デートの寄り道
遊楽街パミューズメントは表の大きな道にはそれなりに賑わいを見せているが、裏の横道はやはりどこか暗く、表のお店とは違ってどこか影がある人が多い。
やはり表の大きな道は見通しが良くて、さらに人通りも多いのだけれども、裏の横道は見通しが悪いから人通りも表の道よりも少ないので、表に居るような人達と比べるとどことなく人相が悪かったり、影がある人が表よりも多い印象がある。
「おっ、このお菓子は美味しい、です。当たり、です」
「そうか。美味しくて、良かったな」
パクパクと、屋台で売っていたカレフ焼きと呼ばれる、ほんの少しふっくらと膨らんでいる焦げた焼き跡の付いた黄色いお菓子を食べながら、メリヤはそう言いながら嬉しそうに食べていた。
「こう言うのは、どうだ?」
と、パーシーは野ざらしのシートの上に置かれたキラキラとしたアクセサリーを指差す。
それは魔導具と呼ばれる物であり、簡単に言えば誰でも魔法を使えるように作られたアクセサリーである。
回数に限りこそあるが、魔法使いでない者が簡単に魔法を使えると言うお手軽さや、魔法使いが持つと魔法の威力が上がったりする、便利な道具である。
まぁ、その分、お値段の方もそれなりにかかるが。
「良いの、です?」
メリヤの言う「良いの?」とはそれなりに値段が張るけれども大丈夫と言う意味だろう。
確かにちょっとくらい割高であり、これ1つでも他にいっぱい物が買えたりするが。
「まぁ、付き合ってくれる礼みたいな物だ。まぁ、俺はあまり金を使わないから一つくらいなら買っても構わないし、メリヤも王都に行けばこんなのどこにでも売っているだろうけれども……」
それでも、パーシーはメリヤに買ってあげたかった。
多分、今パーシーの心の中で、このアクセサリーをあげたい少女は、このアクセサリーを見て恐らく欲しがりもせずに、ただ興味深そうに食べれるか見ているだけな気がするけれども、
(それでも……)
パーシーはあの子に渡したかった。
あの子にあげたかった。
けれども、彼女は居なくて、代わりに居るのは幼馴染。
(まぁ、予行演習って言うとなんだか言い方が悪い気がするけれども――――――)
「はい、これなんてどうだ?」
と、パーシーは彼女に似合いそうな、月の髪飾りの魔導具を取ってメリヤに見せる。
メリヤはパーシーから受け取ったその髪飾りの魔導具を見てふむふむと興味深そうに魔法使いとしての目線から効果を確認した後、ちょっと頬を赤くしながら水色の髪に付けて合うかどうかを確かめる乙女としての目線に変わっていた。
「に、似合うかな、です? え、えーっと……ロット?」
「僕かよ!?」
と、そう後ろでツッコミを入れるロット。
そう言いつつロットはこちらに来て、「うーん……まぁ、似合うんじゃないかな。でも、こっちに付けた方が良くない?」とメリヤの胸元にその月の髪飾りを当てる。
「うんうん、元が平らだから付けるのにも問題はありませんねー。髪飾りだけれども、こっちの方が似合うねー。まぁ、元が平らじゃなかったらちょーっとばかり似合わないけれども、メリヤちゃんは良く似合ってるよ。うんうん」
と、ロットはひたすらメリヤの胸が真っ平らである事を強調しつつ、その真っ平らの胸に月の髪飾りの位置を確認する振りをしつつ、彼女の胸を服越しに遠慮なくペタペタペタペタ……
「……言いたい事は、そ れ だ け、です?」
そう言って頭上に大きな氷の塊を作り出すメリヤ。
ただただ大きく、凍えるような冷気を放つその氷塊は、彼女がどれだけ怒っているかを表していた。
「ハハハ、ただの冗談じゃないか。そんなに本気にしないでくれよ、メリヤ。僕と君の仲じゃないか」
「……あなただからこそ信用ならないんですが」
メリヤは杖を取り出して、そのまま魔術言語を詠唱していく。
「『Nagische Nacht,Aehn,Fis vnd Fis,Eonner』
(魔力を10用い、氷と氷をぶつからせ、雷となってふりそそげ)」
メリヤが詠唱すると、荒々しかった氷が一回、また一回と砕かれながら洗練された形に変わって行き、それは2つに分かれてお互いにお互いにぶつかり合う。
パチッ、パチパチッと2つの氷がお互いにぶつかり合う事によって火花が弾けあっていって、稲妻がピカッと見えたり見えなかったりしている。
雷は白く輝き、ゴロゴロッとうなるような音が聞こえ始め、稲光が暗雲から立ち込めて地面に雷が何回も落ちていた。
「いけっ、です」
そしてゴロゴロと稲妻が街中に落ちて、そしてロットへ向かって落ちて来る。
「よっ、と……」
