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血塗れの決闘

「いったーい、なぁ。何するんですか、全く……。あっ、やっぱり男だよ。アリエッタ、下がってなさい」


 と、アリエッタを守ろうとしてパーシーに盛大に殴られてしまったそいつはと言うと、まるで何事もなかったかのように起きるとパーシーの顔を見て、開口一番そう言った。

 その男は白塗りの顔の女にモテそうな顔をしているイケメンであり、白いスーツと黒いマントが特徴の、どこか影のある端正な顔立ちの男であった。

 その顔には毅然さと優雅さがあり、同時にパーシーを見ている眼にはパーシーを侮っているしかなかった。


「この世界、最大の間違いは人間に男と女と言う2つの種族を作った事だね。女は柔らかくて、触るとふわふわしていて、なによりとても味が濃厚だ。しかし男は自分だけが正しいと思っていて、身勝手で、薄情で、なによりとても味が薄すぎる。

 全く……本当に最悪だよ」


 と、彼はそう言いながらキザな様子で、ゆっくりとその手を自分の口元へと持って行くと、その指を自分の口で切る。

 タラタラと流れるその血は、ゆっくりと彼の腕から流れながら確かな形となっていき、そして――――――


「……なるほど、あの茨を切り裂いたのはあなたでしたか」

「そう言う事になる、な。と言うか、男に褒められても嬉しくはないな」


 そう言いながら、そのキザったらしい男は血で作った赤黒い鎌を振るいながらパーシーへと向かって来ていた。


『パーシー! あの男、悪魔よ! あの血で作った鎌、普通に異形の力を持っているわ』

「おおっ、精霊のかわいこちゃん! う、羨ましいですぞー!」

『ひぃ! アクアバレット!』


 姿を表したら舌なめずりされた顔を見せられたアトレスは、急いでいくつもの水の球の魔法を作り出すと共に、すぐさま男は鎌を振り回して水の球を打ち落としていた。


「水の魔法……なんとも麗しいお嬢様らしい良い攻撃でございますねー。是非、今度はお食事をして欲しい物です」

『絶対に嫌! なんか視線もいやらしいし、名前も知らない相手とは仲良くなれません!』


 「それもそうか」と言いつつ、男はペコリと頭を下げてニコリと笑っていたが、器用な事にその視線はパーシーを見る眼は冷たく、かつアトレスを見る眼は情熱的な目であった。


「私の名前はシュナイゼル・ポーレンと言います。

 まぁ、そこのお嬢さんはともかくとしても、そこの男は気持ち悪くて吐き気がするからともかく、そこのお嬢さんとは仲良くしたいものですなぁ。と言う訳で、そこの男は死んでおけ!」


 と、シュナイゼルと名乗った彼はそう言って、血の鎌を振るう。

 振るわれた鎌は勿論、十分に距離を取っていたパーシーにかすりもしなかったが、鎌を振っている最中に鎌の先から血の飛沫が弾けて、パーシーの元へと飛ばされていた。

 いきなり鎌の先から血が弾け飛び、その血になんらかの危機感を感じたパーシーはすぐさま刀を強く握りながら構える。


「……!? 十字流、飛龍!」


 一回小さ地面を蹴って後退したパーシーはそのまま刀を振るって、小さな風の膜を放つ。

 放たれた風の膜は飛んで来た血の全てにぶつかると、そのまま地面へと叩きつけられる。


 ジューっと言う何かが焦げるような音と、何かが腐って行くような腐敗臭と共に、パーシーは自身の判断が間違っていなかった事を知る。

 恐らく、あのままパーシーがあの血を知らずに浴びていれば、あぁなっていたのは自分なんだとパーシーは理解していた。


「へぇ……流石に避けるんだ。流石はここまで無事にこれた男だと褒めてあげるよ」


 彼はそう言いながら、近くの木々を指差していた。

 そこには既に血が付着して、ボロボロになってしまった木……そして元がどう言った人だったかが分からないくらいにまで腐敗してしまっている男の死体があった。

 その指が指し示している男は、もしかしたらあの血を浴びていたもしも(If)の自分だったかもしれないと、パーシーはさらに強く刀を握りしめる。


「非常に残念だよ……と同時に君にも小指の先ほどだが、興味が湧いた。君の名前は?」

「パーシー・ウェルダ。十字流の武人だ」


 そうパーシーが名乗りをあげると、何故かシュナイゼルはさらに視線を強くしていた。


「十字流……つまりはあの非常にくだらない流派の男か」


 自分達の流派を馬鹿にされてしまったその言葉に対してパーシーとアトレスは睨み付けていた。


「くだらない。武人と言うだけでもくだらないが、それ以上に十字流と言う事がくだらない。

 自分と同等か、自分よりも強い女を嫁にするだなんて、本当に情けない話だとしか言いようがない。

 やはり女性とは愛でて、撫でて、慈しみながら、育てるのが一番であり、それを強い弱いで判断するだなんておこがましいにも程がある。と言う訳で……」


――――――君には手加減出来そうにない。


 シュナイゼルはそう言いながら、血で作った赤い鎌を上空へと振るい、そして上空で鎌を2つに分けて、2本の血の色の、赤黒い槍へと変える。


「夜の王たる吸血鬼にして、女の子のための紳士(ナイト)! 我が名はシュナイゼル・ポーレル!

