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いとも容易く嘘を吐く

『と言う訳で、今必要になってくるのはこれだと思って友達の精霊に作って貰ったんだけど、どう思う?』


 アトレスが出来上がったばかりのそれを持ってパーシーの所に現れたのは、アトレスがパーシーに恋愛指導を行ってから3日後の事である。

 パーシーはポカンとした眼を浮かばせながら、アトレスが持って来たそれを指差していた。


「アトレス、それはなんだ?」

『なにって、これは宝石箱に決まってるじゃない?』


 何を当たり前の事を、とでも言うべく、アトレスはそう言っていた。


 アトレスが持って来たそれは、豪華な装飾が施されている、所謂宝石箱であった。

 箱の側面にも上にも綺麗に宝石が施された、だけれどもどこか温かみが感じられる、そんな不思議な宝石箱であった。

 まかり間違っても、パーシーが持っていそうな宝石箱ではなかった。


「これをアトレスの友達の精霊に作って貰ったのは別に良いんだが、アリエッタに渡す際にどう言えば良いんだ? お前の友達の精霊の名前でも言っておけば……」


 と、パーシーが言うと、アトレスは『チチチ……』と指を振っていた。


『パーシーは乙女心と言う物を理解してないわねぇ。女と言うものは、そう言う気遣いをさけて欲しいものなのよ。

 こう言う時に一番大切なのは、ダイナミックなエピソード! 衝撃の事実! そして心のこもったもの! 女が求めるのは愛情や心、そう言ったものなのよ!』

「ふーん……」


 その時、パーシーはと言うと、昔アトレスが言っていた事を思い出していた。

 『女が求めるのは愛情なんかよりもやっぱりお金や宝石! 目に見える誠意が大事なのよ!』と言っていた事を思い出していた。

 パーシーが理解したのは、アトレスが言いたかった女の子が求めている物とは何かよりも、精霊と言うものはその時々によって言う事を変えるんだと言う事である。


『良い? パーシー? アリエッタに会ったら、こう言うエピソードを伝えるのよ。良いわね、ひそひそ……』


 と、アトレスは考えて来た内容をパーシーへと伝えていく。

 パーシーはそんな内容で上手く行くのかと書いたメモを見ながら抗議をするが、そう言うとアトレスはちょっとした提案を始めていた。


『じゃあ、今からちょっとしたテストをしてみましょう。村の人達に今、教えた話をしてみて、それで納得して貰えたら完璧ね。それなら、パーシーだって文句ないでしょ?』

「……良いでしょう。確かに始めてやるならば緊張するけれども、そう言う事ならばやってみましょうか」


 こうして、パーシーはアトレスの事が本当かどうかを確かめ始めたのであった。


 パーシーは村の人達にアトレスが教えてくれた話をしながら、宝石箱を見せていった。


【1人目 八百屋の店長さん】

「うぅ……パーシーちゃんは苦労したのね……。これ、貰っていきな。私からの餞別(せんべつ)さ。貰っていきな」


 パーシーは八百屋の店長からテトマトを貰った。


【2人目 肉屋のおっさん】

「……パーシー、男には何事もやる時はある」


 パーシーは肉屋のおっさんの肩に手をかけて、励まして貰った。

 ……ちょっと男らしい汗臭い臭いがしたけれども、それはそれで心強い感じがした。


【3人目 隣の家のおっさん】

「……よしよし」


 パーシーは何故か見知らぬおっさんに励まされた。

 何故だか知らないけれども、ちょっとだけ嬉しかった。


【4人目 花屋のお姉さん】

「……つらかったんだね、ぼく」


 そう言われながら、パーシーは花束を貰った。


【5~8人目 村の子供達】

「だいじょうぶぅ?」

「おにいちゃん、くろうしてたんだねぇ」

「がんばったねぇ」


 パーシーは自分よりも下の子供達に慰められた。


 ……それから数十人とパーシーはアトレスの話を披露すると、皆が皆、感動してパーシーに同情を持った声で答えていた。


「……うん、なんかやっている僕の方が心が痛くなってくるんだけれども」

『奇遇ね、パーシーちゃん。私もなんだかやっていて自分の方が心が痛くなって来るわね』


 結果として分かったのは、アトレスが教えてくれた話は十分他の人を騙せるくらいの作り話であり、なおかつやっているこちら側の方が心が痛みやすいと言う事である。


