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EP02 ◆ あだ花に実はならぬ #13

「――まぁ、大体はそうだ。しかし、(ベリ)(ーヌ)に来て、また『あだ花』が何を指すのかわからなくなった」

 ようやくアマネが発した言葉に、ムクロはうなずいた。

「==緑化研究の花もあだ花ですね。詳細データをご覧に?」

「あぁ。四季咲きタンポポも成長の早いマツヨイグサも種をつけない。いや正確には種はできるが次世代に続かない種子ということがわかった」

「==根は残りますがその根は強く、在来種の根を(おか)す危険もある。緑化研究の八割以上がそういう植物です」


 カバネが目を丸くする。

「==在来種を根絶やしにしちゃ駄目じゃん?」

「==そう思いますよね。なので僕はレポートにまとめました。この研究が展開されて二年、未だ実験段階なのか何かしら意図があるのか、そこは中央機構(セントラル)に判断を委ねます」

「日本の企業も関わってるからな。()()()も問題の芽は早めに摘み取りたいだろう」


「==それなら両方とも緑化研究に関する命令じゃないか」

「==違いますよ。だって『摘み取る者と対峙せよ』です。植物はむしろ摘み取るべきでしょう」

「==じゃあやっぱり、オレらを?」

「俺も植物のデータを確認してからまた、最初の予想で合ってたかと思った。だが、中折れ帽の男の話を聞いて引っ掛かったんだ」


「==あぁ、あいつはムクロを連れて行こうとしたんですよ」と、カバネは不快さまで思い出したように吐き捨てる。

「そうだけどな、もしそれが偶然だとしたら?」

「==偶然?」

 アマネはうなずく。

「見た目じゃ性別はわからない。ただ、銀髪はここでは珍しい。だから銀髪に目を留めたのだとしたら、どうだ?」


 ムクロは腕を組んだ。

「==そう言えば彼、僕たちを店の従業員だと思っていました」


「そこなんだ。だからあの男が俺たちを知らない可能性を考えた。しかも町長のコービィは、中折れ帽の男が以前から何度もこの町に来ている『業者』だと説明した。もちろん、同一人物だったらという前提の仮説だが」

 ムクロは心底嫌そうな顔をする。

「==業者、ですか。あの態度を見る限り、マトモな仕事ではなさそうですね」


「それでな……イチゴが言ってたろう。この町には人さらいが出ると」

「==あの男がそうだと言うんですかっ?」

 ムクロの頬がさっと紅潮した。改めて怒りが湧いて来たらしい。

「落ち着け。まだわからんし、だとしてもコービィが黙って見過ごすかというのも疑問だ――ところで、今日俺はずっと住民簿を確認していたんだ」

 アマネはノートサイズの端末にデータを表示させる。


「==ムクロが()()して来たやつですね」

 画面を見てカバネがうなずく。

「そう。初めは植物のデータをまとめてたんだがな――いや別に、飽きたからじゃないんだが、ちょっと休憩がてらに」

「==まぁ、いいです。それで?」とムクロが促すが、視線は冷たい。

「それでだ」とアマネは咳払いをする。「イチゴが言ってたミシェルねえちゃんが、転出簿に載っていた」

 

 二人は息を飲んだ。

「==行方不明じゃなかったんですか?」

「俺もそう思って確認したんだが、違ったよ……『就職のためペルミアへ転出』と記されていた。転出時期は去年の秋。しかし行方不明になったのは――」

「==去年の春、ですよね」

 うなずくムクロに対し、カバネは首をひねった。

「==イチゴの記憶違いじゃないのか?」

「いくらなんでも一年前の春と秋は間違えないだろう――他に何か手掛かりがないかと思って、ミシェルの個人簿と病院の記録も確認したんだ」


「==何かありましたか?」

「わかったことはふたつ。ミシェルは未分化性だった。それから、去年の早春に病院で健康診断を受けている」

「==持病があったんです?」

 ムクロの疑問に、アマネは首を横に振った。

「いたって健康。医者のお墨付きさ。そして付き添ったのは父親だ」

「==そういうのは普通、母親が付き添うものかと思っていました」


 アマネは肩をすくめた。

「俺もそうじゃないかと思うよ。少し気になったのでミシェルの父親に関しても確認したら、転出簿に載っていた」

「==えっ?」

「==何故です?」

 今度はカバネとムクロが同時に声を上げる。アマネはもったいつけた仕草で違うデータを表示させる。カバネたちは食い入るように端末を覗き込んだ。


「転出時期は去年の冬で理由は転職のため。その直前に離婚している。そして転出先は――」


「==まさかペルミア?」

 アマネが画面をスクロールする前にムクロが口を挟む。

「そうだ」

「==なんでだろう?」とカバネ。

「俺も訊きたいよ。もちろん偶然の一致ってことかもしれん。これじゃ納得いかないので、俺は転出簿で十歳から三十歳のデータをピックアップして、個人簿と病院の記録もそれぞれ照らし合わせた――すると、ここ十年ほどの間に転出している者でひと月前から一年前の間に健康診断を受けている者が約八割、そしてその中で、未分化性の人間は約九割にのぼるんだ。これはどういうことだと思う?」


「==彼らはどこへ転出したことになっているんですか」

「約五割が西のペルミア、約三割が北東のルシエイト、そして残りの約二割は中南欧自治連合を越えて、北欧自治連合のパイラーンまで移動している」

 指折り数えていたカバネが目をしばたたかせる。

「==どこも歓楽街が有名な土地じゃないか」

「言っておくが、これはあくまでもデータ上のみだ。直接本人に会ったわけでもないし、調査する権限は俺らにはない」


「==健康診断を受けた残り一割は?」

「女性だ。そして彼女たちの転出は十年前から八年前の三年間に集中している」

「==つまり、それ以降はほとんどが未分化性なんです?」

「というより、以降は女性がひとりだけで、それ以外は全員が未分化性だ」

 ムクロはハッとする。「==イチゴのお姉さんが、近々仕事で転出するという話でしたね?」

「あっ……」

「==班長、イチゴに確認すべきです。もしお姉さんも未分化性であれば、何か掴める知れません」


 しかしその日、イチゴは現れなかった。

 両親が家にいたのかも知れない。本来ならそれが望ましいのだが、不穏なデータを知ってしまったせいで、彼らは心が休まらなかった。


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