プロローグ
魔界または、クラドムスヒは”主”と言われるあらゆる世界を創造した存在達の創造界の一つである。魔界全土は十字の形をした国土から成る。中心に城を持つ首都クラドムスヒ市があり、そこを中心としそこから北をトワツミ市、西をハマミツハ市、そして東をイスルザキ市の4つの都市から成る王制界である。
魔族の総数は反王制組織も少なからずあるため、具体的な数は不明。各市では約一万もの魔族が住まうとされる。
それでも、都市を四つ統合し今現在政府と協力を得ているためか、紛争等は起きていない。
魔界の王は魔力の最も高い者がその座に就くことができる。
しかし、12500魔歴現在、現魔王の魔力が落ちつつあり、魔界では一つの節目を迎えようとしていた。
全長約888長魔ほどある、クラドムスヒの城は9階の大きな部屋から成る天井は高く各階は約70長魔ほどあり、この建物の一番上には直径約81長魔ほどある魔界全土を表す魔王家印が掲げられている。
建物自体が円錐のような形なので各階は丸くなっており、各部屋は台形型に必然的になってくるのだが、
各階の直径が約280長魔もあるため、さほど形は気にならないくらいの空間が広がっている。
クラドムスヒ魔界城8階の自身の部屋でミトは入口扉から入って左手の部屋からガチャリと扉を開け、自室玄関へと出てきた。
ミトの部屋は三つの部屋から成り、一番右を寝室、真ん中を書斎、そして一番左が瞑想室となっていた。
ミトは瞑想室で今の今まで自身の魔力を整えていたのだ。
ミトはふと広い自身の部屋の玄関にある花瓶を見た。そこにはピンク色の魔界チューリップが咲いていた。
ミトは珍しそうにしばらくチューリップを見ていた。ミト自身は興味がなかったが家臣が持ってくるので仕方なく飾っているのだ。
この花瓶の花は色々な花を咲かせるが、このチューリップを咲かせたことはなかったのだった。
しばらくしてミトは思い出したように、扉横の羽織かけから赤ラインの入ったジャケットを取り、黒の無地で少し硬めのロングティーシャツの上から羽織ると、かちゃりと黒色の扉のドアノブを回す。
黒色の扉から出るとすぐに、各階の中央に設置してある転移陣へ向かう。
途中父の側近である赤の一族の使い魔に後ろから声をかけられる
「おや、ミト様お出かけですか」
赤い法衣服を着ている。歳は魔王である父くらいの中年で、肌は白く、目は魔族特有の赤で髪も赤い。少し長い髪をオールバックにまとめている。
魔導職の赤の一族の名前はミトも覚えていない。それくらい父である魔王の側近は数が多いのである。
「ああ、少し」
無愛想ではないが気の乗らない返事をミトは返した。
「お気をつけて、お出かけください。一魔月前ほどでしょうか、原因不明の火の玉がこの魔界セントラルに出現しているようです。兵達が追いかけましたが未だにその正体はわかっていないとかで、大変物騒でございます」
「・・・火の玉?天界からか?」
ミトは余り興味はなかったが、そう答えた。
「いえ、それが、天族の力の気配は全くないということです。かといえ、魔力でもエレメントでもない不思議な火の玉です」
赤の使い魔は、少し考え込むような顔をした。
それ以上の会話は面倒くさくなったミトは、転移陣へと振り返り適当に返事をして転移陣へと入っていった。
すると、すぐに赤の使い魔は頭を下げた
シュウゥゥゥ
風のような音と陣の周りから出た赤い光に包まれて一瞬でミトはその場から姿を消した。
赤の使い魔はミトが去るのを確認してから下げた頭をゆっくりと上げ、誰も聞いていない廊下で呟いていた。
「・・・あと、考えられるのは人間界だけです」
※※※
ミトはまず、4階の鍛冶屋に足を運んだ
カンカンカンカン
弾むように金属がぶつかり合う音が聞こえる
鍛冶屋内は、炎のエレメントで熱さを感じる。
鍛治を打っているのは魔王家専属鍛治士のマエストロだ。
魔鬼で魔王であるドゥハと同族で図体の大きい体をしている。ミトよりも一回りは大きいであろう体だ。
