5・レイア姫のパンツ
VARIATIONS*さくら*5
《レイア姫のパンツ》
「ねえ、こんなドジな子がいるよ」
四限が終わって佐久間まくさが、スマホ片手にぐずぐずしているあたしの席に来た。
「う……!」
かろうじて悲鳴にならなかった。
「アクシデントなんだろうけど、警戒心ってか、用心しなさすぎ、この子。同じ帝都の子として恥ずかしい」
スマホには、ガードマンの誘導灯にスカートをひっかけられ、派手にめくれた瞬間おパンツがむき出しになった写真が載っていた。後ろ姿なので、制服から学校が分かるだけだった。
でも、瞬間で分かった。これは、あたしだ……!
「どうかしたん、さくら、顔が青いで」
「なんでもないよ!」
「あら、こんどは赤くなった……」
恵里奈まで寄ってきた。
「これ……」
まくさがスマホの画面を恵里奈に見せた。
「あらら……」
「学校のサイトで、画像出したら、これがトップに出てきたの」
あたしは、ゆでだこみたくなった。
「ちょっとちっこくて、わからんなあ」
恵里奈は、なんとタブレットを持ち出した。バレー部なんで得点やらフォーメーションなんかの記録用に持っているのだ。
「あ、この子のパンツ、レイア姫だ!」
恵里奈は、人差し指と親指で拡大して確認した。
「レイア姫?」
「スターウォーズに出てくるお姫さま……ん……豪徳寺一丁目」
恵里奈は電柱の住居表示を拡大……なんかすんなよ!
「さくら、豪徳寺だったわよね……?」
「ひょっとして、この子……さくら!?」
あたしは、赤のまま壊れた信号みたいになった。
「さくらの油断もあるけど、こんなシャメ撮るやつ最低や!」
恵里奈は憤慨して、タブレットを操作した。
「なにやってんの?」
まくさが覗き込んだ。
「削除要請や。友だちとしても、帝都の生徒としても許されへん!」
「ごめん……」
「さくらのこととちゃうよ。この写真撮った奴!」
「すぐに削除できるの?」
「ちょっと時間はかかるやろけど……拡散してんとええねんけどな」
「で、さくら……」
尋問みたく、親友二人に事情を聞かれた。
まず、あたしの不用心さを指摘された。水道工事中とは言え、一メートル半は道幅が残っている。わざわざ、ガードマンのニイチャンの側を通ったうかつさ。それから、三十メートルも前からガードマンのニイチャンを見つめた神経質さ。
「さくらは、どっちか言うとカイラシイ子やねんさかい。そんな子が帝都の制服で見つめられたら、若いニイチャンやったら、緊張すんで」
それから、薄着に感心された。
「この寒いのに、スカートの下パンツだけ?」
「パンスト穿いてるよ。あんましモコモコすんのやだから」
あたしは、暑さには弱いが寒さには強い。それが裏目に出た。
「そやけど、さくらて、かたちのええお尻してんなあ。一回比べあいしょうか!?」
そう言うと、バレーのセッターは部活前の昼食に走っていった。
「……ねえ、このクリスマス、温泉でも行かない?」
まくさが、食堂のラーメンをすすり、スマホをいじりながら提案してきた。
「そんなお金ないよ」
「交通費だけでいいのよ」
「え、なんで?」
「お父さんの箱根の社員保養所のクーポンが残ってんの。いまお父さんがメール打ってきた」
「あ、それなら行く行く!」
で、クリスマスの予定が瞬間で決まってしまった。もう例のシャメのことは忘れていた。
しかし、現実は、まだ序の口でしかなかった……。




