玉露
合流前の最後の講義。
もしかしたら、道人が時間をとってくれるのも最後かもしれない。
しかし、全く焦りはなかった。
そして向き合い、自然と攻撃を繰り出す。
【仙道】を使った道人の動きを捉えつつ、次の動きはどうなるか想像した。
道人が話しかけれ来る。
「どうじゃ、この三ヵ月いろいろな事があったじゃろう?」
「ええ、四人でリッポニに出かけて、バカンスも楽しみました」
戦っている最中だというのに、会話をしている。
ちなみに、道人には敬語が自然と出るようになった。
傍から見ていると、ふざけているようにも見えるが、かなり高速の攻撃を繰り出している。道人も実際余裕はないはずだ。
ただ、二人は会話を楽しむ。
「そうか、青春じゃな」
「道人、一つ目的を見つけました」
「おお、そうかそうか、それは良い。してどのような目的じゃ」
「ええ、俺は、今俺が使える紋章術を後世へ引き継ぎたい。魔術の種類のみで、社会的地位が決まる現状を打破するために、広く魔導具の有用性を伝えて、誰でも一定の魔術を発現できるような世の中にしていきたい」
「武力へと転嫁される恐れもはらむぞい」
「良いんです。危険だからといって、使えるモノを制限するよりは、その使い方を考えた方が有用です」
「必ず、悪用する者は現れるがのう」
「人は弱くはない。奇跡を持って生まれてきた人です。その奇跡を起こして生まれてきた人間は、間違った方向へ向いたとしても、必ず反省し別の方向へ導くことができる。その方向が更に間違っていたら、また違う方向へ向ける事ができる。この世の中を、人の持つ可能性を信じたいんです」
そして、道人は距離をおく。
すかさず前へ前へと攻める。
「遠き道じゃ」
情報とは武器である。
しかし、それが溢れすぎると、判断が追いつかなくなる為、脳は意図的に遮る事がある。
今は、どうだろう。脳は、攻撃に集中するために、それ以外の情報を遮ろうとしている。
しかし、それではダメなのだ。あらゆる情報を捉え、あらゆる可能性を予想する。それが、道につながる方法である。
アーネスト違うよ。いくら目をつぶったとしても、音は聞こえるし、肌には空気を感じる。
そして、君が言ったように、いくら現実逃避しても、現実は、事象は進んでいる。
それら、すべての感覚が、意味を与えてくれる。
ああ、道人のあの時の言葉はそういう意味であったのか。
真っ直ぐ向き直る。
立ち止まり、足踏みをした数ヶ月、無為に時間は過ぎた。
でも、無意味ではなかったその時を、思い返し目を細める。
究極の分散。
心の位置は決まった。
脳があらゆる情報を、処理し始める。
道人の動きだけではない。
それは水の流れであり。
それは、風の声。
はたまた大地の香り。
あるいは、火の揺らぎ。
そして、ニューロンの森から、一滴の滴がその葉を伝い徐々に水面へ向かう。
時に下の枝へ垂れ、時に立ち止まり、時に他の水滴と混じり合い大きくなる。
玉の様に美しい滴は、ようやく最後の葉に差し掛かったが、葉先にしがみつく。
「道人や魔導書は、道を説いたが、真っ直ぐにとは言っていない。俺は、回り道をしていきます。もし誰かが、真っ直ぐにそれにたどり着いたとしても」
その滴は滴り、水面に波紋をつくる。
【仙道】
一撃が、道人をかすめる。
そこからの二撃目が道人を捉えたが、拳が最後まで触れる事は無かった。
拳を見の前にして、道人は笑う。
すかさず、後ろに距離をおき。
腰に差した杖をこちらに投げ渡す。
「回り道。結構!先へ至るものには、道を譲れ。お主は、お主の軌跡をたどれば、同じ頂でも、見えるものが違くなる。遅くなったが、入学おめでとう。その宝貝 “杏黄旗”をちょっと貸してやるわい。そしてこれが、自分自身の道を一歩踏みしめたお主に送る贐じゃ」
【天道】
黄金のオーラが、道人を包む。
四大元素のありとあらゆる魔術を同時展開して、次々とこちらに放出してくる。
全て、“杏黄旗”によって、着弾前に霧散しマナへと帰る。
膨大な、構造情報の波に、脳が悲鳴を上げているが、道人からの贈り物受け取らない訳にはいかないので、瞬きを忘れ、じっと見据えた。
「魔術は奥が深い。しかと身に着けてみよ。お主の道の為に」




