不穏な夕食
相変わらずの夕食であり、何とも言えない空気を感じる。
二人の視線を感じながら、一人は、もちろんブリジットで、使用人たちは、別時間に食事をするため、給仕の為立っている。
もう一人は、例の一番下の妹の執事であり、やや殺意を感じないでもない。
やれやれだぜ。
やれやれ系主人公になった気分を味わいながら、料理は味わえなかった。
俺のテーブルだけ、緑系の野菜が多く盛られている。
料理長は、“トレント”種の“種別固有能力”をもっており、【育成補助】という、植物の成長を促進する能力もちであり、館内の農園にて、多くの野菜を育ててくれている。
その夕食時耐えきれず、この三か月ずっと思っていたことを口にする。
「そろそろ、学校に通いたいんだけど」
ガタン!
それぞれの椅子で、転げ落ちそうなくらいの音がした。
おいおい、コントかよ。
別でやってくれ。
「冗談はよせ!」
長男が、父親の代わりに叫ぶ。
「冗談じゃないよ兄さん。なんで俺だけ通えないんだよ」
「それは、お前が魔術の一つも発現できないからだ!」
「モノの本によると、魔術が使えなくても、世のために役立った人々はいるし、昔の人々は発現できないことの方が多かったと聞くんだが」
「このご時世、魔術の使えないものはヒトではない」
「だいたい、魔術もピンからキリまである。最終的には、攻撃系の魔術しか覚える事の出来ない人もいる。その人たちが、すべて兵士になっている訳でもない」
「魔術は絶対だ!」
「魔術は絶対ではない」
「貴様!」
激昂した、一番上の兄が、右手をかざし詠唱し始める。
この兄からは、オーソドックスな魔術の発現しか見ていない。
しかも、実直に俺の正面を狙っている。
ブリジットが動こうとしたが、目で止めた。
他の使用人や家族は、全く動く気配がない。
詠唱終了と共に、紅い炎の玉が飛んでくる。
殺意のある攻撃ではないし、発現までにタイムラグがそれなりにある。
発現と同時に、容易に回避し、長男の首を背後から締め上げる。
さすがに、長男の執事が引きはがしに、来るが長男の体を盾に、それを妨害。
前からでは、首に絡めついた腕を剥がすのは容易ではない。
しかも、ここ数ヶ月筋トレに励んだ為、それなりに力もついている。
程なく、長男の両腕から力が無くなり、倒れ込む。
「魔術は、手段ではあるが、万能ではないんだよ」
家族のほとんどが、この惨状にあたふたしている中、「ご馳走様」といって、食堂を後にする。
その後、部屋ではブリジットが、先ほどの事は無かったかのように、筋トレ後の汗をかいた俺に、タオルを渡してくる。いつもとかわらず、表情を表にあまり出していない。
程なくして、父親の執事が入ってきて、ついてくるように言われた。
恐らく、折檻が待っているのだろう。
ブリジットも、主を止めなかった責任としてついてくるように言われていたが、俺が止めさせた。
「主の行動を止めなかった事には、罰を与えなければなりません」
「俺が、阻止しないように命令を下していた。その命令に、忠実に従ったのだ。忠臣として遇する必要がある」
俺の強い、瞳に負けたのか、その執事は、今回は不問としましょうと言った。
ブリジットには、この部屋の留守を依頼し、時間になったらこのベットを利用して休憩をとるように命じた。
本人は、連帯責任でも構わないと主張したが、主の命であると強く諭したところ納得した。
久しぶりに、彼女の焦りの表情を見る事ができた。表情が豊かでなくても良いが、俺の前では少し出しても良いと思っていたので、うれしかった。