貴族というものⅡ
王族、使者、国民、奴隷という四つの位が存在する国、リルオーフェ神国。更に細かく言えば、王族、貴族、神職、臣下、使者、職人、商人、農民、国民、商品、奴隷といった具合になる。王族、貴族、神職、臣下、使者はナルシア街に位置する神国中央の丘に住み、豪華な暮らしを営んでいた。
その神国を統べる王の名を、ソウシャ国王……カナデ国王と名乗る。そして、センリの唯一の友達の名を、チナといった。
「センリ?」
「ソウシャは、僕のことよりチナのことが気になるのですか?」
「どうしてそんなことを言うのです?」
「この部屋に入ってきたとき、ソウシャは僕の名を呼んでくれました。それはとても嬉しくて、安堵していました。でも、僕のもとには駆け寄ってくれなかった……」
ソウシャは表情ひとつ崩さず、泣きだしてしまいそうなセンリを静かに見据えていた。ソウシャの手をよく見ると、チナに触れたのか血がついているようだった。
「どうして、僕じゃないの……? 僕はソウシャが大好きだよ。チナも大好きだよ。でもどうして……みんな、僕から離れていくの…………」
涙に声を震わせ、ソウシャに訴えるが、ソウシャはそれでも無表情のままであった。泣き始めるセンリに、ソウシャはただ、静かに見据えているだけである。これが、チナが感じ取っていたソウシャの人間嫌いというものだろうか。
涙を流さないように必死に涙をこらえ、唇を噛みしめた。
ソウシャは僕の言葉に、動揺することもなく小さなため息交じりに口を開いた。
「センリを失わないためです」
「どうして!? 僕全然意味が分からないよ。ねぇ、ソウシャ。どうして僕を失わないために、僕から離れるの!? 僕のこと嫌いなの?」
「いいえ、好きですよ。とても大切な人です」
「だったらっ!」
「ですが……」
そのときのソウシャのとても哀しげな顔を僕は忘れないようにしたいと思った。僕はソウシャに、こんな顔をさせてしまうのだと自分を責めた。僕が悪い、僕が余計なことを言ったからだと。だが、自分を責めたところで何かが変わるわけでもない。
「今のセンリに話しても分からないでしょう……」
そう言うなりソウシャはチナが鳴らしたベルを手に持ち、振り鳴らした。
僕がソウシャたちの気持ちを分からないからいけないのだろうか。僕がダメだから、ソウシャは僕に何も話してくれないのだろうか。ごめんなさい、僕が悪い子だから、ソウシャは僕のことが嫌いなんだよね。ごめんなさい、ごめんなさい……。
「お呼びでしょうか?」
そこにベルの音を聞き、ソウシャの使者がやってきた。
「アル、この部屋の片づけをお願い致します」
「かしこまりました。……その子はどういたしましょうか?」
ソウシャ僕を一瞥すると、アルに視線を戻した。
「……少し時間をいただけませんか?」
「ですが、チナ様を……」
「事実確認が済んでおりません」
「私共が……」
「……部屋の片づけのみをお願い致します。私はこの子を連れて、部屋にいきます。何かあれば、啉杜や柩婪が動くでしょう」
「……かしこまりました。では、またお呼びください」
ソウシャはその言葉を聞き、足早に部屋を出て行ってしまう。その背を見送り、啉杜がそっと背に触れてきた。
「行こうや」
僕はただただ、黙って頷くほかなかった。
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『わいはどうしたらよいのじゃ?』
『言伝を聞いておりませんか?』
『客人をもてなしてほしい、というものかの?』
『そうです』
『まさかそれが、センリだとは思わんかったのう……』
『お願いできますか?』
『それは、ソウシャ様としての命令か? それとも、カナデ様としての命令か?』
『……ソウシャとしてのお願いです』
チナは黙り込み、小さなため息を吐き、頷いた。
『分かったのじゃ。だがのう、ソウシャ様』
『……何でしょう?』
『わいとセンリを会わせて何がさせたいのじゃ? センリはわいのことなど、もう遠の昔に嫌っておるのじゃ。もう会ったところでなにも出来ぬ』
『センリはチナ様と仲良くしたいのです。初めて出来たトモダチですから、喧嘩も初めての経験です。喧嘩のあとは、仲直りでしょう?』
チナはクスクスと笑い、ソウシャに背を向けた。
『そうじゃの、それが友達じゃ』
