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第6話 勉強同好会発足!

 ついにこの時がやってきました! 学年トップ5で結成された勉強同好会の誕生です!

「いやあ、大変だった。ただの思いつきからこんなことになるとはねー」

 しみじみと語るのは、国語が得意な文系男子――ただし無自覚プレイボーイ――の大垣愁くん。

「何だかご迷惑おかけしました……」

 縮こまっているのは、化学が得意なメガネ男子――ただし元ヤン――の森岡守くん。

「ま、結果オーライでしょ!」

 にかっと歯を見せ笑ったのは、世界史が得意な金髪男子――しかも女たらし――の安本洸くん。

 そして英語が得意教科の私、菊地美湖。もう一人、忘れてはならない人がいます。

「お前ら少しは勉強しろ」

 下を向いたまま素っ気なく言い放つのは、数学が得意な学年トップ――ただし果てしなく無愛想――の中原聡。

 この五人で結成されたのが、私たち――最強の勉強同好会なのです!

 そして私たちが毎回陣取る場所は、図書室二階の奥。そこには窓沿いの机に椅子が置いてある。

 ここならほとんど誰も来ないし、勉強するのにちょうどいい静けさなんだよね。

「はいはい、さすが学年一位は優秀ですねー」

 投げやりに言った私の言葉に、中原はじろりとこっちを睨んだ。何よ、何か文句あんのか!

「ていうか美湖ちゃん、今日は王子様捜さなくていいの?」

 大垣くんが突然とんでもないことを言い出した。私は口をぱくぱくと動かすものの、言葉が出てこない。

「王子様ですか?」

 不思議そうに食いついたのは森岡くん。

「えー何それ? 美湖ちゃんの王子様は俺でしょー?」

 おどけてみせるのは安本くん。いや、あんたが王子様とか冗談じゃないわ。

「二人が気になってるよー。説明してあげな?」

 にこ、と効果音がつきそうな笑顔でこっちを見る大垣くんに、私は「あのねえ……」とため息をつく。恥ずかしくて言えません、そんなこと!

 すると中原が「バカバカしい」と吐き捨てた。

「王子様とか……どこの世界の人間だ?」

 ……はあ? いまバカバカしいって言ったか。夢見て何が悪いのよ。まああんたには分からないでしょうけど!

 こうなったら王子様の魅力を語ってやる!

「私が中三の頃ね、ここの説明会に来たの。それでここの図書室って私立の中でも立派な方でしょ? だから気になって」

 小さい時から本が好きだったっていうのもあるんだけど。

「図書室にも二階ってあるんだーと思って、階段登ったんだ。そしたらね、そこに一人の男の子がいたの」

 今でも鮮明に覚えてる。あの時の眩しさやドキドキ。本を大切そうに扱う手も。

「太陽の光のせいで顔はよく見えなかったんだけど、その人の仕草とか声とか……すごく素敵だったの。本当に王子様みたいだった。だから、」

 だから私は今でもあの人に恋をしている。そう言ったら笑われるだろうか。

 だって――あれが私の、初恋。忘れられるはずがない。

「だから私はその人にもう一度会いたいの。もしここに合格してて、またあの日みたいに現れてくれたんだったら私は……好きですって、言うと思う」

 好きです。――初めて会った時から。

 夢見心地で話していたせいか、みんなの目が生暖かいものになっていたのに気付くのが遅れた。

「な、何ですかその目は! 聞きたいって言ったのそっちでしょ!?」

 恥ずかしさから抗議の声を上げると、安本くんが「あー! もう我慢できねえー!」と吹き出す。

「まじで美湖ちゃんうけるわー。王子様とか可愛いなーおい」

 このこの、と頭を荒々しく撫でてくる安本くんの手を払い、私は眉尻を下げる。

 ……私そんなに面白いこと言ったんでしょうか? 若干傷つきますよ、ええ。

「はは、美湖ちゃんが可愛いってのは俺も同感。何かこう……雛鳥を見守る親鳥の気持ち、的な?」

 鳥って言われた!? もはや人間ですらない!? 大垣くんの言葉に愕然としていると、森岡くんが口を開く。

「だ、大丈夫ですよ。こんな純粋無垢な高校生、なかなか出会えませんから」

 うん、何かすごいフォローされたんだけど。もう私へこんじゃうよ? みんなでバカにしすぎだよ?

「お前ら、本当に勉強しろ」

 中原が物凄くめんどくさそうな顔でそう忠告した。そういう中原だって、手に持っているのは参考書ではなく小説だ。

「そうですね、勉強しましょうか」

 森岡くんが頷いて参考書を開く。真面目だなあ。とても元ヤンとは思えないんですが……

「ていうかさ、もうすぐ朝ヶ谷祭だよね?」

 大垣くんが唐突に言った。

 朝ヶ谷祭というのは、いわゆる文化祭みたいなもの。でもここの文化祭は一味違う。

「あー、あのつまんないやつ? 俺はどうでもいいや、どうせ祭りの最中も勉強ばっかだし」

 そう、朝ヶ谷祭は他の学校のようなお祭り騒ぎはしません。代わりに難易度高めなクイズ大会クラス対抗、調べたいテーマごとに集まってプレゼン。他にも、三年生の先輩が特別講義をしてくれたり、生徒会が企画した討論会などなど。

