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第24話 それぞれの決意

「ねえ。美湖、聞いてる?」

 咲に軽く肩を叩かれ、私は我に返った。

「あ……ごめん」

 あんなことがあってから、もう一週間。中原とは一度も口をきいていない。

「……もうさあ、告白しちゃえば?」

「は!?」

 朝っぱらからいきなり何を言うかと思えば! 慌てる私を横目に、咲は冷静な顔で続ける。

「だって抱きしめられたんでしょ? 愛を確かめあったんでしょ?」

「ねえ、やめて。その表現すごく語弊があるからやめて」

 確かにびっくりしたけどさ、あれは何ていうか一時の気の迷いだと思うんだよね。私は一人ため息をついた。

「じゃあ美湖はこのままでいいの?」

 いつになく真剣な口ぶりでそう問う咲は、私を容赦なく刺してくる。このままでいいわけない。中原にたくさん訊きたいことがある。

「もー、あんたら見てるとイライラするわー。どうでもいいから早く告りなさいよ」

「私に当たって砕けろと!?」

 いま告白したところで、フラれるのは目に見えている。告白を急かすのは友達としていかがなものか。

「とりあえず言いたいこと言ってすっきりしてくれば?」

 そんな咲の言葉は一理ある。

 ――というわけで、私は放課後、中原に話しかけようと心の準備をしていた。は、いいものの。

「中原くん、今日の授業教えて!」

「ちょっと、私が先に約束してたんですけどー」

「ええー、じゃあしょうがないか。明日教えてね」

 ……待って。何かすごい女子の割合多くない?