チナとソウシャの会話を柩婪は聞きながら、どこか胸騒ぎを感じていた。これが何かを引き起こす引き金となってしまうのではないかと、嫌な予感が当たらなければいいと願うばかりだった。
『そのことについてなのですが、少々お話があります』
『仲直りのほかに何があるのじゃ?』
『このままでは、私の命があるとはいえ、センリは殺されてしまいます。貴族に「様」を付けていない時点でそれは処罰に値するものですし、何より先日の王族周回の際に、前に出てきてしまっていますから、顔も割れています。このままでは、センリの命が危険に晒されてしまいます』
『……それがわいと何の関係があるのじゃ? 王族に逆らった罪で殺されるのは当たり前じゃろう?』
『チナ様はそれをお望みですか』
二人の間に冷凍庫を開けっ放しにしたような異様な空気が流れた。その様子を柩婪は苦笑を浮かべて見聞きしていた。
『愚問……じゃな』
『その回答が返ってきてホッとしています。もしもう一つの答えが返ってきていたら、あなたの命が無かったかもしれませんね』
『そなたはまことに怖い男じゃ』
『センリを危険には晒せませんから』
『その危険を一番そばに置いているのは、そなたの存在じゃろう?』
『……どうでしょうね。そんなことより、私の話を聞いていただけるのですか?』
『国王であるソウシャ様が下に願うなど、有り得ぬ話じゃ』
ソウシャは意味あり気に深い笑みを浮かべ、壁に背を預け、腕を組んだ。
『ならば、話は早いですね』
鋭い視線に睨まれたチナは、蛇に睨まれた蛙のように固まり、背に悪寒がはしった。
『……センリに処罰を受けて頂きます』
‡
ソウシャの部屋、国王の執務室に足を踏み入れたセンリは、俯き啉杜の背に隠れた。啉杜はセンリの前から動かず、ソウシャに視線を向けた。
ソウシャは机に置かれた公務の書類の数々を手に取り、眺めているようだった。
「ソウシャ」
「……啉杜、柩婪を呼んで来ていただけますか? たぶん、もう帰っているはずなのです。帰っているのなら、自室にいるはずですから、呼んで来て下さい」
「で、でも」
「お願いします」
啉杜はセンリのことを思ったが、ソウシャの命令に啉杜は逆らえなかった。センリの肩をポンポンと叩き、部屋を後にした。
二人きりになり、ソウシャはセンリに向き直ることなく、書類に視線を向けたまま重い口を開いた。
「もし……、あの場面で、チナ様が怪我を自らされなければ、センリは殺されていました」
その言葉を聞いても、返す言葉は見つからない。
「……王族周回の際、私たちの前に出たことでセンリの顔は割れています。今はここに招かれる客として、私の付き人ということになっています。しかし、センリたちを案内した使者の様子はどうでしたか? あまり歓迎されていないように思いませんでしたか? それは、招かれざる客ということをしめしています」
――――僕はソウシャに何を言うべきだろう。僕はソウシャに謝ったほうがいいのかな……。僕は逝くべき人間なのかな
震えだす手を握りしめ、俯いたまま小さな声で話し始めた。
「僕は、殺されるべきですか?」
「王族的に言えばそうなります。ですが、もし、センリが殺されるというのであれば、私が殺された方がましです」
「……やめて」
「え?」
「やめてくださいっ! そうやって、僕が大切だとか、僕のこと好きだとか。そんなふうに、偽善者ぶるのはやめてください! もう嫌……。もうたくさんです……」
ソウシャはセンリに向き直り、鋭い視線を向けていた。
「もう嫌なんです。僕は確かにこの世に生きていちゃいけない人間なのかもしれない。でも、僕はソウシャたちを困らせて、啉杜にも迷惑ばかりかけてるし、柩婪にはきっと嫌われてる。そんなのもう、分かってるから……。僕が悪い子なことくらい分かってるから……。もう僕をこれ以上、苦しめないで!」
近づこうとするソウシャに、センリは手を前に出し一歩後ずさった。
「近づいてこないでっ!」
「センリ……」
「その名で呼ばないで。僕のこと、嫌いなんだよね。だったら、僕のことを忘れてよ。僕もソウシャを忘れられるように努力するから」
「センリ」
次の瞬間、センリは何が起こったのか分からないでいた。白く、ふんわりとした肌触りのよい布に包まれ、チナに被せられていた上衣が床に落ちる。僕より背が高く、とても温かなものに抱かれているようだった。その正体がソウシャであることに気付いたのはそれから何十秒も後のことであった。
