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茨の中のギンバイカ・エピローグ

 パーシーとメリヤの仮のデートの次の日、つまりはアリエッタと本当にデートをしてから数日後。

 パーシーはアトレスと一緒に外に出て、いつも以上の勢いで気迫を纏わせて刀を振っていた。

 

『ねっ、パーシーちゃん。今日はいつも以上に乗り気よね♪ お姉ちゃん、嬉しいわ』


 いつもパーシーは刀を縦に横にと、数十回振ってその後連携技の練習に入るのだが、今日のパーシーは違っていた。

 いつも以上に張り切っていた。それこそ、いつもはあまりやらないようなアトレスとの合体奥義の練習もやっていた。


『いつもは私との技の練習をやらないのに、どういう心境の変化って……』

「なんでもない。アトレス、次だ」

『……あの限定奥儀、水烈斬(すいれつざん)も上手くいったのに、パーシーは本当に真面目だね。うんうん』


 十字流は精霊と剣術の両方を用いた流派であり、その神髄は両方の長所を活かした技である。

 イギョウ相手に披露した『水烈斬』はパーシーの抜刀術、アトレスの魔力の水の2つを組み合わせる技であり、居合抜きと共に相手に水で斬りつけて、二重で斬りつける技である。

 このように、十字流の神髄はそういった人と精霊が協力して行う技である。


 パーシーの父であり十字流7代目当主のジェルマンと父の精霊、アミィもまたパーシーとアトレスのように2人で、刀と魔法を合わせた合わせ技を例としてパーシーに披露している。

 パーシーはいつものようにそれをきちんとメモしており、父が自分にどういう技を見せてくれたのか、どこがポイントなのかもしっかりと理解している。

 しかし、今回に限ってはメモ通りではいけない。

 何故ならパーシーはジェルマンの教えを受けているからある程度ジェルマンと同じ技や動作を起こせるが、同じ精霊とはいっても性格や使う魔法が違うアトレスとアミィとでは違うからだ。

 それだからこそ、パーシーはアトレスとの共同必殺技もあまり練習してなかったのだ。


(だが、そうも言ってられない)


 前回のイギョウとの戦い、さらにその前のソロモン・パガニーニ率いるチーム・パガニーニとの戦いでパーシーは自分の戦力不足を実感したので、いつも以上に力を付けるためにアトレスとの特訓も必死にやっているのである。


「アトレスは水と風の精霊だから『水烈斬(すいれつざん)』は水魔法を使った技だから、次は風魔法を使った技でも編み出そうか。アトレス」

『ちょっとは手伝いますけれども、それよりもパーシー? あなたにはやらなくちゃいけない、大切な事があるわ』

「……? あったか?」


 ポカンとした顔を向けるパーシーに、アリエッタはフフフと笑いながら


『そう! 今日こそはアリエッタちゃんに会いに行ってもらうわよ!』


とそう言うが、パーシーはそう聞くと何も言わずにただ刀を振っていた。


『ねっ、パーシー? しばらくアリエッタちゃんのところに行ってないわよね? そろそろ行かないとアリエッタちゃんがパーシーの顔を忘れちゃうと思うわよ? まっ、流石にキスした相手の顔を忘れるなんてあり得ないけどね』

「出来ればそうありたいものだが……」


 パーシーはそう言いながら、刀を振るうの速度を遅くしながらそう答える。


『そうありたい、じゃないの! お姉さんとして、パーシーちゃんに命令します! アリエッタちゃんに会って来なさい♪ じゃないと訓練を手伝ってあげないわよ?

 私の力も、実践以外では貸してあげなくちゃうけど……それでも良いの? パーシーちゃんのような、訓練を重んじるタイプにはちょーっとつらいと思うけど?』


 アトレスが微笑みつつパーシーに笑い掛けるのを見て、パーシーは溜め息を吐きながら刀を鞘へとしまう。

 パーシーが使う十字流は人間と精霊の両方が協力して行う流派であり、精霊のアトレスが協力しないと言っている以上、メモを取るほど反復練習を繰り返すパーシーにとっては大きな物である。