 中原は既にスクバを肩にかけている状態で、その周りには女の子たちが集まっている。

「おい。俺は教えるだなんて言ってないぞ」

「もう、堅いんだからー。いいじゃん少しくらい」

 キャッキャウフフな会話――かどうかはさておき――をしている中原は、心底面倒そうに顔を歪めている。

 中原のファンがいるのは知ってたし、中原がいい人だっていうのも分かりきっていた。だけど、いざこうして目の当たりにしてみると――私、やっぱり釣り合わないな。

 今日は諦めようか迷っていると、教室から出てきた女の子と肩がぶつかった。

「あ、すみません……」

 その子は気弱そうな目で私を見つめ、それから「あっ」と声を上げた。しかし私も同時に「あっ」と声を出していた。

「あの、菊地さんですよね?」

 中原がコミュ障だった時。この子はその時に純愛ものの本を読んでいて、私が「あの子に話しかけておいで」と言った子だ。

「うん、そうだけど……あれ? 話したことあったっけ?」

 確か中原が話しかけて、私は教室の外から見てただけなんだけど。

「いえ……でも菊地さんは頭が良くて有名で!」

「あは、ありがとう」

 するとその子は「中原くんに用事ですか?」と訊いてきた。なかなか鋭い。

「まあそうなんだけど……いいや、また今度にする」

 こんなに人気あるなんて、知らなかったな。これじゃまるで学園の王子様じゃん――

「いいんですか? たぶん呼べばすぐ気づくと思いますけど」

 そうかもしれないけど。でも、私は中原の隣はふさわしくない――そう意識した途端に話しかけるのさえ億劫になった。

「すごいんだね、中原。……人気者になっちゃったね」

 私がぽつりとつぶやくと、目の前の彼女は小さく笑う。

「一昨日からすごいんです。中原くんが爆弾発言しちゃったから」

 爆弾発言? 思わず首を傾げた私に、その子は続けた。

「中原くん、前回のテストから順位下がりましたよね。何かあったのかなって、みんな心配してたんです」

 そうなんだよね。本当に何かあったのか、私も心配で仕方なかった。それも訊きたかったことの一つ。

「一昨日の昼休み、中原くんがクラスの男子にからかわれてて。ファンの子たちと遊ぶからこんなことになるんだぞーって」

 視線を中原に向けると、いいのか悪いのか目が合ってしまった。

「そうしたら、中原くんが怒ったように言ったんです。『そんなんじゃない。俺にはちゃんと好きな人がいるんだ』って」

 ぐらりと、自分の中の何かが傾いた。

『さあな』

 そう答えて目をそらした中原の顔が頭に浮かぶ。

「ファンの子たちがそれ聞いて黙ってるわけないですよね……次の日から質問攻撃だし、挙句の果てにアピール合戦始まるし」

 嘘でしょ? ねえ、中原。あの時、好きって気持ちが分からないって言ったよね。私のこと、大垣くん以外に初めてできた友達だって、言ったよね。

 中原の目は私に向いているはずなのに、その心情はどう頑張っても読めそうになかった。

「……菊地さん?」

 何も言わない私を不思議に思ったのか、その子は私の名前を呼ぶ。

「……中原のバカ」

 ふざけないでよ。私が真面目に訊いた時は「さあな」でごまかしたくせに。私がどんなにあんたのこと好きか知りもしないで。

 ドキドキしてた私がバカみたいじゃん――

「そっか……うん、そうなんだ」

 その子に向き直り、私は苦笑いした。……もう、やめようか。期待するのは。

「私、帰るね」

 ぱっと背を向けて駆け出した私を、追いかける足音があった。

「菊地!」

 何でこういう時に限って。

 私を呼ぶのは、私の大好きな声。でも、もう決めた。――振り返っちゃいけない。

「おい、待て! 菊地!」

 構わず走っていると、後ろから「ふざけんなバカ!」と怒鳴られた。

「何で逃げる! 俺のこと嫌いじゃないって言っただろうが!」

 追いつかれるのは時間の問題だと判断した私は、唐突に立ち止まった。それに伴って、中原の足音も止まる。

「……何で、」

 何で私の名前呼ぶの。どうして期待させるようなことばっかりするの。

 ……振り返らないよ。いまここで振り返ったら、きっとふりだしに戻ってしまうから――

「何で好きな人いるのに私に構うの……!?」

 一粒、透明な液体が床にこぼれる。自分のだと認識するまでに少し時間がかかった。

「何で……お前がそれを……」

 中原の驚いたような声がして、それから「あのな」とため息が聞こえてくる。

「バカじゃないの!? 全っ然意味分かんないよ、そこまでして私をからかって楽しい!?」

 もう心は限界。こういうの、逆ギレっていうのかな。なんて、頭のどこかでは呑気に考えていて。

「――お前、いい加減にしろよ」

 一段と低い声がしたと思ったら、中原の足音が近づいてきた。しかしそれは私を通り過ぎ、目の前で止まる。

「俺がそんなに性格悪いやつに見えるのか? だとしたら心外だな」

 中原は振り返ると、困ったように笑った。

「残念ながら、俺はお前をからかった節は一度もない。ただの一度もな」

 そしてあの日と同じように、私の髪を手に取ると、

「全部本気だ、バカ」

 そこに優しくキスを落とした。

「……菊地」

 中原の手が私の頬に伸びてきて――って、

「わああああ――――――っ!?」

 私は反射的に叫び声を上げると、中原の手を勢いよく振り払った。そんな私に、中原は呆然と固まる。

「ちょ、待っ、は!? 何これどういうこと!?」

 だっていま、中原がここにキスしたよ!? 髪とはいえど寝てない私にキスしたよ!?

 ――待ってよ、頭が追いつかないって!

「ま、また明日ねっ! ばいばい!」

「ちょ……待て、菊地!」

 呼び止める声は耳を通って抜けていく。何これ何これ、いま何が起こったんですか!?