白のタンクトップのシャツは汗で濡れていた、少し褐色の濃い頭はスキンヘッドに額には3本の白い角がある。
角は並んでいて真ん中の角は一番長く、鬼族特有のものだ。
マエストロはミトを見ると元気よく挨拶をしてきた。
「おう、ミトじゃねーか!例のモンはできてるぜ」
マエストロが始めに魔力の結界で守られた棚のような保管庫から出したのは、ミトの愛武器のひとつ”ヤトノミクラト(夜刀水闇戸)”だ。
中距離剣で、エレメントエナジーをよく通すので、魔力だけではなく、エレメントへの変換も自在で、エレメントの属性はミトが扱える氷エナジーだ。
「マエストロ、ありがとう」
ミトは安心したようにミクラトを受け取る。
刃渡り67小長魔くらい。ミトの身長に合わせて造った様なので全長93小長魔くらいだろう。
持ち手のところは黒で、全体的なデザインはいたってシンプル。
ミトは手にしっくりくる感覚を自身が愛用していると再確認させられていた。。
「おう、トワツミの上等なエレメントを使ってる、俺は氷エレメントは扱いが苦手だが、お前のために打ってやったぞ」
マエストロは表情を和らげているミトを伺いながら、次にシンプルな短剣を出す。
全長35小長魔くらいの刺すのに特化したダガーだ。
こちらもシンプルなデザインで、同じように持ち手が黒い。特に変わったデザインでもないが、主にカウンター攻撃に備えて持っている。名前は”ヤトノイワサク(夜刀岩裂)”これは、前魔王が持っていたものを現魔王のドゥハがミトに渡したのだ。ミトは不意をつかれた場合などにミクラトの長剣よりも出すのが早いので使っていた。
「最近、ドゥハの魔力が落ちてる。それでお前が狙われやすくなったからな。だが、俺の仕事に抜かりは無いはずだ」
マエストロは剣を渡した後、ミトに真剣な眼差しを向けた。
受け取ったミトは昔のことを思い出すように剣を見つめていた。
-暗殺-
ミトは幼少の頃より幾度も自身を狙う暗殺者に出くわした。
ミトは養子であるが、一応魔王の息子であるので王位継承に最も優位な立場にいるのである。
そしてミトは魔族の中でも魔力の高い、魔人特殊型であるので余計に王の座を狙う者にとっては目障りな存在であろう。彼らにとってミトは強大な魔力を身につける前に排除すべき存在という考えに十分当てはまる人物となっていった。
ミトはミクラトを背中、ちょうどジャケットの裏に描かれた魔界全土を現した魔王家陣のところに拳大くらいの空間の歪みを創り、そこに刃先から吸い込ませるように仕舞っていく。
そして、イワサクは右手首の方に小さな歪みを創り
そこに今度は持ち手の方から入れ込んでいく。
やがて2つの武器は歪みと共にそこから完全に姿を消した。
ミトは自身の魔力で異空間を創り、武器などを置いておくことができいつでも取り出せるのだ。
「やれやれ、驚いたな、すごい魔力だな。お前そういうことができるまでになったんだな」
「こっちの方が楽だ」
ミトはマエストロになんでもないことのように答え、そのまま入り口に向き直った。
「ミト、お前今日はどこ行くんだ?」
マエストロは振り返り、去ろうとするミトを呼び止める
「・・・叔母さんのところだ」
ミトは右手で頭の後ろを掻きながら答えた。行き先は誰にも告げたくなかった様な表情だ。
「おう、ジュミさんの食堂んとこか、そういや最近小さくて可愛いねーちゃんが手伝ってるよな」
「・・・え?」
「今なかなか可愛いねーちゃんがジュミさんを手伝ってるよ。度胸と実力が有るからジュミさんもお気に入りらしい。名前は何だったかな・・・ああ、確か・・・リリー・・・リリーだった気がする」
マエストロはハンマーで熱くなり赤くなった家臣の武器を一打ちしながら答えた。
ミトはそれだけ聞くと足早に鍛治場を後にした。
この魔王の王位継承の噂が魔界中に一人歩きしている時期に一人の者が魔王の妹であるジュミに気に入られるという怪しさ極まりない点が解せなかったのだ。
