リンスター家へようこそ
朝食の為、食堂へ降りていくと、そこはパーティー会場のように、朝から多くの肉や野菜、果物が並んでいる。
奥には、ここの主であろう髭面の脂塗れの中年がすわっており。
横には、とてつもなく美人であるが、完全に高飛車ですって感じの美魔女。
その奥から、豚豚豚。そして、ぽっちゃり系メス豚。
最後に、妹と思われる、母親に顔が似て高飛車感全開の少女がすわっていた。
どいつも、こいつも性格悪そうだな。
着席前に、一番奥の中年オヤジがいう。
「遅いぞ」
「申し訳ございません」
美魔女が、俺が謝罪しているタイミングで言葉を挟む。
「それでは、神に感謝していただきましょう」
無視なの?
まあいいけど……。
豚が餌を食らうように、どんどん食べていく。
実際、俺も空腹であり、自分でも信じらえないほどの量を平らげた。
その後、各々は部屋へと下がり、数時間後、馬車が大量に館の前につけられて、兄弟たちはどこかへ行ってしまった。
もしかしたら、ここは天国ではないな。
地獄か?
いやそれも違うだろう。
まずは、現状把握に努めなければ。
ブリジットを呼び出し、自らが記憶喪失になってしまったことを伝える。
黙っておくように釘をさし、情報を聞き出すことにした。
この家は、リンスター家といって、ラバーハキアの貴族である。
領地持ちであり、リンスター領は、この国の北方に位置する。
資源が豊富で、鉱石類が多量に産出されている。全体的に、経済活動は上手くいっており、裕福な暮らしができているとの事。
リンスター領の北西には、鉱石が産出できる山々がそびえ立つ。
北方は、森になっており、南方は小さいが湖がある。
東は、平原になっており、ラバーハキア王都とは、そこまで距離はなく。
馬車で、一時間程度でつく。
他の兄弟たちは、ラバーハキアの学校に通っているらしい。
一週間は、七日間で構成されており、学校は休みが三日間あり、今日は中日らしく、他の兄弟たちは、ラバーハキアへ向かったらしい。
どうして俺が通ってないかって?
引きこもりらしい。
こんな訳の分からない国でも、引きこもりかよ。
俺の年齢は、一五歳らしい。名前は、レオール。
よかった、リンスター家の家畜の豚かとおもっていたが、そうではないらしい。
ただし、今朝の態度から察するに、良い扱いをされている訳ではなさそうだ。
なぜ、レオールは引きこもりになっているのかというと、この世界では魔術が存在しており、その魔術の有用性により、社会的地位も確立していくからだそうだ。
彼は、魔術が使えないらしい。
ちなみに、魔術は魔素をもとに発現させる。
魔力の強さは、そのマナから魔術を、どれだけ強く、どれだけ早く発現できるかに関わる。
また、魔力量により、どれだけ体内にマナを蓄えられるか、また、その量によりマナの補充速度も速くなってくる。
この世界の住人は、大なり小なり魔術の発現が可能であり、中には、“種別固有能力”という特別な能力を持っている者もいる。
父親であるリンスター家当主は、【魔石感知】という、魔素の結晶である“魔石”を探し当てる能力に優れており、その能力で財を成した。
その他の兄弟では、一つ上の兄貴と俺とメス豚妹以外が、【魔石消費軽減】魔石使用時に、消費量が軽減される。
一番下の妹が、【魔石効力増大】を持っているらしい。魔石を効率良く利用して、その効力を増加させる。
リンスター家は、“カーバンクル”種による“種別固有能力”の発現が起きやすい。
三百年前の精霊王と魔王の戦いにより、マナが活発になり、人族にも多くマナによる形質変化が生じた事により、魔族の力が宿ったとの事。
この頃から、魔族と人族の垣根はなくなり、以後それら二種族間の差別意識がなくなった。
おいおい、俺は“種別固有能力”が発現していない事に加えて、通常の魔術の発現もできないのかよ。
幼少期は、期待されていたようだが、十歳もすぎると絶望にかわり、現在は、ほとんど生きる屍状態である。まだ対面を重視する父親からは、生活はさせてもらっているが、家門の恥として隠されている。母親については、後妻であり、前妻の息子の俺のことは、もういないものという認識であるようだ。
ちなみに、ブリジットは一歳年上で、彼女も“種別固有能力”は発現していないとの事。
彼女の得意魔術は、“土系統”らしく、直接攻撃よりも防御とゴーレム作成を好んで使うらしい。
リンスター家では、十歳を過ぎたときから、専属の使用人がつく。
彼女は、孤児院から購入したらしく、かなりの安価であったらしい。
その理由は、まず奴隷に比べ、使用人用の訓練を受けていない孤児院の出身者は安価である。更に、彼女は魔術は使えても、かなり弱く。魔力量も多くは無かったからだ。
商品性に乏しかったらしい。
しかし、顔も切れ目の美人だし、体つきも良い。
いいじゃないか。
良い買い物したよ母は……。
ちなみに、下の妹たちは、高級奴隷市場で、大金を払ってかなり優秀な使用人を用意したようで、一番下の妹の執事なんか、市場内での価格はトップクラスで“種族固有能力”持ち。しかも“麒麟”種であり【再生維持】常に回復能力が発現しており、彼の近くにいるだけで、擦り傷は一瞬で、ナイフ等による内臓損傷でさえ、数時間で完全に塞がるほどの回復能力持ち。当然通常魔術も豊富に使用可能。
うらやましすぎるだろう!
扱いに差がありすぎだろ。
だがしかし、青春群像劇的には~ いやいやいかんいかん、ネタですべってしまう。
俺はこの娘でよかったよ。まじで。
豚の体と、人間としての尊厳を失った俺。
ひとまず、自分のイメージ通りに動ける体がほしいものだ。
評価ありがとうございます。
ますます、やる気が出てきます。