 火照る顔と騒がしい胸。その両方を抑えるべく、私は駅までの道をひたすらに走った。


          *


 ……昨日のあれは、何だったのか。

 次の日の放課後、私は図書室で勉強をしていた。といっても昨日のことが頭をぐるぐる回って、それどころじゃないんだけども。

「美湖ちゃん、すごい上の空だけど大丈夫?」

 大垣くんが心配そうに、隣の席から私の顔を覗き込む。

「あ、大丈夫大丈夫! 何でもないよ」

 うん、とても言えない。中原とあんなことがありましたなんて言えない。ていうかその前に、私だって中原が何を考えているのか分からない。

「あのさ、聡のことなんだけど」

「ほえっ!? はい、何でしょう!?」

 中原の名前が出てきてあからさまに動揺した私に、大垣くんが苦笑しつつ続ける。

「あいつ、最近様子がおかしくて。俺と話しててもたまにぼけっとしてるし、本読んでるのかと思ったらただ考えごとしてるみたいだし」

「あー……それは、」

 もしかしたら――成績が下がって、挙句に同好会のメンバーからも外されて。さすがの中原も寂しさを覚えたんじゃないだろうか。

 でも、今の私にはもう一つ、思うことがある。

「中原に好きな人ができたからじゃないかなあ」

 たぶん、これが一番の理由だと思う。中原の成績が下がったのは好きな人ができたからだとあの子も言っていた。

「あ、美湖ちゃんもそう思う? 俺もさ、大体そんなとこじゃないかなって思ってたんだよね」

 さすが幼なじみ。鋭いですね! ていうか中原、大垣くんには相談してないのかな。

 すると大垣くんは「でもいいの?」と訊いてくる。

「美湖ちゃん、聡のこと好きなんじゃないの?」

 今までだったら「そんなわけない」って誤魔化してきたけど。たくさんの時間を共有して、色んな顔を知った。――だからこそ私は、中原を愛しいと思う。

「好きだよ」

 はっきりと、目の前の彼を見て告げた。この気持ちに蓋なんてできない。もう誤魔化したくもないんだ。

「私ね、やっと覚悟ができたの。今までずっとどこかでブレーキかけてたんだけど……でも、もういいの」

 分かったんだよ。恋がこんなにキラキラして、きゅんとして、時々苦しいってこと。

「私は中原が好き。だから、中原に好きな人がいても諦めたくない」

 こんなに誰かを愛しいって思う気持ちを、初めて知った。どんなに苦しくても涙が出ても、側にいたいっていう気持ちを。

「美湖ちゃん……」

 大垣くんが目を見開き、そして優しく笑った。

「……こんな子に想われるなんて、幸せだな。聡は」

 そうつぶやいた彼の顔が、切なくて儚くて。でもすごく綺麗で清々しい。

「絶対、幸せになってよ。応援してるから」

 その言葉が私の背中をそっと、押してくれる。

「うん……ありがとう」

 もう諦めない。我慢もしない。たとえ中原に好きな人がいたとしても、遠慮なんてしないから。それが泣くことになっても、私はきっと後悔しない。

「さ、勉強しようか。ていうか早く聡が戻ってきてくれないと張り合いないな」

「そうだよねえー」

 どうしたら中原を連れ戻せるかな。遠藤くんは言ったら分かってくれそうな気がしなくもないけど……