 とにかく、勉強づくしの二日間なのです。

「あーあ、普通に屋台出すとかいう考えねえのかよ。何が祭りだ!」

 頭をかき乱して安本くんが叫ぶ。

「ま、お祭りなら町内とかでやってるのに行けばいい話だよ」

 と私が言うと、

「じゃあ美湖ちゃん、俺とお祭りデートしよう」

「しません!」

 瞬時に手をクロスさせて断った。ふっ、悪いが私はそんな軽い女ではないのだよ。一人でドヤ顔をしてみせる。

「確かさ、同好会のメンバーで討論会にエントリーできるんじゃなかったっけ?」

 と大垣くん。ま、まさかとは思いますが……

「それさ、やってみない?」

 ええー。私はあからさまに嫌なオーラを放出した。

 だって討論会って超頭堅い人たちがやるじゃん。しかも生徒会主催だから注目度高いし。

「僕はいいですよ」と森岡くん。

「んー、美湖ちゃんが出るなら俺も出る」と安本くん。

 え、何それ。もう私って出る前提なの? 諦めてため息をついた私を大垣くんは見逃さなかった。

「美湖ちゃん、嫌だった?」

 そんな子犬みたいな目で見ないでよ。可愛いものには弱いんだからさ……

 私は「んー」とうなり、そして言った。

「中原も出るんだったらいいよ」

 まさか自分の名前が出てくるとは思ってなかったらしく、中原は目を見開いた。

「……どうせ俺に拒否権ないんだろう」

 いじけたようにつぶやく中原に、私は「じゃあ決まり」と手を叩く。

「みんなで出よう、討論会!」

 声に出してみたら意外とやる気が出てきた。こうなったらもう頑張るしかないですよね!

「ってことで今日は解散にしよ。ここにいても勉強はかどらないし」

 私の提案で、みんなが「そうだね」などと頷く。机に広げていたものを片付け始めた。

「美湖ちゃん、一緒に帰ろう」

 大垣くんが笑いかけてくるので、私は「いいよ」と返した。この人の笑顔はやっぱりみんなを虜にするような力があるのかもしれない。

「それじゃ、また明日」

「おう!」

「さようなら」

 口々に挨拶を交わして、散り散りになっていく。

 図書室を出てしばらくした後に、大垣くんは口を開いた。

「美湖ちゃん、俺……ずっと訊きたかったんだけど」

 やけに神妙な面持ちで言うので、私もつられて真面目な顔になっていたと思う。

「聡のこと、好きだったりする?」

「…………はい?」

 この時の私の顔といったらもう……たぶん、すごく間抜けだったんだろう。

 だってそれは思いもよらない質問。そもそも考えたこともない事実。

「何言ってんの? ないない、神に誓ってない」

 高速で首を振りながら答えると、大垣くんは「そっか」と肩の力を抜いた。

「何かごめんね、変なこと訊いて」

「それはいいけど、急にどうしたの?」

「んー、まあちょっと不安になっただけかな」

 不安? 首を傾げた私に、大垣くんは続ける。

「聡ってさ、あんまり喋らないから無愛想だしいい印象持たれてなかったんだよね。小さい時から」

 ちゃんと話せば別に冷たくもないってこと分かるんだけど、と付け足した。

「だから周りも何となく、聡を避けてるつもりはなくても、無意識に避けちゃってるんだよ」

 前に中原が廊下を通った時に、みんなが避けているのを思い出した。あの時はまだ中原のことをよく知らなかったけど。

「学年トップって肩書きがついたら、なおさら近寄り難いよね」

 確かにそうかもしれない。だってあの人、俺に近づくなオーラ出してるもん。

「普通はさ、勉強できて顔も良くてってきたら……女子にモテるもんでしょ? でも逆。聡はむしろ避けられてるんだよなあ」

 うん、扱いづらいしね。私は内心大いに同感。

「まあ本人に恋愛とかする気がないみたいだから今のままでもいいけど、将来のこと考えると不安でさ。俺、幼なじみだし」

 何だかお母さんみたいな大垣くんは、困ったように頭を掻く。

「聡自身が恋愛する気にならない限り、あいつは女の子を傷つける。だから美湖ちゃん、これは俺からのお願い。もし万が一、聡を好きになりそうになったら――」

 大垣くんは私の瞳を覗き込んで、

「一番に俺に相談して。全力で止めるから」

 真剣に言っているのは分かってても、いまいち実感がわかなかった。だって私、王子様以外好きにならないもん。

 むすっとした顔で私は反論する。

「私が中原のこと好きになると思う? ならないよ、だって王子様じゃないから」

 これは言い切れる。何があったって私は好きにならない。どう間違ったってあいつと私は、――永遠に平行直線。

 大垣くんは「それならいいんだ」と俯いた。

「美湖ちゃんはそのままでいてね。王子様一筋のままで」

「もちろん!」

 人差し指と親指でオッケーサインをつくって答える。

 私は高校生活を、王子様と出会うために使う。だからその目的を――見失ってはいけない。

「お腹すいたね。何か食べようか? おごるよ」

「え、本当? 大垣くん優しー」

 ゆっくりと歩きながら私はふと思った。大垣くんは……どう考えているのか。

「ねえ、大垣くん。大垣くんはさ、中原のコミュ障を直したいとか思わないの?」

 コミュ障というのは少々大げさだと思うが、それ以外に適切な表現が見当たらない。

「そりゃ直して欲しいよ。でも本人にその気がないからね」

「じゃあさ」

 今度は私が提案する番だ。

「朝ヶ谷祭までに、中原のコミュ障を直そう!」

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