 パシなんとかよ、我が力をその身に刻め!」


 そう言ってシュナイゼルは空中で2本の血の色の槍をクルクルと回転させながら、パーシーに向かって放たれていた。


『パーシー! 危ないわよ!』

「……アトレス、下がってろ。あの槍に触れたらアウトなんだから」


 パーシーは手で刀を強く握りしめていて眼を真剣な目つきにしながら刀を振るいつつ、2本の槍にかすらないように、真ん中を捉えて斬っていた。


「へぇ……なかなかやるようだね。なら、これならどうだい?」


 すると今度は2本の槍を途中で2つに分けて4つ、さらに2つに分けて8つとなり、その8つの塊は赤黒い短刀へと変わり、さっきの槍以上に俊敏に回転する。

 そしてシュナイゼルが別の指を口で小さく切るとそこから血が流れて、長い槍へと変化させてそれをしっかりと握りながらグルグルと回転させていた。


「さっきまではそちらのかわい娘ちゃんが居たから使えなかったけれども、そこまで離れてくれているんだったら何よりだ。これ以上はこちらとしても不満なんだ。なにより、あの娘を残している事が気がかりでしようがない。だから――――――決着をつけよう」


 そう言って、シュナイゼルが手に持った長い槍をクルクルと回転させて渦を作り出し、赤黒い短刀を渦の中へと向かわせて弾き飛ばす。


「――――――吸血鬼の奥の手、降り注ぐ血(アシッドレイン)


 そしてどんどん勢いを増す槍の回転は、そのまま血の雨となって天高く舞い上がり、そのまま見えないくらいにまで高く、もっと高く舞い上がる――――!


『えっ、ちょっとまずくないかしら?』

「あぁ、まずいな」


 パーシーはそう言いながら刀を腰へと戻すと、アトレスの名前を呼ぶ。


「アトレス……槍を頼む」

『あぁ、はいはい。お姉さんに任せなさい』


 パーシーがそう言うと、アトレスがチョチョイと指を動かすと空気に明らかな流れが見え、そしてその流れは凍って行き、確かな槍へと変わるとパーシーはそれをしっかりと握りしめる。

 そして、シュナイゼルと同じように槍を上へと向け、くるくると回転し始めていた。


「おいおい、まさか私の槍の真似をしているんじゃないだろうね? 言っとくけど、この槍術だって吸血鬼たる我が襲い来る男の猛者達から見て覚え、迫って来る女の美女達から触って感じ取ってようやく取得した武術。いくら、武人で鍛えていようとも剣を扱うのと、槍を扱うのとでは勝手が違う。

 それに私だって、この『降り注ぐ血』を攻略する技は持ち合わせていないのにも関わらず、真似してどうにかなるとでも思っているのかい? これだから野蛮な男は考えが足りずに困る」


 悪魔の一種、吸血鬼のシュナイゼルの血はありとあらゆる物を溶かし、そして腐らせる猛毒の液体である。

 それを防げるものはこの世界になく、この世界ではない、人の願望を叶えたり自身の欲望に忠実たる悪魔がこの技を唯一防げる存在である。

 故に、だからこそシュナイゼルは自分の血が降り注いだ後の心配は一切していない。

 毒が効かない人間が毒の心配をするだけ無駄な話である。


 今、シュナイゼルが行っているのは自分の操作出来る以上にまで血を飛ばす事であり、この槍の高速回転も完全には血を防げないと言う事は、この技を生み出したシュナイゼルが一番良く知っている。


(精々出来る事と言ったら、槍で高速回転させて血を防ぐ傘を作るくらいだが、それでも傘を差したって完全に雨を防ぎきる事が出来ないように、この技を完璧に防ぐ事は出来ない。一滴でも当たれば、その血は全てを腐食させて身体を骨の髄、それこそ血の一滴まで腐らせる。

 さぁ、どうでる? パシなんとか)


 シュナイゼルがそうやってニコリと笑う中、パーシーはと言うとただ槍を回転させていなかった。

 シュナイゼルの渦がただ血を天高くへと飛ばすためだけの渦とは違い、パーシーは回転数こそ及ばない物、その動きは確かなものであり、渦をただ一点に集中させるためだけに作っているようだった。

 そしてそれは竜巻となりて、物凄い勢いで回転させていく。


「十字流剣術応用、竜巻星」


 そして回転して生まれた竜巻は、パーシーの周りを守るかのように回転し、そして血は全てその勢いに飲まれ、あちらこちらに飛び散っていたが、その一滴たりともアトレスの方には飛んでいなかった。


 パーシー・ウェルダが使う十字流は確かに剣術であるが、扱うのは剣だけであらず。

 ヤマト大陸の2本の刀を自由自在に扱う剣士はかのライバルの一戦で、船のオールを削って長い木刀を作り出して、かのライバルを打ち破ったと言われている。

 戦いにおいて、自分が得意とする得物が常にあると言う事はなく、故に十字流では剣術ではあっても、本質的には手に持ったものを武器とする戦術を教えているのである。


 自分の能力のすべてを出し切り、敵の攻撃の全てに対処して、慢心しない事。

 それこそが十字流なのである。


「……止め!」


 そしてそのまま、パーシーは回転しながらどんどんと小さくしていき、それをジェルマンへと放たれる。

 放たれた攻撃は、ジェルマンを吹き飛ばし、そして――――――


「……一突!」


 パーシーの放った鋭い一撃がジェルマンを貫いていた。

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