「……やだ! やめて、ソウシャっ! 離れて!」
僕のことを嫌うソウシャ。なのにどうして、僕に優しくするのか、それが疑問でならなかった。優しくするから、僕が勘違いしてしまうというのに、ソウシャはそれすらも分からないというのだろうか。
堪えていた涙が、ソウシャの服を濡らしていった。
暴れ離れようとする僕を、さらに強い力で抱きよせ、離さないソウシャは、何も言わず静かに僕に触れていた。
「お願い…………。離して、ソウシャ……」
「…………昔、私のことを好きだと言ってくれたひとがいました」
「え……?」
「そのひとはとても美しく、誰からも愛されていました。ですが、病弱だったためにあまり皆とはしゃいで過ごすようなひとではありませんでした。それこそ、今のセンリのように世を知らず、外の世界を知らないひとでした」
ソウシャはあまり自分のことについて多くを語らなかった。今まで聞いてもはぐらかされてばかりで、ソウシャの口から真実が語られることはなかった。それが今、ソウシャ自ら隠していた過去を話し始めたのだ。どういう経緯でそうなるのかは分からないが、過去を語るソウシャの声は、とても小さく穏やかで、とても寂しげなものだった。
僕の知らないソウシャを、僕は今日、ひとつ知ることになる。僕はソウシャが好きだけど、僕のことが嫌いなソウシャの気持ちを少しでも多く理解したい、そんなことを考えていた。
「私は周りから無頓着なひとだとよく言われていました。確かに、私は他の者に比べてものへの執着は薄く、国王というもののような位にも興味は無いに等しいものでした。皆はよく私に『皆が欲しがるものを、すべて手に入れておきながら、あっさりそれを棄ててしまう』と言っていました」
その言葉に固まってしまう。
――――あれ……その言葉……
「皆は欲しがるかもしれませんが、私には興味がなかったので、この意味は正直今でも分からないままです。そしてその言葉は、ひとの関係内でも同じことがいえました。それがあの病弱な女のひとだったのです。私ははじめ彼女に会ったとき、彼女に心底興味がありませんでした。寧ろ、嫌いな部類のひとだったような気がします。同じ時間を過ごし、同じ日々を過ごしていくうちに、私は彼女の可憐さに惹かれていきました。それが、私がはじめて欲しいと思ったものです。無頓着だった私は、自分以外、いえ、自分さえもどうでもいいと思っていたのですから、大切なものなあるはずもありませんでした。
その彼女の名を、センリと言います」
「せん……り……。僕の名前……」
「私が生涯、唯一大切なものとして感じていたひとです。それ以外に大切なものなど、存在しませんでした。
ですが、彼女はこの世にもういません。……私が犯した罪こそが、彼女、センリを殺してしまったことなのです。そんな私はその罪を償うことなく、今もこうしてのうのうと生きています。理由は言えません。もう少し待ってください。私の気持ちの整理がつくまで、もう少し待っていて欲しいのです。わがままを言って、申し訳ありません。センリに、いつも我慢ばかりさせてしまって申し訳ありません。
ただ、今一つ言えることは、私にとってセンリがとても大切な人だったように、今ここにいるセンリもとても大切なひとだということです。
私はとても臆病者で、小心者で、勇気すら出ないちっぽけなひとです。大切なものを作って、失うのがとても怖くて、センリから逃げていたのです。逃げてはダメだと思っていても、気付けば安全地帯に逃げ込んでいる自分がいます。それがどれだけ自分を甘えていることになるのか分かっていながら、それでも現実と向き合うことが出来ずにいます。こんなふざけた私を許して欲しいとはいいません。ですから、センリ。私はセンリを見捨てはしませんし、センリの良き理解者になれればと思っています。私は好きだったセンリも、あなたというセンリも、大好きで大切なひとに変わりありません。
今度こそは、失わないように……。
本当にごめんなさい…………」
ふと見上げると、自分の涙で歪み見えにくいが、ソウシャの目から涙が零れていることに気付いた。ソウシャの涙は、僕の涙よりも清く綺麗に見えた。
僕はセンリ。ソウシャに拾われ、名付けられた。
彼女の名はセンリ。ソウシャが唯一心を寄せた人物であり、詳細は語られていない。僕の、元の名を持つ者である。
そしてソウシャの大切なひと……。
