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彼らしく、彼女らしい、デート(2)

 後ろで大きな爆発音が響いていたが、パーシーとアリエッタの2人は無視してそのままデートの続きを楽しもうと歩いていた。

 そのまま露店巡りを続けていたのだが、そのうちどんどんお肉が目立つゾーンが見えて来たので、これ以上は血の臭いがするからアリエッタにとっては状況的にまずいかなと思ってパーシーはアリエッタを連れて別の方に向かって歩き出していた。

 露店を少し外れているとほとんど食べ物関係の露店は見えなくなっていたから、アリエッタはちょっとだけご機嫌斜めだったけれどもそこは今まで買って来ていたものを食べさせて餌付けする事によってパーシーは難を逃れていた。


「(まっ、こうしていると恋人というよりかは飼い主とペットだな……)ほら、あーん」

「あーん♪」


 こっちから良く焼いたオイルバッドの肉串を差し出すと、もう既に買い食いは出来ない事を分かっているアリエッタは串に刺さった肉を一口噛みちぎってそのまま口に頬張っていた。

 口に入れて頬張ったアリエッタはガブッ、また一口ガブッと、一口一口眼を瞑って大事に噛みしめている姿を見ていると微笑ましい気持ちになってくるパーシー。


「美味しいか、アリエッタ?」


 そう尋ねるとアリエッタは口にお肉を頬張ったまま、コクコクと肯いて、きちんと噛みしめた後にゆっくりと飲み込む。


「美味し、い!」

「そう、か……じゃあ、こ、ここ、こっちはどうだ?」


 そう言いながらパーシーはメリヤとの仮デートの時に買っていた赤い八角形の宝石の付いたペンダントを差し出していた。

 このペンダントに埋め込まれている宝石は竜宝石(ブラドラ)という宝石であって、ダンジョンなどで竜型のモンスターの血が何十年の時を経て生まれた赤い宝石であって、血と深い関係のあるアリエッタに似合うかなと思って少々値が張ったがパーシーが思い切って買っておいたものである。


(まぁ、でも……アリエッタはアクセサリーには興味ないしな)


 と、そう思いながらパーシーはアリエッタに差し出しながらそう思っていた。

 色気より食い気、というか野生児みたいなアリエッタにとって宝石や装飾品はあんまり興味が無さそうだけれども、断られるかと思いつつパーシーはアリエッタに差し出したのである。

 アリエッタは差し出されたペンダントをキョトンとした表情で見ていたんだけれども、ゆっくりとその赤い宝石を手に取っていた。


「……?」


 ポカン、とした表情にてアリエッタはその赤い、血のような色の宝石を覗いていた。

 アリエッタはペンダントに興味があるというよりも、どちらかと言うと竜宝石の龍の血に興味があるんだろうと、パーシーはそう考えていた。


(竜の血が凝集して出来た竜宝石とは言っても……それはただの模造品、なんだがな)


 竜は元々数が少なく、さらに竜の血が竜宝石になるのは長年の時を経る必要があるため、本物はこれの2倍以上の値段がするのだろう。

 それに、本物がこんな遊楽とかが大人気のパミューズメントで売っているとは思ってないので、本物が売っているとは思ってないけれども。


「……なんか、血のかお、りがする」

「(宝石の中の血の臭いが分かるとか……やはり血には異常な反応を見せているな) ……どうだ? 良かったら付け……」

「うん。付け、て」


 アリエッタはそう言ってパーシーの手に赤い宝石のペンダントを渡して、そしてそのまま後ろを向けていた。


「……あっ。そうだ、った」


 なにかに気付いたアリエッタは長い銀髪を手でかきあげると、そのまま耳に髪をひっかけてうなじを見せつけていた。


「付け、て?」


 上目遣いで可愛らしくおねだりするアリエッタを可愛いなとパーシーは思いながら、ゆっくりとペンダントを首に付ける。


 傷一つない首元から覗く白い肌、その代わりに赤い蛇のマークが付けられている事に気付いた。


(なんだ、このマーク?)


 前に魔法使いのマークとして蛇が尻尾を口にくわえて円のようになった円環の蛇のマークは見せて貰った事があるが、アリエッタのマークはそれとは違った。

 蛇が何かをくわえているという点は同じなのだが、そのくわえている物が違うのだ。


(人? いや、人だったら背中から羽なんかを生やしてないか。しかし、それだったらこの頭の上から伸びる角、いたいなのはなんだ?)


 後から付けられた傷や刺青とかではなく、首元の皮膚から黒子のように浮き出ている様子を見ると、これは恐らく――――


「ねぇ、ま、だ?」

「……! あ、あぁ。そうだな。すまない」


 アリエッタに話しかけられて、パーシーはすぐさまアリエッタの首にネックレスの紐を通してそれをほどけないように結んで魔法を発動する。

 発動すると少しばかり紐の結び目が赤く光って、そのまま結び目が小さくなって消えて行き、最初から繋がっていたようにネックレスが首に通されていた。


 これは単純な、ごくありふれた火を使った装飾魔法――――所謂、アクセサリーや防具にかけられた魔法で結び目を消して一つにする魔法なのだが、アリエッタは結び目を後ろ手で触って驚いていた。