ロットは身体を銀色の鉄に変えてそのまま腕を振るってメリヤが放った雷を銀の腕に溜めこんでいって、そのまま溜めこんだ雷をそのまま街中へと放っていた。
『ぎゃあああああああああああ!』
雷がゴロゴロッと落ちると共に、大きな悲鳴が聞こえてくる。
そして小さなうめき声と共に、鋼鉄の鎧や鍛え抜かれた剣を持った、完全武装している男女達が麻痺しながら現れる。
「……こいつらは?」
パーシーがそう言いながら完全武装している男女の鎧を起こしてそこに書いてある文字を見る。
血のような赤黒い色で『Paganini』と描かれており、それはどの鎧にも同じ文字が描かれていた。
アトレスも同じように完全武装している男女が持っている剣を取り上げると、そこにもパーシーが見た剣を確認した時と同じ文字が、今度は闇のようにどす黒い漆黒の色で描かれていた。
「『Paganini』……これって……」
『この文字……どう見てもパガニ……』
アトレスが言うのを戸惑っていると、
「パガニーニ、だよね。どう考えても。つまりはこの完全武装している男女達は、パガニーニからこの鎧と剣を用意されたと言う事は間違いないよね。まぁ、この鎧と剣を作った鍛冶職人がパガニーニと言う名前かもしれないし、誰かがしゃれてやっているのかもしれないと言う可能性も残っているけれども、どちらにせよ誰かがここにこんなに武装している連中を用意していたと言う事実は変わらないね」
と、ロットはそう言いながら落ちている剣を手に取ると、それをガシッとその手でぶち壊す。
「あからさまな挑発ですからなんだとは思いましたが、この完全武装男女達を倒すために魔法を発動させた、ですか。とは言っても、ロットは後で――――――」
メリヤはロットの耳元へと近寄ると、腹黒い笑顔を向ける。
「――――――か く ご し て ね?」
ロットはメリヤに言われると共に、ゾクリとした顔が浮かんでいた。
「ま、まぁ、それはともかくとしてもね。ちょっとばかり後ろからこんな連中が来ているからね。もう少し人数が少なかったら普通に裏で倒そうかなーとは思ったんですけれども、ちょーっとばかり人数が多かったのでこのような形でメリヤさんにお願いして貰ったと言うか? お力を借りた、と言うか?」
「方法がもう少しまともであったのなら、何も文句はなかった、ですよ……」
恨みがましくロットに対して文句を言うメリヤ。
しかし、既に戦闘態勢を整えているらしく、杖を使って氷を作り出していた。
『パーシー、私達もやるわよぅ♡』
「心得ている」
パーシーも刀を抜いて十字流の構えを取り、アトレスも魔法を作り出して待ち構えていた。
パーシーとロットの武人が構えを取り、アトレスとメリヤの魔法を使う2人は魔法を作り出して相手を待っていた。
そして4人が完全に敵を待っていると――――――
「いやー。怖い、怖い。そんなに構えられると困っちゃうねー」
パチパチパチ、と拍手をしながら1人の少年が嬉しげな口を微笑ませていた。
その少年は悪魔の印が付けられた黒い帽子を目元を隠すくらい深々と被っており、黒い毛皮の手袋を手首まで被せて黒い少し大きめのコートを着ている、全身黒ずくめの少年。
その少年は男にしては高い声をあげて、笑いながら近寄って来た。
後ろから何十人もの武装している男女達を引き連れてその前を引き連れるようにしているけれども、そんな後ろの武装している奴ら何かが軽く霞むくらいの圧倒的な存在感を持って、その少年は笑いながらこちらに近寄って来た。
「刀を構えて隙がない様子の武人、パーシー・ウェルダ。
隙があるように見せかけて全身を鋼鉄化させて逆に相手の隙を誘ってる武人、ロット・セヴィン。
宙を浮きながら風の魔法を作り出している精霊、アトレス。
杖なし魔術言語なしで大きな氷塊を作り出せる魔法使い、メリヤ・フィール。
4人とも素晴らしい才能を持っていらして、あんまり才覚が乏しいわたくしからしますと、羨ましくて素晴らしくて、本当に賞賛したいくらいですかねぇ」
少年が手をパチパチと拍手すると共に、引き連れていた男女達もまたパチパチと嬉しそうに拍手していた。
「なんだ、こいつら……」
普通だったらこいつらがやっている行動はパーシー達にとってはただの挑発にしか思わないんだけれども、その男女達は心の底から賞賛しているようであって一切の悪意も含んでいなかった。
「とりあえずわたくし達チーム・パガニーニを代表致しまして、このわたくしがご紹介致しましょう。
わたくしの名前は、ソロモン・パガニーニ。以後、よろしくお願い致します」
そう言って少年、ソロモン・パガニーニはニコリとパーシー達に笑いかけていた。