でも僕は知らなかった。ソウシャの本当の気持ちを……。
‡
落ち着きを取り戻した僕らのもとに、柩婪と啉杜が返ってきた。
「買ってきた。それからこれも」
柩婪の手には何かを包んだ葉とリボンで止められた紙の束が握られていた。
「柩婪」
柩婪は僕に気付くと、優しげな笑みを浮かべ空いた片手で僕の頭を撫でた。自然と笑みがほころぶ。
「久しぶり。元気にしてたか?」
「うん。啉杜のおかげでね」
「啉杜は役に立たないだろ?」
その言葉に啉杜は柩婪の肩を持った。
「おい、可笑しいやろ。俺だって頑張ったんやで!」
クスクスと笑うと、ソウシャは柩婪から包みと紙を受け取った。
「ありがとうございます、柩婪」
「お前、それナルシア街にあるからって、無かったんだけど? わざわざヒカリア街まで行って来たら帰りが遅くなってしまった」
ため息交じりにそう言う柩婪に、ソウシャは苦笑を浮かべていた。
「申し訳ありません。言われて思い出しましたが、そういえば、店を移動したそうですね。ご苦労様でした」
面倒くさそうに、片手で束ねられた髪に触れながら、片手をソウシャに差し出した。
その手を見たソウシャはやれやれといった様子で、懐から一リオーフェ出し、柩婪の手に乗せた。
「これで足りますか?」
柩婪はそれを受け取ると、笑みを浮かべ頷いた。
「二冊買える」
どうやら柩婪へのご褒美は、柩婪の大好きな本の代金分のようだ。
ソウシャは紙を机上に置き、包みの葉を手に僕に向き直った。
「私がここにきて、初めて食べたものです。ここに来た頃、私は放浪人のようにふらふらと歩き回っていました。その後いろいろとあって、そのときに前国王のカナデ様が、私にお気に入りなのだと食べさせてくれました。白米に味のついたお肉がのっている料理です。年頃のセンリに、食べさせてあげたいと思っていたのですが、ここから出ることも出来なかったので、今日、家に持って帰ってでも食べてもらえたらと思い、柩婪に頼んでいました。お昼もまだでしょう? 王族の食事は合わないでしょうから、もしよければ食べてみませんか?」
ソウシャに葉を受け取り、危うく落としそうになると、ソウシャの手がのびてきて、僕の手と重なった。こういう場合、彼氏、彼女ならひとつあるものだが、男同士ではそうはいかない。でも、ソウシャの温もりが僕にとって、とても嬉しく落ち着けるものだった。ただ、ひとつ勘違いしてはいけないのが、僕はソウシャにまだ完全には心を許しきれていないということである。身の上話をされただけでころっと態度が変わるような僕ではない。ソウシャに対しては、それがとても重要な気もしてくる。この人は分からない。何を考えていて、何を思っていて、何をしたいのか……。それが分からないから怖い。そして、信じるわけにはいかない。そう自分の心が警笛を鳴らしていた。
座り葉を慎重に開くと、中からは美味しそうなお肉の匂いが漂ってきた。それだけで、お腹が鳴ってしまいそうになる。一口頬張れば、口の中にお肉の甘さとご飯の風味が広がっていった。
――――美味しい……
それが正直な感想だった。ただ、僕にとって、これは一番美味しいものではなかった。口のなかが空になったところで、スッとソウシャに視線を向けた。
「美味しい……」
「それは良かったです」
「でも、ソウシャが作るご飯が一番美味しい」
その言葉にソウシャは驚きを隠せず、笑みを浮かべていた。だがこのとき、ソウシャは心から笑みを浮かべたわけではなかった。それに気づいたのは、柩婪、啉杜だけだった。
‡
『センリを危険には晒せませんから』
『その危険を一番そばに置いているのは、そなたの存在じゃろう?』
『……どうでしょうね。そんなことより、私の話を聞いていただけるのですか?』
『国王であるソウシャ様が下に願うなど、有り得ぬ話じゃ』
ソウシャは意味あり気に深い笑みを浮かべ、壁に背を預け、腕を組んだ。
『ならば、話は早いですね』
鋭い視線に睨まれたチナは、蛇に睨まれた蛙のように固まった。
『……センリに処罰を受けて頂きます』
チナは腹を抱えて笑った。
『ソウシャ様は戯言がお好きなようじゃ』
『戯言などではありません。本気です』
『気付いておるのか? 先ほどと言っていることが逆じゃぞ?』
『私以外の誰かが処罰を下せば、センリは死にます。ですから、私から処罰を下すのです。皆が納得いくもののうち、最も軽そうなものを』
