パーシーと友人
パーシー・ウェルダは一応、暫定的にではあるけれども、十字流第7代当主のジェルマン・ウェルダに十字流免許皆伝の証として、十字流第8代当主の座を拝命していた。
勿論、パーシーはまだまだ十字流の技を鍛えながら精進していくつもりであり、次世代の十字流の継承者として子作りの相手としてアリエッタを落とそうとしている、まだまだ精進が必要な身でもある。
それでもパーシーは自身が十字流第8代当主として、1人の武人として、自立していると思っていた。
「おっ、十字流のところのパーシーちゃんじゃない? この魚、貰って帰るかい?」
「ジェルマンとこのパーシーちゃん、このサセロリはシャキシャキしてるし、ルロリも美味しいよー」
「パーシー坊、貰ってき? このお菓子」
――――――お魚や野菜、お菓子を渡されている、明らかな子供扱いされている現状に対して、パーシーはなんとなく不満げな顔で自分の家へと帰っていたのである。
『大人扱いされない事に不満を感じるだなんて、やっぱりまだまだこのお姉ちゃん精霊のアトレスちゃんが付いてあげないといけないね~。ねっ、パーシーちゃん♪』
「……う、うるさいなぁ」
そう言いながら自分の持っているお魚、野菜、お菓子などの大量の荷物に照れて、顔を赤らめている姿を見て、『可愛いなぁ♪』とアトレスは嬉しそうな様子で、赤く染まる彼の頬を突いていた。
「……全くなぁ。アトレスは相変わらず意地悪だ。今度家に帰ったら、アトレスのメモの追記回数が増えるばかりだよ」
『お姉さんとしてはご主人様に気に入って貰えて本当に嬉しいなぁ♪ 嬉しいなぁ♪』
「メモ帳のアトレスの欄に対して、『意地悪のお姉さん』と書かれるのがそんなに嬉しいのか? 変な奴だと言わざるを得ないな」
『お姉さんと言う言葉さえ記述して貰えれば、私は満足! 満足!』
「……そう言う物か」
と、アトレスの相変わらずのお姉さん染みた軽口に対し、茶々を入れつつ、パーシーは自身が持っている荷物がちょっと多いなと思いつつ、荷物が落ちそうとなっているからよっ、ともう1回ほど持ち直していた。
『ごめんねぇ~、精霊である私が荷物を持てたら良かったのにぃ。まぁ、持てるには持てるんだけれどもぉ、私が持つには、あまりにも筋力的、体力的にも弱いし?』
「分かってるから言わなくても良い」
『それくらいの荷物、あなたにとってはそんなに重くもないでしょ、パーシー?』
「重いとか、重くないとかではなく、ただ単純に多くて持ちにくいだけ……っと」
そう言いつつ、上に乗っていた野菜が落ちそうになって慌てて、パーシーは取ろうとして、
「……なにやってんだよ」
と、冷めた目をした少年はその野菜を取って、パーシーの荷物の上に載せた。
「あぁ、すまない、ロット」
「別に良いさ、パーシー。お互い肩身が狭い、武術の流派として、助け合うのは至極当然の流れじゃないか。何を当たり前の事を言ってるんだい?」
ロットと呼ばれた冷めた目をした少年は、手に取った野菜をパーシーの荷物の上に戻して、そのまま流れるようにしてパーシーの持っていた荷物の半分を取る。
ロット・セヴィン、それがこの少年の名前である。
冷めた目つきと人形のような仏頂面の彼は、灰色みがかった首元まで伸びている銀色の髪をふんわりと浮かせていた。
体格の良いがっしりとした長躯のパーシーとは対照的に、いっそ病弱に見えるくらい小柄でひょろっとしたロットが並ぶと、一種の兄弟のように見えてしまうが、彼はパーシーと同じ16歳であり、なおかつパーシーと同じく、一子相伝の武人の流派の当主なのである。
「最近、君の姿をこの辺りで見かけないと思ったら、どうやら茨の森に行っていたみたいだね? 君の服にあそこの森の茨が付いて居るよ?」
「……相変わらず、抜け目ないな」
「目が良いのは武人としては必要不可欠な物さ。相手の攻撃を受けるにせよ、避けるにせよ、目の良さが初動の速さを決めるのだからね。最も精霊であるアトレスさんには関係ない話だったかもしれないけど」
そうやってすんなりと、まるで最初から決まっていた文句を暗記してたかのようにスラスラと言うと、パーシーの横に浮かぶアトレスを見るロット。
「相変わらずお綺麗と言うか、幻想的な雰囲気を漂わせていますね。アトレスさん」
