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王宮魔導師の帰還

 魔法とは誰もが使える戦闘技術であり、同時に特に才能が重要視され左右されるものである。

 魔法に必要なのは、魔術言語と呼ばれる特殊な単語を正しく言える事、正確に魔力を注ぎ込める事、そして魔法を正確に制御する事、この3つが必要となって来る。

 この3つをきちんと出来ないと魔力が正しい威力を発揮出来ないと言う、極めてデリケートなものである。


 例えば魔力を40使い、火炎の球を相手に向けて放つと言う魔法の場合、魔術言語は『Nagische Nacht,Wiert Aehnt,Glamme Call,Frfolg』となるのだが、どの単語がどう言う発音をするのかと言う事が決まっており、これをきちんと発言できない事には魔力の真価は発揮出来ず、威力も通常の物よりも威力にムラが出てしまう。

 次に先程の魔術の中では『Wiert Aehnt』のところで40を定義しているのだが、これもまた正しく魔力を40分注ぎ込めなければ魔力は場合によっては発動しない、もしくは魔法が暴走して術者にも危険が及ぶ。

 最後に魔力を正確に制御する事、これはどんな状況であろうとも魔力をきちんと制御して自分の力として、魔法を操る事が出来なければそれは力ではなく、ただの暴走である。

 この3つをきちんと使いこなせて初めて魔法を操れるようになったと言い、魔法の3つを正しく使いこなせる者の事を人々は魔法使いと呼び、その魔法使いの中でも高度な魔法を使いこなす者の事を魔導師と呼んだ。


 魔法使いや魔導師は一般の兵士よりも劣るほど弱い者も居れば、一気に戦力を変えるほどの強さを持つ者など様々であり、国を統治する王宮では特に才能を持つ者をいざと言う時の備え、戦力としての証、王宮を維持するのに必要な存在など、様々な面に置いて頼っている。


 そんな王宮魔導師の1人であり、なおかつロット・セヴィンに魔力電話を与えた人物であるメリヤ・フィールは、今、単身で地元へと帰って来ていた。

 光り輝く、リボンで2つに纏められた長い水色の髪を風にたなびかせながら、青水晶と同じく吸い込まれそうな魅力を持つ色の瞳で前をしっかりと堂々と見つめつつ、スラッとしたスタイルの良い身体を包み込む裾が短い動きやすいローブを着ながら歩いていた。

 少し古ぼけたような彼女の身長よりも長い杖を持ち、メリヤはぶつぶつと文句を言いながら歩いていた。


「全く……。あいつは何を考えている、です。私だって王宮魔導師として王宮で仕事をきちんとこなして収入を得なければならない立場なの、です。こっちはあの後、きちんと仕事を終わらせて来ているの、です。それなのに、迎えも寄越さないとは、どう言う事、です!? 全く、信じられない、です」


 ぶつぶつと文句を言いながら、彼女はトコトコと村の中を歩いていた。


「メ~、リヤ~」

「キャッ!? な、なにごと、です!?」


 と、歩いている彼女の首筋に、冷たい氷のようなものが当てられ、メリヤはビックリして驚いて後ろを振り向くと、そこにはニヤニヤと笑うロットの姿があった。


「ロット!? 久しぶりに会った人に対する対応とは思えない、です! こうなったら魔法でおしおきするしかない、です! Nagische Nacht,Iundertst……」

「そんな事を言っちゃって良いのかなー? そっちがその態度ならば私、これ以上はパーシーの情報を……。いや、パーシーにメリヤちゃんがどう言う事を考えているかを……」


 ニヤニヤと笑いながら、ロットがメリヤに笑いかけていたが、メリヤはその顔を見るやサーッと顔から血の気が引いて行き、そのままなりふり構わずに


「すいませんでしたー、です!」


 と、見事なまでの土下座を披露していた。

 それを満足そうに見るロットに対して、メリヤはグッと拳を強く握りしめるとそのまま立ち上がる。


「……で、あの魔力電話はなんだったの、です? ぱ、ぱぱ、パーシーが何かあるまでは連絡しないで欲しいと思って渡した魔力電話だったのですが……もしやパーシーが私が居なくてさびしく……」

「パーシーが彼女に振られて落ち込んでいるから慰めて欲しい」


 ザクッ、と柔らかくない地面を抉るようにして、いつの間にか彼女の隣には巨大な、鋭く尖る氷の槍が刺さっており、メリヤの顔は先程までは嬉しげになっていたのに今は氷よりも冷え切った顔でロットを見ていた。

 そして手に持った長い杖を、ロットの顔へと向けていた。


「……どう言う事なのか、一から説明して欲しい、ですよ? ロット?」

「おいおい、さっきは土下座をしていた相手に対して、いきなり魔法を使って脅しをかけるのかな? メリヤさんは?」

「魔法? 大丈夫、ですよ。詠唱もなく、作り出したこの氷の槍はただ魔力を少し使って作り出しただけの模造品に過ぎない、です。本来の力の半分以下……と言う所かしら、です?」


