表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

第9話 コミュ障克服大作戦!

「ほーら、行ってこい!」

 どん、と思い切り中原の背中を押してやる。それに少々よろめいた彼は、私をぎろりと睨むとそのまま教室に入っていった。

 次の日の昼休み、私と大垣くんは中原の教室に来ていた。なぜかというと、もちろん中原のコミュ障を治すためである。

 その名も、コミュ障克服大作戦!

 まずはクラスの友達に声をかけて仲良くなろう作戦。話してみたらみんな、中原の性格がよく分かるはずだ。

 期待を込めた眼差しで中原を見つめていると、

「おい」

 とやや不機嫌な様子で呼ばれた。え、何ですか。私はいいから早くクラスメートとの交流深めてください。

「……何て話しかければいいんだ」

 まじか。そこからなのか。若干気が遠くなりながらも、私は返す。

「そんなの何でもいいんだよ。その本面白いの? とか、五時限目なんだっけ? とか」

 何気ない会話が続いたりするんだよ。ほらほら、そんな嫌そうな顔してないで話しかけなさい。

 中原は仕方なく、といった様子で自分の席に座ると、その隣の男の子に声をかけた。

「おい」

 いやちょっと待って。第一声がそれってかなり怖いからね!? ケンカ売ってるようなもんだからね!?

 慌てる私と大垣くんの予想は的中した。話しかけられた男の子は肩を震わせた後、明らかに動揺した様子で席を立ち、

「ごめん、俺トイレ!」

 と情けない声を出して駆けていった。あーあ、逃げられちゃった……

 しかし中原は不思議そうに首を傾げる。自分が悪いとはこれっぽっちも思っていないようだ。

「ちょっと中原」

 こっちに来なさい、と手を招きながら私は怒った。

「何であんな威嚇するの! おい、とか言っちゃだめでしょ!?」

「何でだ」

「普通に『ねえ』とか声かけなさいよ! 怖がってたじゃん」

 まったく……これだからこいつは。しかしここでめげてはいけない。私はさらなるターゲットを見つけた。

「中原、あの子に話しかけておいで」

 窓側の席で本を読んでる女の子。大人しそうで、横顔は可愛らしい。

「何でまた女子を……」

「つべこべ言わない!」

 まだ何か言いたそうな中原だったが、決心したのかその子の方へと向かう。きっと大丈夫。あの子は優しそうだから。

 女の子の前まで行くと、中原は机をとんとんと叩いた。あら優しい。びっくりさせない配慮でしょうか。

「……それ、何ていう本だ?」

 口調はいつもと変わらないけど、どことなく気遣いが見える。女の子は一瞬驚いたように顔を上げてから、口を開いた。

「えっと、私の好きな作家さんの本なんだけど……その、」

 なぜだか恥ずかしそうに俯く女の子。「恋愛小説だから……」

 はにかんで中原を見上げるその子は、たぶんとっても可愛らしい表情をしている。ここからは見えないけど何となく分かった。

 中原はというと、「タイトルは?」とさらに質問をする。そうだ、こいつ純愛もの好きなんだった……

「『ひまわりの花言葉』っていう本。図書室で借りたんだ」

 わあ! 私も読んだことあるそれ。最後は本当に感動的で、映画化もした名作。もちろん純愛もの。

「へえ。読み終わったら感想聞かせてくれ」

「うん、いいよ」

 あれあれ? 何かいい雰囲気じゃない? 大垣くんも同じことを思っていたのか、目が合った。二人でくすりと笑い合う。

「……何二人で笑ってんだ。気持ち悪い」

 いつの間にか会話を終わらせてこちらに戻ってきた中原が、いつもの毒舌をかました。

「良かったね、話せて。あの子かわいいし優しそうだもんね」

 嬉しくて思わず「お似合いだよ」と言いそうになり、慌てて呑み込んだ。危ない危ない。

 すると中原はふん、と鼻で笑い、

「お前は可愛げの欠片もないがな」

「はあ!? 今それ言う必要あります!?」

「事実を述べたまでだ」

 くっ、どこまでも嫌味なやつ。確かに可愛くないけどさあ……言い方ってもんがあるじゃないすか。

「俺はそんなことないと思うよ?」

 隣から爽やかな声が聞こえたと思えば、それは大垣くんだった。

「美湖ちゃん、俺の前では超可愛いよ」

 待って待って。その言い方、色々誤解を与えるからやめてほしいんですが。

 中原は呆れたように「お前な……」とつぶやく。

「よくそんなセリフ真顔で言えるな」

 それはたぶん言い慣れてるからだと思います……

 大垣くんはプレイボーイだから、女の子にさらっと可愛いとか言えちゃうんだと思う。

「聡も俺を見習わないとー」

「絶対見習いたくないな、それは」

 うん、私も嫌だわ。可愛いとか言っちゃう中原なんて気持ち悪いわ。

 でもそれを口に出したら殺されるのは分かっているので、心の中にとどめておく。

 それにしても、中原意外とみんなと仲良くなれそうだな。このままいけばクラスにすんなり馴染めるんじゃない?