『相変わらずお世辞と言うか、小悪党な雰囲気を持ち合わせているわね。ロットちゃん』
「おや、これは手厳しい回答をどうもありがとうございます。でも、綺麗だと思ったのは事実であり、私の言葉は私の思想をきちんと反映している物ですから、素直に褒め言葉として受け取って欲しいのですが?」
『ふふっ、冗談よ。ちょーっと、お姉さんぶっちゃったわね、ロットちゃん。ごめんね』
「まぁ、謝って貰えるならば良いんですが」と言った後、「そ・れ・よ・り・も!」と仏頂面の顔を一段と磨きをかけて、と言うかほんの少し怒りを混ぜながらロットはパーシーへと視線を戻す。
「君が十字流のために子作り、自分よりも強い相手に求婚しているのは知っていたが、まさか『茨の森のギンバイカ』に手を出しているんじゃないだろうね?」
「それって……」
アリエッタの事か、とアトレスに確認を取ろうとしたパーシーだったが、既にアトレスは姿を消していた。
(逃げたか……)
と、薄情な自分の精霊にほんの少しがっかりに思いながら、ロットへとしっかりと向き合い、「そうだ」と答えると、ロットは「やはり……」と言って視線を前方に向ける。
「茨の森にはとーっても強い女の人が居るって噂が流れてはいるけれども、それと同時に茨の森にはすっごーく恐ろしい吸血鬼が居るって噂も聞こえているから、例え武人だとしても危険だと思うけどね。別に強い女の子は『茨の森のギンバイカ』以外にも……」
「そもそも、その『茨の森のギンバイカ』ってどう言う感じで付けられた名前なんだ、ロット?」
パーシーはロットにそう尋ねると、「知らないのかな?」とロットは説明を始めていた。
「おや、知らなかったのかい? 知らずに居たのなら、説明してあげます。
ギンバイカって言う、じめじめとした薄暗い洞窟とか汚れた環境の中で生える、とびっきり美しい花の事を指すんです。と言う訳で茨の森と言う、とっても人が住めないような環境に居る、美しすぎる女性だから、そう言う名前が付けられているだけないのだけど。
まぁ、パーシーが名前を知っているのだったら、こんな通称で呼ばなくて良いけど」
「……いや、名前は知ってるけど」
「おや? メリヤ以外に女友達が、いや、周りに歳の近い女の子が1人しか居ないと言う状況だから、君はあまり女慣れしてないと思うけど?」
『そうねー、パーシーはあまり女慣れしてないと思うけど~』
ちょっとばかり本当に嬉しそうな眼で、ロットといきなり現れたアトレスの2人が、パーシーを楽しそうにからかっていた。
当人のパーシーはぐぬぬ……、と怖い顔で唇を噛みしめていた。
「……アトレスさん、ちょっとパーシーをからかい過ぎましたね」
『……ですね~。やりすぎたかもねぇ~』
「まっ、意地悪しすぎたから、この荷物は私の方で君の家へと運んでおくから、君はゆーっくりと来て大丈夫だからね」
ロットは荷物を持ったまま、とっととパーシーの道場へと行ってしまわれた。
(まぁ、からかわれまくったけど、結局は荷物を持って手伝ってくれたから……良いか。
相変わらずロットは人の懐に入るのが上手いなぁ、本当に)
そう言いながら、パーシーはロットの後を追って、自分の家へと向かうのであった。
☆
「……と言う訳で、パーシー。合コンをして貰えるか?」
道場へとパーシーが帰って来ると、いきなり神妙な顔をした父のジェルマンがそんなとんでも発言を伝えていた。
「どう言う事ですか、父上?」
神妙な顔でそう伝えてきたジェルマンの言葉に対し、パーシーもまた父親似の無表情の顔で答えていて、それを見ていたアトレスはウフフと嬉しそうな顔をしていた。
『どっちも見ていて、本当に面白い表情だわ。やっぱり人間は見ていて楽しいわねぇ♪』
アトレスの小悪魔的な顔を見ていて、パーシーとジェルマンの2人は蔑みの目線を向けていた。
「(趣味が悪いなぁ、アトレスは)」
「(息子の精霊は相変わらず、品位に欠ける……)」
パーシーとジェルマンの2人は小声で言っていたが、アトレスは聞こえていた上でウフフと嬉しそうな顔で笑っていた。
『……主の様、もう少し理の解可能な所まで分かりやすく説の明して会の話してあげないといけないでしょうが』
と、ジェルマンの隣に、アトレスに良く似た艶やかな薄緑色の美しい美少年の精霊がふんわりと浮かびながら、ジェルマンの肩に手を添えていた。
