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VARIATIONS*さくら*  作者: 大橋むつお
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4・佐倉さつきの事情

VARIATIONS*さくら*3

《佐倉さつきの事情》



 また道路工事かと思った。


 年度末の道路工事は、使い残した予算の消化と決まっているけど、十二月の初旬。そんな理由じゃ無いだろう。

 とにかく幅四メートルの生活道路の工事は迷惑だ。つい先月だったかもやっていた。え……あれは電気工事だったっけ? とにかく邪魔になることに違いはない。前を歩いているオバサンは露骨に嫌な顔をしているのが後ろ姿でも分かったけど。わたしは、そんなことはしない。

 働いているのは、下請けか孫請け。働いている人たちに罪はない。十字路オジイチャンと工事現場の若者ガードマンもそつなく誘導。まあ、道の半分近くが使えるので「ま、いいか」で、おしまい。


 あたしの意識は、駅前のみそな銀行でいくら下ろすかで占められていた。


 先月のバイト代は、まだ手つかずだ。全額は下ろさない。四万にするか五万にするか……角を曲がったところでは、もう決めていた。四万五千。悩んだら中間を取る。今のところのあたしの人生訓。


 朝だっちゅうのにATMは混んでいた。やっぱ師走なんだろう。大学生になって初めての師走、新発見が多い。

 この春までは、妹のさくらと同じ帝都女学院に三年通っていた。シキタリのうるさい学校で、卒業してせいせいした。あたしの人生は大学から始まったと言っても過言ではない。

 次の次にATMの番が回ってくる。

 今は、一列だけど、ATMの直前になると、空いたATMに任意に行ける。なんでもない当たり前みたいに見えるシステム。だけど、これは前世紀の末に、ある銀行の女性行員が考えたものだそうだ。それまでは、ATM毎に人が並んで、振り込みの人の後ろなんかに並ぶと大変な時間のロス。

 ちょっとした、コロンブスの玉子。こういう発想は女性ならではであろう。


 おっと、順番が回ってきた。さっさとATMのキーを押す。


 四万五千円と、カードと通帳が吐き出される。お金を財布に入れると、直ぐにATMを離れる。

「う……」

 思わず唸った。残額九十五万五千円……四万にしときゃ百万の大台のままだった。

 ま、いいか。年内には大台に戻ること間違いなし。


 豪徳寺から電車に乗って渋谷へ。高校時代から変わらない電車。でも世間が狭いというわけではない。リーズナブルだから。バイトも大学も買い物やウサバラシも、たいてい渋谷で間に合う。あたしなりの哲学だ。

 今日は趣味である映画鑑賞。

 あたしは、今の自分を試行錯誤のモラトリアムだと自己規定している。学部もつぶしの効かない文学部。

 クラブも、お気楽な映画研究部。でも、あたしはお気楽じゃない。なんとなく、自分の将来に関わりそうな予感……ちょっとこじつけ。とにかく面白いから。


 今日の映画は『47RONIN』感想は後ほど。


 昼からはバイト。


 渋谷の駅前ビルの一つに入っている『ブックスSHIBUYA』レジと、本棚、在庫管理などが仕事。

「あら、サトちゃん、入ってたの?」

「年末は稼ぎ時だから」

 明るく笑って、補充注文カードの整理をしている。

 サトちゃん。本名氷室聡子、都立S高校の三年生。歳は一個下だけど、バイトとしては同期。S高は、けして評定平均の高い学校じゃないけど、仕事の飲み込みはいい。時に学校を休んでまでバイトに来るが、もう進路は決めている。精神年齢や人生経験は実年齢を超えている。有る面不幸な子。

「助っ人お願い!」

 文芸書の方で主任の声。

「いいよ、あたしが行く」

「すみません、サツキさん」

「いいって、体動かさなきゃ、ナイスバディーの線が崩れる。アハハ」

「アハハ」


 サトちゃんは、バイト仲間の秋元君と体の関係があった。サトちゃんはおくびにも出さないが、秋元君の態度で分かる。サトちゃんは深入りせず、それっきりにしようとしている。秋元君に分からせるのは、自分の役目だと思っている。