「……ともあれ、アトレスが言っていた話は十分伝わると言う事が良く分かりました。疑って本当に悪かったです」

『分かって貰えて良かったですわぁ、と言う事で最後にあの人で試して本番に参りましょう』


 そう言ってアトレスが指差したのは、こちらを見てニコリと笑っているロットだった。


「……うん? どうかした、2人とも?」


 キョトンとした顔で首を傾げるロット。


「ロットかぁ……」

「あれ? パーシー? 無視?」


 ロットはどちらかと言うと社会的できちんと判断出来るし、パーシーが騙せるくらいならばアリエッタに話しても十分使える話だと言えよう。


「ロットに話して見ようか、アトレス」

「なぁ、アトレスちゃん。あなたの主さんはどうして僕の事を無視しているか、聞いて貰って構わない?」

『そうですね、ロットさんに納得させる事が出来るのならば普通に使っていて良いと思うし』

「……あーれ? アトレスさんも無視かな?」


 パーシーは思っていた。

 正直、言わせて貰えれば村の人達がここまで納得して貰えるから、アトレスは既に騙せられるだろう。

 ならばこそ、これはあくまでもこちらの自己満足のようなものである。

 ……と言うか、パーシーとしてはあくまでも、ロットの反応が個人的に見たかった、ただそれだけなのである。


「実はな……ロット」

「……はぁ、ようやくこちらに気付いたか。まっ、別に良いだろう。どうかした、パーシー?」


 そしてパーシーはアトレスの応援を背中で受けながら、アトレスが教えてくれた話をロットに話し始める。


「ロット……ここに宝石箱があるのが見えるだろう」

「……うん。初めにお前達を見つけた時から持っているけれども、それがどうかしたの?」

「この宝石箱はな、父からの形見なんだ……」

「お前の父親のジェルマンさん、昨日も普通に歩いていたけれども」


 うん、別にここで泣かそうと思ってないから良い。

 何故か、父と昨日喋っていたはずの肉やのおっさんはこの辺りで泣き始めていたけれども。


「……父からの形見とは言うけれども、実際には母の形見なんだ」

「お母さん……」

「そう、この宝石箱、ところどころが薄汚れているだろ?」

「確かに……年季を感じるな」


 実際には3日前にアトレスが精霊に頼んだ奴だけれども。


「……母さんが父さんと会って、結婚する際にお母さんが実家から持って行って欲しいと言われた宝石箱。今ではこんなにくすんでいるけれども、大事な想い出なんだ」

「お前のお母さんって、確か代々揃って武道家とか言ってなかったっけ? それなのに嫁入り道具が宝石箱?」

「……これには父さんと母さんの思い出が詰まってるんだ」

「あぁ、うん。思い出が詰まりまくっているんだね。分かった」

「……これを今から、アリエッタに持って行くんだ。母さんが死ぬ間際、僕のお嫁さんになる人に渡して欲しいと言われたらしい。父がそう言っていた」


 と、ここでちょっと目薬で涙目を演出する。

 メモ帳にも『ここ、重要』と書いてあるから、自然な動作で行う。


「…………」


 残念ながらロットは騙されてくれなかったみたいだが、まぁ、良い。


「……まぁ、嘘っぽいけど」


 うん、ロットよ。嘘っぽいではなく、嘘である。

 パーシーのお母さんは別にそんな事を父に言ってはいないし、第一母が心配していたのは息子の将来の嫁ではなく、その日の献立の方を心配していたくらいで、実に妻っぽい性格だったと言う。母としてはあまり褒められたものではないが。


「……それを宝石箱としてあげるのならば、さっきのエピソードを半分くらいにして、お母さんを強調すると良いと思うよ。

 じゃあね、2人とも。今度はもっと早くに声をかけてくれると嬉しいな」


 そう言って、ロットは手を振りながら言ってしまった。


(……ふむ。バレはしたけれども、良い線行っていたのか)


 パーシーはそうしみじみ思う。


「なら、大丈夫だな」

『えぇ、だから言ったでしょ。問題ないって』


 はいはい、と言いつつ、パーシーはアトレスと共にアリエッタの居る茨の森に向かうのであった。

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