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序章
ガタゴトという電車の音は始発の東京駅からほぼ途切れることなく続いている。やがて真っ暗だった窓の外が明るくなり、電車の中でしかめっ面をしながらスマートフォンの画面を見つめていた高校生、橋下玲央に、トンネルを抜けたことを告げる。
(ほんとに圏外とか...ふざけんなよ)
スマホの画面のバッテリー表示の横にある圏外という文字を見て、玲央は心の中で毒づいた。
いつの間にか窓の外には真っ青な海と青空が広がっている。普通なら溜め息が出る程美しい光景だが、玲央はそれを忌々しそうに一瞥し、顔を背けた。
「次は海南駅──」
アナウンスが流れる。
「とうとうついちまったよ...最悪...」
今度は心の中ではなく、実際に声に出して毒づいた。
海南駅、正しくいえば海南街は、今回玲央が、一年の間留学する街の名前だ。
なぜそんなことになったかというと、ちょうど一ヶ月前に遡る必要がある。