「結び、目ない! どうい、うこと?」


 そうやって疑問符を浮かべる彼女の姿を嬉しそうに、楽しそうな表情で見ながら、パーシーはクスリと笑っていた。



 そんなアクセサリーの騒動が終わった後、2人が歩いて辿り着いたのは丘であった。

 丘とはいっても、ちょっとばかり階段を上ったくらいで頂上に辿り着ける程度のちょっとばかり小高い丘ではあったが、パミューズメントの街並みよりもちょっと高い位置にあるから夕焼け空が、太陽が見えていた。

 パーシーとアリエッタの2人は丘に備え付けられているベンチに座る。


「綺麗だな……」


 と、パーシーはベンチの前で上空に浮かんでいる夕焼け色の太陽を見て口から素直な賞賛や美しさを表す言葉が出ていたけれども、隣に座っているアリエッタはというと何も言わずに太陽をずっと見つめながらよだれをダラダラと流していた。


「……美味し、そう」


 ……今、ジュルリという音が隣に座るアリエッタから聞こえた事をパーシーは聞こえなかった振りをしながら、そのままどうすれば良いかと機会を待っていた。


 パーシーがアリエッタを連れて丘の上に来たのは、パーシーと契約している精霊のアトレスからのアドバイスからであった。


『パミューズメントに行くんだったら、こことかお勧めだと思うわよ? 時間が時間だけに、夕焼けが綺麗に見えるから良い感じのデート・スポットだと思うわよ? それにこれとか、これとか!』


 アトレスがそう笑顔で指差しながら、まるで自分の事のように楽しんでいるアトレスの姿は見ていて本当に楽しそうであった。

 アトレスはアリエッタのデートに親身になって、パーシーと話しながらデートプランについて考えてくれていて、パーシーとしても聞いて想像するだけでも良いものであった。

 パーシーとしてもこんなに早く、そのデートが実現するとは考えてもみなかったが、それでもパーシーはこうやってアリエッタとのデートが出来て嬉しかった。


『女の子は夕焼け空を見て、ロマンチックな気分になるもの……いや、なるべくして生まれた生き物! 夜空はもっとロマンチックだから、けどパミューズメントの丘の上からだったらベストは夕焼け空!

 女の子はシチュエーションで落とすべき! お姉さんからの約束よ♡』


 アトレスは熱くそう語っていたけれども、横で夕焼け空を見ている当の本人はというとよだれを垂れ流して、時折「美味し、そう……」とぶつぶつ言っているだけである。

 これはロマンチック、と言えるのだろうか? それともロマンチックになっていないから、アリエッタは女ではなかったのか?

 どちらかと言えば、前者の印象が強いと思うのだけれども? と、パーシーはそう思いながら、2人でロマンチック(?)に夕焼けを眺めていたが、アリエッタが何かに気付いたのかいきなりベンチから立ち上がる。


「……そろそ、ろ帰らない、と」

「あぁ、そうか。確か、シュナイゼルと来ていたんだよな」


 パーシーはそう保護者である吸血鬼(シュナイゼル)の事を思い返していた。

 アリエッタはシュナイゼルに連れられてここまで来ていたから、そのシュナイゼルと合流しなければいけないのだろう。

 夕焼け空も見えているから、そろそろ帰らないといけないよな……と、パーシーはそう思っていた。


「じゃあ、そろそろ行くか。確か、シュナイゼルが居るのは……『早熟なる桃』という遊郭に居るんだよな? 近くまで送って行く」


 パーシーはシュナイゼルが見えるまで連れて行くとは言ってなかった。

 もしもパーシーがシュナイゼルの前まで連れて行ったら、多分シュナイゼルはパーシーにまたちょっかいをかけるので、そこまでは送れないけれどもパーシーは途中まで送ろうとしていた。


「あり、がとう」

「さて、行くか」


 そう言いながらパーシーとアリエッタは丘から階段で降りて『早熟なる桃』に向かっていた。


「……わっ!」


 と、階段で降りようとしていたけれども、アリエッタは階段で降りる途中でなにかにつまづいたのかそのまま倒れる前に、


「……よっ、と」


 危なかったのをパーシーが咄嗟にアリエッタに手を伸ばして手を取り、そのまま自分の方に身体を引き戻していた。

 引き戻すとパーシーの力が強かったのか、アリエッタの顔とパーシーの顔がすごく近い距離にまで近付いていた。


「「…………」」


 無骨なパーシーと、野生児のアリエッタでも、流石に照れたのか顔が近すぎて黙っていた。


「……おっ」


 と、パーシーが階段という不安定な足場でアリエッタの身体を元に戻そうとしていたけれども、そんなパーシーの背中に誰かが押したかのような感触が当たるとパーシーはそのままアリエッタの方に倒れてしまい、


 チュッ♡


 そんな可愛らしい音が聞こえるようなくらい、2人の顔が接近していた。


「~~////// じゃ、じゃあ//////」


 野生児の彼女が顔を真っ赤にして、そのまま階段を物凄い勢いで駆け下りて行った。


「……アリエッタもあんな顔、するんだな」


 なにか変な物でも見たかのように、パーシーはそんなアリエッタの姿を微笑ましい顔で見ていた。







『良しっ。アトレスお姉ちゃんの急接近大作戦、完了♡ これで、2人の仲も急接近~♪』


 アトレスは後ろから2人の様子を見ながら、ガシッと拳を強く握りしめていた。


『まっ、こっちは若干一名、大きな被害があったけど……ね』


 アトレスは後ろを見ると、そこには顔を真っ青にして呆然と立ち尽くすメリヤの姿があった。

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