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彼らしく、彼女らしい、デート

「俺は君の事を――――――愛してる」


 戦いが終わって一段落付いてサラッとそんな言葉が口から出ていたんだけれども自分が誰にどんな言葉を言ったかが分かった瞬間、自分がなにを言ってしまったのかに気付いたパーシーは恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にして俯いていた。


「……?」


 言われた相手であるアリエッタはどういう言葉を言われたのか分からなかったのか、ポカンとした顔をしていた。


(……き、気付かれてはないようだけれども、は、恥ずかしい)


 片手で顔を赤くしていたパーシーは相手が気付かなかった事に半分嬉しい、アリエッタが分からなかった事に少しがっかりした気持ちだったが、すぐにサッと顔をいつものような顔に戻していた。


「……そう言えば、アリエッタ」

「……?」

「アリエッタはどうしてこの近くに来てたんだ?」


 アリエッタがパーシー達の所に来たのはパガニーニの名を持つ少年、ソロモン・パガニーニが腕を斬り落として血で呼び寄せたからだとは思うけれども、それでもここはいつもアリエッタが居る山からは程遠い遊楽街パミューズメントである。

 血でこちらに来たからと言っても、それでも彼女が呼び寄せられたのは血の臭いを嗅いだから……つまり、この近くに着ていたからだと思うのだが……


「……うん。この近くに、シュナイゼルと、来ていた。そしたら血の臭いで、気付いたらここに……」

「そう、か」

「……血の臭いに、は逆らえない。残念だけど」


 アリエッタにそう言われて、パーシーはあの時のソロモンの血に呼び出された時のアリエッタを思い返す。

 確かにいつものアリエッタはもう少しのんびりした今のような感じが普通だが、あの時のアリエッタは普通ではなかった。


 イギョウの血を前にした時も、それにその前の吸血鬼のシュナイゼル・ポーレルを目の前にしたときだって、アリエッタはいつもの感じではなかった。

 パーシーはそう思いながら、うんうんと肯いていた。


(……ただ、血に反応してただけと考えるべきか?)


 血の過剰反応。血を目の前にすると、彼女は我を忘れてしまうと考えた方が良いだろう。

 そう言えばシュナイゼルがアリエッタの説明をしている時だって、シュナイゼルは血をたらたらと流していたからあの時のアリエッタは変だったのだろう。


「……じゃあ、俺の勘違いって事か」

「? 何が?」

「いや、気にしなくて良いから」


 パーシーはそう言いながら、アリエッタの言葉を待っていた。


「そう言えば……ここにはシュナイゼルと来ていた、と言っていたけれども、その本人であるシュナイゼルは? どこに居るんだ?」

「女の人、の所に行って、る。遊んで、来る、って」

「……ちなみにどんな店って言ってた?」

「確か……」


 そう言ってコショコショとアリエッタが、シュナイゼルが行くといっていた店の名前を耳打ちする。


「あー……」


 それはパミューズメントの中でも、有名な遊郭――――『早熟なる桃』という名前のお店であった。


 シュナイゼル・ポーレルにとって女は持ち物であり、愛でる物であり、そして――――楽しむ物だ。

 故にシュナイゼルはどんな時であろうと、例え自分が救ってあげようと思っていた少女(アリエッタ)を残してまでやるべきことはあった。


「さぁさ、歌え! 騒げ! 楽しめ! 今宵はこのシュナイゼル・ポーレル様のための宴だ!」


 ハハハ、と高らかな声をあげると、その場にいた数十人の遊女達がシュナイゼルの掛け声と共に飲んで、騒いで、歌いだす。


 遊女達にとってシュナイゼルは気の良い上客(カモ)だ。

 なにせ、女である限りはどんなに高額だろうとも、きちんと金を払ってくれる、この街全体でお祝い騒ぎをしてでももてなすほどの人物。


 それはここ、『早熟なる桃』においてもであった。

 女である自分達の事は愛でてくれるし、なによりたくさんのメニューを頼んでくれるからやっていて本当に楽しいものである。

 ただとある目的としては、シュナイゼルは役に立たないんだが、それはこの際置いておこうと遊女達は相手をしていた。


「しかし、あんさん」

「ん? どうかしたかん、レィディー?」

「お連れさん、先程から姿を見ないようだけど、大丈夫かい?」


 お酒を注ぎつつ遊女はそう質問しており、シュナイゼルはお酒を飲みつつ、「そうかなぁ……」と少し困ったような顔を見せる。


「いやー、そこまで心配しなくても大丈夫だと思うけれどもね? ほら、今は遊女の君達に恋して惚れているから、あの子の事は関係ないんだよ。それにあの子はあの子でそれなりにやっていると思うしね。

 この街って、遊楽以外にも遊ぶところがいっぱいあるし。今はこの遊楽街にて一人で遊んでいると思いますよ」


 そう言ってシュナイゼルは笑っていたけれども、その頃ソロモン・パガニーニの手によってその話題の人物、アリエッタが危険な目に遭っていて、それを自分がダメだと論じた男によって助けられているとは夢にも思わなかった。