「中原、頑張ってね! 私たちも頑張るから!」

「……ああ」

 君がもっとクラスに馴染めるように、私たちも作戦いっぱい考えるからね。

 チャイムが鳴ったのを合図に、私たちは教室に戻った。


 ――一週間後、すごい変化が起こっていました。

「中原くん、これ手伝って!」

「その前に日誌かいてよ、あたし黒板消すから」

「聡ー! さっきの数学教えろー!」

 そのすべてに対して中原は、

「……分かったから、ちょっと落ち着け」

 と至極冷静に答えていた。え、何事? これ何が起こってるの?

 中原の教室の前に立つ私は、呆然とその様子を眺める。もしかしなくてもこれは――作戦大成功!?

 一人ガッツポーズをしていると、頭に鈍い痛みが走った。

「……何やってんだ、お前」

 顔を上げると怪訝な顔でこちらを見る中原。手には英和辞典。……それで殴ったのか、ちくしょう。

「何って、様子見に来たんだよ。この前言ったでしょ、一週間後に見に来るからねって」

 そう。この前の女の子との会話の様子からして、中原はただ経験不足なだけだと分析した。だからきっと、いっぱい話せばそのぶん仲良くなれる。

 なるべくたくさん誰かに話しかけるよう中原に指導したところ、一週間後にこんなことになっていた。

「そういえばそうだったな」

「ねえ、どうやったらこんな急に人気者になれるわけ?」

 たった一週間でここまでになるとは、正直予想していなかった。

「それはねー。聡って意外と世話焼きだからだよ」

 後ろから声が聞こえて振り返ると、大垣くんがにこにこと笑って私の後ろに立っていた。

「昔から困ってる人、放っておけないんだよね?」

 へえ、そうなんだ。今まで近寄りがたかった人が実は優しいと知ったら、確かに一気に親密度は上がるかもしれない。

 でもそれだけじゃないような気がするんだよなー。

「あ、分かった」

 ぽんっと手を打った私は、中原を指さして言った。

「中原イケメンだからだ!」

 そうだよ、だから女の子から人気なんだ。やったね! これからはモテモテだぞ!

 口笛でも吹いてあげたいところだったが、中原がものすごく嫌そうな顔をしたので私は訊いた。

「何で褒めたのにそんな嫌そうにすんの」

「……お前に言われると嬉しくない」

 ひどっ!? 褒めてあげたのにひどっ!? 何でさ! イケメンって言われて嬉しくない人なんていないでしょ!

 すっかり不機嫌になった中原と私を、大垣くんがまあまあとなだめた。

「でもこれで聡もコミュニケーション能力はついたんじゃない?」

 そうだよね。本来の目的はそこだもんね。私もうんうんと頷く。

「……まあ、少しは」

 中原がぼそっと言うので、私は「もっと自信もちなさい!」と怒鳴った。

「討論会出るんでしょ? これくらいはできてもらわないと」

 まあ、いまの中原なら大丈夫そうかな。何言われても冷静に返せそうだし。

「じゃ、そろそろ行くね。次の時間体育だから」

 大垣くんと二人で教室に戻ろうとした時。

「待て」

 中原が短く呼び止めた。二人で立ち止まった私たちに、中原は続ける。

「ああ……違う。用があるのはお前だけだ」

 大垣くんと何か話すことあるのかな? 背を向けて行こうとした私の肩を、掴んだ手があった。

「おい、聞いてんのか。お前だ」

「え? 私?」

 てっきり大垣くんのことだと思っていた私は、拍子抜けしてしまう。何か怒らせるようなこと言ったかなー。

「じゃあごゆっくりー」

 手をひらひら振って行ってしまう大垣くん。中原と二人で取り残された。

「で、何のご用でしょうか」

「いやその……」

 うつむき加減で話す中原に、私は「体育だから早くして」と急かす。

「ああ……だから、その! 今日の放課後、に……」

「放課後?」

 放課後は討論会の練習をみんなでやるつもりだったんだけど。何かいい案あるんだろうか。

「……放課後、少し付き合え。クレープおごってやるから」

「えっ、いいの!?」

「ああ」

 やったー! 何かよく分かんないけどおごってくれるそうです! 今日はやけに機嫌がよろしいですね、中原くん!

