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EP02 ◆ あだ花に実はならぬ #03

「季節を無視……つまり遺伝子組み換え植物ですか」

 カバネは相槌を打つ。

「今時珍しくないが、植物の遺伝子組み換えは主に新種を作る技術だからなぁ。タンポポを四季咲きに改良したところで、喜ぶ人はあまりいないと思うんだが」


「しきざき?」とカバネは首を傾げた。

「季節に関係なく咲く植物のことですよ」

 ムクロがこたえ、「でも、アマネがそんな言葉を知っているなんて、少し意外ですね?」と、カバネの真似をして首を傾げる。

「俺だってそれなりの一般常識は持ってるんだよ――花に関しての知識が一般になるかは知らんが」

 アマネは口を尖らせた。カバネが苦笑しながら話を促す。


「それで、どのような調査方法になるんです?」

「手当り次第にサンプルを寄越せ。方法は(まか)せる――とさ」

 アマネは肩をすくめる。

「つまり丸投げですね。上のかたがたはお気楽です」とムクロは容赦ない。

「そういうことだ。まぁ以前土地の汚染度を調査した時のようにやればいいんじゃないかな。調査ブロックを撮影し、スキャンして分子構造などのデータをまとめ――あーあ、なんなんだろうなぁほんとに」


「土地調査の方が手間は少ないですね。あれは一区画を一度にできたから」

 カバネは残ったベーコンをフォークで刺し、名残惜しそうに口に運んだ。

「土地調査ならまだ、居住地確保の指針にもなるから……でも小さな()()と一企業の動向なんかを、(FE)(AU)中央機構(セントラル)が探ってどうするつもりなんだろう? 毒草をばら撒くんでもなきゃぁほっとけと思うんだが」


「アマネはこの任務が嫌なんですか?」

 ムクロの皿にはまだ三分の一ほどパスタが残っている。カバネが横からフォークを突き出すのを軽く払いつつ、アマネへ問い掛けた。

「嫌ってわけじゃ――いや、その前に好き嫌いは言えないけどな。だが考えてみろよ。図体のでかいおっさんが花を愛でて廻るんだぞ? しかも人がいる地域で」


 カバネの眉間には見る見る間に皺が寄る。

 一体どんな想像をしたのかアマネは気になったが、同時に聞きたくない気持ちも大いに湧いた。


 対してムクロはそれほど深刻に考えていないようだ。

「普通に調査だと思われる気がしますけど。だって僕たち()()じゃないですか」

「制服つーてもなあ……ムクロは普段ワイシャツだろう」

 ムクロは当然という顔でうなずきながら、パスタを大きく絡め取ってカバネの皿に取り分けた。


「あ、オレそろそろ半袖にしようかと思ってんです。砂嵐対策って長袖も我慢してましたけど、夜も暑くなって来たし」とカバネも口を挟んだが、彼の意識は半分以上パスタに集中しているらしい。

「僕もできれば涼しい格好がいいですね。町にいる間はハーフパンツでもいいですか?」

 ムクロもくすくす笑って尻馬に乗る。


「お前ら……まぁいいや。じゃあミッション『花とおじさん』を明日から始めるとしようか」

 アマネはフォークを皿に立て回した。パスタと一緒にほうれん草が巻き込まれて行く。


「それなんですが……本格的に始めるのはベリーヌに着いてからにしませんか」

「何故だい?」

 問い掛けられて、ムクロはフォークを手にしたまま手の甲で頬杖をついた。

「先ほどのアマネの話では、少なくとも数日間は町内を廻ることになるのですよね。以前の土壌汚染調査の時とは違います。ならば、先に町の責任者に挨拶をしてから調査を始めた方が安全と思います」


 フォークの先が、猫の尻尾のようにゆらゆら揺れる。ムクロは続けた。

「ただでさえ、最近の民間人は部外者に対して警戒心が強いし、なんとなく冷たいじゃないですか。調査の邪魔をされたところで僕たちからは何もできない――だったら、少なくとも町の有力者の許可を得ておいた方が、面倒が減ると思うんです」


 アマネは大きく目を見開いてムクロを見ていた。

「はぁ~……ムクロはすごいなぁ」

「からかわないでください」

「いや、ほんとにさ……俺はそういう気が回らないもんで」

 アマネは何度もうなずきながら、空になった食器を洗浄剤の入った袋へ入れた。続いてカバネも皿を入れる。ムクロから分けてもらったパスタは、あっという間に胃袋に消えてしまったらしい。


「根回しが苦手って、班長は絶対政治家向きじゃないですよね」とカバネが混ぜ返すと、アマネは苦笑する。

「その通りだけど、そういう言い方をされるとなんだかムカつくなぁ」


 * * *


 予定通り二日後にベリーヌの町へ着いたアマネたちは、まず役所を尋ね町長に大まかな任務を説明し、許可を求めた。

「そりゃぁご苦労さまです。ええ確かにこの町の外周を含む周辺一帯は緑化研究事業に借り上げられておりますが、お陰で町には多少なりとも昔の活気が戻って来たように感じましてね――」

 町長のコービィは、ひと区切りごとにハンカチで顔を拭う。


 コービィ曰く、彼がまだ幼少の頃にはそれこそ美人の産地として観光客も絶えず、各メディアが定期的に取材に訪れていたそうだ。また、いかにして女の子を多く産むかとやっきになっていた時期もあったらしい。

「それが、例の『最後の大戦』ですか? あれの最中にここから南へ約百キロほど行ったM国の地下実験場で兵器の研究をやっていましてね。ああ、あなたがたはもちろんご存知だと思いますが」


 アマネたちもその『事故』は知っていた。

 戦争の終盤、このままでは敗戦の確率が高まるばかりと判断した当時のM国上層部は、軍の施設で極秘の実験を繰り返していたらしい。


 だがその実験施設には欠陥があり、ある日、周囲三十キロの土地を巻き込んで大事故を起こした。

 軍施設から百キロ近く離れているこのベリーヌでも、地震のような揺れと地鳴りを感じたという。更に、ベリーヌを含む周囲百二十キロの範囲にある街は、空気や土壌の汚染の危険から一時立ち入り禁止にもなった。

 結局その件が引き金となり、終戦宣言を待たずにM国は敗戦した。それ以来、終戦後の数年を含む十年近くは某大国の支配下に置かれていたのだ。


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