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ソロモンの悪夢

 ソロモン・パガニーニと名乗った少年は、羨ましげな顔をパーシー達に向けていた。


「いやー、それにしても実に素晴らしい才能(ギフト)だね。勿論、4人ともただただ才能に溺れていると言う訳ではなくて、努力し続けている事もあると思うけれども、それでも努力できるというのもまた一つの才能なんだと思っているよ」


 ソロモンがそう語りかけると彼の後ろに立っている武装集団もまたうんうんと肯いており、黒いコートのポケットから『Die Bibel』というタイトルが書かれた書物を取り出してペラペラと読んでいく。


「セルヴィア大陸に古くから伝わる教会の言葉としまして、一つわたくしが気に入っている言葉があります。『神の名のもとに、人間は全て平等である』と言う言葉、なんだけれどもね。この言葉って、まったくもって変だなぁと思っているんだよ。

 人間だけでなく精霊や亜人、他にも魔物が居るし、別に全員が平等である必要なんて良いんだけれどもね。それに神様だって上級神や下級神とか居るから、神様だって平等でないから人間も平等を求めなくて良いよねぇ」


 けれども、と前置きをするソロモン。


「やっぱり、生まれたからには名を残せるくらいに、それくらいを目指したいと思うのは、別に男女だろうと変わらないものだよ。と言う訳で名をあげる第一段階としまして、とりあえずわたくし達は手始めにあなた達を倒させていただきましょうか」


 ソロモンの掛け声と共に、後ろに居た武装者達が揃って武器を構える。


「何故戦うのか、何故襲うのか。そんな事はどうだって良いんだよ。今、大切なのは――――――わたくし達が君達相手に戦いたいと思っている事、それだけさ」


 そして、いきなり戦乱は始まっていた。


「我こそは槍の武芸者、名をチュロス! 今、我が名を歴史に記す!」


 チュロスと名乗った長槍を持った大柄の武芸者は右手で槍を物凄い勢いで回転させて火炎を纏わせると、そのまま長槍を普通に構えて地面を強く踏み込んで跳び込んでいた。

 チュロスに迫られたパーシーは、火炎を纏わせた槍を振るう武芸者を見てピクリと眼を大きくしてチュロスを見ていた。


「(筋肉の付き方や踏み込み方も素人そのものだけれども、勢い良くこちらに迫って来るのにはそれなりに迫力を感じるな)。だが……!」


 パーシーは刀を真正面に構えて、そのまま迫って来るチュロスに狙いを定め、


「――――――!」


 そのまま刀を振り下げて、槍をそのまま勢い良く地面に叩きつける。

 勢い良く地面に叩きつけるとチュロスはそのまま、呆気にとられた様子で槍から手を放す。

 手を放す、と言うよりかは、手が槍から放れたと言う感じだろうか。


「(戦いにおいて自分の得物を放すのは素人。勿論、意図的に放して相手の動揺を誘うという事もあるだろうけれども、こいつの場合は別に違うだろう)。――――――そりゃあ!」


 パーシーがそのまま足で蹴り上げて、チュロスを吹っ飛ばす。


「――――――う、ううっ……。あ、ありがとうございます!」

「次はあたくし、です! あたくしの名前は魔法使いの、フューリー! あたくしの雷魔法を食らいなさい!」


 パーシーに吹っ飛ばされたチュロスは痛む身体を押さえながら、そのまま頭をあげて礼をして、今度は全身に豪華な金色のアクセサリーを付けた金髪の女魔法使い、フューリーが魔法を詠唱し始める。


「『Magische Macht,Wier Aehn,Hewitterwolke,Erache!』

 (魔力を40用い、雷雲を作って竜となって敵を貫け!)」


 フューリーが魔術言語を唱えると、彼女の周りに黒い暗雲が翼を生やした恐ろしい蛇の怪物、竜の形となって浮かんでいた。


「お、おおっ! できた、できたっ! あたくしにも魔術が!」


 とはいえども、フューリーの周りに出来たのは竜とはいうのはお粗末な存在であって、翼は非対称で顔もはっきり判別できるとはいえない。

 それに黒い暗雲のほうもうっすらと(もや)がかかったような感じであって、雲というよりかは(かすみ)のようなおぼろげな物であった。

 比較対象としても可笑しいと思うが、メリヤが魔術で作るものとは違って本当に素人のような物であった。


 そしてフューリーの後ろでは同じように魔法使い達が一生懸命魔術言語を詠唱していて、フューリーと同じような初めて作り出した魔法のような物をパーシー達に向けていた。


(やはり可笑しい)


