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ソロモンの悪魔

 ソロモンが魔術を唱える事によって発生した黒い魔法陣。

 そこからはうねうねと揺れながら気持ちの悪い漆黒の触手が中から這い出ようとしており、触手にはキョロキョロと動く虫のような目玉が複数付いて、魔法陣から今か今かと這い出ていた。


「……アリエッタ・パガニーニ。さぁて、まずはどれくらいの物に成っているか、確かめさせて貰うよ。カインとツヴァル、やってくれるかい? 他の人達もパーシー達は良いから、彼女を狙ってくれたまえ」


 ソロモンの問いかけに対して、2人の男性が武器を持ってアリエッタに迫って来た。


「武道家のカイン、推して参る! 剣技、悲恋時雨(ひれんしぐれ)!」

「『Magische Macht,Flf,Gelsen,Tpitz Manze』

 (魔力を11使い、岩石を尖った槍にして攻めたてろ)」


 カインと名乗った赤い髪の男性は長い刃の剣を振るっており、深いフードを被ったツヴァルは杖を振るって地面から岩を宙に浮かしてゴツゴツとした槍の形に変えていた。

 他の完全武装している素人連中とは違ってカインの剣術の猛攻は気迫と勢いが段違いに秀でており、ツヴァルの魔術も素人連中に比べると魔術も優秀である。

 まぁ、素人連中と比べるという事もあるけれども、それなりのもので攻めて放っていた。


「――――シ、グレ?」


 アリエッタは先に迫って来たカインの剣さばきを見てその辺に落ちていた剣を拾うと、そのままカインの剣さばきに合わせていた。


「……ッ! 悲恋時雨!」

「……?」


 カインが残像が出来るくらいにまで剣さばきを披露するが、アリエッタはそれに対してまったく同じ角度と速度にて対処していた。

 同様に2人が剣を振るっているように見えるけれども、徐々にアリエッタが押していた。

 それは男女の力量差や経験の差ではなくて、アリエッタの才能であった。


「……セイッ」


 カインを攻めたくっていたアリエッタは、そのままカインの長い刃を蹴って跳び、ゴツゴツとした岩の槍を一閃していた。

 カインの持っていた剣は蹴られると共にパキッと刃の部分が折れていて、ゴツゴツとしている岩の槍を真っ二つにしてそのまま杖を2つに割っていた。


「……?」


 岩を斬る事によってアリエッタの持っていた剣は刃こぼれを起こしており、アリエッタはキョトンとしながら剣が使い物にならなかった事を見るとそのままポイッと捨てていた。


「ヒィッ! お、俺の剣がぁ! お、おのれぇ!」

「……あの魔法、それなりに出来ていましたが、まだ足りなかったようですね。今度はもっと魔力を入れましょう」


 カインは2つに割れた剣に涙したが腕で拭って新たな剣を拾い、ツヴァルは魔法が上手くなかった事を反省しながら杖を拾って、2人とも攻撃をさらに続けていた。


「パーシーくん、こっちに集中してるようだけどいけないよ? 戦場でそれは命取りだよ」


 ソロモンはパーシーにそう忠告をしており、パーシーは後ろから武人が迫って来ている事を空気で察してそのまま後ろを見ずに斬る。

 ガタッ、と倒れる音がパーシーの後ろで聞こえると、ソロモンはニコリと笑っていた。


「後ろを見ずに斬るのって、何気に凄いよね。それも一種の才能だと思うよ。まぁ、君の剣術の腕からすると、後ろを見ずに斬るっていうのはそれほどのものでもないのでしょう?

 ――――――最も、後ろを見ずにサッとやるのも君ほどの武術家ならば出来るのでしょう? ロット・セヴィン?」


 と、ソロモンがそう言うと、その後ろからヤレヤレとロットが現れていた。


「君も普通に気配を察する能力があるじゃないですか? しかも、さっきの素人とは違ってこっちは武術家として気配を絶つ事も長けていたから、君の方が凄いと言う論争でも始めるのかい?」

「いやいや、まさか。そんな事を言うつもりはわたくしはありませんよ。わたくしは単に危機感に敏感なだけであって、君達のように周囲の連中を倒してこっちに来るほどの実力はありませんって」


 謙遜しながら、ソロモンはパーシーとロットの間に立つ。

 同じように、こちらに狙いを付けているアトレスとメリヤにも狙われやすいように出て来たが、ソロモンには隙がないために全員動けずに居た。


「あの魔方陣がなんなのかという話で、それでわたくしを倒せば止まるのかと思っているのならば筋違いだよ。あれはある生物を呼び出すまで止まらない魔法陣で、あのうねうねと触手が出ている生物がこちらに呼び出されれば普通に消える。それまではあの生物を倒すくらいしか、止める方法は存在しない。

 それに、わざわざ逃げれば良いのに、わたくしが逃げずに居るのは君達に教えるためだよ。彼女の異常性を」


 そう言ってソロモンは、武装している男女達と戦っているアリエッタを指差す。

 武装している男女達はソロモンの指示通りパーシー達にはもう戦おうとせずに、ただアリエッタに狙いを付けて攻撃するが、アリエッタは攻撃に対して同じ攻撃を、さらに熟練した物に変えて放っていた。