 そう言って、嬉しそうに氷の槍を振り回すメリヤを、ロットは心の中で(流石だね……)と感心していた。


 魔法とは3つの柱で成り立っており、魔術言語を用いずに魔法をイメージだけで作り出す事を『詠唱破棄』と言うのだが、それは魔術言語を使わない場合に比べると魔法が不安定で発動したり、威力が落ちたりするのである。

 そんな高等技術を容易く、なおかつここまで完璧に槍と言う形になるくらいにまでしっかりとした形で具現化出来ると言うのは才能以上に、彼女がそれだけ努力して身に付け他と言う事実に他ならない。


(全く……十字流の自分よりも強い武人(・・)と言う縛りさえなければ、彼女がパーシーのお嫁さん候補で全く問題ないのにさ。あぁ、本当に残念だねぇ)


 うんうん、と眼を瞑って肯くロットに対して、メリヤの不機嫌そうな顔はさらに悪化していく。


「ちょっと……ロット? 何を黙っているの、です? パーシーが振られたと言う話についてもっと詳しく……」

「あぁ、はいはい。本当にメリヤはパーシーの事が大好きだよねぇ」

「なっ、ななっ!? なにゅを!?」


 そう言いながら、顔から湯気が出るくらい、と言うか文字通り顔から湯気を立ち上せながらメリヤはオロオロと怯えており、手に持っている氷の槍も見る見るうちに槍から、槍に似た何かへと、形が変わっていた。

 メリヤが動揺してしまって感情がコントロール出来ずに、魔法を上手く操れなくなったのだろう。

 今の言葉だけで、王宮魔導師の中でも指折りの魔導師であるメリヤが、こんなにも感情を乱している事に、ロットはうんうんと頷きながら彼女の心情を口に出す。


「愛だなぁ~」

「ち、違うからぁ、ですぅぅ! 全然もって、違うからぁ、ですぅぅ!」


 そうやって一生懸命に否定するメリヤだが、真っ赤な顔で否定されても説得力がないと思うロット。


「……まぁ、冗談はこれくらいにしておいて本当の事を話そうか。メリヤ」

「出来れば最初から本題に入って欲しかった、です」


 そしてロットはメリヤにこれまでの状況を、簡単に話をする。


 パーシーが十字流第8代当主に任命された事。

 そのパーシーが、茨の森に住まうアリエッタと言う女性に対して交際的な事を行っていた事。

 そしてそのアリエッタが、血を見ればどんなものだろうと、まるで獣のように飲む事。

 そんなアリエッタの姿を見て、パーシーが悩んでいる事。


 ロット自身は経験していないアトレスから聞いただけの話を、ロットはまるで当事者だったかのようにメリヤに話していた。

 その話を熱心に頷きながら聞いていたメリヤは「ふーん……」と少し考え込む。


「パガニーニ……。その名前は王宮でも時折話題にあがる、です。元は誠実な武人の一族であったパガニーニは悪魔の力によって才能を得ると、武人と魔術師と言う2つの家系に分かれ、今でもその一族の末裔は悪魔と契約した力を使っている、と言う話、です。

 魔術師のパガニーニの方は時折盗賊団を率いる頭を操る魔術師など、時折犯罪者として名前が王宮にも届いてくる、です。私も一度相手させていただきましたが、あれは魔術師ではなく、ただの自然災害でしかなかった、です。正直、次に会ったら勝てるかどうか、です」


 ブルブルと震えながら、そう語るメリヤの姿を見て、ロットはへぇ、と感心したような声をあげる。


「メリヤがそこまでの相手と言うのならば、余程なんだね。こっちは血を見境なく飲む以外は、普通に常識がない少女なのにね。アハハ……」


 そうやって笑ってごまかして本題に入ろうとしたロットだったが、メリヤの顔はずっと曇ったままだ。


「メリヤ……? どうかしたのか?」

「……い、いや。なんでもない、です。ロットは気にしないで欲しい、です。

 そ、れ、よ、り、も、です! 今、パーシーがどこに居るかを教えてくれませんか、です? ロットはパーシーを慰めて欲しいから、わざわざ遠い王都から私を呼びよせたのよね、です? だったら、さっさと早くパーシーの所に案内して欲しいもの、です」

「あぁ、分かった。分かった。パーシーならば今でも十字流の道場で素振りをしているだろうから、2人で行きましょう。アトレスも心配しているだろうし、ねー……」

「そうだった……です。まだ厄介な相手がもう1人居た、です……」


 これから行く先に居る、ロットと同じくらい厄介な精霊の事を思い出し、メリヤはがっかりしていたが、


「……まぁ、でも仕方がない、です。さっさと行くしかない、です。行きます、です、パーシー」

「はいはーい。行こうか、パーシーが大好きなメリヤちゃん?」

「だ、だから、それは誤解なの、ですぅ!」


 ぷんぷんと怒りながらパーシーの所に行くメリヤを、クスクスと笑いつつ、それでこそメリヤだなと思いながらロットも後を追うのであった。

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