EP03 ◆ きみの面影 #01
埃っぽい街道を歩く四人組がいた。
先頭は背の高い黒髪の男、その後に小さな子どもが二人。しんがりを歩く赤毛の少年はもう少し年長らしく、前を歩く二人を見守っているようだ。
一番小さな子は青いキャスケットをかぶり、サングラスを掛けている。ひと目で子どものおもちゃとわかるような、カラフルな物だ。
その子と手を繋いでいるのは、銀髪を後ろでゆるく三つ編みにしている少女らしき人物。お揃いのサングラスをカチューシャのように着け、時折隣の子に笑顔を向けている。
三人の子どもたちは揃いのシンプルなポロシャツ。そして色違いのハーフパンツやキュロットを履いていた。
背の高い男は、白いTシャツに紺色の半袖シャツを羽織っている。
素姓を知らない者が見れば、教師と生徒が共に行うイベントの最中か、キャンプに向かう富裕層の子息と付き人かと思うかも知れない。
何故なら今は長期バカンスの時期である。そして、一番小さな子以外の三人は大きな荷物を背負っている。
荷物の大きさの割には、背負っている彼らの表情につらそうな様子はない。なので、テントや寝袋といった、軽くてかさばる物が入っていると予想するだろう。
もっとも、富裕層の人間ならばもう少し仕立てのいい衣服を身に着けていただろうし、運転手付きの自家用車に乗ればよさそうなものだが――しかし実際、金持ちがちょっと変わったことをやりたがるのは、いつの時代も変わらないのだから。
「ほんとにラプツァーからはバスに乗るんですか? いいんですか? 本当に? 嘘じゃなく?」
しんがりを歩いている少年は、先頭の男性に向かって何度も問い掛けていた。
「あのなぁ……そんなに俺がケチに見えるのか?」
黒髪の男は苦笑を通り越して、なかば機嫌を損ねている。
「いや、そういう意味じゃなくて……」と、赤毛の少年は語尾を濁した。
しかし彼が驚くのも無理のない話だった。
彼らは今まで基本的に――というよりほぼ百パーセント――徒歩移動を余儀なくされていたからである。
「だってそういうこと、今回が初めてじゃないですか。今までは、たとえ元王族の娘がいても――」
「ちょっと、カバネ!」
「ひょっとしてあたしのせい?」
同行者四人の中で一番背の小さい人物が呟いた途端、他の三人の足が止まり視線が一斉に集まった。
「そういう意味ではないです。イチゴのせいじゃありません」
手を繋いだ銀髪の人物が優しい表情で微笑む。
イチゴと呼ばれたその子どもは、「本当に? うん、ムクロがそう言うなら信じるけど……」と首を傾げた。
「もちろん、僕はイチゴに嘘を言いません」
ムクロはもう一度イチゴに笑顔を見せる。しかし次の瞬間には咎めるような表情を、赤毛の少年へ向けた。
「っていうかカバネ、あなたは大袈裟過ぎます。アマネは状況を総合的に判断しているんですから」
「イチゴのせい、というよりはイチゴのため、だな」と長身の男――アマネが訂正しながら全員の顔を見回す。
「正式に予算が降りたんだ。こういった場合は、何よりも保護が優先だからな。とりあえず今日ラプツァーに着いたら、まずは銀行へ寄ろう」
カバネとムクロは納得顔になったが、イチゴは彼らの言葉の意味が理解できないためまだ不安そうな表情だ。
「やっぱあたしがお荷物で――」
「いや、そうじゃないってば」と、今度はカバネが慌てて否定する。
「もう! カバネのせいですよ?」
ムクロは頬を膨らませた。
この街道はラプツァーに続いている。
ラプツァーは行政機関や経済、流通が集中する中南欧自治連合有数の都市で、中南欧の流行の発信地とも言われている。
元々広域リゾート地だったため、『最後の大戦』での被害も比較的軽く済んだ。
戦後はまず、ラプツァー周辺で消費されていた農産物や畜産物を当てにして商人が拠点を移し始め、次いで建築業、工業などの従事者も、仕事を求めて集まって来るようになり、急速に発展した。
今でもこの街道沿いは、リゾート地へ向かう横道が所々に出現する。
だから、一見キャンプに向かう途中にも見える彼らは、不自然なく周囲の風景に溶け込んでいた。
再び歩き始めた一行だが、ムクロとカバネの口論が治まる様子はなかった。
といっても話題は既にだいぶずれて、普段いかにカバネが先走り過ぎるか、余計なことに首を突っ込むか、というムクロの愚痴に対し、カバネが否定するという流れになっている。
アマネは背後の騒ぎを聞きながら肩をすくめる。
まだこの辺りは人通りも少ない。だから彼らが多少うるさくても問題がないといえばないわけだが――
「ぼちぼち民家が増えて来るからな」
アマネは後ろに向かってそう言うと、ため息をついた。
まさか彼らが、極東自治連合列島――旧国名、および通称『日本』――の中央機構に所属する元軍人のチームであるとは、誰にも予想できないだろう。
* *
ラプツァーの中心部は街の北の方にある。
南側を通る街道からは距離があるため、アマネたちは街外れのターミナルから路線バスに乗った。
イチゴはバスに乗るのが初めてだった。それどころか、ベリーヌから出たことがないので宿に泊まるのも初めてだ。
銀行で当座の金を調達し、バスの路線図と時刻表をもらう。
アマネが観光案内所で手頃な宿を検索し手配をしている間、ムクロはイチゴに路線図の見方を教えていた。
「今乗って来たバスがこの青いラインのものですね。バス停は路線図に白い点で表示されています」
街の東側に小さな宿屋街があった。その中の一軒に決め、少し戻る形で違う路線のバスに乗る。
料理やサービスが家庭的であることをアピールしている宿だった。建物自体も小ぢんまりとしており、三階建てで部屋数は十部屋ほどの規模らしい。
バスの中でも路線図と停留所を首っ引きで確認しているイチゴは、見るものすべてが珍しくて興味を惹くらしい。バスを降りてからも、バス停の位置を図と照らし合わせながら宿に入る。