(もし、そういう暗殺者類の者なら始末しなければ)
その考えがミトの頭を埋めていった。
転移陣で地上階へと降り、クラドムスヒ城の北門へと少し急ぎ足でミトは歩いていく。
途中使い魔や家臣に挨拶をされたが顔も合わせず短い返事で横を通り過ぎていくだけだった。
ミトの叔母であるジュミの食堂はクラドムスヒ城の北門から近く、クラドムスヒ8丁目に位置する。
魔界のセントラルに位置するクラドムスヒの街は魔界城を中心に6角形を描き魔線路の北線から右回りに1丁目2丁目と一辺に2丁目から始まり6角形を回るとちょうど北線の左側、つまり1丁目の左隣りが8丁目となる。
北線はクラドムスヒ駅へと繋がっている。城の左右両隣が駅になっているのだ。
だが、城の敷地も大きいのであまり雑音はしない。城の左側には天界から和解の証で贈与された小さな湖もあるからだ。
天界の綺麗な湖だが魔族は苦手で、魔王でさえ管理するだけで訪れたりすることは滅多にない。
ミトが北門を抜けるとすぐに異変に気付く。
ミトはすぐに右手で背中に手を伸ばし再び異空間から愛刀ミクラトを出し、戦闘体制に入る。
門には必ず門番がいるはずである、魔王より選抜された魔力も高く知識の高い魔族だ。魔界城南門には魔獣大型のケルベロス、そして北門には魔虫大型ベルゼ一族のベルゼ=モスカがいるはずなのだが、姿が見当たらない。
しかし、敵が何処にいるのかはミトにはすぐにわかった。ミトは取り出したミクラトに魔力を込め、それを地面に突き刺し、魔力をミクラトから這う様に広がらせた。
狂 重力 (グラビティ)
それは周りのものを一気に引き寄せたり、離したりする魔術だ。
「うわぁっ!」
引き寄せられることに恐怖を覚えた暗殺者が姿を表す。白装束に身を包んでいて、目を確認できるほどだ。背丈はミトよりもやや低い。今まで隠れ身の魔術で姿を隠していたのだ。
そして何とかミトの魔力から脱出しようともがこうとする。
魔 飛翔 (フライ)
暗殺者がそう宣言すると、小さな魔術式が暗殺者の体を包んだ。
しかし、しばらくしてその式はミトの魔術に抗うことなく消えていった。
何故ならばその行為が無駄なのだ。通常の魔族と魔王家はどう区別するのかは全魔族が知っているのだ。
それは、圧倒的な”魔力の差”である
魔王家の者は魔力が異常に高いからこそ王家として認められるのだ。その異常な魔力に通常の魔力での太刀打ちはまずできないのだ。
だからこそ不意をつき、暗殺を狙うのだ。
ミトは表情を1つ変えずに地面に突き刺さった剣をそのままにし、今度は右手首から異空間を発生させイワサクを取り出す。
狙いは1つ。魔族の弱点はシンゾウだ。
地面から50長魔くらい宙に浮き、下半身が上半身より持ち上げられた状態で引き寄せられてきた暗殺者の心臓をミトは無表情で前からひと突きした。暗殺者はやがて力を失いされるがままとなり、時期に動かなくなった。
ミトはそれを確認すると2つの愛刀を終った。
「坊ちゃああん!」
ミトはかなり嫌そうな顔で北門から聞こえてくる声の方へ向き直った
「黒魔導士・・・」
黒魔導士と呼ばれたまさに魔導職と言わんばかりの黒い長帽子に、黒いクローク。右手には杖を持ち。赤目で肩までストレートな金髪。ミトよりも背がやや低く、
ミトよりも少し年下と言った感じの男性が走ってやってきた。
「大丈夫でしたか!気づくのが遅くて申し訳ないです。モスカが魂を抜かれた状態で、セントラルの外で消滅していくのを兵が見たというので急いで来たのですが・・・」
「魂を抜かれる?」
ミトは聞きなれない事を耳にし、顔をしかめた。
「ええ、一魔月前の火の玉といい、魂を抜かれるといい、物騒ですよね」
黒 蛇縛 (スネーク)
ミトの横で横たわっている暗殺者を杖からだした魔力で創られた蛇のようなもので拘束しながら黒魔導士が言った。
通常魔族と天族の者は完全に死を与えることができなくなっている。