「君達の眼から見ると素人集団でしかない彼らも、それぞれの技量に関しては問題ない。多少、ちょっとばかりイジくらせているけれども、それぞれに技を生み出して使い、敵を倒そうとしている。彼らにおごりこそあるけれども、戦おうという意思は本物だ。だけれども、それと相対しているアリエッタはどうだい?」


 アリエッタはただぼんやりとした瞳で、敵対者の技を見取って自分の技としてそのまま放つ。


「意思なく、ただ相手の才能を手に入れる彼女はパガニーニという以前に危険な存在だよ。意思もなく、動く相手ほど怖い者はない。故に同じパガニーニを冠する一族であるこのわたくしが、引導を渡してやるんだよ。

 ――――だから、じゃまをしないでね」


 ソロモンの後ろからは、魔法陣からあの触手を出していた不気味なモンスターが魔法陣から出て来ていた。

 痩せ細った巨大な身体からは無数の虫のような眼がついている気持ちの悪い漆黒の触手が何本も生えており、紫色のモンスターの顔にある無数の目が(うごめ)いており、紫色の顔からは手の腕を思わせるようなひげが生えている。

 無理矢理魔法陣から読みだされた自然界には存在しない不気味な、非合理的なそのモンスターの姿を見て、ソロモンはニコリと笑いながら、すーっと霧のように薄れて消える。


「やはり一筋縄ではいきそうにないな。あのソロモンって男、とんでもない物を残して行ったよ」


 ロットがそう言う先には先程ソロモンが作っておいた黒い魔法陣から、何本も気味の悪い触手を生やしているモンスターが出ていた。


【■ゥ、■ォォォ■!】


 奇声をあげるモンスターの口からは、どす黒い血がポタポタと流れていた。


『血……それって……』


 そしてポタポタと流れ落ちる音を聞いて、血に敏感なアリエッタはすぐさま向かっていく。


「血……!」


 声にならないような声と共に、その不気味な生物は触手のような腕の手を地面に居るアリエッタに向けていたが、アリエッタはそれに対して見取った技で触手を斬る。


「血ィ……! 血ッ、血です! 血、です!」


 血だけを求める怪物、アリエッタはそのままモンスターの血をぐびぐびと飲んでいた。

 モンスターはうめき声を上げながら別の触手を今度はひねりながら攻撃しているけれどもアリエッタはそれをそこら辺にある剣を投げて止めており、モンスターよりも明らかにアリエッタの方が上だった。


「……あのソロモンとかいう人は、何故あの悪魔を呼び出した、です?」

『そうねぇ、どう見てもあの悪魔よりアリエッタちゃんの方が強いし? あの悪魔ならば勝てると思って置いてたけれども、予定が狂ってアリエッタちゃんのほうが強かったとか?』


 アトレスがそんな事を言うけれども、パーシーはどう考えても予定が狂ったとかそういった事ではないとソロモンの顔を見て思っていた。

 すると、モンスターはアリエッタに狙いを定めると、そのまま触手の腕の眼と自分の顔の眼を見開かせるとそこから魔法陣が生まれて回転し始める。


「あれは……魔法陣か?」

『魔法を使う魔物も居るし、可笑しくはないんだけどねぇ……。あの魔方陣の多さは異常よね』


 魔物はその体内に魔力を取り込んでいるのであり、一部の知性がある魔物は魔法を使う事だって出来るのだが、魔法使いでも魔物でも基本的に使う魔法は一回につき一つだ。

 魔法とはきちんと集中した状態で意識して使うものであっり、同時に2つ、3つと魔法を使う事なんて不可能だ。

 しかし、魔法陣から現れたその不気味な魔物はいくつも魔法陣を展開している。


『ギィ■ォ■ン!』


 不気味なモンスターの触手にある無数の眼、そして無数の眼一つ一つに魔法陣が展開されており、魔法陣が消えると火炎の球、水の球、雷の球と無数の属性を宿している球体が宙に浮かんでアリエッタを狙っており、もう一度モンスターが奇声をあげると属性を宿した球体が放たれていた。

 その数は途方もなく多く、モンスターはさらに魔法陣を展開しており、魔法陣を展開していない残りの触手はさらにダンッ、ダンッと叩きつけるようにしていた。


「おいおい、流石にあれはムリなんじゃないか?」


 ロットが言うようにモンスターは魔法陣から出て来る数種類の魔法の球と叩きつけるような触手に対して、アリエッタはなんとか対処しているけれども徐々に対応しきれずにいた。


「――――無理だろうな。と言うか、あのモンスターを放って置いたら、いけないでしょう。アトレス、手伝ってくれ」

『はいはーい♡ 任されました♡』


 触手をうねうねと動かすモンスターはアリエッタに攻撃しているけれども、攻撃の余波は確かに家を破壊したり道を破壊したりなどと行っているからこのまま放っておくのはいけないだろう。


「…………」


 アリエッタを助けに行こうとするパーシーの姿を、メリヤはじーっと見つめていた。

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