ヨクトアイズ
少し、浮遊感と吐き気を感じたが、それよりも驚きの方が勝った。
「何だ、ここは?」
星空が輝く美しい空間、まるで星々は生きていて会話しているように、煌めく。
大きめの扉があり、それを開く。
中は広い部屋になっており、誰もいない。
「ゲーム……機?」
日本製のゲームが多くある。
漫画もあるよ。
どうなってんだよ。
ふと、人の気配を感じる。
いいや、人では無いのかもしれない。
「久しいわ。こんなところに人が迷い込んでくるなんて」
灰色のロングヘアに、白い美しい肌。目は赤く、どこかアルビノの蛇を思わせる風格がある。体はすらりとしてはいるが、豊満な胸の膨らみは、男好きする体である。
黒を基調としたドレススタイルの服は、白い肌を強調する。
白い腕やドレスの継ぎ目から見える足には、リング状の金属の装飾品をつけている。
女神を言われれば、納得してしまいそうであるが、少し退屈そうに水たばこを吸っているところが、何となく女神を言い切れない雰囲気をだしている。
フウ、と一息ついてから、彼女は再びしゃべりだす。
「ここに迷い込んできたってことは、紋章学の継承者なのかしら」
少し、見定めるように、その女は目を細める。
「何を言っているのか分からないな」
「あら、間違いはないと思うのだけれども、ここの元主は、そのようにここを設計したはずなのよ」
「紋章学を学んだ者しか、入れない空間?」
「正確には、継承者しか入れない空間かしらね。あなたは、いくつかの本を読み、文字が頭の中に入ってきた事はないかしら」
「ああ、何度かはそういう事があったかもしれない」
「まあ、その装備を見れば、魔導具使いである事は分かるわ。しかし、ドッペルゲンガーとは、珍しいわね。なかなか魔人化しない種類よね」
「待て何の話だ。そして、あんたは誰なんだ?」
「あら、レオナールに似てはいるけど、随分不遜な態度をとるのね坊やは」
最近は、少し高圧的な態度は控えようと考えていたところだ。
しかし、今はレース中、あまり時間は取れない。
「誰だか知らないが、俺はそんな奴知らない」
「そうね、あなたが知るはずはないわ。あなたより昔の人だもの。でも、あなたと同じ転
移者よ」
驚いたブリジットにしか言っていない事を、この女は知っていた。
ブリジットが他人に言う訳でもなく。
ましてや、こんな得体のしれない女と、知り合いだとも思えない。
彼女は、水たばこに口を再びつけると、またモクモクと煙を立てる。
一服したところで、またしゃべりだす。
「驚く事も無いわよ。この世界には、転移者がたまに来るもの。
そして、彼らはこの世界を一遍させる事もある」
「創作でよくある話だ。しかし、俺は一方的な力を持ったつもりはない」
「そうね。彼らは、転移時に何かしら使命を託される。それに合わせて力も与えられるけれども、あなたは違うみたいね」
「そんなに、人並み外れた力が手に入るとは思っていない」
その女は、やや楽しそうに笑った。
いや違う、新しい悪戯を思いついた者の笑いだ。
「そうね。貴方は、大きな力を手にした時、どのように使うのでしょうね」
「何が言いたいんだ?」
そう尋ねた瞬間、彼女は何らかの文字を虚空へ書き始める、それは光輝く文字となり、俺の頭の中に入ってくる。
頭の中に新たなる力が沸き上がるのを感じる。
【寂滅の瞳】
発現と伴に、瞳の色が、翡翠と青黄玉の様な、緑と青のコントラストが美しく輝く。
「光と瞳は、関係性が強いのよ。そうだ、その瞳でこの本を見てもらおうかしら」
そう女がつぶやくと、こちらに本を渡してくる。
フワフワと本は漂い、俺の手元に収まる。
自分で開いたわけでもなく、勝手にその本が捲れて、発光した文字が浮かびあがる。
そして、その文字が頭の中に入ってくる。
当然本の表紙には、『紋章学と青銅の剣』と書かれていた。
【元始の記述】
「至高の、そして終の一閃。あなたに教えられることは、あと二つね」
勝手に彼女はしゃべりだす。
「一つは、魔石を生成できるみたいだけれども、その魔石生成の時に、体内でそれが蓄積する様なイメージで、今度使ってみたらどうかしら。真の自分自身の力がわかるわよ。再度に、黒ずくめの男には注意しなさいな」
それだけ聞いたら、急に浮遊感を覚えて、元の森へ戻ってきた。
一体今のは何だったのだろうと考えていた所で、自分の頭上を通りすぎる人影をみた。
そうだ、今はレース中であった。