 いつまでも遊楽街パミューズメントの裏道に居るのもどうかと思ったパーシーは、アリエッタを連れて場所を移動していた。

 本当はそこではダメでしょうというアトレスからの無言の圧力があった訳だが、それはアリエッタには気付かれていないから今さら関係のない話なのである。


「……とりあえず、あまりこの街から離れすぎるのもいけないよな? 一応、保護者役のシュナイゼルが居るんだから」

「……は、い。だからそれにてお願いし、ます」


 パーシーはアリエッタの手をひくようにして、食べ物の露店を見て行った。

 他にもアクセサリーを売ってる露店や、芸術品を売ってる露店などもあったのだが、アリエッタは食べ物しか興味を示さなかったために仕方なく食べ物の露店ばかり向かうために、食べ物の露店ばかり向かっているのである。


「……美味し、いです」


 とそう言いながらアリエッタは、茶色いエキスで包まれた鳥型モンスター、バードリアンの串刺し肉を嬉しそうに頬張っていた。

 パーシーはそんな嬉しそうな声をあげるアリエッタを嬉しそうな顔で見つめながら、自分はアリエッタが食べているバードリアンの串刺し肉の赤いエキスの物を少しずつ食べていた。


「あっ! あれ、も美味しそ、う!」

「おいおい! ちょっと待てよ、アリエッタ」


 別の食べ物の露店を目聡(めざと)く見つけたアリエッタはそのまま茶色いバードリアンの串刺し肉をすぐさま全部口の中に放り込んで食べ終えると、そのまま別の露店に行って物欲しげな様子で青い毛皮が特徴の狼型魔物、アイウルフの皮を丸く焼かれた食べ物をじっと見ていた。


「はぁ~……やれやれ、だな」


 パーシーはやれやれと溜め息を吐きつつもアイウルフの皮を焼いている露店の店主に一箱分のお金を渡すと、店主はすぐさま察してくれたのかお金を貰うとすぐさまアリエッタに商品を差し出してくれる。


「良い、の?」


 こっちを上目遣いで覗き込みながら確認を取って来るアリエッタに、ほんの少しドキッとした顔をしながらパーシーはコクリと小さく頷くとアリエッタは嬉しそうな顔をして、そのまま店主から受け取る。


「ありが、とう。貰っと、きます」

「さっきのバードリアンも、同じようにして食っていたけど……」

「~~♪」


 そのまま嬉しそうにアイウルフの皮の丸めた食べ物を食べているアリエッタを見て、パーシーもまた嬉しそうにしていた。


(まっ、メリヤとのデートの予行演習とは違うが……)


 パーシーはそう思いながら、嬉しそうに食べ物を頬張っているアリエッタを見て、


(――――これでも良い)


 と、そう言いながらパーシーは嬉しそうにデートを続けていた。






「いやー、本当に良いねぇ」

『えぇ。まるで初めてのデートとは思えないくらいに、さらっとやっていますね。こんなに成長したパーシーちゃんの姿を見れて、お姉ちゃんも嬉しいよ』


 後ろからこっそりとデートの様子をうかがっていたロットとアトレスの2人は、後ろから嬉しそうにデートのご様子を見ていた。


「まぁ、これも予行演習が出来た影響も多かったと思いますけれどもね」

『メリヤちゃんとのデートコースとはちょっと違ったけれどもね♡ まぁ、メリヤちゃんと同じコースをやるよりも、アリエッタちゃんに合わせた方が良いですし。そ・れ・に、アリエッタちゃんも楽しそうですし♡ パーシーちゃんが成長して嬉しいわぁ♡』


 パーシーとアリエッタが順調にデートする姿を見て、ロットとアトレスは嬉しそうにしていた。

 ただ一人、そんな順調そうにデートをする2人の姿を不満げに見つめていた。


「…………」


 アリエッタの前にパーシーとデートをしていたメリヤ・フィールである。

 メリヤは心底つまらなさそうな顔でパーシーとアリエッタ、特にパーシーの横で笑顔で嬉しそうに笑っているアリエッタをじーっと見つめていた。


「……そんな見つめたって、彼は振り向かないぞー」

「……////// べ、べべべ、別に! パーシーの事なんて、全然! ぜーんぜん、考えてない、です! はい!」


 そうやって強くすると逆に怪しさが増す事を理解していないんだろうな、とロットとメリヤは必死に言い訳しているメリヤを見ながら考えていた。


「……それに、どうせ無駄、ですし」


 自虐的にそう言うメリヤであるが、これは事実である。

 十字流の結婚相手の条件は「自分と同じくらい強い、武人の異性」。

 メリヤだって普通に見れば十分すぎるくらい強いが、魔法使いと言う時点でどんなに頑張っても(パーシー)と一緒になれないんだろうなと、幼い頃から聡い彼女は気付いていた。

 故に、彼から離れるという意味で、必死に勉強して王宮という場所に閉じこもったのに……


「――――デートの予行演習に私なんかを選ばないで欲しい、です。おかげで今までの苦労が水の泡になってしまったじゃない、ですか」


 ドクン、ドクンと小刻みに弾む胸を手で押さえながら、メリヤはパーシーの事をじっと、色っぽく見つめているのであった。


「まっ、弾むほどの胸もないけどね! キラッ!」


 ……ロットの言葉で、その場所は戦場へと変わる。

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