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アトレスの恋愛指導

『と言う訳で、パーシーちゃん。わ・た・し・の恋愛指導を受けて貰えるかしら?』


 パーシーの部屋へと入って来たアトレスはと言うと、ふん! とちょっとばかり胸を張ってそう言う。

 そしてアトレスは、ネックレスや髪留めなどを出して説明していた。


『まずアリエッタちゃんはこう言ったネックレスや髪留めに対して、あんな山奥に住んでしまっているから興味がないだろうから、これはダメねぇ。だからって今まで通り、料理を作って距離を詰めている戦法だと、時間がかかっちゃうからなにか策を考えないとね……』

「……そんなに急がなくて構わないんだが」


 と、パーシーはそうやって否定しているけれども、手はさらさらと動かして『×――――ネックレス、髪留めのプレゼント』、『○――――料理(時間かかる)』とメモしている様子を見て、ちゃんとメモしている事を確認して嬉しそうな顔をしているアトレス。


「……と言うより、なんでそんなに急がせるんだ? アトレス?」


 メモを書きながら、パーシーがそう質問するのを聞きながら、アトレスは必死な形相でこらえていた。

 

『(アリエッタが殺されそうになっているから、こうやって急いで困ってるんだけれども……。

 1~3週間でアリエッタを殺す部隊が出動しちゃうんだからね! アリエッタを落とすんだったら早くしないといけないんだからぁ!)』


 う~、とちょっと涙目で自分を睨み付けているアトレスに対して、ちょっと可愛いなぁとその姿をメモするパーシー。


『ほ、ほら! パーシーはアリエッタの事が好きなんでしょ?』

「えっ……」


 アトレスに言われて、メモをパラパラとめくりながら、考えをまとめようとするパーシー。


『(まだそこまで考えてないと言う意味……まぁ、確かにアリエッタちゃんはどっちかと言うと、好意よりも保護欲をかきたてられるタイプよね。

 普通に可愛らしいタイプではあるけれども、今パーシーの頭にはアリエッタちゃんを子供みたいに扱いたいと言う想いがあるのかしら?)』



 当初、精霊のアトレスにとって、アリエッタは単なるパーシーの女への扱いをどうにかするための当て馬のような物だった。

 パーシーの母親、クリス・ウェルダは母親としても、そして武人としても立派な人物であり、自身の身体を鉄のように硬くする武術、セヴィン流の武人として本当に優秀な人物であり、アトレスもアミィも、精霊側からしてもとっても好意的な人物であった。

 けれども、病気がちな彼女はパーシーを産んでしばらくしてから死んでしまった。


 幼いパーシーがどう感じたのかは、当人でも人間でもないアトレスには分からない。

 だけれどもそれ以降、やけにメモを取るようになる人になってしまった事に、アトレスはほんの少し気がかりだった。


 だからアトレスは、パーシーに対してクリスと同じ流派のロット、それからメリヤちゃんと言った色々な人があったのだけれども、残念ながら恋愛関係的な心情が育たなかったのである。


『(まぁ、メモのし過ぎで、淡白になっているのかもしれないけど)』


 アトレスはパーシーの(自称)姉として、もっと男として立派になって、子作りを颯爽と申し込める(?)ような男になって欲しいのである。


『……と、ともかく、パーシー! あなたはアリエッタちゃんをどう思っているのか分からないけれども、それでも気になっているのならばちゃんと最後まで面倒を見ないと! ねっ!』