『ソウシャ様よ、センリをどう思っておるのじゃ? 今のソウシャ様はまるで、人間の姿をした悪魔じゃ』
『悪魔……。それに近い類ではありますが……。私はセンリがとても大切なひとです。それに嘘偽りはありません』
『だったら処罰をわざわざ下さずともよいのじゃ』
『下さなければ、他の者が私の目の届かない場所で処罰を与えるでしょう』
『……それは一理あるのう』
『ですから、私から下すのです』
『それがソウシャ様の答えか?』
『はい』
あくまで真剣に話すソウシャに、チナはソウシャから視線を逸らさなかった。全く揺らがないソウシャの瞳に、チナはため息を吐き視線を逸らした。
『ならば、その罪、わいが背負おうてやる』
『……はい?』
『わいがセンリの罪を背負うのじゃ。それなら、センリは傷つけられずに済むじゃろう? ソウシャ様とて、センリを傷つけられるより、わいが傷つけられる方がよいはずじゃ』
『言っている意味がわかりません』
『分からぬか? 国民への処罰の大きさが十だとすると、貴族への処罰の大きさは五で済む。ならば、わいが受けた方が得やろうて』
『あなた様に罪はないのですよ?』
『それでもよい。わいはセンリを傷つけた。それがわいの罪じゃ。それでは似合わぬか? 国王の特権なら出来るじゃろう?』
チナの顔には無邪気な笑みが浮かんでいた。それは本当の友達を思い、助けてあげたいという気持ちがあるように、とても穏やかなものだった。
『ソウシャ様、よかろう?』
その言葉にソウシャは折れた。
『分かりました。どのようにするおつもりですか?』
『どんな処罰になるのじゃ?』
『王族周回を横切る行為にあたりますから、国民なら無期懲役または死罪でしょう。貴族なら腕一本分くらいでしょう』
『それなら、わいが腕一本差し出そう。それで許してやって欲しいのじゃ。よいか?』
『確認でき次第、センリの代わりと見なします』
『使者に呼ばれたら来て欲しいのじゃ。その際の、啉杜への演技を忘れずにのう。わいのこの企みは、センリには内緒じゃぞ』
笑みを深め、人差し指を唇の前に置いた。
――――センリ、良きトモダチを持ちましたね
『あぁそれから、無論、センリに近寄ってはならぬぞ?』
『それくらい言われなくても分かっていますよ』
『わいの部屋に来て、わいを放置してセンリに近づけば、国民の分際で、と使者に殺されてしまいかねんからのう。使者らの怒りをかってはならん』
『私の方が立場は上なのですが、お忘れですか?』
ソウシャは笑みを浮かべ、得意気に胸に手をあてた。
『そうじゃな。出過ぎたまねをして悪かったのう』
『チナ様、センリのことをどうぞよろしくお願い致します』
『もちろんじゃ。ソウシャ様も、そろそろ監視が外れると良いのう。使者の誰かが分からぬまでは、何も出来んからのう』
『そうですね。使者に紛れる元老を見極めるまでは、大人しくしています』
『わいがどれほど傷つけても、ソウシャ様がセンリのもとへ歩み寄り、元老に見られておれば、一発アウトの言い訳無用じゃからのう。応援しておるぞ、ソウシャ様』
『ありがとうございます、チナ様』
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『カナデ陛下?』
『奏者殿に最後に伝えておきたいのですがな、「元老」という存在には注意してください』
『元老?』
リルオーフェ神国には四つの位が存在する。王族、使者、国民、奴隷というものである。しかし、そこに国王を陰で支え、陰で操る者がいる。その者たちの名を、『元老』というそうだ。元老は王族位より下でありながら、唯一国王に指図出来る権限を持ち、国王が謀叛を起こさないか、裏切りはしないかなどの監視をしているのだそうで、その姿は誰も知らないのだという。使者位に位置し、普段は使者として過ごしているというが、その詳細は不明なため、見張られている国王は国王らしい振る舞い以外をすることが出来なかった。
そしてその元老は、三人いるのだという。その三人は皆に、『三大家元老』と呼ばれており、その力は国王と並ぶほどだという噂もある。
『元老となるだけ関わらないように生きてください』
それが国王から最後にいただいた言葉である。
ソウシャは葉に包まれた白米とお肉を頬張り、啉杜と柩婪にも分け与えているセンリに視線を向けた。
――――元老がセンリをどう見たかが今後の鍵になりそうです……