 私は静かに決意を固める。

「遠藤くんに話してくる。やっぱり私たちには中原が必要なんだって」

 立花先輩にもちゃんとお願いしよう。私たちは五人で一つなんだってこと、証明するんだ。

「一人で行くの? 俺もついていこうか?」

「ううん、大丈夫。私が言いたいの」

 中原を守りたい。ただ、純粋にそう思うから――。


「それでわざわざ来てくれたの?」

 生徒会室の本棚を整理しながら、立花先輩はそう言った。窓から差し込む日差しが彼女の綺麗な髪を照らす。

 私は先輩が勧めてくれた椅子に腰掛け、「はい」と神妙に頷いた。

 次の日の放課後、私は生徒会室にいた。立花先輩に同好会の存続をお願いするために。

「確かに約束は約束です。成績が下がったら解散って言われてましたから……でも、」

 中原がいない同好会は、違うから。私たちが必要なのは「中原の代わり」じゃないから。

「……ごめんね、真面目に語っているところ申し訳ないんだけど」

 先輩が静かに私の言葉を遮る。

「あれ、半分冗談だったのよ」

「…………はい?」

「まさか真に受けると思ってなくて……確かに成績下がるのは困るけどね?」

 さすがに私もそんなひどいことはしないわよ、と先輩が苦笑した。

「でも、遠藤くんが……」

 立花先輩にはうまく言っておくから――そう言っていたはずだ。

「あの子は時々、とんでもない冗談かますから。私も嘘か本当か見極めるのに毎回苦労するわよ」

 騙したな遠藤ぉぉぉ! 心中穏やかではない私は、慌てて先輩に問う。

「じゃあ同好会解散っていうのはなしですか?」

「なしも何も、最初からそんなこと思ってないわよ」

 良かった……非常に安心した! しかしもう一つ、問題が残っていることに気づいた。

「あの、いま中原の代わりに遠藤くんが同好会のメンバーになってるんですけど……」

 遠藤くんは何がしたいんだろう……本当にあの人の考えていることが分からない。

「本当にあの子は……素直じゃないわね。構ってほしいならそう言えばいいのに」

 まるで遠藤くんのお母さんのような口調で先輩が言った。え、構ってほしい? そういうことなんですか?

「まあ、あなたがちゃんと言えば聞くんじゃないかしら」

「はい……今から探しに行こうとは思ってますけど……」

 早く中原に戻ってきてほしいし。とっとと決着をつけなくては!

「たぶん、まだ帰ってないと思うわよ。私が雑用頼んだから」

 何か遠藤くんって先輩にちゃっかり使われてますよね。あの遠藤くんが従っちゃうのはすごい。

「遠藤くんって生徒会入ってるんですか? いつも先輩に雑用頼まれてません?」

 まだ一年生は生徒会に入れないはずだけど……

 ああ、と何かを思い出したように先輩が手を叩く。

「私と遠藤くん、いとこだから」

「え――――!?」

 衝撃のあまり叫んだ私に、先輩は「言ってなかったっけ?」と首をかしげる。

「言ってませんよ、何でそんな重要なこと黙ってたんですか!」

 どうりで雰囲気が似てるわけだ! ちょっとツンツンしてるところとか、スマートなところとか! 二人とも美形ですからね!

