表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/27

【閑話】王都魔法使いの一日

閑話です。

メリヤちゃんの通う、王都の魔法使いの一日をご紹介させていただきます。

 王城を中心とした都である王都には冒険者組織(ギルド)商業組織(マーケット)など多くの建物があるが、その中で一番活気が溢れている閉鎖的な組織こそ、王都魔法研究所である。

 超常的な魔法を使う彼らは自身が使う魔法を極めるために色々と研究をしている。

 ある者は魔物の使う魔法を自らの魔法と使うために研究し、ある者は人間を救済する為に魔法を使い、ある者は病を治す薬を作り出し、ある者は自らが生まれ持った命を長引かせるために神に背いて研究をしと、どの者も自らの欲望を叶えるためだけに魔法を作り、調べ、使いこなす。


 そんな王都の魔法使いの1人であるメリヤ・フィールはと言うと、一人王都の研究所の休憩所にて落ち込んでいた。


「はぁぁぁぁぁぁ~~~~~~……」


 相当落ち込みながら、魔力を垂れ流して周囲に冷気をまき散らしているメリヤの方を遠巻きに見ている連中は多いが、君子危うきに近寄らずという感じで誰も近寄らなかった。

 そんな中、1人の女性がメリヤの方に近寄って来る。


「あら~? メリヤちゃ~んじゃないの~? いつも以上に暗いわねぇ♡」


 その女性は身体からむんむんと桃色の、大人の女性から感じられるようなフェロモンを垂れ流した女性で、胸元には椿の紋様が描かれている薄い白色の生地のローブを着た彼女は露出は返って少ない方なのにも関わらずに下着を見せられている以上の色香をまき散らしていた。

 背中に背負っている杖の先にお香を入れる容器が取り付けられており、長い袖はほんのりと濡れていてそこからは特にフェロモンが強く香っていた。


「……オコウ?」

「そうや。あんたと同じ魔法使い研究所の職員の、オコウ・カコウインやね」


 と、色香をたっぷりとまき散らしながら、「ウフン♪」と自前の大きな胸を誇らしげに見せつけるオコウのそれと、自分の女性としては慎ましやか、平均以下、薄っぺらい自分の胸を見ながらメリヤはさらにどよ~んと落ち込んでいた。


「あらあら♪ さらに落ち込んじゃったわね? どうしてかしら?」

「……あなたのその喋り方は、私の苦手としている精霊と良く似ているのでね、です。だからあなたは苦手、です」

「あらあら~。嫌われちゃったわね~、私はあなたの事は好きなんだけど~」


 そう言いながら近くに会った椅子を手に取って、メリヤの近くに椅子を置いて座るオコウ。


「あなたの研究テーマである『魔法感情論』、読ませて貰ったわぁ。魔法の能力が感情によって左右されているというのは、俗説として良く伝わっている話ですけれども、それを実際に証明したあなたの研究はとっても良かったわぁ♡ 特に数値、規模などがきちんとされていて、比較が分かりやすかったわぁ♡」

「……オコウさんの『嗅覚感情論』には、負けますけどねぇ」


 そうポツポツと小さな声でメリヤがオコウの事を褒めると、オコウは一瞬ポカンとした顔をしていたがすぐに嬉しそうな顔をしてメリヤの身体を抱きしめていた。


「きゃぁぁぁぁぁぁ♡♡♡♡ 私の研究を読んでくれちゃってるなんて、とーっても嬉しいわぁぁぁぁぁぁ♪」

「……ちょ、ちょちょ! 止めてよねぇ、です!」


 メリヤはそう言いながら、傍に置いてあった自前の杖を持って、そのままオコウの頭の上に小さな氷の塊を作り出して、オコウの頭の上に落としていた。

 しかしオコウの頭の上に落ちようとしていた氷の塊はと言うと、オコウの身体から出ている桃色の煙が自然に氷の塊を防いでいた。


「あららぁ。まっ、メリヤちゃんは嬉しそうですけれどもねぇ♪」

「……相も変わらず、煙を操るその能力……汎用性が高いというか、自前で防ぐ香りとはまた、です」


 メリヤはオコウの方を見ながら、オコウを自然に守っている色香を見る。

 色香を無意味に垂れ流している女と言えば聞こえはいいがそれは娼婦(しょうふ)のような感じの物として目に映るかも知れないが、オコウが身体に纏っている色香と娼婦の香りはまた別物である。