「じゃあ放課後! またね!」

 手を振りながら廊下を走り出す。すると中原が――笑った。

「バカだな、お前」

「バカ言うな!」

 暴言反対! レディーに向かって何ですか! それでも、何でバカなのか訊けなかったのはたぶん――

 キーンコーンカーンコーン……

「予鈴鳴っちゃったぁ――――――!?」

 ――たぶん、あいつがあんな顔で笑ったからです。


          *


 ついに朝ヶ谷祭当日。

 校内はどこか落ち着かない空気をまとっていて、それは私だって例外じゃない。

「ああーもう早いなあ。全然練習できなかったよ」

 そうこぼしながら私はため息をついた。今日までの日々はあっという間に過ぎて、練習も充分にできていない。

「ま、もう今さら仕方ないでしょ。楽しんでおいで」

 咲が他人事のようにさらっと言ってのける。うん、まあ実際のところ他人事なんですけどね。

「中原くんもずいぶん雰囲気よくなったんだって? 最近じゃ中原くんのファンが後を絶たないらしいけど」

 そう。実は中原のやつ、ただいまモテ期到来中なのです! 女の子たちの言葉を借りると――

 中原くんって冷たそうだけど話してみたら優しくて! 気配りもできるし面倒見もいいし……

 だ、そうですが。私はそうは思いません。だって嫌味なやつには変わりないんだもん。

「何かねー、クールなとこがいいんだって。無表情だけどたまに笑うとかっこいいとか何とか……」

 咲がそんなことをご丁寧にも教えてくれた。一体どこからそんな情報仕入れてくるんだろう?

「俺がどうかしたか」

 不意に後ろから声をかけられ、私は「ひっ」と肩をすくめた。恐る恐る振り返ると、怪訝な顔をした中原が立っている。今の聞かれちゃったかな……?

「な、何でもない何でもない! 今日の討論会がんばろ!」

 慌てて手を振りながらそう言うと、中原は「そうか」とあっさり納得した。あれ、そういえば。

「中原、何でここに来たの?」

 大垣くんに用事でもあったんだろうか。そう思いつつ私は首を傾げる。

「聞いてないのか? 討論会の開始時刻が早まった。今からもう行くぞ」

「え!?」

 何それ何それ聞いてない! 今から本番とか勘弁してよー!

 私が一人でわたわたしている間に、中原は大垣くんを呼ぶ。

「おい、愁。行くぞ」

「はいはーい」

 大垣くんは立ち上がってこちらに向かってくる。もしかして時間変更聞いてなかったの私だけ? え、それって何ですか。嫌がらせですか。

「早く行くぞ」

 ファンが増えたと言っても、やっぱり中原は無愛想。でもいつも通りの中原に、何だか少しだけ安心した。


「うわ、すごい人だかり……」

 森岡くん、安本くんと合流し、私たちは討論会が行われる講堂に足を運んだ。

「討論会は一大イベントですからね。それに初戦から前回の優勝チームが出ますし」

 冷静にそう付け足した森岡くんは、緊張した面持ちで眼鏡をくいっと持ち上げる。うわー、そうだよね。私たち優勝チームと対決するんだもんね……

 今さらだけど心臓がうるさく鳴り始めた。

「ま、別に勝ち負けどうこうってわけじゃないし? 楽しんでこうぜ」

 脳天気な声で続けたのは安本くんである。うん、私も君みたいな余裕がほしいわ。

 だけど私はなぜか勝手にリーダーにされていて――中原が大垣くんにそうしろと言ったらしい――、余裕かましてる暇はもちろんない。

「もー、中原がリーダーやってくれれば良かったのに」

 せめてもの抗議のつもりでそう言うと、中原はぽつりと「面倒くさい」と顔をしかめた。

 は? 面倒くさい? まさかそれだけで私をリーダーにしたんですか?

 呆れと絶望が入り混じった瞳で中原を見つめていると、

「……そんなアホづらするな。危なくなったらサポートはしてやる」

「はあ――――――!?」

 アホづら!? ここにきてアホづら!?

 もういいです、あんたには絶対に頼りません! ていうかチーム戦なんだからサポートするの当たり前でしょ!?

 すると、後ろから「くく……」と笑い声が聞こえた。急いで振り返るとそこに立っていたのは、男子生徒――を取り囲むように他に四人の男子。

「仲がいいのは結構だけど、勝負の前に間抜けなことはしないでほしいな?」

 ……もしかして、この人。ちらっと上履きの色を確認する。そこには赤のラインが入っていて――私たちの、二個上の先輩だ。

 そう、つまりこの人たちは。

「今日はとても楽しい討論会になりそうだよ。よろしくね、可愛い新一年生」

 ――前回の優勝チームだ。そして私たちの初戦の相手。威厳があって自信に満ち溢れていて、その上余裕もある。

「よ、よろしくお願いします!」

 慌てて頭を下げた私に習い、他のみんなも軽く頭を下げた。

「さて、そろそろ時間だ。始めようか」

 腕時計を優雅に目の前で確認した先輩は、すたすたと講堂のステージまで歩いていく。

 何か、どうしよう。すっごい緊張する……

 思わず不安全開の顔で中原を見上げた私に、彼は口パクで「バカ」と罵り、

「……俺たちがいるだろうが」

 とわずかに口角を上げて、私の頭を小突いた。

「痛っ!」

 中原さん!? 今のは手加減するところです! 軽くコツン、で大丈夫なところです!

 頭を押さえた私に、前からスタンバイしていた司会の方々は、

「……早く所定位置に着くように」

 とすごく面倒そうに言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