「……分かったよ。アトレス、今からアリエッタの居る茨の森へ行くぞ」

『そう来なくちゃ♪』


 ウキウキ気分で行く準備を始めるアトレスに、パーシーは「アリエッタ、覚えてると良いが……」と久しぶりに会うアリエッタに対してこちらもちょっと嬉しそうだった。


「さぁ、行くか」

『えぇ♪ そうね♪』


 と、パーシーはそのままアリエッタの居る茨の森の方へと足を進めていたが、アトレスはその後ろ姿を見ながらパーシーに気付かれないように小さく呟いていた。


『そうよ、パーシーちゃん。人間は精霊と違って時間も少ないのだから。

 ……後悔しないように、ね』


 再び、アリエッタの居るとされている茨の森に着いたパーシーとアトレス。


『……ここも久しぶりよねー♪ ねっ、パーシー?』

「そうだな……」


 アトレスはふわふわと浮かびながら、パーシーはしばらく来ない内に生い茂っていた茨を刀で斬りつつ、アリエッタの居る家へと先へ先へと進んでいた。


『しっかし、この茨の森はいつ来ても茨が生い茂ってるねぇ……。ねっ、パーシーちゃん? 覚えてる? 最初に来た時の事を、ね?』

「あぁ」


 初めてパーシーがこの茨の森に来たのは、アトレスから強い武人の女性が居るという噂話を聞いたからである。


「階段を上ってるとあの少女を、アリエッタを見つけたんだよな」

『えぇ♪ 見つけたわよね? あの時はパーシーちゃんも若かったわよね? いきなり攻めプレイ、な ん て♡』

「誤解を招く発言をするな」


 攻めプレイ、ではなく、あくまでもアリエッタの実力を確かめるための行動である。

 そしてそれで、アリエッタの実力を確かめるために戦闘を開始して、こちらから不意打ちのように攻撃したのだが、アリエッタはそこでパーシーに認められるくらいの強さを見せつけていた。


『そして何度も通ううちに、パーシーちゃんはアリエッタちゃんの虜になっちゃったのよねぇ?』

「ちが……わないか」


 素直にそう同意するパーシーに、『素直でよろしい♡』というアトレス。


『さっ。後はこの階段を上ればすぐ、アリエッタちゃんの家よ?

 そろそろだけど、心の準備はどうかしら? パーシーちゃん?』

「あぁ、大丈夫だ。刀もしっかり光り輝いている」


 パーシーとアトレスはそう言いながら、階段を一段一段上がって行く。

 その度に少しずつ鼓動が速くなっているパーシーだが、隣でアトレスが大丈夫だと伝えてくれる事で、パーシーは自信を付けてそのまま上がって行く。


『ほら、パーシーちゃん? 見えて来たわよ?』


 アトレスがそう何気ない言葉をかけると、パーシーの胸がドキリと揺れて、深呼吸をするとそのままパーシーは目の前のアリエッタの住む小さな家が見えてくる。

 アリエッタは切り株の上に木を置いて、その手で真っ二つにしていた。


『……なんか女の子っぽくはないけど、それもアリエッタちゃんっぽいよね』


 アトレスの言葉に頷きつつ、パーシーはアリエッタのところに向かってゆっくり歩いて近付いていた。


「アリエッタ」

「……? パー、シー?」

「……良かった。ちゃんと、名前を憶えて置いてくれて」


 パーシーはアリエッタが自分の名前をきちんと憶えている事にちょっとばかり嬉しい気持ちになりつつ、一回深呼吸をした後にパーシーはアリエッタの方を見る。


「あ、アリエッタ!」

「……?」


 行くぞ、行くぞ! パーシーはそう自分の心に語りかけながら、アリエッタの方を見ていた。


「アリエッタ! この前の事を覚えている……か?」

「この、ま、え?」

「き、きききききき……」


『キスの事よ、アリエッタちゃん♪』


 ただ「き」とだけ喋り続けるパーシーに、いてもたってもいられなくなったのかアトレスがそう声を出して助言していた。


「キ、キス?」


 なんの事を言われているのか分からないと言った様子で、アリエッタはポカンとした顔を向けている様子を見て、パーシーとアトレスは揃って顔を見合わせていた。


「(キスの事を忘れられてたか……。まっ、そんなに上手くはいかない……って事か)」

『(可笑しいなぁ? 私が思うに、ぜーったいにアリエッタちゃんはパーシーちゃんとのキスを意識してたと思ったのになぁ……。まつ、それでも後はやるだけ、だよ!)』


 パーシーとアトレスはそう小さく話し合っていたけれども、パーシーはさっきまで不安そうな顔だったパーシーはというと、元の素直な顔に戻っていた。


「……まっ、仕方がない、か。アリエッタ」


 そう言って手を差し出すパーシーに対して、アリエッタは差し出された手を不思議そうな眼で見ているのを見て、パーシーは「あぁ、そうか」と一言言った後、


「……ただの握手、だ」

「あく、しゅ?」

「そうだ。これからもよろしくという意味の、な」

「……それなら、分か、る」


 と、そう言って嬉しそうな顔をしてパーシーの手を取るアリエッタ。


「これからよろしくな、アリエッタ」

「――――うん♪」




 これは愛と『子作り』の物語。

 後に夫婦となる2人の愛と呼ぶには、まだまだ稚拙で、幼稚な、始まりの物語である。

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