「……まぁ、僕としてもこんな所で他の人に任せるのは癪だ。とりあえず、今度の父親が折角セッティングしてくれた合コンまでを制限として、アリエッタの所に通おう」

『その域よ、パーシー!』


 パチパチ、と拍手をしているアトレスだったが、その実、心の中ではアリエッタが死ぬ事にでもなれば、今度はパーシーにどんな事になるのかを心配しているのである。


『と言う訳で、今からアリエッタを攻略するための方法を考えましょう。とりあえず、ロット君が出してくれた【洗脳】と言う案は却下しておきますね』

「……むしろそれを提案したロットの事を、後で説教したいんだが」

『でも有効的な手段だけどねー……。人道的じゃないしー……』

「人道的なら良かったのか?」


 と、パーシーがアトレスに質問するのだけれども、アトレスは『なら、別の事を提案しましょう』と話を流してしまっていた。


『じゃあ、吸血する事で強くなるんだから、血を美味しくして吸えば良いかなぁ~』

「……血ってそんなに簡単に美味くなるのか? そもそも美味しいってどう言う感じなんだろうか?」

『……ど、どうすれば良いでしょうかねぇ』


 2人して悩むパーシーとアトレス。


「……後、吸血鬼が好きなものと言うと」

『えっと……こうもり? トカゲ?』

「それはただただ、吸血鬼の使い魔的ポジションなんじゃないだろうか。ちょっと分からない」

『じゃあ、これとかどうでしょう?」


 アトレスは女の人が描かれた絵画を取り出してパーシーに見せていて、パーシーは絵画を指差して「何故、絵画?」と疑問符を浮かべていた。


『いや、吸血鬼の伝承ですと、大抵吸血鬼は女好きで有名です。なので、こう言う女の子に関係するものが良いかなぁって。

 後は魔法で女性の姿に化けると言う手も……』

「本当に吸血鬼が女好きなら襲われる可能性が増えると、メモに書いておきましょう。そして、女の子に変装したら危ないじゃないですか」

『どう大変なの……って、あっ』


 アトレスの頭の中に、アリエッタが女の姿になったパーシーが襲い掛かる様子が思い浮かんでいた。


【「や、やめて……アリエッタちゃん」

「ウフフ……。パーシーちゃん、可愛いねぇ」


 困惑する女姿のパーシーにアリエッタが舌なめずりしながら近寄る。

 その口元からは、鋭いキバが生えていたが、それ以上にアリエッタの強烈なフェロモンにパーシーはたじろいていた。


「だ、だから、や、やめて……」

「首筋が綺麗ですね~。……あぁ、噛み付きたい」


 ゆっくりと、アリエッタが指で首筋をなぞる様にすると「あぁん♪」ととても可愛らしい声をあげるパーシー。


「や、やめてください……」

「ご、ごめん……もうムリ……」


 そしてアリエッタはパーシーへと襲い掛かり――――――】


 頭の中に、女の姿のパーシーとアリエッタがくんずほぐれずな、百合百合な関係が2人の脳内で再生されてしまっていた。


「……なんてものを想像させるんですか」

『……ごめん、ご主人様』


 なんだか居心地の悪い、気まずい雰囲気を漂わせており、パーシーとアトレスは2人して黙っていた。


 一瞬の間。


『では、お姉ちゃんと一緒に別の案を考えましょう』

「……だな」


 こうやってパーシーとアトレスの2人は必死に、部屋でアリエッタを落とす案について考えていた。


 一方その頃、アリエッタの住む茨の森。


 両腕が異常に発達した黒い熊、緑の蔓が足になった寄生植物、くちばしが鋼鉄になっている鳥など、他にも危険な生き物が生息する茨の森に、茨の棘を生やした木々を刈り取りながら1人の男が歩いていた。


 その男は金色に輝く髪をくるりと巻いた、まるで女の子のように美しい肌の顔をした男。

 胸元にたくさんの金色のバッチを付けた白いシャツを着た、伯爵が身に着けているような黒いマントをその上に羽織っている、ちょっとばかし変わったその男は、嬉しそうな表情で道なき道を、手にした赤い鎌で切り裂きながらスキップしながら歩いて行く。


「ツンデレ~、クーデレ~、ヤンデレ~♪ 貧乳、美乳に、巨乳ちゃ~ん♪

 やっぱり、どんな女も可愛らし~い♪ 女は天使で、美しいぃ!

 ランラ、ラ~ン♪」


 嬉しそうにそう歌う彼はスキップしながら、森の中を進んでいた。

 そんな彼の顔が一瞬、強張った顔になったかと思うと、赤い鎌を空中で横へと振るう。

 そして横へと振るわれた鎌は、カンッと、高い金属音が響いていた。


「おやおや? 可愛らしい女の子からの攻撃なのかな~?」

「……残念ながら違う」


 と、そう言って現れたのは、青と緑の縞々の長袖の服を着た眼つきの悪い長身の男性だった。

 その長身の男性は右手に黒光りする禍々しい杖を持っており、彼の周囲には鋭い銀色に光る石が多数宙に浮かんでいた。


「……お前はシュナイゼルだな? 我らの一族を滅ぼし極悪人、シュナイゼル・ポーレル。俺は魔術師の――――――」

「シュナイゼルだけど男の名前なんて覚える気も、喋る気もないから。じゃあ、ね」


 と、シュナイゼルと呼ばれた赤い鎌を持った男は、じゃあねと眼つきの悪い魔術師を素通りして茨の森を進んで行った。

 魔術師はそんなシュナイゼルを厳しい目つきで睨み付け、そして禍々しい杖をシュナイゼルへと向けていた。


「――――――我が一族の仇、死ね。シュナイゼル・ポーレル! 全ては我が一族とリャナンシーのために!」


 そうして魔術師によって放たれた銀色に光る石は、途中で雷を纏わせながら、


「かはっ……!」





 全部、魔術師の身体に突き刺さっていた。


「あーぁ、血塗れの男子って醜い。やっぱり、血塗れでも女の子なら可愛いのになぁ」


 そうやって笑みを浮かべるシュナイゼルは、背中に物凄い気迫を放っていた。

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