【閑話】ロット・セヴィン
ロット・セヴィンとは自由が好きな男だった。
自由が好きというか、自分が介入して自分の思った通りになるのが好きであり、自分がやった事で皆があたふたしている様を傍観者として、観客として見ている事が彼にとって一番の娯楽であった。
遊び心溢れる、後にセヴィン流18代当主となる彼が子供の頃に出会った子こそが、メリヤ・フィールである。
「は、はは、初めまして! 私は! メリヤ・フィール、です! よ、よよ、よろしく、お願い! します!」
「……あぁ、よろしくね」
当時は5歳だったか、6歳だったか……どちらだったかは忘れてしまっていたけれども、だいたいその辺りの年頃の彼女に会ったのが初めての出逢いだっただろうとロットは記憶していた。
その時初めて見た彼女、メリヤ・フィールという少女に彼が抱いた印象は、『あぁ、本当に面白い子よねぇ』とそう思っていた。
どこを突けば面白いリアクションを返してくれるのが手を取るように分かるし、非常に努力家で話していても面白い。
それに何より、彼女からは真面目さがにじみ出ていた。
(面白い、面白い。真面目な所がさらに面白い)
人間には色々な性格がある。
完全主義者、人助けをしたがる人、能率重視、ナルシスト、疑り深い、他色々。
その中でも、真面目というのはからかうのに一番向いている人間だとロットはそう考えている。
真面目にどうなるかを想像し、そしてひっかかった時に最高のリアクションを見せてくれて、本当に面白いなと第一印象からロットは確信していた。
「こ、これからよろしく! です!」
「……あぁ、よろしくね」
あくまでも同い年の子供のように、無垢な子供のように、ロットはメリヤと友達になった。
それからロットはメリヤと仲良くした。
初めはただただ、ちょっと気が合わない程度の、どこにでも居るようなごく普通の子供として。
そして徐々に、メリヤに対してロットが悪戯好きという印象を与えつつ、ちょっとずつ意地悪をしていく。
『男が女にちょっかいを出すのは、気があるからだ』とかは言うけれども、ロットがメリヤに対して抱く気持ちはただただ面白いからだ。好かれようと思ってやっていない。
そうして、ロットは愉快に、メリヤと遊ぶのではなく、メリヤにて遊ぶのであった。
ロットが次に知り合った、からかいがいのある人物は同じ武人であるパーシー・ウェルダという人物であった。
彼と契約している精霊のアトレスとは馬が合ったし、何よりパーシー自身も至極真面目な人物だからからかいがいがあったという所もまた、ロットがパーシーという人物を気に入った一因である。
パーシーはメリヤと違って、こっちがいくらからかったとしても、それを吸収して自分の知識や経験としてしまうからどこかズレた反応を見せてしまうので、そのかけ離れた反応が見ていてツボに入って面白いのである。
まぁ、単純に面白いと思ったけれども、パーシーは頑張っているその姿が特別面白いのである。
だからこそ、アトレスと協力しながらではあるけれどもパーシーとの仲も、パーシーから悪友と思われるくらいに進展させていったのであった。
そうやって2人のからかいがいのあるおも……いや、友達を手に入れたロットは、その2人の友達を思い浮かべて1つの提案、というか考えが思いついた。
"このパーシーとメリヤを合わせると、どうなるのか?"という事を。
2人ともちょっとばかり方向性は違うけれども、それでも真面目という感じは良く似ているので、2人とも相性は良いのではないかと考えていた。
とはいっても、いきなり会わせても面白くはないだろうからと、ロットは策を練っていた。
まず第一にロットが考えたのは、パーシーにメリヤという凄腕の魔法使いが居ると教える事で興味を持って貰おうという考え方だったが、残念ながらパーシーは魔法使いにはさして興味を示さないので、これは却下した。
次にパーシーの契約精霊であるアトレスと話をして、アトレスにまずはメリヤの面白……じゃなかった、可愛さを理解して貰ってその後、アトレスからパーシーへと紹介をして貰うという方法を思いついて実行したのだが、アトレスがメリヤを気に入るばっかりで特に進展はなかった。残念。
2つの策が潰れてしまったロットが取った3つ目の方法は、メリヤはパーシーの事をこっそりと盗み見させるという、ちょっとばかり愚直な方法を取るしかなかった。
メリヤの心象はちょっとばかり悪くなっちゃったけれども、それでもパーシーに会わせた事は決して間違いではなかった事だとメリヤの顔を見てそう思っていた。
「――――メリヤちゃん? どうかな? 彼とかすっごい頑張ってるとか、思ったりしない、かな?」
「……そう、ですね。ま、ままっ、まぁ、今度は、普通に会いたい……です、かもね?」
と、その時は少しばかり誤魔化すように言っていたメリヤだったけれども、ロットの観察眼はメリヤがパーシーにちょっとばかりではあるけれども惹かれ始めている事に気付いたのである。
まぁ、メリヤがパーシーに惹かれ始めているのならば、後は『成るように成る』である。
ある程度感覚をあけてではあるが、パーシーの元にメリヤを連れて行って彼女の反応を見るのは本当に楽しかった。
まさかそれが彼女の恋心を呼び覚ます結果になるとは思っても見なかったけれども、そしてパーシーから別の場所を探してくれないかと頼まれるとも思ってなかった。
(あぁ、本当に苦手だなぁ……)
ロットにとって、恋は本当に苦手である。
何せ、きちんとした正解がある訳でもなく、それにその事を聞いていたからといってこっちに利益があるような事になる物でもない。
ただ単に、こちらの精神が消耗される一方で、こちらに益などないに等しい。
(全くなんでこっちに話を回して来るのか。それがまったく理解出来ないよ)
頼られる事は素直に嬉しい。
ちょっとばかりは信頼しているという証でもあるし、何よりいたずらをする際も信頼度によって出来る悪戯にも、少しばかり差があるので頼られるという事は良い傾向ではある。
ただ"面白くない"。
(メリヤとパーシーの仮デートもまぁまぁ面白かったけれども、もう少しハプニングなり、面白さが欲しい所ではあるなぁ)
そう思いながら、次はどういたずらしようと計画するロットであった。
ロット以外に友達が居ないかと思うくらい、2人ともこっちにばかり話を振って来て、聞いている方はあんまり
第1章はこれにて完結です。
とりあえず、アイリス恋愛F大賞にはこれくらいを目途にして、置きますね。