であってもやはり高価だ。

「班長が『好きなものを食え』って言ったんじゃないですか」とカバネは口を尖らせる。「普段は節制してるから、こういう時くらいは、って」

「いや、文句を言っているわけじゃない。ここは()()()()があるし。ただ――」

 アマネはさり気なく周囲に視線を走らせた。


 一般に、ファミリーレストラン風の店は各席の端末で注文するが、この店は着物風の制服を着た店員が注文を訊きに来る。

 客層は地元のいわゆるホワイトカラーの人間や、商談のためにわざわざこの店に来るような者たちが多い。

 土地柄もあって、東洋系の容姿を持つ客はごく少数だ。


 更にいえば、ひと目で『現役』とわかるアマネたちのような客はほとんど見掛けないし、カバネのような年若い者は多分皆無だろう。

 それ故か、先ほどから控え目ではあるが興味津々といった視線を感じていた。

「……せめてメニューを一種類にすべきだったかな」

「何シケたこと言ってんですか。もっと堂々としていましょうよ」

 カバネは、運ばれて来た料理に視線が釘付けだった。



 食事を終えると、二人はまた六階のレンタルブースに戻った。

 端末のランプが点滅している。留守の間に着信があったらしい。

 堅めのソファに並んで座り、メールボックスを開く。

「――薬、ですか?」

 内容を見た途端、カバネが顔をしかめる。「どうしてそんな指示が」


「俺の報告書で予想したんだろう。実は俺も同じ判断をしていたんだ。町長の様子を見ていてな」

 アマネは、ベリーヌの町で出会った金髪で小太りの男を思い出す。

 適温であるはずの室内でも大汗をかく――その理由は疾患によるものか、別の要因があるのか。ずっと気に掛かっていた。


 マイクと名乗っていた黒い中折れ帽の男は、町長となんらかの密約を結んでいた可能性がある。

 そうでなければ、あの男がうろついていることと、町民が定期的に行方不明になることを結びつける者が必ず出て来るはずだ。中にはイチゴのように、他地区へ働きに行く形で転出する者もいたが、極少数である。


 ベリーヌの町民データが未だに紙で処理されているのも、組織に目をつけられた原因のひとつだろう。何代か前の町長がオンライン化を拒んだ可能性もある。

 しかしどんな『業者』であっても、町長を抱き込むのは容易ではないはずだ。

 手っ取り早いのは金を積むことだが、安易に金をちらつかせると逆に()()られる原因になることもある。断れない状況を作った方が、より確実だ。


 その手段のひとつとして考えられるのが、(ドラッグ)だった。

「疲れが取れる」とか、人によっては「若々しさが戻る」などとそそのかして軽い物から勧め、薬なしではいられない状態にしてしまうのだ。

 そうなれば、思い通り動かせる駒になるだろう。


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