酔って、死にそうで、シャワー浴びろ
ゴクゴクゴク……
「ぷはー」
居酒屋のカウンター席。
仕事終わっての一杯。格別である。
「生、もう一杯」
「弓長さん。そんなに飲んで大丈夫?11杯目だよ?」
「ご主人、大丈夫ですよ。ウチの会社にはもっと化け物が、何人もいるんで」
泥酔しててもおかしくない量の生ビールを飲みまくっても、素面と言えるような表情で注文。
若さに重なって、隣にいる野郎と比べれば、格差溢れたイケメンな弓長晶。
「ちくしょー、なんだよ。コノヤロー」
「三矢さん。飲みすぎですよ。7杯も飲んじゃいけません」
「うるせぇー!俺はイケメンが嫌いなんだよ!」
弓長と対比するように、三矢正明はヤクザ面。これでも同じ営業担当をやっているわけだが、三矢のそれは気が乗らない、ヤクザ手法での営業活動。弓長はご綺麗な通販をやっているようなトーク術で営業するスタンス。
まったく逆だから、客先で。特に女性陣から嫌われたやり口に
「営業なんて、営業なんて……イケメンだけがやりゃあいいんだよ!」
「何言ってんですか。三矢さんがいなかったら、男性客やご高齢の方をターゲットにできないじゃないですか。私にはない事ができる。三矢さんの素晴らしいところです」
「うっせーな!俺だってな!!俺だって!!仕事終わりに『三矢さん。これから一杯どうですか?』とか、『あの、今度。日曜日、お会いできませんか?』みたいな!!そんなイケメン!リア厨!!仕事になりたいんだよ!!女性に誘われたいわ!」
「そんな三矢さんの心をケアするために、お付き合いしてるんですよ?一部では『え?三矢さんと弓長さんってできてるんですか?』『アーッのご関係?』なんて、私のイメージダウンもあって。それもご覚悟して、付き合ってあげてるんです」
「ふざけた事を抜かすんじゃねぇ!!」
格差社会なんて当たり前。人間そんなもん。この世に勝ち続けた人などいるだろうか?
また、勝つ事がなにもかも合っているか?
負けていいわけじゃなく。
「やりてぇっ……やりてぇよ……」
「三矢さん。中年男性がそんなことほざいていると、やべぇー奴にしか見えません」
◇ ◇
好きに望んだことをやる。簡単なんだが、難しいことだ。
大人って、金があっても、暇がねぇ。
「ちくしょー、よ」
「飲みすぎですよ。三矢さん」
ホントにさっき言った事がマジになっているのか?
弓長が肩を貸し、三矢を抱える形でお持ち帰り状態。
「それは誰得なんですか?」
「知らねぇーよ」
一生懸命に生きてていても、辛い時はいつだってある。そんなお前の気持ちなんか、知ったこっちゃねぇ空気で、公園の即席ブランコに向かい合うサラリーマン風の男性。
「……………」
「お?」
酔っている幻じゃない。おそらく、自分が吊るした縄ブランコと向かい合って、この世の終わりを知ろうとするんだろう。三矢は興味本位で弓長を動かし、誘った。
「なんだなんだ?自殺か、お前?」
「三矢さん、よしなさい。ロクでもない人助けなんて……」
最期って時に酔っ払いに絡まれる、自殺志願者。
面と向かうと、しょうがないが。年上らしいことに気付いてしまう。
「なんだあんた等、……関係ねぇだろ?」
「あるよ。公園はガキの遊び場だ。死ぬなら過労死にしろ。亡霊が公園に現れちゃ縁起が悪い」
「それが怖いから自殺を選ぶんでしょう?」
生きてみろよ。って言葉。おそらく、若いんだったら言えるだろう。
先に色々ありゃあ。
「ヒクッ」
酒の臭いが強い。それは自分と弓長だろう。だが、自殺者からは
「汗と垢の臭いだ」
「嫌なことでもありましたか?」
「……カンケーない事だ。もう俺はいいんだ!」
まぁ、興味ねぇよ。
それが弓長の心理だろう。付き合いのある三矢にはそのことが分かっていて、自分はまったく違う。思えることがある。
「彼女に振られたとか?会社の倒産か?」
「カンケーねぇだろ!!」
「お前にはカンケーねぇんだよ!ここは公園だぞ!テメェっつー、ゴミを処分する市民様を巻き込んでんじゃねぇー、バーカ!!」
自殺を防止するには全く持って、不適切な言葉だろうか……。
「弓長ぁっ、見とけよ。こんな社会に失望した男を俺ぁ。ひくっ」
「女性だったら良かったですね。ラブコメの波動が生まれそうだったのに」
「行くぞぉ。人に前を向かせて、生きさせて。!うぷっ……」
ゲロロロロロロ…………
◇ ◇
カポーーーンッ
「いやぁ、近くにスーパー銭湯があって良かったですねぇ。服も貸してくれるし。生ビール、私から奢りましょうか?」
「いい。もういい」
自殺者はとりあえず、風呂に入った。久々のデカイ風呂だった。
三矢も弓長も一風呂。
「あー、吐いた上に風呂にも入るから、気持ちいいわ」
「よかぁないですよ。なんですか?カッコつけて、ゲロ吐いて……」
「いいじゃねぇか、な?いいだろ?」
良くない。そんな顔をする2人。
「ガキの頃。バス酔いしてやったのを思い出したわ」
「童心に帰ってどうする」
「あははは、んなところだろ。生きていくのも楽じゃねぇな」
自殺したい人間の傍。むしろ巻き込んでまでやった自分の恥。
「…………もう少し、生きてみて考えるよ」
「そうですか。その方が良いですよ。まだ面白いことはあるもんです。人に向かって、ゲロ吐いて、笑っている男もいるんですから、ねぇ」
「五月蝿ぇな」
些細な事ではあったが、こんな形ながら
「……シャワーと風呂はいいな」
趣味ができた。
生きてみて、悪くないという、理由づけだ