 オコウの身体に纏っている色香のフェロモンは、彼女が研究して作り出した"魔法の香り"である。


 メリヤが氷を操るように、オコウは香りを操る。

 鼻から入って人を惑わせ、催眠術まで行ったりしたり、さっきのように危険な事から身を護ったりと、とても汎用性が高く、オコウはこのような香りという物を研究して、人の身体にどのような影響を与えるかを調査しているのである。


「まぁ、メリヤちゃんにはこんな研究の方が良いのかも知れないけどねぇ?」

「ん……? なん、です? 『女性の魅力向上の研究』、です?」


 メリヤはオコウに渡された書物のタイトルを読み上げた後、中の内容を読み上げて行く。


「……《人の印象と言う物は視覚から入って来る視覚情報、伝わって来る聴覚情報、触り心地と言った触覚情報の他に、人間の体臭から伝わって来る嗅覚情報という物もあり、(オコウ)はその嗅覚情報を研究する物である》」

「うんうん♡」

「《良い香りを嗅ぐと気持ちが安らいだり、料理などに関しても香辛料を使って料理を美味しくしたりするのだが、私の研究情報によりますとこのフェロモンを使うと人の価値観を左右する事が出来ると証明する為に、大蛇型の魔物であるキラースネークをフェロモンで誘惑出来るかという事を確かめ――》……って!? この研究所にそんな狂暴な魔物を連れ込んでいた、です?!」


 キラースネークは名前の通り蛇の魔物であり、小さな身体の魔物ではあるけれども、その蛇が身体に備えている毒素はたった一滴池に流すだけでその池の魚を死滅させるほどの毒素を含んでいるとされている。

 そんな危険すぎる魔物を、王族や貴族が居る王都に持ってくるなんて――――――


「あっ。そのキラースネークちゃんならば、こちらに居ますわよぅ?」


 オコウがそうやってポケットに手を突っ込んで、手をそっと引き抜くとそこにはまだら模様の小さな蛇が顔を出していた。


「ひ、ひぃ! キラースネーク!? 『Nagische Nacht,Aehn――――』」

「あらら♡ ちょっと、止めて頂戴ねぇ♡ 『Uoben(荒れ狂え)』!」


 オコウはそう言いながら、自分の身体からどんどんと香っているフェロモンを操ってちょっとメリヤの頭をペチッとデコピンしていた。


「……あぅ!?」

「今はこの娘も、私のラブフェロモンによって調教して、私のペットになってるわよぉ♡ 特にあなたが心配するような事はないわよぉ♡」

「……なら、良いですが、くれぐれも上層部の人達に見せない方が良い、です。王族や貴族によっては、国家反逆罪と思われても仕方がない、です」

「そっか、そっかぁ♪ メリヤちゃんが私を心配してくれて嬉しいわぁ♪」


 そう言いながら自分の豊満な胸にメリヤを押し付けるオコウ。


「~~?!」

「あぁ、悪いわねぇ♪ ごめんなさい♪」

「全く……。でも、感情を操作出来る香り(フェロモン)かぁ、です」


 むむむっ、とちょっとばかり真剣そうな眼差しで、メリヤはその書類をしっかりと読んでいく。


「《調査によると、ラルカーリの香りは頭を明晰にして、集中力を高め――――》って、これは違う、です。

 《記憶や集中力を高め、リフレッシュして頭を明晰にするラレモンの香りは――――》も違う、です。

 《心を高まらせるリオバズムと幸福感を与えるラユブリアの2つの香りを合わせる事によって、人の頭に恋愛感情を――――》はとっても良いわよねぇ、です。

 ……!? こ、これは使えます……です!?」

「使えるってどう言う意味、かしら?」


 と、メリヤが小さな声で呟いていたんだけれども、オコウはと言うと「なになーに?」とそう言いながら詰め寄って来る。


「私の香りの研究の、それも異性に好かれるための匂いを調べているって言う事は……もしやメリヤちゃんには好きな殿方が!?」

「ち、ちがっ!?」

「相手は誰!? まさか、いつも電話してるあのロットとか言う子?」

「だ、誰があいつなんかを好きになりますか、です!! 私が好きなのは……」

「好きなのは? 誰なのかしらぁ?」


 ウフフー、とオコウが近寄って来るのを、メリヤはゆっくりと後退していっている。


「……ううっ。そ、そんなのはあなたには関係ない、です! 失礼します、です!」


 メリヤがそうやって走って行くのを見て、オコウはそんな後姿を嬉しそうに見ていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