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俺の嫁(予定)がアホすぎる

 武術や魔術の中には、血筋などが重要になってくるケースもある。

 他の人よりも魔力が多い魔術の一族やら異常に脚力が発達した武術の一族など血筋によっては長所が現れたり、それと同じくらい他の人よりも魔力が少ない魔術の一族やら身体が病弱の武術の一族など短所が出たりして、血筋によってはその一族に目に分かるほどの特徴があったりするのだ。

 勿論、そう言った目に分かるほどの特徴がある一族はほとんどが有名な名家や貴族だったりするのだが、そんな中にも没落してしまった例外は存在している。


 その例外とは、目の前で箸を不思議そうな顔で顔で見ている、このお嬢さん、アリエッタとかがそれに当たるのである。


「……そんなにこの箸が珍しいですか?」


 まるで見た事のない物にでも初めて出会ったかのように箸を不思議そうに見ながら、恐る恐る触るアリエッタに、パーシーが声をかけていた。

 パーシーはアリエッタに結婚を申し込んだのだが、アリエッタがお腹が空かしてしまったので、あの後アリエッタの家で昼食を作ってあげて、一緒にご飯となったのである。


(まさか箸を知らないとは思っても見なかったけど)


 そう思いながら、慣れない箸捌きで食事を取っている。

 今、箸を捨てて普通に素手で食べ始めて、「うん、おいしい」と嬉しそうに言ってくれて、ホッとするパーシー。


『あらぁ、流石に同じ女としてそんな食事のマナーは見過ごせないわねぇ』


 と、パーシーの横でいきなり現れた精霊、アトレスはそう言いながら、サッとアリエッタの背後へと移動すると箸のレクチャーを始めていた。


「……? だれ?」

『皆のアイドル精霊、アトレスちゃんよー! パーシー共々、よろしくねー! アリエッタちゃん♪』

「……どう、も」

『はいはーい。まず、箸とは東の大陸、ヤマト大陸から伝来した美味しく、そして綺麗に食べるために生み出された画期的なやり方で、箸にもきちんとした持ち方が……』


 とまぁ、アリエッタに対するアトレスの箸のマナー講座が始まったのを横目で見つつ、パーシーはアトレスがここに来るまでに聞かせてくれた彼女の事について取ったメモで彼女の事について振り返る。


 武人アリエッタ、本名はアンリエッタ・パガニーニと言う名前だが、彼女自身自分がそう言う名前であると言う事は知らないと思う。

 なにせ、彼女はパガニーニ家の落とし子、正確に言えば自分がどう生まれたかを知らないでいるからである。

 アリエッタの家、パガニーニ家は武人、魔術師、そのどちらにも有名な、あの野蛮な悪魔と契約した一族である。


 悪魔とは精霊と同じ、超自然的な存在である。

 最も悪魔は精霊と違って、嫉妬や暴食と言った人間の悪感情、腐った臭いのする死体、影や闇など、そう言ったマイナスイメージの強いものが1つに凝縮して生まれる、魔力を体内に取り込みすぎて襲う魔物と同じように、人間にとっては危険な存在である。

 悪魔の厄介な所は強力な力を持ち、人間の願いを叶えて厄介な物を与えると言う所だろう。

 例えば願いを叶える代わりにその者の命を奪うのは分かりやすいが、他にもその人を操って大事件を起こしたりするのである。


 パガニーニ家は悪魔と契約する前は弱かったが、誠実な武人として有名であったが、悪魔に武人としての力と名声を望んだパガニーニ家は他人の血を吸う事で強くなり、宙を飛び、さらにはあらゆる物に変身する、悪魔の一種の吸血鬼の力を得た。

 その力で他人の血を吸いまくり、どんどんと強くなっていったパガニーニ家は、武人として強くなりまくったが、代わりに周りからの信頼はあっという間に失ってしまった。

 結局、他の武人達や魔術師達の連合組合がパガニーニ家をぶち壊した。


(……で、このアリエッタさんは、血を吸う事で強くなると言う性質のみを残したパガニーニ家の生き残りと)


 他の人だったら、パガニーニ家の生き残りと聞いたら滅ぼそうとするんだろうが、パーシーにとってはそんな事は関係無かった。

 ただ、どれくらい強くて、なおかつ武人であるかが重要なのだから。


「……こ、これで、だいじょぶ?」

『あぁん! まずは箸のこの部分を親指の付け根の辺りにしなさい。さらに背筋をピンと伸ばして、顔に気品さを出した方がモテるわよ♪ 女は一に美しく、一に上品にが基本なのよぉ』

「……キ、ヒン? ウツク、シク? それ、おいしい?」


 ……こんなので大丈夫なのだろうかと、パーシーは目をキラキラさせながら「キ、ヒン! ウツク、シク! おいしそう!」と嬉しそうに言うアリエッタを見て、溜め息を吐いていた。

 アトレスは『後は練習してね』と言いながら、パーシーの横へと戻って来た。


「(で、どうだった? アトレス?)」


 こっそりとアトレスに耳打ちをするパーシー。


『(こっそりとぉ、性行為のあーんな事やら、こーんな事について知っているかどうか聞いてみたけれどもぉ、どうやらぁ知らなかったみたぁい)』

「(そ、そんな事は聞いてないから! ……強さとしてどうかと言う話だ)」

『(あぁ、それぇ。……ちょっと見えないように、こっそりと他の精霊に頼んで攻撃して貰ったんだけど、全然話にならなかったわぁ)』

「(それって……)」

『(えぇ! こんな感じにぃ!)』


 そう言いながらアトレスは手の平に、普通の人に見えないように不可視と化した小さな風の球を作り出すと、それをあたかも自然な動作で、アリエッタへと投げつける。

 投げつけられ、放たれた風の球に対して、アリエッタは箸を相変わらず難しそうに操っていた。


 そして今にも当たりそうになった瞬間、アリエッタは自然な様子で箸を振るうと、その風の球を弾いていた。

 その様子はどこにも可笑しな所1つなくて、あくまでも自然に自分の危機に対処しただけのようである。


『(こんな感じよぉ。普通に危機管理の力も、戦闘能力も一定以上ねぇ)』

「(さらには、パガニーニ家の血でこれ以上強くなる可能性もあるか)」


 ならば、彼女は普通にウェルダ家の8代目当主パーシー・ウェルダの妻として相応しいだろうなと、パーシーは思っていた。

 問題があるとすれば、その嫁(予定)のアリエッタが


「……箸、むずい」


 箸の事すら満足に知らず、なおかつ子作りとかについて全く知らない、まるっきり子供であると言う事が問題なのである。


「……? なに?」

『いや、何もないわぁ。ねっ、パーシー』

「そうだな、気にしないで大丈夫だ」


 こっちの視線に気付いて、ちょっとばかり困惑した様子のアリエッタに対して、パーシーとアトレスはそう言ってごまかす。


「こっちの方が……おいしそう」

「……って、やめい!」


 と、パーシーは箸で食べる事を諦めて自分の首筋から血を吸おうとする彼女を止めていた。

 アリエッタはちょっとだけ残念そうにしながら、それからは大人しく箸で食べていた。


 その後、またすぐ来る事をアリエッタと約束したパーシーとアトレスの2人はそのまま、自宅へと帰って行くのであった。

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