この暗殺者も完全死んだわけではなく、いわゆる仮死状態となっていて、1魔時間もすれば肉体が再生し、起き上がるのだ。
この肉体の仕組みができたのはちょうど天魔戦争の後でミトが生まれる約2000魔年前である。
この戦争は”主”の制裁によって終わりを告げた。
もう二度とお互いを殺すこと、同志を裏切ったりすることのできぬよう。”完全に殺すこと”を主が封印したのだ。これにより、本来の寿命や天命以外では命を奪うことができず、仮死状態にさせることはかろうじてできる仕組みを主が創りあげたのだ。
しかし、方法がないということでもなく、今では二つの方法が確認されている。
一つは魂を肉体から抜き取る。
そして二つ目は主が創造した神武といわれる武器で攻撃する。
この二つが天魔界において唯一の方法なのである。
主とは魔界、天界、その他の界から人間界まですべての界を創造した存在を ”主”と呼んでいる。
この主に対してはどのような存在も歯向かうこともできず、その姿を見たものもいない。主は姿を見せぬが”声”であらゆることを示す存在なのだ。
「・・・犯人はわかっているのか?」
ミトは険しい顔を黒魔導士に向けた。
「いいえ・・・魂を抜くことができそうな人物は・・・特定できていますが」
黒魔導士は考えるそぶりをした。
「ミト様!ご無事でしたか!」
北門から兵や使い魔たちが次々にやってきた。その数約10体。
そのうちの3体が使い魔で残りの7体は魔兵たちだ、魔人型とケモナーが多い。
「ああ、君たち、こいつ頼むよ。素性も調べてね」
黒魔導士が暗殺者を兵に引き渡す。引き渡された暗殺者は兵2体がそのまま1丁目の魔政府街へと運ばれていった。
魔政府街は主に魔政府の建物から独房、学校のようなアカデミーの場所もあるのだ。
これからじっくりと尋問が始まることだろう。ミトはそう思いながら運ばれていく暗殺者を目で追っていた。
「魔王様が次の番をお決めになるまでここは我々が守りますゆえ」
残りの兵たちがミトに一礼してから門を覆うように整列した。
「坊ちゃんはこの程度の暗殺者なら大丈夫だと思いますが、、、」
ミトは黒魔導士が何を言いたいのかは大体想像がついた。
しかし、ミトは黒魔導士がすべてを話し終わる前に歩き出していた。
「ああ、坊ちゃんてば!」
黒魔導士はため息をつきながらミトの背中を見ているだけだった。
「あの、魔導士様よろしいのでしょうか?」
「あはは、僕がついていっても無駄だよ坊ちゃんは。それに大丈夫坊ちゃん強いから」
黒魔導士はミトの背中を追っていいたが、ミトの姿は時期に見えなくなった。
「(魂を抜く術はかつて滅んだ魂世界の王だったナザルが使っていた魂術。でも・・・)」
黒魔導士はしばらく考え込んでいたが、思い出したように両手をパンと鳴らす。
「あ、そういえば坊ちゃんの部屋の花が咲いていましたね。あれは魔界チューリップですね、花言葉は・・・はは、まさか坊ちゃんが」
黒魔導士は嬉しそうに空を見上げると、鼻歌を歌いながら城へと帰っていく
ピンク色のチューリップ花言葉
”愛の芽生え”
ミトはジュミの店の近くまで来ると一人の女性が店の冷蔵倉庫から出してきたであろう体の割には大きい段ボールを持って店へと入るところだったが、
その女性は入口手前で足を止め、段ボールを置いた。段ボールで見えなかったがその彼女は小柄でブラウンのオレンジがかったふわふわウェーブの髪、
耳から耳へヘアバンドのように三つ編みをしていて
服装はカジュアルなシャツに短パンとヒールの高いロングブーツを履いている。
ミトはどこへ向かうのかと様子をうかがっていると、彼女は店の前の道路で全身青色の霊族精霊の子供たちが一体の子供を囲んで何やら罵り合いをしている場所へと向かったようだ。
その彼女は子どもたちへ近寄るなり一喝する
「こらっ!何してるの!?」
小さな精霊の子供達は驚いて、彼女のほうへ振り向く