 パーシーはそう確信する。簡単に言うと武装集団の練度があまりにも(つたな)く、もとい彼らの意識が非常に弱いのである。

 動きや筋力など完全武装している彼ら一人一人の人間に才能を感じる部分はあるけれども、それでも彼らはどう考えても素人以外の何者でもない。


「アトレス!」

『はぁいはぁい♡ ご主人様、私にお任せぇ♡』


 アトレスは風の魔法でいくつも生み出した風をボールのような球状に変え、それをそのまま魔法使い達の目の前の地面へと叩きつける。

 叩きつけられた風で出来たボールは敵の目の前でバウンドして、そのまま魔法使い達の顎を打ち上げるようにして放たれ、魔法使い達は自分達の下から迫って来た攻撃に対処しきれずに後退する。


(やはり、あまりにも素人過ぎる)


 実践に慣れていない、戦闘に慣れていない以前に、力に慣れていない。

 いきなり力を手に入れて、力を持てたという嬉しさに満ち溢れているという感じである。


「さぁさぁ! 君達は力を手に入れたんだよ! その力を自由に使いたまえよ!」


 この集団のリーダーと名乗ったソロモンは完全武装している男女達に声援(エール)を送るばかりであって、時折メリヤやロットが攻撃する時にポイポイと避けているくらいの状態である。

 攻める訳でなく、ただ避けて、からかって……それがソロモンの状態である。

 パーシーとアトレスも、ソロモンに攻撃を仕掛ける。


『そーれぇ!』

「十字流奥儀、スナタケ!」


 アトレスがパーシーの刀と脚に風を纏わせて、そのままパーシーは軽くなった脚で一気にソロモンの所に迫ると大きく振りかぶって斬りつける。

 脚で蹴り上げる際に地面の砂埃を巻きあげるようにしているので、ソロモンの視界は一瞬塞がれてそのまま斬りつける。


 ザクリという確かな音と、パーシーの腕に伝わる感触。

 そしてポトリ、と呆気なく落ちた人の腕。


「――――――ッ!」


 いきなり落ちた腕にびっくりするパーシー。


「あぁ、わるいわるい」


 と、何気ない様子でソロモンはその腕を残った右腕で取ると、そのまま握りつぶす(・・・・・)


「いやー、さっさと事を済ませようと思っているのに、どうしてもこうやって人が頑張っている姿を見ると、無性に見たくて見たくて仕方がないからねー。やる事はきちんと、やっておかないとね」


 ソロモンは潰した腕から大量の血を垂らしながら、そのまま血を壁に叩きつけるようにしていた。


「血……?」


 まさか? とパーシーが思っていると、背後から女の物とは思えないような声が聞こえて来た。


『血ィィィィィィィィ!』


 ドンドンドン、と何かが近付いてくるような足音が聞こえて来る。

 そして、ドンッとパーシー達の前に1人の少女が降り立ち、パーシーはその少女の名前を呼ぶ。


「……アリエッタ?」


 それはパーシーが知るもう1人のパガニーニ、アリエッタ・パガニーニが血に誘われるようにして現れ、血をペロペロと舐め始めていた。

 アリエッタを見て、ソロモンはニヤリと笑う。


「待っていたよ、アリエッタ・パガニーニ。さぁ、始めようじゃないか」


 ソロモンはアリエッタの顔を見るとすぐさまぶつぶつと呪文を唱え始めるが、それはメリヤ達のような魔法使いが唱える魔術言語とは明らかに違う、異質なものであった。


「『Eeidade Nalévola,Eou P Tangue,Fle Ditação P Eiabo!』

 (我、魔神様に血を捧げ、悪魔を召喚す!)」


 ソロモンが魔術言語を唱え終わると、彼女の後ろに気味の悪い紋様が描かれた大きな魔方陣が出現していた。


「さぁ、悪夢のはじまり(・・・・)だ」

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