「秋元君、この返本分、バックヤードお願い」

 さりげに、サトちゃんの視界から外す。あと二三回もやれば、秋元君も悟るだろう。


「おーい、お風呂長いぞ!」


 いつにも増して長いさくらのお風呂に声をかける。

「いま、上がるとこ……!」

――なんか、あったな――

 さくらのお風呂は長いけど、姉妹として長い付き合い。水音だけで気持ちが分かる。

「ちょっと入んなよ」

 風呂上がりのさくらを部屋に呼んだ。

「なによ」

「なんか、あったろ?」

「……テストでヘマやった」

 国語のテストで準備万端の読みを「じゅんびまんたん」と書いたらしい。

「このヘマの原因は?」

「え……」

「心ここにあらずだから、こんなヘマやったんでしょうが」


 それから、さくらが説明したのはマンガだった。


「そりゃ、ガードマンのニイチャン緊張させたのは、さくらのせいだよ。見られてたってことは、さくらも見てたってことでしょうが」

「だって」

「帝都女学院の女の子に見つめられてドギマギするのは普通の神経だわよ」

「でも、スカート引っかかっちゃったんだよ。後ろのオッサンに見られちゃった」

「へこむなよ、そんなことで。オデン美味しかったよ」

「うん、実は……」

「知ってる。犬飼のおじさん、亡くなったんだよね……お母さん具合悪いから、お通夜は、さくらと二人だね」

「うん、よろしく……」

「ガードマンのニイチャンも、さくらのこと可愛いと思ったからドギマギしたんだよ。あたしの時は平気だったもの」

 そうフォローしてお風呂へ。


 カランの棚のとこに下洗いしたレイア姫のおパンツが絞られたまま置き去りにされていた。いつもなら「おパンツ!」と怒鳴ってやるとこだけど、今日は、そっと洗い物のカゴに入れておいてやった。


☆……さつきの映画評『47ROUNIN』


 さて……こいつをどう評価するか、結構ややこしい問題ありです。


 一切何も考えないで、ファンタジーなんだと、世界観をそのままに受け入れるんだとすれば、まぁ映像は良く出来ていたと評価出来ます。

 しかし、本作が赤穂浪士四十七士の討ち入りの映画だとするなら、言いたい事は山積み、一々書き連ねたら明日の朝までかかってしまう。だから、これは考えないとして、とりあえずインスパイアされたけど、討ち入りそのものを再現するものではないとして見ます。

 それにしても、忠臣蔵を知らない外国人がこれを見て、誰に思い入れてどこに感動するのか?

 日本の江戸時代に一体どれだけの外国人が知識を持っているのか。ハリウッドは昔から結構無責任に白人以外の歴史物語を英語映画にしてきました。ローマ帝国の興亡なんてな同じ白人だからいいとしてたら、オードリー/ホセで作った戦争と平和はイデオロギー以前に「こんな物はトルストイ文学の映像化ではない」と攻撃されたわけだし、アンソニー・クインで撮った「フン族の王アッチラ」の物語は当時こんなものはアッチラの物語ではないと主体的に抗議する民族が存在しないながらも「いかがなものか」位の議論はあった。

 はっきり言って、日本人であれば、「忠臣蔵」の話を知悉していればしているほど、入り込みにくい映画です。

 なんもかんも忘れて、ファンタジーと見るにしても、中途半端で 誰に思い入れてどこで感動すりゃいいのか 全く不明。 ファンタジーとして見るには 半端に日本の文化や歴史観に踏み込んでいます。外国人が本作をどう見るのかは分かりませんが 日本人には……う~むぅ 監督はCM畑の人だとか……元々の脚本に問題があったのは確かながら、MTVやCM出身監督の作品はスタイルを優先させるが為に作品の内実を蔑ろにする傾向があるようです。日本にも 歳だけくって巨匠面している大林某なんてな輩もいますからね(尾道3部作ファンの皆さんごめんなさい)


※「さつきの映画評」はタキさんの映画評を参考にしました。




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