精霊の子供たちはよく見ると4体がかりで1体の精霊を囲み攻撃していたようだった。囲まれていた子供精霊は身をかがめ震えている。
「何でこんなことするのよ!同じ仲間じゃないの!」
彼女が一喝するとその4体は今度は女性を囲んだ
「なんだよオマエ、邪魔スルナヨ」
子供精霊は魔力を溜めて彼女の様子を伺っていた
「あんたたち、一人の魔力じゃ弱いから寄ってたかってみんなでいじめてたのね。情けない」
彼女は凛として見下ろすように精霊を見た
「ナっなんだと!?」
4体は図星のように顔を歪めると4体がかりで今度は彼女にとびかかった。
「!!」
遠くで見ていたミトも驚いて一瞬止めに出ようか迷うほどの殺気を精霊族は出していた。
しかし彼女は軽く避け、子どもたちを両手で4体とも並ぶように挟んで持ち上げ、
自身の顔を近づけた。
どうやら精霊族には骨格がなく、押さえつけても平気であること、殺気を出していたとしても魔力もさほど無いことを知っているようであった。
「!!!」
これには先ほど攻撃されていた子も驚き目を見開いて彼女を見ていた
「一人が弱いの解ってるんなら、どうして一人をいじめるのよ。仲間は大事にしなさいよ」
4体はお互いが彼女の両手によってつぶされて口が前に飛び出たような顔で開いた口がふさがらない(物理的にも)という顔をしていた。
彼女はゆっくりと精霊を降ろす。
降ろされた子供精霊4体はしばらくじっとしていたが、思い出したように走って逃げていった。そのうちの2体はミトを挟むように1丁目へ逃げていった。
残された1体は立ち上がり彼女を見ると
「あの、アリガとう」ともじもじしながら言った。
「あなたも、やられているだけじゃなくて言いたいこと言わないと」
彼女は優しい笑顔でそういうと子供の頭を優しくなでていた。
すると子供の傷が見る見るうちに治っていった
「!!」
子どもは不思議そうに自分の体を見まわしていた。
ミトもそれを見ていた。
術を使う前には必ず術言というものが必要で
どの力で何を使用するのか言葉にしなければ発動しない。
これが天魔三界の掟であった。
先ほどミトや黒魔導士が使用したように宣言しなければ使えない。
そのはずなのだが、彼女は触れただけで変えてしまった。
ミトは必死にその力の気配を感じ取ろうとするも
魔力も天力もエレメントさえ微塵も感じなかったのだった。
「おーい!リリー何してんだい!」
女性の声だがやや低く野太い声で誰かを呼ぶ声が店の窓から聞こえてきた
ミトにとっては聞きなれた叔母のジュミの声だ。
すると彼女は店を振り返った
「あ、はーい!今いきまーす!」
そういうと彼女はすぐに子供に向き直り
「ごめんね、もういくから。自分らしく生きなよ」
そういうと愛らしく彼女はウィンクをしてすぐに店の入口へと向かう。下に置かれた段ボールをもう一度持ち上げ、背中から店へと押し入っていった。
彼女がマエストロの言っていたリリーであろう。
先ほどの力といい怪しさ極まりないとミトは感じていた。
「リリー・・・」
ミトは小さく彼女の名前を呼んだ。すると不思議な感覚になることにミトは戸惑いを感じていた。
懐かしいような、癒されるような感じたことのない感覚をミトは一瞬のうちに感じていた。
先ほどの子供が夢見心地でミトのほうへ歩いてきた
子どもは嬉しそうな顔でぶつぶつと独り言を言っていた。
「ああいうのヲ聖女っていウんだよなぁ・・・」
ミトは天魔三界の法則を無視している時点で何者か怪しまないのかと内心突っ込んでいたが、ミト自身も少し”リリー”という人物に興味が沸いてきていたのであった。
やがて子供もそのままミトの横を通り過ぎ1丁目へ消えていった。おそらくアカデミーへと行くのだろうとミトは思った。アカデミーの建物は政府機関などがある1丁目、2丁目に集中しているからだ。
ミトは気を取り直し、一呼吸すると。ジュミの店のドアを開けて入っていった。
「(確認しなければ、”リリー”の正体を)」
ミトの目的はこれに決められていた。