ジェルマンの隣に浮かんでいる6枚の美しい羽を持った彼女こそ、ジェルマンと契約を交わしている精霊のアミィである。
ちょっと変わった喋り方をするが、パーシーにとって彼は第2の父親のような、頼れる精霊である。
「……ではアミィ、説明を頼む」
『了の解ですよ、主の様』
パーシーの隣までゆっくりと、自然に迫って来たアミィはどこからか小さな黒板を取り出して文字を書いていた。
『パーシーとジェルマンの二の人とも、あなた達の使の用する流の派、十の字流は自の分達が生んだ子の供に対して、一の子相伝で流の派の全てを教えます。しかしそれだけではなく親として、そして子の成の長のために、場を作る事もあるのです』
『つまり、お姉ちゃんが分かりやすく言うと、パーシーちゃんのお嫁さん候補を紹介するって事ね?』
『や、訳しすぎだし! 私の丁の寧に話した説の明が無の駄になってしまったじゃん!』
アトレスに自分の説明を訳されてぷんぷん、と怒り出すアミィ。
頼れる第2の父親ではあるのだが、それ以上に喋り方が分かり辛くて、ほとんどの場合、このような形で突っ込まれてアミィは怒っているなぁーと、パーシーは自身の記憶を思い返しながらそう思う。
「……そう言う訳だ」
「じゃあ、素直にお見合いと言ってください。父上」
『そうねぇ。もう少し、分かりやすい言い方の方が良かったかもね』
そう言って自身の息子と、その息子に責められるように言われたジェルマン。
「……では、日程を発表する」
さらっと流した。
「(流したな)」
『(流しましたね)』
『(主の様、流しきれていません)』
まぁ、この3人にはバレバレだったが。
「日程は相手側、それに他の男を呼んで、数を合せないといけないから少々時間がかかる」
『森に居る彼の女を落とすのは構いませんが、もう少し考の慮してください』
ジェルマンとアミィにそう言われたパーシーはメモ帳にササッと今回の事をメモすると、「少し考える時間をください」と言って自分の部屋へと帰って行った。
『どう言うつもり、アミィ?』
と、部屋に残ったアトレスはアミィにそう尋ねる。
『どう言うつもりもなにも、これは初めから決の定していた事。その辺りはアトレスの方も既に報の告を知っていると思っていたけど?』
『知っているのと、伝えるのはお姉さん的には違う事なのよ』
『厄の介な事だとは思うけれども、知らなかったのと教えなかったのでは全く別の事であるとアミィは思うよ?』
『くっ……』
『まぁ、座って話そう』とアミィに言われて、ゆっくりと腰を下ろすアトレス。
『あの森に居るアリエッタちゃんに、うちのパーシーちゃんが今、必死に、童貞ながらアプローチしている最中なのよ。そりゃあ、他にも色々と候補が居れば、姉としてもーっと面倒見てあげられるから、それはそれで嬉しいんだけど……。
でも、アリエッタちゃんを殺すと言うのはなしでしょ?』
怒気を含ませながら、アトレスはアミィにそう言う。
『仕の方のない事。精霊にとってはちょっとした時の間でも、人にとっては1つの決の断をこなせるくらいにはそれなりに時の間が出来上がっていたと言うのは、昔から、そう前から良くある話でしょ?』
『えぇ、そうね。私も昔から、その辺りは直した方が良いって、口をすっぱくして言ってるんだけど』
『アトレスが精の霊としてそう囁いても、この私が付き合っても、同じ結の果。人と言うのは長の年で誰か、と言うのは変わるけれども、本の質的部分はおおよそ変わらない。
自の分達に対する脅の威に関しては、すぐさま排の除をするのが常。ねっ、ジェルマン』
と、アミィが今まで黙って2人の精霊の話を聞いていたジェルマンに声をかける。
「……1週間後の夜、アリエッタを殺害するよう話がある」
『そ、そんなぁ! パーシーちゃん、あんなに頑張って口説いているのに! もうちょっと何とかならないの、アミィ!』
『ジェルマンがもう少し自の警団、この村の守りをしている人の達に説の得をしても、伸ばせてもう少し……と言ったところかな? ねっ、ジェルマン』
「2週間だ」
そうジェルマンに言われたアトレスは『分かった』と言って、パーシーの後を追って行くのであった。
次の話がちょっと短かったので、第5話と結合しておきます。