表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VARIATIONS*さくら*  作者: 大橋むつお
31/102

31・プロモデビュー

VARIATIONS*さくら*31(さくら編)

《プロモデビュー》



 降って湧いた話とは、このことだ!


「プロモのモデルになって欲しいんだけど」

 オノダプロの吾妻という名刺を出しながら、そのオジサンが言った。まくさと恵里奈は、下の部屋で待ってくれている。

「今度、あたしたち『おもいろシャウト』って曲出すんだけどね、そのプロモに出て欲しいの。さっき駅前でオジサンとオネエサンがもめてたでしょ。それを吾妻さんが見てて、あの子いいねえってことになったの。で、見たら去年、学校で飛び降りようとした子(白石優奈)を助けた子じゃん。それで、同学のよしみで、あたしが声をかけに行ったの」

「むろんメインは、鈴奈たち『おもいろタンポポ』だけど、カットバックで、君がシャウトしてるところを入れたいんだ。まあ、アクセントのカットバックなんだけどね」


「あの……なんで、なんの取り柄もないあたしが?」


「案外いないんだよ、普通そうな女子高生って。それが、さっきシャウトしてる姿見て、この子だって思ったんだ。あ、これ絵コンテ」

 見せてもらった絵コンテには『おもいろタンポポ』が、歌っているコマの間に『普通の女子高生のシャウト』というコマが、全部で8コマ入っていた。時間は0・5ずつ7回で、3・5秒だった。

 3・5秒とは言え、プロモ、動画サイトやテレビでも使われるかも知れない。

「あたし未成年だから、ここでお答えはできません」

「むろん、こちらから保護者の方には連絡して許可をいただくよ」

「学校の方は大丈夫。あたしたちがやってるんだから問題ないわよ」

「はあ……」

「ギャラは、あんまり出せないけど。手取り十万でどうだろ?」


 あたしは、この十万で決意してしまった!


 たった一日の撮影と、3・5秒という時間に騙された。

 二三時間あれば終わると思っていたけど、スタジオでの撮影は、まるまる一日かかった。


 緑色のセットだったので、背景とかはCGのはめ込みかと安心していたが……。

 衣装の制服に水はかけられるわ、送風機にあおられるわ、人工雪まみれになるわ、機関銃を撃って熱々の薬莢が顔に当たるわ、極めつけは宙づりにされ空中で回転するわ、もうバラエティーの罰ゲームを一日やったようなものだった。

 シャウトする言葉は「お・も・い・ろ・シャ・ウ・ト」この7文字をブツブツに百回ぐらいいろんなものにまみれながらやらされた。


 十万のギャラは、そんなに割がいいとは思わなくなっていた。


 全部のOKが出た後、ラッシュっていう撮ったまんまの映像を見せられた。

 我ながら、すごい形相。送風機にあおられたやつなんか、スカートが捲れ上がり目も当てられない。

 でもスタッフは真剣そのもの。

「この捲れ上がる寸前の0・5秒をどこで切るかだな……」

 むろんミセパン穿いてるとは言え、このシーンをなんどもくり返されるのにはまいった。


「どうもありがとうね」

 ラッシュの終わり頃に鈴奈がやってきて労をねぎらってくれた……でも、正直ボロボロになっていて、鈴奈が小悪魔に見えた。


「どうだ、さくらプロモの撮影は!?」

「さくら!?」

 お父さんとお母さんは、まるであたしがアイドルにでもなったような気でいた。


 十枚の福沢諭吉……諭吉が、こんなに愛おしく思えたことはなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