「そんなに重要でもないと思うけど……向こうには『必要以上に俺に構うな』って言われてるし」

 言われてみれば、いとことは思えないほど他人行儀な二人。そうだったのか……知らなかったよ。

「ほら、早くいってらっしゃい。私の気が変わらないうちに……なんてね」

「は、はい! 行ってまいります!」

 びしっと敬礼した私に、先輩が眉を下げて笑う。そんなに表情を変えることがない人だから、ちょっと嬉しかった。

 私は生徒会室を飛び出し、駆け出した。すべては――そう、中原と一緒にいるため。


 遠藤くんがいそうなところを探していくと、見つかった。彼は職員室の近くのコピー機の前で佇んでいる。

「え、遠藤くん!」

 ぜえはあと肩を上下させる私などお構いなしに、遠藤くんは冷静な顔で「何?」と訊いた。

「今さら先輩にあんなの冗談って言われて、僕に同好会から抜けてほしいからここに来た……ってとこでしょ」

 すらすらと言葉を並べる彼に、私は「何でそれを……」と漏らさずにはいられない。スパイか何かじゃないだろうか、この人。

「心底いらつく。好きなやつのために嫌いな俺のことも簡単に受け入れてさ……あんたバカ?」

「は……?」

「このお人好しが。そんなんだから俺なんかに捕まるんだよ」

 ちょっと待って、何かすごい罵倒されてるんですが!? ていうか、いつになく早口だな遠藤くん。

「あの……ありがとう」

 そう言い放った私に、遠藤くんは思い切り顔をしかめた。何が? とでも言いたげな表情だ。

「この前、私のこと応援してくれたから……『頑張れ』って」

 ずっと言うタイミング逃してたけど、伝えなきゃなって思ってたから。

「私、中原のことが好きなんだ。だから頑張れって遠藤くんが言ってくれて、ちょっと救われた」

 あの時は中原とぎくしゃくしてた。話すきっかけを作ってくれたのは遠藤くん。

「……別に。てか、あんたがあいつのこと好きなのはとっくに知ってる」

「え!? 何で!?」

「さあ? 何でだろうね?」

 む、何か今日の遠藤くんは一段と性格が悪い……とか言ったら殴られるからやめておこう。

 私は改めて遠藤くんを見据えた。

「立花先輩からはきちんとお許しをもらいました。やっぱり、遠藤くんは中原の代わりにはなれないです」

 でも、と私は続ける。

「寂しくなったらいつでも私が話し相手になるよ。遠藤くんは一人じゃないから」

 構ってほしい、って言ってた。それがあなたのSOSなんだとしたら、私はそれを見て見ぬふりしたくないなと思う。

「色々気づかせてくれて、ありがとう。ごめんね」

 瞬間、目の前が真っ白になった。遠藤くんが持っていたコピー用紙で私の顔を覆ったからだ。そしてその上から右頬の辺りに圧迫感。

「……言われなくても、邪魔者は去るよ」

 視界に遠藤くんが現れた時、紙越しにキスされたと分かった。そして彼はため息をついて目をそらす。

「話し相手とか……そこまでしてあんたにすがるつもりないし」

 あんまり俺をバカにしないでくれる? と言われたので首をかしげると、

「――俺だって好きな人の幸せくらい、願えるから」

 遠藤くんはそうつぶやいて、私の頭より少し上を見た。

「ほら、お迎えが来たよ」

 振り返ると、そこには仏頂面の中原がいた。なぜ!? 嬉しいけどなぜ!? ていうかさっきの会話聞かれてなかったかな!?

 一人で焦る私など関係なしに、中原と遠藤くんは視線を交わす。

「……幸せにしてやんなよ。じゃないと殴る」

 まったく主語がない遠藤くんの言葉に、中原は「当たり前だ」と返した。

「応援はありがたくもらっておく」

 この二人に共通の話題なんてあったのか……と半ば驚いていると、中原が私の腕を引っ張る。

「行くぞ」

 どこに!? 激しく疑問だったけれど、何だかいつになく中原が不機嫌だったから私は大人しく頷いた。

「せいぜい頑張りなよ」

 遠藤くんが最後にそう言って背を向ける。私は「頑張る! ありがとう!」と返して中原と歩き出した。

「……あのー、どこへ行くんでしょうか」

 恐る恐る訊いた私に、中原は「お前、その前に何か俺に言うことはないのか」と訊き返してくる。

「あ、中原! おかえり!」

 そうだよね! せっかく同好会のメンバーに戻ってきたんだもんね! 本当に良かった。またこれでみんな一緒に……

「そうじゃない。何でまた遠藤といたんだ」

 え、そっち? そこまで気になることですかね?

「あれは……中原に早く戻ってきてほしくて……」

 うわあ、いざ言おうと思うと恥ずかしい! 私はばっと顔をそらすと、一気にまくし立てた。

「中原の代わりなんていないから! だから遠藤くんに話してて……って、ちょっと!?」

 背中には壁。顔の横には中原の両手が突かれていて。

 ちょっと待ってください。――これはいわゆる壁ドンなのでは!?

「あの、中原……?」

 人生初だなこういう経験は! どうしていいかちょっと分からないかな!

「……俺の目の届かないところで他の男と二人きりになるな、バカ」

「え、……え?」

 何かそれって彼氏が彼女に言うセリフみたいなんですけど!? 心臓が胸の内側でうるさく鳴り始める。

「あの……でもね、遠藤くんは私のこと応援してくれただけで、」

「関係ない」

 ぴしゃりと遮られ肩を落とした私に、中原はとんでもないことを言い放った。

「――次の休み、空けておけ」

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